ヒクソスの王、その真の終わり。
…………本当にありがとうございます。
時間はヒクソスの王アシュラフが春輝の水魔手裏剣を喰らい敗北した時にまで遡る。
「我と、共に……死ねぇぇぇぇっ!!!?」
アシュラフの断末魔の叫びと共にアシュラフの力で作られていたピラミッドが音を立てて崩れていき、同時に足元一面にあった砂も下へ落ちていき流砂となっていく。春輝達はなんとか必死に助かろうと藻掻く事になるが、そこからアシュラフがどうなったか九喇嘛の言葉もあり頭になかった。
だからこそ知らない、いや知らなかったのだ。ヒクソスの王アシュラフ、その本当の最期を……。
◆◆◆
「ハァ………ハァ………。」
アシュラフは断末魔の叫びを上げた後も生きていた。実はピラミッド内にミイラの入った棺があり万が一アシュラフの命が危険に晒された場合、現在の肉体から魂を切り離しミイラに魂を移す事で生き延びる術があったのだ。
しかし、この術は神聖な肉体から下等なミイラの肉体へと落ちるが故にこの術は使うことなどあり得ないと思っていた。そもそも強大な力があるアシュラフに命の危機などあるわけがない。そう、春輝にトドメを刺されるまでは。
「我にこの様な屈辱をよくも………!絶対にっ!絶対に許さんぞっ!タイマニンどもっ!!必ずや彼奴等を皆殺ししてくれるっ!!この屈辱を奴等を鏖殺し晴らしてくれるわっ!!」
激昂するアシュラフはピラミッドから脱出し、自身の回復と共に肉体に魂を定着させる為に王家の谷と呼ばれる地に落ち延びようとした。しかし、それを遮る様にくつくつと笑う声が聞こえる。
「いやぁ、残念残念♪まさか負けちまうとはなぁ〜。王様?」
「貴様は……っ!」
アシュラフは目の前にいる男に見覚えがあった。
アシュラフを始めとしたヒクソスの封印が解かれた後、それを何処で知ったのか間を置かずにどこからともなくやって来た男で、アシュラフのピラミッドに侵入してきた際に堂々とアシュラフやヒクソスの家臣達の前で姿を見せ、剣術ではラムセスを抜いて随一のマハンを剣で一瞬で下すと人質にとり取引を持ちかけてきたのだ。
「いや、嘘だと思われてもしょうがねぇけどよ、本当に残念に思ってんだ……。何せ俺が直々にプロデュースしたからな。ほら、見えるかコレ?この指の生命線。これくらいには残念に思ってるよ。申し訳無さや罪悪感なんかは皆無だがなぁ。」
そして、その取引に魔界に繋がるゲートの情報、どのゲートを取るべきか、ゲートのある日本への侵入ルートとその手引き、そして自身達、ヒクソスを封印した存在がタイマニンと呼ばれている事などを教えたある意味でヒクソスの侵略を引き起こした元凶とも言える存在だ。
「負けると思わなかったのも本当だ。強い強い言われてても所詮はガキ共だけ。まさかの引率者0とは恐れいったよ。お前に全員瞬殺されんじゃないかと俺も結構肝が冷えた。」
「いつからだ……?貴様、いつからいた……!」
「いつから?んなもん決まってんだろうが。最初からだ、もっと言えばあのガキ共が来る前からいたよ。マヌケなお前は気づかなかったがな。だからこそこうなってんだよな?俺の言う事聞いときゃこうはならなかった。
……言ったよな?もっと戦略練れ、戦力の逐次投入はやめろ、相手はお前らを封印した奴等だ、警戒しろ。で?そしたらお前は何て言った?“黙ってろ”、“指図するな”、“黙って見てればいい”って、それで勝てたら世話しねぇから言ってんだよ。」
この発言にアシュラフは驚愕した。
このピラミッドはアシュラフの結界の様なもの、つまり容易く侵入するのは不可能だと思っていたのだが目の前の男はそれを事も無さげに一切悟られずにやってのけたのだから。
