今年一発目、出します。
黒い影、来る。
東京キングダム。
本来であれば日本の第2の都心となったはずの人工島。しかし、日本政府の杜撰な計画性ゆえに破綻となり消えた幻の都市。そして現在、その廃墟となっていた人工島は数多の欲望と思惑、或いは陰謀などにより次第に闇に堕ちていき、最も人と魔が混ざっている街とされている。この「最も」と言うのは日本で1番という意味ではない、世界で1番という意味でだ。
この様なスラム街では何があっても不思議な事などない。法などあって無いも同然。あえて言うならば無法こそが法である、と言わんばかりの無法地帯だ。昨日の夜まで羽ぶりがよく景気が良かった者が翌日の朝にはそこら辺のドブに転がり、飛ぶ鳥を落とす勢いで幅を利かせていた組織が一瞬で消滅した、などは最早日常茶飯事の事。
この街で長く生き延びている者にとっては、それが自身にとってよほど不利益な話出なければ空返事1つで終わりだ。
魑魅魍魎が跋扈しているのが当たり前の大通りや繁華街から遠く離れた港湾エリア。ここに比べれば活気に満ち溢れている分、大通りや繁華街ですら東京キングダムの中で比較して安全な事は知らない者にとっては信じられないだろう。
そして、この港湾エリアが何故危険か、それは3つの要因がある。
まず1つに港湾という場所の性質、つまり様々な貨物の積み込みや荷下ろしが行われる場所であるという事がある。衣服や食料など輸出品・輸入品はもちろんだが、武器や兵器に危険薬物もしくはのドラッグ、奴隷や密入国者に脱走者、更には魔界の生物の密輸等々………挙げればキリがない程に悪事が行われる。
そして疾しい事にはトラブルは付きもの、例えばその取引の阻止あるいは取引している金品の強奪のために別組織からの強襲が来たり、何も来ずとも取引相手が裏切り、奪い合いが発生したりする。
2つ目に主戦力が集中しがちな大通りや繁華街から遠いのも大きい。中心地から離れているからこそある程度の事をやらかしても所謂メンツというものを汚れたりなどしない。目的を達成できれば、多少の事は遠慮無しに派手にやってもいい。
目的のない他勢力は、その様な事が分かっているからわざわざ遠いエリアまでカバーせずとも良いのだ。する時があるとすればそれこそ取引をするか、その妨害をする時以外はほぼない。不要な事をする必要はなく、無視してしまえばいい。
だが同時にノーマークというわけでもない。対魔忍、ノマド、米連や中華連合など大きいものは勿論聞き覚えのない小さなものまで数多く拠点が置かれ、その拠点で港街ができていると言っても過言ではない。言い換えれば組織の拠点の周りの建物全ては商売敵であり、街そのものが一触即爆発の火薬庫と言ってもいい。
それに加えて3つ目、新勢力が東京キングダムへ侵略する際には港湾エリアからの侵入が多いのが挙げられる。本来は日本の本州からの唯一の出入口である大橋を渡るのだが、まず本州では主に対魔忍がこれを感知し妨害され、これを逃れて大橋に着いても今度はノマドを始めとした東京キングダム内の既存勢力が侵入を防ぎに来られる。
これが港湾エリアからであればこれらの条件をほぼパスでき、手薄な場所から入り込める事ができるのは大きい。これらの条件が合わさり大通りなどと比べると治安が悪い。逆に言えばどれだけ争いがあっても、何が起きても不思議がないと言える。
そんな港湾エリアで現在戦闘が行われている。だが、その戦闘は普段と比べて明らかに異なる事がある。それはあまりに派手で規模がデカすぎる事だ。
先程多少派手にやっても問題ないが、それでもやり過ぎれば港湾エリアにある貨物や港街を守る為に他の勢力の介入を招きざるを得なくなってしまうので、ある程度の線引きというものがある。
しかし、これはその一線を完全に超えていた。同時にあまりに異質でもあった。争いを止めようとした港街に駐在している戦闘員達は皆火の手に足止めを喰らっていた。それもただの炎ではない、“青白い炎”にだ……。
その炎の隙間から見えるのは軒を連ねていた倉庫の無残な有様。蒼炎に焼かれているのが多いが、他にも何かに斬られた後の様な物、特に目を見張る物は本来中央にあるはずの倉庫が無くなっていると同時に隣の倉庫は、倉庫の面影を残しながらも壁や屋根が吹き飛んでいた、つまり消滅した中央の倉庫は何かが爆発して消し飛んだことが分かる。
しかし、東京キングダム唯一の港とあって規模も大きい倉庫が消滅する程の爆発に恐れすら抱く者もいた。
そして、奥から聞こえる轟音に爆音、恐らく港のターミナルにあるコンテナからと思われる耳を劈く様な金属音。更にターミナルがあると思われる場所の上空に幾度と吹き飛ぶコンテナ。場合よっては港街の方まで吹き飛んでくる程で最早港街の勢力は港湾の戦闘を止めるどころか、港街への被害を抑えるので手一杯となっていた。
◆ ◆ ◆
一方、現在崩壊したコンテナターミナルであった場所。無造作に転がっているコンテナに何かが凄まじい勢いで吹き飛ばされて倒れ伏せる、間も無く戦闘が終わろうとしていた。
「ゼェ…ゼェ…ゴホッゴホッ!!……この…ハァ…バケモンがっ……ハァ…!」
「あら?嫌ですわ。女性相手に、ましてや私の様な見目麗しい女にバケモンだなんて……。いけませんよ荼毘さん、貴方ただでさえ女性が近寄り難い雰囲気なのに……そんなじゃますますモテなくなっちゃうゾ♡」
