宜しくお願いします。
獅子堂邸にある畑で一人の老人が農作業に精を出している。
老人の名は獅子堂源一。
獅子堂 宗一郎の祖父であり先代当主。を現在は孫の宗一郎に当主の座を譲り隠居したが、五車の頭領である井河アサギに乞われ相談役としてアサギの政治面のサポートをしている。
そんな五車の重鎮が畑を耕している所を見ると、どうやら今日は源一の知恵を必要とするような事案はないようで趣味の農業に没頭している。
しばらくして畑を耕すのが終わったのか、源一は鍬を持ち、畑のすぐ近くにあるベンチに腰を掛けて水筒の水を飲む。
「ふぅ、久しぶりだから疲れたわい、じゃが、その分耕すことができた。さてさて、今年は何の野菜を植えようかのう。」
そう言うが顔からは疲労感がなく、笑顔にあふれている。どうやら耕した畑に植える作物を何にするのかが楽しみでしょうがないようだ。
しかしその笑みが消え目つきが鋭くなる。
「のぅ‥‥いい加減に用件を言ったらどうじゃ?」
突然、源一がそう言うと畑の空気がピリッとしたものに一変する。
「バレてしまいましたか。流石、隠形の達人ですな。これでも隠形の術には自信があったのですが。」
源一しかいないハズの畑に若い男の声が響く。
「いやいや、見事な隠形じゃよ。儂でなかったら気づかなかったかの~。(声の張り具合からさくら先生や紫先生と同年代か。)……して君は何者かの?姿を見せてくれんか?年配の人間に対して無礼千万だと思うのじゃがのぉ~。」
源一は男の隠形の練度を褒めると同時に何者かと問う。それに対して男は静かに答える。
「隠形マスターに称賛されるとは同胞に自慢できますな。しかし、姿を見せることはご勘弁を。我が主には敵が多いため、部下である私の姿を見られるだけでも主を危険にさらす可能性がありますので、ご無礼は承知で声だけでご了承をお願い致します。」
どうやら源一を暗殺に来たわけではなさそうである。
「……姿を現さないのは気に喰わんが、その隠形の術に免じて許してやるかの。……本題に入りなさい。」
姿を見せないことに若干の不満はあるが言動から男の主が何者であるのか察することができ早く本題に入れと源一は言う。
「ご配慮感謝します、では本題に。……政府内部のある一派が五車で保有している複数の尾を持つ獣、”尾獣”を宿す者達を自分達の管理下に置こうとする動きがあります。」
「はてさて、尾獣とはそれを宿す者達とは何のことやら(なぜ、尾獣のこと?)」
五車の中でも将忠と自分だけが知り、最高機密としている尾獣が出た時、動揺しそうになったが、取りあえずすっとぼけてみる源一だが相手は面白可笑しそうに言う。
「無理に誤魔化さなくても。……実はあるルートから中忍試験での水城 春輝と芳陰 真との戦闘試験時の映像を入手しまして、政府の人間は既に尾獣の存在を認知しております。」
「!なんと!!?」
流石に驚きを隠せない源一。なぜなら五車が保有している尾獣達の情報は五車上層部の中で信用が置ける者達しか開示していないのだ。ましてや大半が魔族のツーカーが大半を占める政治家に尾獣の情報を挙げるのは論外すぎるので挙げていないのである。
「(どこからか情報が洩れたのかの?)…… そんなことをせずとも五車は政府直轄の組織じゃ。彼らが五車に所属している限り政府が管理していると同じことじゃよ。わざわざこちらの反発を買うようなことをせんでも良かろうに。……一体誰かの面倒を起こそうとしている馬鹿は?」
相手の言葉から既に尾獣のことが政府に知れ渡っていると感じた源一は、とぼけるのをやめ反論をするが、言葉の主は冷静に返す。
「確かに彼らが五車に所属している限りはそうなのですが、政府のお歴方はそうは思っていないようでして。……彼らは尾獣の巨大な力に魅せられたのと同時にその力が自分達に向かわないか危惧しているようです。」
そう尾獣に魅せられた者達は手に入れば、その力が自分達に莫大な利益を齎すと確信すると同時に、巨大すぎる力が自分達に向けられないか危惧し間接的に管理するより直接的に管理した方が何かあった時にすぐに対応できるからだ。
「やれやれ、そんなに怖いのだったら虎の尾を踏むようなことをせんようにすれば良いモノを。」
「まぁ、そういったのは一部の者達ですが、彼らの首領は完全に尾獣を兵器と見ているようです。勿論、尾獣を宿す彼らも、です。」