「少しは話が分かっていればそれだけで大分違ったんだがな?そんで、お前の敗因は何時迄も勘違いして王様気分で最初っから最期まで舐め腐って“舐めプ”しかしなかった事。あぁ、後はそんな“舐めプ”のままでも勝てたハズの機会を逃し続け、更には自分の力を最大限発揮する方法を知らなかった余りある馬鹿さだ。まぁそれで勝てるくらいには腐ってる奴しかいなかったんだろうな、ココは。」
「貴様ァ………ッ!!今、何とほざいた……!」
「あん?聞こえなかったか?ここは“ゴミ箱”つったんだよ。あぁ、そういえば似合ってるぞ、その姿。正にゴミそのものじゃないか。かはははっ!!」
男の言葉にアシュラフは、今まで対魔忍へと向けていた憤怒を目の前の男へ浴びせる。しかし、男はそれを意に返さない様にして肩にかけてある剣を抜いた。
「少し前まで聞きたかっただろうから教えてやる、俺は優しいからな。何故、俺がここにいるか?それはあのバ会長に頼まれたからだ、頼まれたのは3つ。」
「なに……?」
「1つ目、“人柱力”を始めとした目ぼしい人間を拉致という名の保護をしろ。
2つ目、それができない場合はソイツらが死なない様に援護しろ。だから引率者いないのは本当に困った困った。何考えてんだか現最強のくの一様は?
んで、3つ目は……… お前が生き恥を晒す様なら俺が介錯して冥界へ送って差し上げてください、だとよ。」
「……そうか、ならばその不可能な頼みを聞いた自身の愚かさを呪いながら塵となるがいいっ!!」
アシュラフは男の数々の不遜な態度、無礼な言葉にかつてない程に怒り狂っていた。会った時から気に食わず、マハンを人質に取った時もマハンが大事だったから許したものの、その殺意、殺気を全力で向けていたのは忘れようがない。この男の言葉を聞かなかったのもその為だ。
そんなアシュラフを侮る様に利き手に持つ剣を下へ下げ、両腕を大きく広げ煽る男の姿はまるでさっさと撃ってこいと言わんばかりだ。アシュラフは男の言動に遂に我慢の限界を超えた。
「我に対しての不遜な態度ッ!!死をもって後悔し償うがいいっ!!雷神撃ァッ!!!」
怒りによって高められ、春輝達が喰らった物とは比較にならない程の威力を持った、正しく神の雷と思わんばかりの雷撃が男を襲う。
「ハァ、やっぱバカは何やってもダメだな。」
ズッバァッ!!!
「……………………………はぁあ?」
アシュラフから自身が出したとは思えない程の間の抜けた声が漏れた。自分自身でも今までで最大の威力を持った必殺技を男はあっさりと逆袈裟で斬り裂き、その光景にアシュラフが我を失くしたのと同じ様に斬り裂かれた雷撃も消失した。そして、そんな隙だらけのアシュラフをこれ程の力量を持つ男が逃すはずがない。
「ここに来てお前と対峙してる時点で対策は万全な事くらい理解しろよ。この剣な、神具つってお前みたいなのを相手にするには最適なんだと。神々しさって奴か?よくは知らんが俺みたいな半端モンが持っちゃいけねぇってのは分かるな。まぁそういうわけだ、あばよ。ただ力をもて余し、腐らせてるだけの。」
下から上へ持っていった剣はそのまま必殺の大上段となりそのまま音も立てず最速で振り落とす。
「雑魚がよ。」
アシュラフは左右真っ二つとなる一撃を喰らい、肉体は皮肉にも男にしてやろうと思った塵とかし、魂も致命の一撃を喰らって消滅した。東京や対魔忍に恐怖を与えたエジプト魔族の王の最期は何とも惨めなものだった。
◆◆◆
「さて、と。」
男はアシュラフが来た道を引き返してみると、そこには今に流砂に飲み込まれようとしていく春輝達の姿を見た。
「って、ギリギリにも限度ってのがあるだろうがっ!?オラッ!」
