五車学園所属の対魔忍にして、暁家の忍……暁 桜牙。
表向きには五車学園の臨時教員として働いたり、様々な戦場に出て活躍する傭兵としての仕事もしている。その気さくな雰囲気から傭兵や対魔忍の仲間達からも好意的に接させる事が多い。
しかし、そんな彼には"裏の顔"がある……。
「ぐあっ!!?」
五車町の中にある緑豊かな山々、その1つの山中にて1人の五車学園の男子生徒が傷だらけになりながらも、必死に彼から逃げ回っていた。
彼は貫かれた右足を抑えながら辺りを警戒している。
そして安堵してゆっくりと山の出口へと歩こうとした時、彼が目の前に現れた。
「追いかけっこは終わりか?」
「ひっ!?あ、あんた!?」
木にもたれ掛かりながら自分を見てくる"彼"を見た男子生徒は、慌てて後ろに下がったことで尻餅をついてしまう。
そんな中、男子生徒の目の前に現れた彼……暁 桜牙は目の前の男子生徒を冷めた目で見下ろしていたが、そんな桜牙に男子生徒は威嚇するように吠える。
「お、お前!?これはどういうつもりだよ!?俺が居なくなったら、アサギの奴が困るんだぞ!?だいたい一教師のくせに俺みたいな奴を追い詰めて、あのアサギ『パァンッ!』うぎゃあぁぁああぁっ!?」
学園長であるアサギを呼び捨てにしていた男子生徒の脚に、ホルスターから抜いていた拳銃で撃ち抜くと、脚を撃ち抜かれた生徒はその場に転げ回る。
そんな彼に桜牙は引き金を引いて、男子生徒に冷たい様子で話しかける。
「お前がやった事くらい知ってるよ。大方催眠系の忍術でアサギを操ったつもりだったろうが……残念だが、実際は掛かっていなかったんだよ。」
「なっ!?」
男子生徒は桜牙の言葉に驚く。
この男子生徒は催眠の力を持っており、他人を自在に操る事ができ、それによって大勢の女子生徒やあろうことかアサギに手を出したのだ。しかし、所詮は未熟な学生が扱う催眠忍術、最強の対魔忍と評されるアサギには通用せず逆に掛かった振りをしてこの生徒のことをじっくり観察し更生の余地なしと判断され、桜牙に彼の始末を命じたのである。
「あと、お前が散々色々な女生徒にした催眠強姦行為、こっちは認識してんだよ。散々良い思いしたみたいだしな……冥途の土産に教えてやる。なんで自分の家族や一族に連絡が取れなかったと思う?……お前がやらかしたことは通達済みなんだよ、両親と一族の当主からも粛清に関して了承してもらっているんだ、家族や一族から助けが来ない連絡がつかない、助命嘆願がないのはそういうことだ。」
桜牙の言葉に顔を青褪めさせる男子生徒、彼は涙を流して命乞いをしようとしたが、桜牙は構わずに男子生徒の頭に銃口を突きつける。
「……あの世で閻魔様に釈明しな。」パンッ!!
男子生徒の頭を撃ち抜いた桜牙、すると、影から数人の仮面を付けた者達が現れた。彼らは桜牙の部下であり"掃除人"と呼ばれている者達である。
「片付けを頼む。」
『御意。』
桜牙はそう言うと山を降りていき学園に戻ると、そこには同期であり、五車学園の教師であるくノ一、八津 紫が立っていた。
「紫か。」
「不忠者の始末、ご苦労だったな。アサギ様が報告書を出すように言っておられたぞ。」
「そうか……。」
「……やはり仲間に手を掛けるのは気が引けるか?」
紫の言葉に桜牙は、ふぅっと溜め息を吐く。
「いつもの事だ。汚れ仕事は慣れっこだし、この手の仕事はガキの頃からやってるしな。それにあのクズは力を悪用してた。それで仲間の女に手ぇ出したんだ。殺してやるだけマシさ。」
「暁……今度兄様も誘って一緒に飲もう。」
「九郎の旦那は苦手なんだがなぁ。」
桜牙がそう言いながら苦笑いしていた時。
「桜牙く〜〜〜ん!」
「ふんっ!」
「んぎゃ!?」
飛びつこうとしてきた活発そうな女性、井河さくらを背負投げする桜牙。さくらは無事に着地に成功する。
「ちょっと!危ないでしょ!?下手したら頭打ってたよ!?」
