※この作品はR-18です。

対魔忍HARUKI   作:ボルボロックス

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五千字を超えました。

お力をくれた皆さん、ありがとうございます。


閑話 動く者たち

 五車の教室に複数人の生徒がいる。秋山凜子を始めとした春輝達の捕縛任務に参加しなかった者達だ。あの後、宗河賢丞と篁斗漸の誘いで体育館へ行き同じく任務に参加しなかった生徒達が集められていた。

 

 

 そこでは宗河を中心に今回の政府の指令に疑念を抱き春輝達を助けどこかへ匿おうと相談していたが、そこへアサギ達教師陣が来て待機命令を出したのだ。

 

 

 最初はこの待機命令に抗議をしたが……。

 

 

「敵が政府の力を使っている以上、下手に動くと状況を悪化させるだけよ。辛いだろうけど今は待ちなさい。」

 

 

……と苦悶の表情をしているアサギや教師陣を見た生徒達は渋々命令に従ったのだ。

 

 

そして現在、報酬に目が眩んだ生徒達がいない教室で体育館に集まった生徒達と待機をしている、何時でも出撃命令が出てもいい様に。

 

 

「あーあ、何時まで待機するのかねぇ」

 

 

 賢丞が手にトランプを持ちながら愚痴を零す。

 

 

「致し方なかろう、先生方の言い分は決して間違っていない。」

 

 

 その愚痴に対して親友の斗漸が答えながら賢丞が愛刀"日輪月華"の手入れをしながら答える。

 

 

「しかしよ、このまま待機していても事態は好転しないんだぜ。」

 

 

「だが、このまま闇雲に出撃しても良くなる保証はない。下手をしたら生徒同士の殺し合いに発展するかもしれん。」

 

 

「…春輝達を巡って、か。」

 

 

「然り。」

 

 

 斗漸の言うようにアサギ達は春輝達を巡る生徒同士の対立が殺し合いに発展することを一番危険視し、賢丞達不参加組に待機を命じたのだ。

 

 

「だからと言ってこ「賢丞」なんだよ。」

 

 

「焦る気持ちは解る。だが一番彼らの下に駆け付けたい者達がいるのだ。」

 

 

 斗漸がある一角に目をやると妹のゆきかぜと幼馴染の凜子達を始め春輝と同じく追われている四人の恋人達が固まっていて誰もが顔の表情は暗く思い詰めていた。

 

 

「お兄ちゃん」

 

 

 春輝の妹、ゆきかぜは特に悪く、今にも倒れそうな顔色をしていた。待機命令に一番噛みついたのはゆきかぜであり、その際アサギに暴言などを言ったりしたが、彼女の母である不知火が涙を流しながらゆきかぜの頬を叩いたのだ。

 

 

『お、お母さん……。』

 

 

『ゆきかぜ……。今は、抑えなさい……っ。』

 

 

 その涙を見た時一番辛いのは母とアサギなのだと悟り、アサギに詫びを入れ命令に従ったのである。

 

 

 だが、兄を今すぐ助けに行きたいという感情と命令に従い指示あるまで待つべきという感情でゆきかぜの心は激しく揺れ動いている。

 

 

 その中で目を瞑り床に座り瞑想していた獅子堂 翔馬がゆっくりと目を開き立ち上がり、教室の扉に移動しようとしていた。

 

 

 その場にいた者は最初トイレかっと思ったが翔馬の何かを決意した顔を見た瞬間、違うと悟った。その様子を見た賢丞は椅子から立ち上がって尋ねる。

 

 

「‥…どこへ行く気だよ、獅子堂」

 

 

声を掛けられた翔馬は扉に手を掛けながら答えた。

 

 

 

「……春輝達を助けに行く。」

 

 

 

 教室にいる誰もが思っている言葉を口にし、それを聞いた誰もが目を見開き驚いた。

 

 

 この中で一番慎重派だと思っていた翔馬が積極な行動に出ようとは誰も思ってなかったからだ。そのことは賢丞も同様で思わずへぇっと声を出してしまったほどである。

 

 

「意外だな、この中で貴殿は一番の慎重だと思っていたのだが。」

 

 

 斗漸も思わず言葉を漏らす、それだけ翔馬の行動は意外だったのだ。それに対して翔馬は言葉を紡ぐ。

 

 

「このまま待機していも状況は悪化の一途を辿るだけだ。それに、この事件の黒幕は政府の高官だ。」

 

 

 翔馬の言葉に誰もが驚くが賢丞と斗漸は驚かなかった。

 

 

「その心は?」

 

 

「……先生達から貰った情報では、あの五人は指名手配される前日に謎の忍の集団に襲われ、撃退した。そして次の日に政府直属の忍び殺しの殺人犯にされてしまった。」

 

 

