暗い星空に満月が浮かび、月明かりに照らされる町中。そんな街から遠くに離れた街道に街灯すら点いていない廃病院らしき建物の前に桜牙や春輝達はいた。
その廃病院は今は心霊スポットとして、多くのカップルやマニア達が夜な夜な探索や撮影などに来るのだが、最近ではこの廃墟となった病院で"うめき声"や"何かを擦るような音"が聞こえてきたり、"手術着"に身を包んだ男が血塗れの男を見たというネットの記事があった。
初めはネットの噂だと思っていたが、その手術着を着た男が気になった桜牙は、命と雪兎の2人と共に廃墟を調べた結果……魔科医が絡んでいる可能性を見つけたのである。
「(魔科医……魔界の医療技術に精通し、医者としての腕も確かなのだが、中身は変態そのものだって授業で聞いたけど。まさかフリーの魔科医がいるのか?)」
「みんな、今回の仕事……これには魔科医が絡んでいる可能性がある。紫やさくらが言っていたが、奴らは総じて変態が多い。奴らに捕まったら、解体されるか人体実験に使われるかのどちらかだ。油断はするなよ。」
『はい!』
「それと、今回の任務はその魔科医の捕縛または討伐だ。ターゲットはこの男だ。」
桜牙はそう言うと右側に片眼鏡を掛けた白服の男が写った写真を見せてきた。
「この男を見つけ次第、捕縛または抹殺だ。名前は“
『はい!』
「まず、秋山姉。お前の忍術でこの中を調べろ。」
凜子は頷くと、空遁で建物の中を調べていく。すると、その建物の見終えた凛子は桜牙に報告する。
「中に罠などはありません。ですが空遁で跳ぶには距離があります。それに奥の方には檻のような物が多くあって、その中に何人もの人間が監禁されている様子で、その全てが女子供です!」
「そうか……それじゃあ手早く振り分けだ。水城兄妹は雪兎と動け。
秋山姉弟は命と共に行動しろ……行くぞ!!」
『はっ!!』
桜牙の合図とともに廃病院に突入する春輝達。
そして建物の中に入ると同時に春輝達3人は皆と別れて動き、新しく会得した見聞色の覇気を使い、建物の中を調べていくと各病室の中には罠などは無かった。
しかし、病院の奥に進む毎に春輝はある違和感を覚える。
「おかしい……。」
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「明らかに罠が無さ過ぎる。それにこの感じ、まるでこのままお進み下さい、と言っている気がする。」
春輝の言葉にゆきかぜと雪兎は怪訝そうに首を傾げる。
「だけどお兄ちゃん、凜子先輩が空遁で調べけど罠とかは無かったんだよ?このまま進んだほうが良いんじゃないかな?。」
「そうだね、ボクもそのほうが良いと思う。空遁で安全が分かってるのに警戒しすぎるのは良くないかもしれないよ。」
2人はそう言うが春輝は何か嫌なモノを感じており、それは奥へと進むほどに強くなっていたが、春輝達はついに標的のいる魔科医の男がいる手術室へと近づこうとしていた。
その時だった。
ウオオォォォォォォォッ……!!
「っ!?」
「お兄ちゃん!?」
「春輝先輩、どうしたんですか!?」
春輝は背後から殺気を感じて足を止めると、咄嗟に後ろに振り返る。すると、背後の部屋から現れたのは1人の年若い男であった。
「誰?まさか、逃げ出してきた人?」
「でも秋山先輩が言ってたでしょ?捕まってたのは女子供だって。多分標的の関係者だよ!」
「……。」
雪兎はそう言うと即座に自身の忍術を発動させる。
「忍法!獣化・玉天兎(ギョクテンウ)!!」
そう言うと雪兎の頭にウサギの耳が現れ、先程よりも速い速度で男に近付きその頭を蹴り飛ばそうとする。
これが雪兎の得意忍術である獣化忍術・玉天兎である。
身体能力を向上させるが、代わりに耳の感度は高くなっており、そこが弱点となっている。
「はぁっ!!」
「阿呆が……。」
そう言うと男は雪兎の身体を回転させると、その頭を掴んで床に叩きつけた。
「ウギっ!!?」ズダンッ!!