「……彼らを兵器じゃっと?………随分とふざけておるな。」
静かな怒りを表す源一に相手は臆することなく話を進める。
「どうやら首領の男は“五車で管理するより、こちらで管理した方が国益になる”と豪語しているようです。」
「随分と大言壮語を吐く男じゃな。……一体何者じゃ。」
この話の核心部分を問う源一に、声の主は首領の名を明かす。
「……風間 鬼蔵、源一様も名前はご存知なハズです。」
男は躊躇なく答え、名を知った源一は驚愕する。
「何!!? 風間 鬼蔵じゃと!!?……確かにあの男だったら彼らを兵器扱いするのは当然かもしれん。……厄介な相手に目を付けられてしもうた。」
風間 鬼蔵……その名に源一は聞き覚えがあった。
日本政府に所属している重鎮で政府高官や役員達の中で一番の古株であり、常に無表情、会議では必要な時だけしか意見を言わず、他の者達の話を聞いているだけだが政府に一番貢献している謎多き男である。
だが政府に対する貢献の裏で後ろ暗いことをしている噂もある危険な男でもある。源一も手で数えるくらいしか会ったことあるが、非常に有能であると同時に危険な野心を秘めていると感じていた。
源一の驚きを尻目に男は言う。
「恐らく近日中に政府から春輝くん達を政府に移籍させろと言う命令が五車に届くでしょう。急ぎ対応をした方がいいかと。」
「うむ。お主の主からの情報が無ければ、全てが後手に回って手遅れになっていたかもしれん。……感謝する。」
源一は情報提供者に礼を言うと少し思ったことがあるのか男に問う。
「少しいいかの?」
「何でしょう?」
「なにゆえ、こんな危険を冒して我らに情報を?このまま鬼蔵一派に与すれば莫大な恩恵を受けることができたはずじゃ、それなのになぜ?この件が露見したら粛清されるのが目に見えておるのに?」
源一は今の腐りきった政治家から考えられない行動だからだ、すると男は少し考えながら言う。
「主の真意は私如きが図ることはできません。ですが、主は今の五車に期待しているようです。古き因習や悪習から脱却し真の対魔組織になることを。」
男の言う言葉に表情は出さないが驚く源一。山本信繁以外に自分達のことを評価している人間がいるとは思わなかったからだ、それを他所に男は続ける。
「ようやくまともになりつつある対魔忍に余計なことをして、また“昔みたい”になったりしたら、我々からしたら鬼蔵のやることはいい迷惑なのですよ。」
男は最後に何より五車の整備に“莫大な税金”を投入してますからねっ。と付け加える。
最後の言葉に苦笑いをする源一。
「……最後のは耳が痛いのぉ。本当はどうなのかは知らんが情報提供は感謝する。……余計な事かもしれんが、暫く日本にいない方がいいかもしれんぞ。少なくとも鬼蔵との戦いに着が着くまで。」
「ご忠告感謝します。実は我が主は既に御家族を連れ日本から離れておりまして、当分は帰っては来ないでしょう。」
その言葉を聞いた源一は素直に感心した。
「ほう、お主の主君は中々の者じゃの。鬼蔵の一件が無事に終わったら会ってみたいものじゃ。……お主はこれからどうするのじゃ?」
「私は主の元に戻らずこのまま日本に留まります、私の行動次第で主を危険に晒す可能性がありますからほとぼりが冷めるまで地下へ潜るつもりです。
…………ああ、これは個人的なことなのですが戦闘試験の映像はどうやら五車内部から流出のようです。余計なことかもしれませんが一度、五車の住人の身元を一から洗い直した方がいいですよ。……今後の為に。それでは、五車の勝利を願っております。」
そう言うと男の気配はその場から消え、その場に残った源一は一人熟考する。
「(ふぅ、まさか中忍試験の映像が政府に洩れるとはのぅ。それに、将さんが信頼している暁先生がするわけないから何者かに盗まれてしまったのかのう。)」
この時、源一の脳裏にある一人の生徒が浮かぶ。そう、アサギに対して反乱を起こした葉取星舟の親族の中で唯一五車に残っているあの生徒を。
「(映像流出は将さんと内密でやるとして、まずは鬼蔵の件じゃな。あやつに春輝君達を奪われるのは何としてでも阻止しなければ。)」
考えが纏まり、源一は五車学園に向けて歩き出す、未来ある若人を護るために……。
これからどうなる!?