 そのことは誰もが知っている情報で今更といった感じだが、翔馬は続ける。

 

 

「アサギ様に襲撃を受けた件を報告した日に謎の電話があったそうだ。」

 

 

「え?電話?」

 

 

 思わずゆきかぜが返答する。

 

 

「ああ、何者かは分からないが、春輝達1人当たり5億で政府に引き渡せという内容だったらしい。」

 

 

「なっ!!?」

 

 

「「「「っ!!?」」」」

 

 

 話を聞いていたきらら達がこの事は初耳だったらしく思わず声を上げる。

 

 

「無論、アサギ様は断ったが、な。だがその次の日に政府からあの五人は指名手配犯にされてしまった。」

 

 

「……もしや春輝達が殺害したと言われる政府の忍とやらは。」

 

 

 凜子が恐る恐る翔馬に尋ねる。

 

 

「秋山の予想通りだ、十中八九春輝達を襲った謎の忍達だろう。」

 

 

「で、でもそれだけで政府高官が、く、黒幕というのは無理がありますけど!?」

 

 

「秋山弟の言う通り、俺の言っていることには明確な証拠はない。だが今回の事件の状況を整理してみれば政府が黒だと辿り着くさ。」

 

 

「……仮に政府高官が今回の事件の首謀者だとしても何でお兄ちゃん達を?一介の学生ですよ!?」

 

 

「なぜ、ここまで手の込んだことをしたのか、俺にも分らん。だが、分かっているとしたら欲しい理由が出来たんだろう。例え五車との関係が最悪な状態になってもあの5人を、な。」

 

 

「そんな、無茶苦茶な。」

 

 

 翔馬の話すことには明確な証拠は確かに無い。

 

 

 だが、事件の発端となった謎の忍び集団による五人への襲撃から指名手配までの流れは、あまりに出来過ぎている。

 

 

 いつも対応が重鈍な政府の動きを見て来た者達から見れば違和感だらけである。

 

 

「確かに怪しいし、説得力はあるけど相手は政府で、下手したら本当に反逆者になるんですよ!!?」

 

 

「確かに、な。だがな、このまま無為に過ごせば、絶対後悔する。後でズルズルと未練がましく後悔するのだったらやって後悔した方がいい。それに俺は“あの時(中忍試験)”の借りをまだ返し終えていないんだよ。」

 

 

「翔馬さん……。」

 

 

「それにいい機会だと思うんだ。政府のバカ共は俺達、対魔忍を便利な道具と見ていて反抗する度胸はないと見下している節があるからな。

 

ここいらでガツンッと一発噛みついても罰は当たらないと思うんだよ、それにローマで味わされた屈辱を晴らせるし、な。」

 

 

 どうやら翔馬はローマで政府高官に言われた“水城春輝だけ残し帰還せよ”という命令に対して根に持っていたようである。

 

 

 それを聞いた賢丞は大笑いした。

 

 

「くははは!!何だよ、それ!?良い事言っていたのに最後は私怨かよ!だはははっ!これは傑作だ!!」

 

 

「……あんな人を虚仮にした命令を根に持たないのは余程プライドが無い奴だ。」

 

 

 翔馬は冷ややかに返答する。ひっきりなしに笑った賢丞は落ち着くと、一息吐く。

 

 

「あ~可笑しかった。けどまぁ、俺も獅子堂に賛成するわ。いいぜ、あいつらを助けに行こうや。」

 

 

「「「「なっ!!?」」」」

 

 

 なんと賢丞も翔馬に賛成したのであった。

 

 

「賢丞、お主まで。」

 

 

 流石に親友の斗漸が咎めるが、本人はやる満々で言うことを聞くどころか反論した。

 

 

「斗漸、獅子堂の言う通りだ。このまま学園に待機していても何も進展はしないぜ。それに政府が怪しいというのはお前も分かっていたはずだ。」

 

 

「むぅ、それはそうだが……。」

 

 

「このまま無為に過ごすより、俺達で奴らが予想していないことを起こして、この劣勢な状況を打破できる切欠を作った方がいい。」

 

 

「……死中に活を求めるか。確かにそれも有りだな……分かった、拙者も行こう。」

 

 

 逆に説得されてしまったのであった。

 

 

「私も行きます!!」

 

 

 今までのやり取りを聞いていたゆきかぜが立ち上がり、兄を助けに行く決意を固めて宣言する。

 

 

「っ!?ゆきかぜ!」

 

 

 

「……凜子先輩、翔馬さんの言う通り教室で待機していてもお兄ちゃん達は帰ってこないし、下手したら永久に帰ってこないかも知れないんですよ?