「喧しい……んで、何か用かさくら?」
「むぅ〜桜牙くんの仕事が終わったみたいだし、たまには同期3人で呑みたいなぁ〜って思ってね!どうムッちゃん、桜牙くん!」
「俺は構わないけど?八津はどうする?」
「……仕方ない、私も付き合うさ。」
「やった〜〜!それじゃあ17時30分に居酒屋にね!じゃあね!」
さくらはそう言うって走っていき、紫はやれやれと言った様子で首を振るが、桜牙は微笑んでいた。
その後仕事を終えた3人は五車町にある居酒屋で、飲み始めていたのだが、さくらは大きいグラスのチューハイ3杯目を飲み終えてからベロベロに酔っていた。
「にゃはは〜〜〜!ほ〜〜〜ら〜〜〜!桜(オウ)ちゃ~ん~、もっと飲め〜〜〜〜!」
「呑んでる呑んでる。てか、飲み過ぎはさくらだ。」
明らかに酔いすぎているさくらはバシバシッ!と桜牙の背中を叩くが、桜牙はやれやれといった様子で溜め息を吐く。
「なんらと〜〜!?わらしが飲みすぎらと〜〜。怒った!チュウするぞ〜〜!」
「止めろ酒臭い。てか、胸を押し当てるな。」
「全く、さくら。少し止めろ、明日も仕事なんだから響くぞ?」
「う~~、ムッちゃんが苛める〜〜!桜ちゃ〜〜ん、慰めて〜〜。」
「はいはい、大丈夫だからねぇ。」
「愛がない〜〜!」
そんな話をしながら小さな宴会をする3人。
その中でさくらは同期であり、片想いの相手である桜牙に甘えている。
彼女が桜牙と出会ったのは、アサギの婚約者である青年"沢木恭介"を朧たちノマドによって失った後の事であった。その時のさくらは荒れており、妖魔や悪に落ちた政治家たちを討つ任務に出ていたが、その中でドジを踏んでオークに捕まった。
そして再び凌辱されそうになったが、それを助けたのが裏での仕事を終えた桜牙であった。
初めは桜牙を警戒していたさくらであったが、助けられた事や共に任務を熟したり、一緒に昼ごはんを食べたりする中で彼に惹かれていき、その中で彼女は桜牙に沢木 恭介に似た温かいものを感じていた。
そして自分が改造された事やかつて大切な存在であった沢木 恭介を失った事を話すと、桜牙は言った。
「そんな時は思い切り泣けばいい。」
この一言だけだった。初めは戸惑ったさくらだった。
しかし、その言葉がさくらの堰き止めていたモノを壊したことで、さくらは泣き叫びながら桜牙に縋り付いて泣き続け、桜牙はただ彼女の側にいて、彼女の頭を撫でたのである。
そしてそれは紫も同じであった。
彼女も桐生に捕まり、魔科医に身体を改造されたがそれは桜牙によった助けられており、紫にとって桜牙は気になる存在となったのである。
2人は桜牙に片想いしているが、それは表には出さず気の許せる友人として接している。
「ほら、さくら。あまり暁に迷惑を掛けるな。」
「むぅ〜〜、ムッちゃ〜〜ん!」
「やれやれ。」
そんな2人と飲みながら桜牙は楽しげに笑うのであった……。
◆◆◆
任務を無事に終えた春輝達は学園に戻り、穏やかな日々を過ごしながらも凜子達は楽しげに過ごしていた。そんな中でも春輝は影分身を出して対人の体術訓練を行っている。春輝の分身は武装色を纏っており、本体相手に猛攻を仕掛けていて春輝本体もその攻撃に応戦している。
回し蹴り、前蹴り、延髄蹴り、正拳突き、肘撃ち・・・分身からの打撃の雨に春輝本体は呼吸と覇気を併用して分身からの攻撃に対応していく。そして、春輝本体が分身を捕まえて、力一杯振り投げて地面に叩きつけると、その衝撃で分身はその場から消え、春輝は肩で大きく深呼吸をすると、その場に座り込んだ。
疲労感が凄まじく木に凭れ掛かって、青空を見上げながら頭に濡れたタオルを乗せる。
「はぁ、はぁ……!し、しんどい……。こんなに連発で修行してたら、俺も壊れかねないな。けどまぁ、やれるだけやらないと。」
「ずいぶん修行熱心なんだな。関心関心。」