「雪兎!?」
「っ!!」
春輝は雷遁の鎧を纏うと男の横っ面に蹴りを入れようとする。しかし男はそれも躱すが、春輝の狙いは男ではなく倒れている雪兎であった。
春輝は雪兎を助けると、即座にゆきかぜの下に戻る。
「お兄ちゃん!?」
「……ゆきかぜ。彼女は気を失ってるからゆっくりと支えて、彼女と一緒に少し離れてろ。」
「う、うん!分かった。」
春輝が男を見据えながら警戒していると、男は窓から浮かぶ月を眺めている。
その態度にゆきかぜはムカっとしたのか指を指して男に怒鳴りつけた。
「ちょっと!あんた何者よ!!こっちが聞いてるんだから答えなさいよ!!?」
「……その馬鹿ガキはお前の妹か?常識と礼儀がなっていないな?」
「はぁ?どういう意味よ!!」
「まず、見知らぬ相手がそう簡単に名前とかを教えると思うか?それと、俺はお前らよりも歳上だ。それくらいは判れよ……"無乳(ムニュウ)"。」
「む、無乳!!?それってどういう意味よ!!セクハラよセクハラ!!」
「ゆきかぜ少し落ち着け……なら1つだけ答えてくれないか?アンタ、敵?それとも魔族か?」
春輝の言葉に男は亜空間から銃口が2つ拳銃を1丁取り出すと、3人に向ける。
「答えるなら、俺は別に敵ではない。それに魔族でもない。どちらかというと単なる"悪平等"だ。」ズガガンッ。
「晶遁!結晶壁!」
放たれた2つの銃弾、それは春輝の出した結晶の壁によって防がれたが、その威力の高さによって結晶の壁は粉々に砕けてしまう。
春輝達は警戒のあまりに動けなかったが、男は興味なさげにしていた。
「っ!?」
「!?」
「今回の目的は果たした。まぁ収穫としてはハズレだがな……あと、この先にいる男だが半殺しにしてあるから好きにすると良い。アイツとは今回で縁を切った。」
「待て。あんた、何者だ?」
「俺は……そうだなぁ。リュウとでも呼んでくれ。」
男、リュウはそう言うと春輝達に背を向けると、真っ黒な空間を作るとその中に消えていき、ゆきかぜはその場にへたり込んだ。
「な、なんなのあの男。」
「さぁな。とりあえず天の治療をしたら急いで標的のいる場所に向かうぞ。凜子たちも向かってるだろうしな。」
そう言うと春輝は天の治療をすると、春輝は念の為に落ちていた弾丸を拾った。
その後、標的のいる理事長室へと向かったが、そこに先に着いてたのは凛子達だったのが、その部屋には夥しい量の血痕と既に虫の息になっている標的がいた。
男は「あいつ、ら……裏切り、やがって……」と呟いていたが、それだけ言うと男は事切れて動かなくなったのである。
桜牙は男に警戒しながら近付くと、男は完全に息を引き取っており、首だけを切り落とすとその首だけを持ち帰る事にし、その後の処理を警察へと任せたのであった……。
◆◆◆
とある路地裏の街道、そこを歩く男……リュウ。すると、リュウの前に彼と話をしていた女、テンマが現れる。
「お疲れ様リュウ。対魔忍、どうだった?」
「……馬鹿が数人いたが、妙なのが1人いた。少し気になる。」
「そう。なら念の為に私は五車学園に向かうわ……お疲れ様。」
そう言うとテンマは何処かへと消えていき、リュウは空に浮かぶ月を見上げる。
「良い月だ……もっと広い場所で月を見たいものだ。」
そう言うとリュウは暗い路地裏の道を歩いていくのだった。
ーーーーー。
ーーー。
桜牙の下で仕事を終えた翌日、春輝達は穏やかな日常を過ごしていた。
魔科医の男の首は魔族が持ち帰って再生できないように崩し、例の廃病院に捕まっていた者達も記憶を消して、元の自分の家に返した。
廃病院も取り壊しとなり、更地となったとの事であるが、しかし、そんな中で春輝だけは別の事が気掛かりであった。
「あの弾丸、何だったんだろう。」
春輝が持ち帰った弾丸、それは対魔忍の技術部の方で調べられることになったのだが、正体は不明とのことらしい。
「(はぁ……アイツ、何だったんだろうな。明らかにやばかったなぁ。)」
【春輝、あのときの野郎の事を考えてるのか?】
「(九喇嘛。まぁな、あれはやばい奴だった。)」
【わしも気配だけは感じていたが、確かに奴はやばい。下手したら殺されてたぞ。それにあの銃と弾丸、あれは明らかに異質だったしな。】
九喇嘛の言葉に春輝はやっぱり……と溜息をつく。
【春輝、今度はわしも出る。その時まで精進しろよ。】
「(ありがとう、九喇嘛。)」
春輝はそう言うと九喇嘛とのリンクを切り、寝ていた木の上から降りると五車学園へと戻ったのだが、クラスに戻る中で女の子物の櫛らしきものが落ちていた。
「何だこれ?女の子の櫛か?「あぁ!」ん?」
春輝が櫛を見ていると、1人の女生徒が自分を指さしていた。
「それ私の!どこにあったの!?」
「どこってここに落ちてたけど?これキミの?」
「そうなの!探してたんだけど見つけてくれてありがとう!あ、私は櫛延澄香(クシノベ スミカ)っていうの。」
「そうか、あ、俺は水城 春輝。んじゃはい。」
春輝がそう言うと女生徒、櫛延 澄香に櫛を返す。
「ありがとう!それにしても春輝さんって、綺麗な髪してますね?何か手入れとかしてるの?」
「え?いやそういうのはしてないよ。」
「そうなんですか!?良いなぁ、私も髪には自信があるんですけど、春輝さんの髪はお日様みたいですね?」
「あはは、ありがとう。」
そんな時だった。
「春輝。」
「ん?あぁ、凜子。どうかしたのか?」
「秋山 凜子先輩!?初めまして、私、櫛延 澄香って言います!」
「そうか。それより櫛延、少し春輝を借りるぞ。春輝、今から私と訓練だっただろ?忘れたのか?」
「え?そんないっ!?」
「忘れっぽくなっているのなら思い出させてやる。ついて来い。」
春輝が何か言おうとした時、凛子が春輝の腹を抓るとそのまま春輝の手を掴んで道場へと向かうのであったが、残された櫛延は首を傾げていた。
「痛いって!凜子、痛いっての!なんだよ急に!?」
「さっきは随分楽しそうだったな?あの女が気になるのか?」
「え?櫛延さんの事?いやさっき会ったばかりだよ。それがどうかしたのか?」
「……いや、それなら良い。だが!あまり女にデレデレするなよ?分かったな?」
凜子はそれだけ言うと去っていくと、春輝は意味が分からずに首を傾げていたのであった……。