魔都東京の官庁街にある高級住宅の豪華な屋敷の一室、一人の男が見るからに高級なソファーに座り、これもまた上流階級の人間でも手に入れることが困難な酒をグラスに入れ舌鼓している。
男の名は“風間 鬼蔵”。
政府の最古参重鎮で、現在春輝達が五車から追われる原因の元凶である。室内に取り付けられている巨大スクリーンには様々な情報がリアルタイムで映されており、鬼蔵はそれを無感情に見ていた。
「今のところ此方の予定通りにことが進んでいるな。
表示される情報を見ながら呟く鬼蔵。本人からしてみればこの程度の策略など簡単なものであっさり引っ掛かる連中が愚かだと言うのが本音であろう。
「さて、さっさとあの“
どうやら鬼蔵は今回の茶番を全て井河アサギとその上司に当たる山本信繁に責任を負わせ、その後任に自身の息のかかった人間を据えようと鬼蔵は机の上にある書類に目を向けようとする。
だがそこへ机に備え付けている電子電話がなる。鬼蔵き一瞬怪訝そうな表情で表示された番号を見ると顔の表情がウンザリするような表情になりながら受話器を取る。
『作戦は上手くいっているようね、鬼蔵。』
声の主からして10代位の若い声で、どうやら鬼蔵と知り合いの様だ。
「……この程度の稚拙なものを作戦とは言わぬ。引っ掛かる方が無能なのだ。」
『ふふふ、ホントにね。今頃、自分の無力感に苛まれているでしょうね、あのうつけは。』
「それで一体何の要件だ……“
井河一族をかつて支配していた井河長老衆長、葉取 星舟と風間 鬼蔵は古くからの旧知で、お互いに利害が一致する時は協力してきた。
しかし仲が良いかと問われれば二人は違うっと、声を揃えて否定するだろう。
鬼蔵はあまり話したくないのか要件を言えと言う。
『そうね、私も無駄話をするのは嫌いだから言うわ。……今回の尾獣の記録媒体の提供の”報酬の件“なんだけど。』
そう、現在集中治療室にいる暁 桜牙を襲い奪った春輝達の記録媒体を政府に流したのは葉取 星舟の仕業だったのだ。
どうやら鬼蔵に記録媒体提供の報酬についての問い合わせで、それに対して鬼蔵は冷ややかな声で答える。
「……(浅ましい婆だ)報酬はお前を五車の後任にしようと検討している。」
実際は全く違う人間を据えようと画策しているがそこは悟られ様に返答するが
『‥‥それだけ?』
「?‥‥それだけだが。」
星舟は拍子抜けしたのように返答し、鬼蔵はそれを肯定する。
『‥‥あのね、鬼蔵。今回の件の報酬は五車の責任者では足りないと思うの。』
呆れたように言う星舟、どうやらアサギの後任では不満のようである。
「……(この強欲婆め)何が言いたい。」
鬼蔵は不快そうに問う。
『今回の件の報酬としては五車の責任者というのはあまりにも釣り合っていないのよ‥‥その上じゃないと、ね。』
星舟は五車の地位ではなくその上の地位、調査第三部部長の地位を遠回しだが要求しているが……。
「‥‥貴様、ふざけるのも大概にしろよ?五車の責任者ですら過剰報酬だというのに。その上の地位だと?……笑わせるな!!」ダァン!!
あまりにも強欲な要求に流石の鬼蔵も声を荒げながら星舟の要求を拒否する。
『‥‥なんですって!!?五車で秘匿されていた情報を手に入れたのよ?!それくらいの見返りは当然じゃない!!』
「‥‥貴様、“
『?』
「貴様の一族の“
『そ、それは……。』
痛いところを突かれ言葉を詰まらせる星舟。
血族である天舟をスパイとして潜らせたのはいいが、アサギを始めとした“
そのため手に入れた情報も既に政府が入手している物とダブっていたりしている。
言葉を詰まらせているのを感じた鬼蔵は今までの鬱憤を晴らすかのように言い続ける。
「それだけではないぞ。貴様、11年前の弾正の小僧の反乱の際に井河単独で鎮圧すると大口を吐いた癖に反乱を長期化させ、獅子堂、芳陰、水城の3家の長達の介入を許したではないか。あの時、私にどれだけ手間をかけさせたことを知らぬとは言わせんぞ……!」
11年前のふうま弾正の反乱の際に鬼蔵はふうまに同調する一族や擁護する議員に対して権力による圧力や時には実力行使をしふうまを対魔忍から孤立化させていたのだ。
だが、現実は上手くいかずに首謀者の弾正は娘の井河扇舟の毒手最大奥義“五道殺し”を受け戦いの中で力尽き死亡したものの反乱は予想外に長期化し事態を危惧した山本信繁が獅子堂、芳陰、水城に反乱鎮圧の依頼をし事なきをえたのであった。
「挙句の果てに"うつけ"と見下していた
鬼蔵からしてみれば苦労して色々と根回しをしたのに蓋を開けてみれば、当時"井河の最強うつけ"と呼ばれていた孫娘の井河アサギに追い落とされてしまったのだ、鬼蔵からしてみればたまったものではないだろう。
『‥‥あの子が、あの連中を味方に付けていたなんて予想外だったのよ。』
しどろもどろに弁明するが、「言い訳をするな。」と、鬼蔵は一刀両断する。
「貴様は私の期待を裏切り続けた。無能者に政府高官の地位に着くことは無いと思え!!」
『っ!!ふ、ふん。まぁいいわ。でもね鬼蔵、私達が入手した情報のおかげでこの作戦が実行できたことには変わりないわ‥‥そのことを忘れるんじゃないわよ。』
流石にこれ以上は分が悪いと見た星舟は捨て台詞を吐くが……。
「‥‥貴様は本当に愚かだな。貴様が手に入れた記録媒体が無ければ決行できなかったと思っているか?‥‥そうだとしたら貴様は"たわけ"だな。」
『な!?、それはどういう』
「これ以上、貴様に語ることはない。」
そういうと鬼蔵は電話を切り受話器を乱暴に置き、ソファーに座る。
「(ふん!……あの無能め。私があの媒体がなければ行動できなかったと思っていたとは本当に愚かだな。)」
星舟は知らないことだが、冥に所属している荼毘が闇社会に流した尾獣の情報は既に鬼蔵の耳に入っていた。
その情報を元に密かに水城 春輝を筆頭した五人を内偵し既存の対魔忍とは違う一線画す力を有していると発見し、それが尾獣由来の力だと鬼蔵は収集した情報と今までの記録と示し合わせ突き止めたのだ。
後は“
鬼蔵からしてみれば記録媒体を提供位で感謝なぞしてもいないし逆に漸く貸しの一部を返してくれたとしか思っていないのであった。
「(……尾獣を手に入れた暁には真っ先に星舟とその一派を粛清してやる。あの老害が生きていては後々にこの国に災いを齎す。その次は五車だ、主人である国の期待に応えられない無能には消えてもらう。最後にこの国に寄生する魔族どもだ。)……もう少しだ。もう少しで我が大望を達成できる。この国を穢すゴミ共を抹殺し本来あるべき姿の国を取り戻すことができる。そして尾獣の力で世界を。」
今後の予定を考えながら鬼蔵は人知れず自身の大望を呟き、酒を呷るのであった……。