一方その頃の外の世界。
春輝の母である不知火は以前、管理人がいる小屋へ訪れていた。
「春輝………。」
よく黙って数日修行する事がよくあるので、最初はいつもの様に1人で修行をしているのだろうと、いい加減自身の子離れと春輝の自主性を考慮して放任していたが、3日経っても音沙汰がないことに異変を感じ、4日目の今日探す事にした。春輝の事だから心配する事はないと思いつつも、何かあったのではという危機感を感じていた。
ここで問題なのは、修行の場所が分からない事。春輝は時間を置くと修行場を変える事が多く、もしも変えていた場合はそこも探さないといけないがそうなると完全に虱潰しとなるが可能であれば避けたいところ、なので最初に1番可能性が高そうな所だと思い訪れると小屋の入り口で腕組みをして立つ見知らぬ男がいた。
「………むっ?」
「すみません私、水城不知火と申しますが白嶺さんに用があって来たのですが、いらっしゃらないでしょうか?」
「あぁ、貴女が春輝の母の不知火さんか。まずは挨拶を。俺はソウマ、白嶺の後任となった者だ。」
「ソウマさん……。白嶺さんはどちらに?」
「分かりやすく、かいつまんで言うなら……白嶺はコチラで不祥事が発覚し、その責任で解雇……まぁ、つまりクビとなった。不祥事の内容については話せないが、それが原因で春輝に悪影響などは無いからそこは安心してほしい。」
ソウマと名乗った男からの話に衝撃を受ける不知火だったが、多くを話そうとしなかったり不知火達を信用せずに邪険に扱ったりと、不知火は白嶺に対してどこか危うさの様なものは感じてはいたからか、どこか腑に落ちるところが自身の中であった。
「なので代わりに用を聞こう。何かあったのか?」
「えぇ、ここ数日春輝が帰ってこないので、此方に来ていないのかと思いまして。大体こういう時は此方で時間を忘れて修行している時が多いので。」
「いや、こっちにはいないな。ここ1ヶ月程ここには来ていない。」
「そうですか……。」
ソウマの言葉に不知火は溜め息を溢した。ここに来るついでに以前聞いていた修行場も見てみたがおらず、こうなるとやはり虱潰しに探さないといけなくなってしまう。すると、小屋の中からソウマを呼びかける声が聞こえた。
「おーい、ソウマ殿。何かあったのか?」
「貴方は確か………柱間様?」
「おお、貴女は春輝の母君の不知火殿ではないか。どうかしたのか?」
不知火は柱間に、春輝が帰ってこないので此処へ来ていないかを訪ねにきた事を伝えると、柱間は思わず片手で頭を抱えて天を仰いだ。
「そうか、春輝の奴め………。いや、すまん。これはわしの力不足ぞ、彼奴はここ最近術の完成させる事に躍起になっておったが中々上手くいかない様でな。それを変に考えすぎておったのかもしれんぞ。」
「言っても仕方ないだろう、それよりも今どうするか。春輝の事だから大丈夫だとは思うが行方知らずなのは良くない。不知火はこの先を、柱間は逆に不知火が来た方を探してくれ。不知火は何も思わなくとも、お前なら何か感じるやもしれん。俺はこの辺り一帯に探知の結界を張った後で2人とは別の方向探してみよう。」
その言葉に2人は頷き、一斉に春輝捜索へ出た。
◆◆◆
柱間は小屋から少し離れると、そこで木遁分身を10人程出して捜索の範囲を広げて探していると、正しく偶然にそれと邂逅した。
少し開けた広場の1本の木を背に座禅を組み瞑想する女の美しさに、柱間は思わず目が離せなくなる。メガネをかけても尚損なわせず、外せばどの様になるかと思わずにはいられない程、容姿端麗の模範と言ってもいいその美貌もあるが、それよりも彼女の纏う気は何かと言い表せない神秘さを感じずにはいられなかった。
「……………どなたかは存じ上げませんが、これは見せ物ではありません。その様に盗み見されるのは非常に不愉快です、見るのであればせめて堂々と前に出た後で見たらどうです?それで私に何か用でしょうか?何もないのであれば一刻も早く立ち去っていただきたいのですが。」
「なっ………!?(いつの間に……!?)」
気づけば座禅をしていた女性が腰に手をやって柱間の前に立っていた。確かに柱間は女性に見惚れていたが気を抜いてはいなかったにも関わらず、柱間程の実力者が声をかけられるまで接近に気づけなかったのだ。
