五車の里がヒクソスの襲撃を受けてから、3ヶ月になろうとしていた。ある程度進んだものの被害の規模を考慮し控えてくれれば良いのにそんな物は知らないと言わんばかりに、この間にも任務が来ないという事もないので人手が任務によって割かれるとそれだけ復興が遅れ、未だに元の通りと行くのはまだまだ先の話だった。
そんな中、春輝はヒクソスの襲撃以降と変わらない日々を過ごしていた。昼は里の復興の為実家へ戻り、夜になると怒涛水天とその先の水魔手裏剣の2つの取得をする為の修行を行う生活。これが2ヶ月前と相も変わらず続いている。つまり、現状春輝は進歩する事がなく行き詰まっていた。
「ハァ……!ハァ……!クソッ!こんなんじゃ全然……!」
春輝自身も行き詰まりを感じ、それが焦りを生み集中できず修行は遅々として進んでいなかった。それにも関わらず復興の手伝いや任務に赴くなど、修行に集中できない状況も続いていき柱間と鍛錬の間にて修行や獅子堂家での宗一郎との鍛錬も、それが成果に繋がっていると言う実感がまるで感じられない。
「はぁ…………!はぁ…………!はぁ…………!はあぁぁ…………。(本当に俺、強くなれるのかな?そもそも強くなってるのか?)」
翔馬を始めとした仲間達も強くなっている事は想像がついているにも関わらず、自分は一向にして怒涛水天の会得の手応えすら掴めず、強くなれずにいる。この事が春輝の自信を少しずつ無くしていき、今ではすっかり弱気になってしまっていた。
「(ソウマさんは、俺には成長の余地がある、今後の成長の見込みがあるって言ってたけど実はもうこれ以上は強くなれないんじゃないか?怒涛水天が俺の限界なのか?)」
【このバカが、勝手に自分の限界を決めるな。お前最近腑抜けてきてるぞ。】
「(九喇嘛……。でも、本当にからっきしで強くなってる気がしないんだよ………。この修行、やってる意味あるのかな……?)」
【チッ、まただ。またそうやって腑抜けた事言いやがる。そう思うならもう修行なんてやめちまえばいいだろ。そして、わしの見込み違いだった。そんだけだ。】
如何に弱気になってると言っても、言われて黙っている春輝ではない。九喇嘛の言葉にムッとなり、全身で息をしながら仰向けで寝ていたのを修行の続きを始めようと1つ大きく息を吸って起き上がろう、と思ったところで。
「どうぞ。」
その言葉と共に、春輝の顔の上にペットボトルのミネラルウォーターが差し出される。突然の事に、大きく吸った息は吐き出される事なく飲み込んでしまい、少し間を置いてゆっくりとペットボトルを受け取りながら起き上がる。
ペットボトルが差し出された方を向いて見ると、メガネをかけ桃色の髪を肩にかけた黒色のビジネススーツの女性が腕を膝に置いてしゃがみ込んでいた。春輝は女性の美麗な顔をマジマジと見て目が離せない。心の底から綺麗だ、綺麗な女性だと思わず見惚れてしまっていた。そんな女性を見ながら、女性から受け取ったミネラルウォーターを口にする。そして一口飲み
「………いやっ?!どちら様ですかっ??!」
思わず、咄嗟に思った事を口にした。
「……………なんと言いますか………天然といいますか……間が抜けているといいますか……。普通は見ず知らずの人から渡された物は口にしない、受け取らない。するにしてももう少し警戒するでしょう。罠だったり、毒が盛られたりしたらどうするのです?」
春輝の言葉に何を思ったか。女性は浮かべていた笑みが無くなり、代わって呆れ顔となりジト目で春輝を見つめると大きく溜息をついた。女性の言葉に春輝は痛いところを突かれ、言葉に窮し青ざめる。そして、今更ながら手にしたペットボトルを気まずそうに見つめた。
「はぁ………。しませんよ、その様なはしたないマネは。仮にしてるなら貴方今頃死んでるか、瀕死でしょうに。なんだか私悲しくなって参りました。」
再び大きく溜息を吐き伏せ目になった女性を見て春輝は申し訳なく思ってくる。どこまで言っても言い訳でしかないが、女性がペットボトルを差し出す時の一連の流れがあまりに自然だった。春輝が警戒心を一切抱かない程に自然過ぎたのだ。
「とりあえず、それが飲み終わりましたら速やかにお家へお帰りなさい。今の貴方の状態じゃ、やるだけ無駄どころか、そのまま続ければ型が崩れて悪くなる一方です。明日に引きずらない様にキリのいいところで終わらせるのも肝心ですよ。水城 春輝くん。」
「えっ!?ま、まてっ!?なんで俺の名前をっ!!?」
踵を返して立ち去ろうとする女性を呼び止めて戦闘体勢に入る春輝。しかし、春輝の言葉通りに立ち止まり振り返るとまたしても呆れ顔があり、それを見て春輝はまた何かズレた事を言っているのではと思った。
「………………少しは察せるだけマシではありますけど、まさかここまでとは………。何故貴方の事を私が知っているのかは、また今度お会いした時にまだ知らなければお答えしますよ。それでは御機嫌よう。」
そういうと再び踵を返し手をヒラヒラと振り立ち去る女性の後ろ姿を只々呆然として見ている事しかできなかった。
「い、いったいなんだったんだ………?」
◆◆◆
その翌日、最近の日常の様に昼に里の復興の手伝いをした後の夜、ここ最近修行場所と決めている山中にて修行を行っていた。今回の修行は一旦怒涛水天から離れ、そもそもの水遁を主とした戦い方を磨く事に重点を置き、影分身を使った複数の相手を想定した訓練を行なっているところだった。
「よし、これが最後!」
最後の影分身を倒し、一呼吸入れた後春輝は次の修行に入ろうとすると後ろからパチパチと拍手の音が聞こえる。春輝はすぐ様そちらへ目をやると。
「………あっ、どうぞ。私の事はお構いなく、続けて下さい。」
「お、お前は………!」
そこには昨日会った、ゆきかぜと少しばかり似ている黒い対魔忍スーツと思わしきものを身に纏う謎の麗女が木を背にしてもたれかかりながらそこに立っていた。
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