強い力で吹き飛ばされ、コンテナに減り込む全身継ぎ接ぎだらけの男荼毘。瀕死で血反吐を吐きながらも殺気を込めて吹き飛ばした女性を睨みつける。その殺気は瀕死ながらも強いもので並みの者では萎縮してしまうだろう。
しかし、左肩へ流した桃色の髪と少しばかり胸元を露出させた白のビジネススーツが特徴の妖艶な雰囲気を身に纏ったメガネをかけた女性は、荼毘とは対照的に無傷であり荼毘の殺気もに動じないばかりか、軽口で返しながら腕に抱えているタブレットを軽やかな指捌きで操作していく。
「荼毘さんはまぁまぁ……と言いたいところですが、尾獣という『商品』の前評判を加味いたしますともう少し欲しいところですねぇ。……うーん、やはり敵の懐に入ったところで尾獣になっての一気の制圧がセールスポイントでしょうか?身体能力向上系自体は掃いて捨てるほどいますしねぇ。」
独り言を言いながら、淡々とタブレットを操作する桃色の髪の女性の足元にももう1人、男が血溜まりを作りながら倒れ伏せていた。
「ハイ、契約通りの金額、貴方が指定した口座に振り込んでおきました。生きて帰ったら確認の程よろしくお願いしますね。“闇のヤイバ”さん?」
「………ッ!……ぐぅっ………!」
倒れている男の名は闇のヤイバ、裏の世界では知らない者はいないと言われる実力者。そして、それと並ぶ程の実力を持つ荼毘を無傷且つ労せずに倒した彼女の実力は荼毘の言う通りバケモンと呼ぶに相応しかった。
「貴方には本当にガッカリです、ヤイバさん。結構期待してて、話が合えば是非『我が社』に入社して頂こうと色々条件考えていたのに……。というか、コレほとんど荼毘さんの頑張りなんですけど?ちゃんとして貰えます?それとももしかしてザコ専、というやつなんでしょうか?それなら正直「…何故だ……?」………ふぅ、人が話しているのを遮るなんて……マナーがなっていませんね。それで?何です?」
「ハァ……何故、こんなマネを……ハァ…こんな依頼を、出したんだと………聞いている…!」
◆◆◆
事の発端は一つの奇妙な依頼がヤイバの元に来たのが始まりだ。その依頼主は不明、依頼内容はある女性を襲撃せよ、というもので、どこからバレたかは分からないが前金がすでにヤイバの使用している隠し口座に振り込まれていた。コレだけであれば怪しくはあるが何度かはあった事だ。
この依頼の奇妙な点、それは結果は伴わないとあった事だ。本来であれば殺害や捕縛など一定の条件があるはずだが、それが無い。更に依頼料及び前金がかなりの大金である事から怪しいと思ったが、もうすでに前金が勝手ながらも支払われている事やかなりの大金が入手できるのは良い事に代わりないので、念を入れて荼毘を連れて来た。
荼毘は金稼ぎに嫌悪感を示したが、これが『冥』の為という事もあって渋々ついて来た事でヤイバ自身は万全と思っていた。だが結果は完敗した、負けるなど微塵も思っていなかった。彼女に護衛がいるだろうと想定していたが、彼女自身が護衛が不要な程強い事は、正しく次元の差と言える程までの強さは完全に想定外であった。
そして、今金を振り込んだと自らが依頼主であり自分自身を襲う様に仕向けたと告白した事に、ヤイバは理解することができなかった。
どの様な実力者も何か1つ違えば命を落としかねない事はヤイバはよく知っている。だからこそ、何故この様な自ら身の危険に晒す様な真似をしたのか知りたかったのだ。
「あぁ、何かと思えばそんな事でしたか。分かりませんか?最近巷を騒がせている『尾獣』。これを商品として扱う場合のスペックの把握は必須。尾獣とは如何程か、それを知りたかっただけです。まぁ言ってしまえば荼毘さんが本命、貴方はおまけ、という事です。」
「やはりこう言ったのは、前評判や他人の評価では信用できませんので……。自分自身で体感するか、信頼の置ける方に委託しないと。カタログスペックや取り扱い方法を理解せずに無責任な売買など私のプライドが許しませんので。もしも貴方に実力があれば、相応の待遇で『我が社』へスカウトするつもりだったのですけどね?」
「最後に親切で申し上げますが、大層な異名は控えた方がよろしいかと。貴方程度では名前負けもいいところですし、あまりにも痛々しすぎて私なら死ぬ程恥ずかしいくらいですよ。まぁ貴方は恥を知らなそうなのでよいのかも知れませんが。」
ヤイバを邪悪な笑みで見下すと踵を返してコツコツとヒールと鳴らして闇の中へと消えた。
◆◆◆
2時間後、東京キングダムから離れ東京。全長500m超えの超高層ビルの最上階フロア。東京の全てを見下すこの場所こそが先程の女性のプライベートルーム。女性は戦いの汚れをシャワーで落とし、長く美しい桃色の髪の手入れも終えると自社製の小型端末を操作し1つの画面を映す。
1人の青年の姿が映っている画像だ。尾獣と並び何かと噂が絶えぬ人物。京都、東北、中華に北海道。最近ではヒクソスの侵略においても活躍をするなど最近の対魔忍に関する事件ではその全てにおいて渦中の人物。同時に尾獣の中でも最強と思われる九尾の保有者。
「さて、貴方は私にどんな利益をもたらしてくれるか、楽しみにしてますわ。彼らと違って私の期待を裏切らないで下さいね。……水城春輝クン♪」
春輝に影が忍びよる。この後、彼女による一連の事件が春輝の新たな戦いの幕開けとなるのだった……。
最新話です!
今年も宜しくお願いします。