「いや、すまぬ。其方があまりにも美しかったのでな、つい見惚れてしまったぞ。」
「まぁ、お上手。それで?何用でしょう?」
柱間は思った事をそのままに話したが女性は意に介さずジト目で要件を言う様に催促する。
「う、うむ。今人を探しておってな、黒と橙色の服を着た金髪の髪をした少年なのだが何か知らぬか?」
「あぁ、もしかしなくとも水城 春輝くんの事ですか?彼ならよく知っていますよ、今現在“修行中”ですので。」
「おぉ!其方知っておるのか!ならばどこで修行しておるのか教えて「お教えできません。」………何?」
女性の言葉から柱間は浮かべていた笑みが消え、代わりに険しい表情と共に殺気を出すが女性はこれも意に介さず淡々と言葉を紡ぐ。
「申し訳ございませんが、お答えする事はできないと言ったのです。今、修行は佳境に入っておりますが、知れば貴方は必ず春輝くんの所へ行こうとなさるのでしょう?そうなれば修行は水泡に帰す事なり、もう春輝くんはこれ以上強くなるのはほぼ不可能、なっても伸び代はほとんど消え去る事となりましょう、必ずその様になると断言致します。それでも良いと言うならば、仕方ありませんが。」
「いやしかし、ならばせめて母や家族に連絡くらいは。」
「いいえ、それもダメです。その様な事は彼の集中を切り、妨げとなるので。」
お互いに平行線を辿り、柱間はこれ以上の会話は意味がないと判断し後方へ飛び女性から距離を取る。
「……もう1度言う。春輝の居場所を教えろ。」
「繰り返し申し上げます。お教えはできません。」
「なれば、力づくで聞き出すまで!!」
「よいのですか?私の知る限り貴方は五車とは縁も所縁もないでしょう、そうなれば貴方も五車を攻撃する襲撃者と見做されても仕方ありませんよ。もっとも私にとっても不都合ではありますが。」
その言葉に柱間は考慮した。確かに女性の言う通り、自身も敵対者と思われても不思議はない。できる限り穏便に勝てれば都合が良いが、この女性を相手にそれは夢物語だろう。
それにまだ知らぬ女性の事を信じるわけにもいかず、この女性からは危うさも感じられるが、もし女性の言う事は本当であり、下手に手を出してしまうと春輝の成長の妨げになるのではないか?とも考えが出てきて逡巡していると助け舟が来た。
「そういう事ならば、場所を用意しよう。」
「……突然やってきて何を言うかと思えば。どちら様ですか?」
「おお、ソウマ殿!なぜここへ?別を当たっていたのではないのか?」
「お前がなぜか一ヶ所に止まっているのを怪しく思ってな。そして突然話に割り込んできて申し訳ない、俺はソウマ。そこの男とは言うなれば春輝の師匠仲間、と言ったところか。それで戦闘をしてもバレない場所が欲しいのだろう、それなら俺には用意ができる。」
「何故その様に話を進めているのですか?私はまだ戦うなど一言も言ってませんし、できる事ならそのままお引き取りいただければとても良いのですが。」
「ならば多少の危険はあるが、今この場で2人がかりでお前を倒しさせてもらう。それでもいいか?」
「ええ、構いませんよ。私には貴方達を倒す、だけでなく貴方達から逃げるという選択もありますから。」
お互いに一歩も譲らないが、女性の言葉にソウマと柱間は若干焦りを覚えた。この2人であれば負ける気はないが、女性の言う通りに勝てずとも負けない様に逃げて良いとすれば勝つのはより難しくなる。そして、女性の余裕からそれはできるだけの実力を持っている事が推し量れる。
そして、先に折れたのは……。
「しかし今は春輝くんの修行が最優先ですから、そちらの言い分を飲みましょう。このまま逃げた後で追われても面倒ですので。」
「何?」
「むっ?」
「何をポカンっとしているのですか?そちらの言う通りにすると言ったのですが。ただその場所とやらに罠などはありませんよね?」
「……ああ、そこは安心してほしい。そもそもこちらは春輝の安否の事もある。下手な真似はしないさ。」
ソウマはそういうと女性に背を向けて歩きだし柱間もそれに続く。付いて来い、という事だろうかと女性もその後ろに続いた。しかし、ソウマも柱間も気がついていなかった。女性が2人を見て舌舐め摺りした事を。
「(もしかしたら、思いがけないところで美味しい話ができるかもしれませんね………。)」
こんな感じです!