男は用意していた鉤縄を春輝達が入ってきた時の扉の取手に取り付けながら自身も流砂の中央へ落下していく。あくまで流砂に流される春輝とは違い重力に任せて落下する男の方が落ちるのが早く春輝達に追いつくと鉤の付いていない反対側の部分で春輝達を一括りに簡易的に縛ると、そのまま背負う。
まずは両腕の腕力で自身を浮き上がらせると落ちていく瓦礫を足伝いに上へと登っていき最後は瓦礫が無くなるのを読み、跳躍の瞬間両腕も縄を引っ張り上げ全身で高く跳び何とか扉の向こうへ脱出、その後はピラミッド崩落に問題がない場所まで3人を運ぶと男はそのまま離脱した。
「(絶対ェ特別手当捩じ込む、後は汚れ仕事で胸糞悪ぃからって遠慮して1人でやるのももうやめよう。)」
◆◆◆
翌朝、エジプトの首都の高級ホテルで目を覚ました男は上司へ事態の報告の電話を入れる。ちなみに本当であれば昨日余裕もあったので連絡など簡単に入れられたのだが、時差の関係で上司の現在時刻は深夜。
即ち嫌がらせで時間を敢えてズラしたのだ。
「あぁ、もしもし?俺。終わった。ヒクソスはこれでおしまい。ガキ達は1人も攫っちゃいないが全員無事だ。………はぁ?本当に攫えなかったか?やっぱバ会長だな、アンタ。あの後でアサギとか獅子堂とか来んだろ?ガキ抱えながら相手しろとかふざけんなよ、テメェがやれ。
………あぁ、そっちは問題ない。今日からエジプトは全部企業の、ひいてはアンタの物になった。……いやさ、アイツらの言いなりになってた首相もさ、『好き勝手殺戮して理不尽な要求ばかりする蛮族より、話ができて、言いなりでもこちらに恩恵やお溢れがあって、場合によっては経済援助の様なものがある文明人の貴方達の方が素晴らしいです!ありがとうございます!!』とか言って足にへばり付いて号泣されたんだが?マジでキモかった。そしてやっぱアイツら腐ってんな、死んでよし。」
本来であれば『人間が多く住む首都カイロ圏内及び湾岸沿い一帯の支配権を譲渡する。その代わり情報は可能な限り開示する。』というのがヒクソスとの取引だったが、男は最初から全部奪う気でいて、アシュラフも譲渡する事に嘘はないが後で砂嵐などで首都を含めた全土を人が住めない地にするつもりだったので、お互いに取引をまともに受け取るつもりはなく、お互いに相手の思惑はある程度は察していた。
エジプトの実行支配、これは男の所属している企業にとっては非常に大きい事だ。
ざっくり言えばアフリカ、中東、東欧という3つの紛争地帯の中心でありながら、砂漠ばかりとはいえ莫大な国土と1億を超えた人口の両方を合わせ持つ唯一の国だからだ。もしも、ここに武器を大量に生産する工場を増築し、その武器を扱う傭兵会社が生まれたなら、この会社らを頼る国は引く手数多、同時に利益も莫大な物となる事が見込める。
後は現在砂漠の緑化・農耕化計画が政府主導で行われている。先程までヒクソスに潰されていたが、この計画が実現すれば更に穀物でも利益が上げられる可能性も非常に大きく、首相が泣く程までに喜んでいたのはこれが再開できるのも一因であった。
もっとも、それが実現可能な時には男にとっては知った事では無いが……。
「つうか、さっきからなんか色々聞こえんだが?なんか弾けたり、バチバチいってたり、妙な奇声とか………尾獣と戦ってる?あそ。はぁ?もっとなんかないのか?ねぇよ。どうせノーダメで勝つって分かり切ってるし、だからこうやって電話に出てんだろ。まぁ精々頑張れよ、バ会長。」
そう言葉を吐き捨てると、男は一方的に電話を切ってベッドへ放り、窓の外の景色を見て呟く。
「何考えてんだか、あのバ会長様は……。」
コメント等お待ちしてます。
そろそろ修行考えます。