「ん?あぁ、暁先生。」
春輝の呟きに答えたのは缶コーヒーと袋を手にして立っていた暁 桜牙であり、桜牙は春輝の隣に腰を下ろして座ると、持っていた袋からオレンジジュースの缶を春輝に手渡す。
「飲んでおきな。少しは身体も休まるよ。」
「ありがとう、ございます。頂きます。」
春輝はジュースの缶を受け取ると、ふたを開けて飲み物を飲んでいく中で桜牙が春輝に質問をしてきた。
「水城春輝くん、キミはいつも1人で修行を?」
「いえ、たまに友人と鍛練をしてますよ。まぁ、ほとんどは1人でですが……。」
「そうなのか……う~ん。」
桜牙は春輝を見ながら考え込んでいた。
春輝は見た感じは普通の子供、どこにでもいそうな雰囲気の少年でありながらその実力はアサギや同期の藤十郎と渡り合える程であり、さらに資料には見たことのない系統の忍術や体術を扱えるとあり、生徒の一部や教師の一部は彼を不審に思ったり、中には気持ち悪いという面持ちで彼に接する者が居るらしい。
その中で桜牙が春輝に感じた印象は、無茶な特訓をしている子供と言った感じであった。
「春輝、お前。なんで鍛練なんかやってるんだ?
お前くらい才能があったら、それこそ鍛練しなくても。」
「暁先生、あなたは俺が才能がある人間に見えるんですか?
もし見えるなら、先生はおめでたい人だ。」
「どういう意味だ?」
「俺には才能なんてありません。ただ"環境"と"師"に恵まれただけです。
師と出会ったことで能力に目覚めて、その師が修業できる環境を作ってくれたんです。
俺は、あくまでそれに乗っただけです。」
春輝がそう言うと桜牙は缶コーヒーをぐいっと煽る。
「その師っていうのは対魔忍なのか?」
「いえ、違いますよ。なんかこう、仙人のような感じです。
普段はこちらから連絡も出来ませんし。」
「(仙人、かぁ。なんか言い方があれだが嘘は吐いてないな。)そうか・・・まぁあまり無理はするなよ?」
桜牙はそう言うと立ち上がって去っていき、校舎の方へと向かっていった・・・。
◆◆◆。
桜牙side
水城春輝、ゆきかぜの兄でありアサギに並ぶ男か。
しかし話してみると、存外普通の子供って気がするな。本当にアサギに勝ったのか?
そんなことを考えていると、珍しい人物が話しかけてきた。
「暁 桜牙、久しぶりだな。」
「これはこれは、政府のお偉いさんが五車に何のようです?
こちらも色々忙しいので連絡してくださいよ。
それで、なんのご用ですか?」
「水城 春輝、彼のデータをこちらに流してほしい。」
「何?」
まさかの生徒の情報を横流しするように言ってきた政府高官の男はフンッと鼻を鳴らす。
「彼は有望株だ。対魔忍なんぞに置いておくのは惜しい。
奴には政府の人間として動いて貰う。」
「年端も行ってない子供を、お前らに差し出せと?冗談はよせ。
ここで聞いたことは忘れてやる……消えろ。」
「お前も知ってるだろう。奴の異常性を。」
男の横を通ろうとした時、俺は男の言葉に足を止める。
そのまま男は眼鏡をくいっと直して続ける。
「あの若さで井河アサギに勝利し、数多の術を会得。さらには体術も常人以上だ。
もし彼を抱えていたら、それこそ何があるか分からんぞ?
今のうちに人柱として奴を我々に渡せ……報酬は弾ませて貰うぞ。」
男は勝ち誇った顔で俺を見下ろしながら札束だ彼の頬を叩くが、桜牙はため息を吐く。
「はぁ……おい、あまり俺をナメるなよ?可愛い後輩をテメェらに渡せるかよ!
確かに奴を、春輝を不審に思う奴等がいるのは知ってるさ。けどなぁ、あいつは仲間だ。
俺はアイツから話してくれるのを待つ。金はいらんからとっとと失せろ。」
男はそう言われて苦虫を噛み潰したように恥ずかしげに頬を染めて、ドスドスッ!と悔しそうに帰ったいった。
「(ざまぁみろ。)」
確かに不思議な感じのする奴ではあるが、奴は仲間だ。
もし何かあれば、俺が止める……。