私はそんなの嫌です……。」

 

 

「そ、それは……。」

 

 

「それに先輩だって気づいているはずです。政府の本当の狙いが……。」

 

 

 ゆきかぜの言葉に凜子は目を見開き、まじまじと妹分の顔を見つめる。

 

 

 凜子を始めとした幼馴染組は何となくだが気づいていたのだ、政府の狙いが中忍試験時に芳陰将忠に教えてもらった春輝の強さの根幹をなす存在、尾獣であることを……。

 

 

「それが本当だったとしても相手は政府だよ、ゆきかぜ。危険すぎるよ、自分でも言っていたじゃないか本当に反逆者になっちゃうよ。」

 

 

「‥‥反逆者になるのは怖いよ。「だったら!」でも!翔馬さんが言った様に何もせずに後悔するよりやって後悔した方がいい!!私は反逆者になったとしてもお兄ちゃんと一緒にいたい!!!」

 

 

「ゆきかぜ……。そうだな、私も春輝と一緒にいたい。助けに行こう、春輝を。」

 

 

「私だって行くわ!」

 

 

「オレもだ!」

 

 

「私も春輝くんの所に!」

 

 

「私も師匠を助けます!」

 

 

「私も真様を!」

 

 

 想い人を救い出したいくノ一達。

 

 

「そ、それなら僕も行きます!」

 

 

「俺も行くぞ。」

 

 

 共に過ごし、絆を深めた男達。

 

 

 妹分の本気の言葉を聞いた凜子も決心し、ゆきかぜに賛同する。それを皮切りに待機組からも賛同の声が上がり、その場にいた全員の心が一つに固まったのであった。

 

 

「よぉし、んじゃあ早速」

 

 

 そして具体的な班分けをしていた最中。

 

 

 

「駄目よ、認められないわ。」

 

 

 アサギがやってきて春輝達を助けに行こうするのを止める。実は妹のさくらに待機組が勝手に五人を助けに行かないか警戒し監視させていたのだ。

 

 

 そしてさくらから内容を聞いたアサギは止めるべく急いで教室に駆け付けたのである。

 

 

 アサギの来訪に驚く面子を尻目にアサギは、真っすぐ愛弟子である翔馬を見つめ問う。

 

 

「……確固たる証拠もないのに動こうなんて、あなたらしくないわね、翔馬。」

 

 

「……熟慮した結果、決断したんですよ、アサギ様、いいえ師匠。」

 

 

 翔馬も師の顔に目を逸らすことなく真っすぐ見て答える。

 

 

「政府が怪しいと思うのは私も同じよ。けれど焦って行動したら相手の思うつぼ。だからこそ、慎重に行動して欲しいの。」

 

 

「慎重になり過ぎて時局を逸し手遅れになってしまいます。それも相手の思うつぼなのでと思うのですが、師匠?」

 

 

「揚げ足取を取らないで!それにあなた達が春輝達を助けに行ったら、政府は確実に反逆者の烙印を押すわ。

いいえ、親類縁者にも害が及ぶかもしれない。

最悪なことは……。」

 

 

 言葉が続かなかった。最悪の事態は五車も反逆者の烙印を押され、五車にいる対魔忍が粛清の対象になってしまうことだ。

 

 

 それだけは五車の頭領として絶対避けなければいけない未来であり翔馬たちの行動は認めることができないのであった‥‥あくまで頭領としてだが。

 

 

 教室にいる待機組の一部は、アサギが最後に言おうとした言葉が何か解り顔色が悪くなるが、翔馬はアサギの言葉に臆することなく言う。

 

 

「いいんじゃないんですか?、五車が反逆者になっても。」

 

 

 とんでもないことを言い、教室に居た全員を絶句させ、思わずアサギも目を見開く。

 

 

 

「翔馬!?あ、あなたは私の言っていることが理解できないの!?下手をしたら「理解してますよ。」だったら!!?」

 

 

「理解しているからこそ動くべきです。どの道政府の連中は全てが終わった後、今回の事件の責任を全て師匠や山本部長に擦り付けて、その後釜に連中の息が掛かった奴を据えてくるのは分かりきったことです。」

 

 

「そ、それは……。」

 

 

 翔馬の言葉に反論の言葉が詰まる。それは五車にとって最悪の未来の一つであるからだ。

 

 

「俺は嫌ですよ、政府の理不尽な命令を唯々諾々と従い死ぬのは。それだったら反逆者になってでもあいつらを助けに行って死んだ方がマシです。それに師匠も言ったじゃないですか?「仲間の危機を知りながら、動かないのは人間の屑。」って。」

 

 

「翔馬……。あなた。」

 

 

 かつて翔馬が弟子入りした際に言った言葉を覚えていたことに嬉しさを覚えるアサギ。

 

 

 最後に翔馬は頭を下げてきた。

 

 

「っ!?しょ、翔馬!!?」 

 

 

「お願いです、春輝達を助けに行く許可をください。あの時のいざこざを乗り越え、漸く友達になれたんです。このまま見捨てたら俺、一生自分を許すことができなくなり後悔だらけの人生を送る気がするんです。お願いします!」

 

 

 真剣な眼差しでアサギに懇願する翔馬。

 

 

 それを聞いたアサギは翔馬の成長に嬉しく思うが、アサギは首を縦には振らない。

 

 

「……翔馬、あなたの想いは解るわ。でも「いいんじゃないですか、アサギさん」誰!!?」

 

 

 翔馬に向けた言葉を遮った声にアサギは、反応するとそこには獅子堂家当主である獅子堂 宗一郎がいた。

 

 

「そ、宗一郎!!?あ、あなたいつここへ!?」

 

 

「今回の事件でアサギさんに気になることがありましてね。学園に来たんだけど理事長室にいなくて、他の人に尋ねたら待機組がいる教室に行ったと聞いて、ね。」

 

 

 挨拶はそこそこに終える宗一郎だが、宗一郎は翔馬を見ると尋ねる。

 

 

「本気で行くのか?翔馬。」

 

 

「はい……俺は行きます。」

 

 

「……違反じゃ済まないぞ。」

 

 

「構いませんよ。それに、仲間を助けるのに理由がいるんですか!?」

 

 

「そうか……それなら何も言わないよ。話はある程度聞いていた。アサギさん、ここまで覚悟を決めているんだ春輝達を助けに行かせてやってくれ。」

 

 

 なんと助けに行くことを後押してくれた。

 

 

「宗一郎、あなたまで……。」

 

 

 宗一郎の姿勢に失望感を少し覚えるアサギだが、それに対して宗一郎は現状を話す。

 

 

「アサギさん、翔馬の言う通り待っていても状況は悪化するだけだ。いや“既に悪化しつつある”。」

 

 

「どういうことかしら?」

 

 

 宗一郎は家にいた時に自分宛に掛かって来た電話の内容をアサギに伝えると彼女の顔が驚愕に染まる。

 

 

「なっ!?1人につき10億ですって!?」

 

 

「ああ、流石にキレて拒否しましたけどね。ですが、俺の所にこんなふざけたことを電話でして来たんだ。他の一族にも来るのは時間の問題です。まぁ、心ある連中は拒否するがそれ以外だったら……。」

 

 

 獅子堂や芳陰のような人間としてまともな一族がいるのと同じく利益のためだったら同胞を陥れるのを躊躇しない一族もいるのだ。

 

 

 もしそんな連中の所にそんな電話が舞い込んできたら諸手を挙げ春輝達の追跡に出るだろう。

 

 

 それを聞いたアサギは頭を抱え、最早一刻の猶予がないことを悟りその場で熟考する。

 

 

「(山本部長にも連絡はしたけど、成果は芳しくはないわ。これ以上待つのは無駄ね……翔馬や宗一郎の言う通り春輝達を助けて、そのまま今回の事件の首謀者を討った方が手っ取り早くていいかもしれないわね。)」

 

 

 考えが纏まり迷いを吹っ切った顔で指示を出す。

 

 

「‥‥分かったわ、春輝達を救出に行くことを許可します。」

 

 

「師匠……。」

 

 

「アサギ様……!」

 

 

 その言葉を聞いた二人は思わず呟く。

 

 

「ただしあくまで“救出”が最優先、その場の勢いで霞が関に“殴り込み”は絶対にダメよ。」

 

 

「えっ!!?」

 

 

「そんな!!?」

 

 

「まじかよ!?」

 

 

きららとゆきかぜ、舞華が思わず声を上げる。

 

 

 どうやらかなりのストレスが溜まっているようで春輝達を救出に行ったついでに殴り込みを計画していたようで、そんな3人に周りの生徒達は苦笑いをしアサギは呆れたように言う。

 

 

「当り前よ。まだ首謀者が誰なのか分らないもの‥‥分かったら存分にヤリなさい。」

 

 

 勢いによる殴り込みは否定したが、殴り込み自体については否定しなかった。

 

 

「宗一郎、あなたが救出部隊の総隊長になりなさい。」

 

 

「え?俺ですか?」

 

 

 救出部隊総隊長に命じられるとは思ってもみなかったらしく聞き返す。

 

 

「本当は翔馬達を諫めて欲しかったのに、後押しするなんて……これはその罰よ。」

 

 

「それならば、甘んじて受けましょう。」

 

 

 アサギは罰として命じたと言っているが本音では生徒達の手に負えない敵が現れても彼が居れば全員無事に帰ってくると確信して隊長にしたのだ。

 

 

「皆、装備を整え次第出撃よ。」

 

 

「「「「はい!!!」」」」

 

 

 待機組は返事をし装備を整えるため、教室を後にするのであった……。




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