お力を貸してくださった方々に感謝です。
「……ん」
意識が覚醒し、ゆっくりと目を開ける春輝。
そこに立っていた場所は、彼の知る場所であった。
「ここは、養護施設?」
春輝の前世『三雲春輝』だった頃、赤ん坊の頃に育児放棄され、拾われた児童養護施設の前だった。
外観はあの頃から変わっておらず、綺麗なままだ。
「どうして俺は此処に。なぁ九喇嘛……九喇嘛?」
何故自分が前世の頃の場所に居るか分からず九喇嘛に話しかける春輝だが、全く反応が無かった。
「天!…焔呪!…鐵河!……なんで!?」
大妖怪達も九喇嘛と同様、反応が無い。
まるで春輝の中から居なくなったように。
「一体…何が起こってるんだ。とりあえず、誰か居ないか探そう」
ふうま裂果の眼を見てから意識が落ちた。
だが次の瞬間、前世で過ごしていた場所に居る事、自分の中にいる筈の仲間達が居なくなった事に困惑する春輝は人を探しに施設内を探索する。
「…誰も居ない。どうなってるんだ」
施設内を探索するも人ひとり見つからず、人の影も無く、誰も居ない。春輝は若干不安になっていた。
「どうして俺はここに居るんだ。皆は大丈夫なのか」
「そんなに心配なのかい?」
「ッ!?」
突如春輝の背後から話しかける声。
咄嗟にその場に飛んで距離を取り、振り向く。
そこに立っていたのは……。
「やぁまた会ったね。どれくらいぶりかな♪」
「お前は……!」
春輝に声を掛けた正体は『もう一人の春輝』。
しかもその格好は前世の『三雲春輝』の恰好だった。
「こうして姿を現したのは修行以来だね」
「…一体なんのようだ。これはお前の仕業か!」
警戒する春輝。そんな様子を見て笑う『もう一人の春輝』は楽しげに笑う。
「そんな警戒しないでよ。今日は君に伝えたいことがあるからさ」
「……伝えたいこと?」
「そう。君がなんでふうまの連中に狙われてるって事。」
そう言う『もう一人の春輝』は春輝を指さして続ける。
「その身に流れる血。それが君が狙われる理由だよ」
「俺に流れる血?(……そういえば父さんの事をふうまの血に穢されたって言っていた。それに父さんがふうま裂果に重傷を負わされたって……!)」
ふうま鐘鬼との戦闘中の会話を思い出す春輝。
「そうだよ。けどそれは同時にキミの強さでもある」
「俺の強さだと…それはどういう意味だ」
「結論から言うと……今の君じゃあ、ふうまの連中に勝つのは難しい。だからね……?君をここから出さない事にしたんだ♪」
「なっ!?」
『もう一人の春輝』は意気揚々と言う事に驚く春輝。
「なんで俺を此処から出さないんだよ!この間にもみんなが!」
「だってもう何もかも手遅れだよ。ふうま裂果が余計な事をしたせいで現実世界じゃ暴走状態だよ?もうとっくに皆死んじゃってるんじゃないかな?」
「ふざけるな!そんな理由で!それになおさら!「…ふざけてるのはどっちだよ」っ!?」
怒鳴る春輝にさっきまで笑顔だった『もう一人の春輝』から表情が消え、じっと見つめる。
「僕は今まで見てきたよ…ヒクソスの侵略、ローマでのエドウィン・シルバ、ふうま鬼蔵による陰謀。これまで戦って辛勝と言っても良いぐらいの結果ばかり。そんな体たらくな君を行かせると思ってるの?」
さらに『もう一人の春輝』は続ける。
「特に酷かったのは自分が強くなりたい為に正体が分からない女性に付いて行って、挙句にはボコボコにされて訳の分からない物を飲まされ続けて精神をへし折られかける。あの時に本当にイラついたよ。君の甘さと渇望の無さにはさ…」
「…それでも俺は!「…だったら一つだけここから出る方法はあるよ」えっ!」
この空間から出られる方法があると言う『もう一人の春輝』。
「どうやったらここから出れるんだ!教えろ!」
「教えてほしい…?だったらね。」
そう言って言葉を溜める『もう一人の春輝』。
その瞬間『もう一人の春輝』の足元から大量のチャクラが溢れだす。
「なっ!?」
突然の事に驚く春輝だがチャクラは勢いが止まることなく溢れ続け、その後『もう一人の春輝』の体を覆い尽くし球体の状態になる。
しばらくするとチャクラの球体に罅が入り、それが全体へと広がると爆散する。
そしてその中から現れたのは『三雲春輝』の姿ではなく、今の春輝と瓜二つであった。
唯一違うのは髪や肌、服も全て反転したかのような白黒になっており、呉一族のように白目の所が黒く染まっており、金色の瞳をしている。
「お前…その姿は!」
「何驚いてんだよ?俺はお前だぜ?…春輝」
さっきとは異なり、荒っぽく好戦的な言動と不敵な笑みをする『もう一人の春輝』が春輝へと襲い掛かる。
「ここから出たけりゃ……俺を超えてみな!」
◆◆◆
ズドオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「くっ!?ゲホゲホッ!春輝のやつ、見境なく攻撃しやがる。理性もないみたいだ。」
「こんな春輝、私は知らないわ!春輝、目を覚まして!!」
「無理よ不知火、今の春輝に言葉は届かない……こうなったら、殺すつもりで止めないと。」
「そんな!?」
アサギの言葉に不知火は俯き、ゆきかぜは悲壮の表情を浮かべ、手から銃を零してしまう。
「ゆきかぜ?」
「出来ません……私には出来ません!!お兄ちゃん、目を覚まして!!!私たちの事、本当に分からないの!!?」
ゆきかぜは春輝に向かって涙を流して訴える。
「さぁ殺せ!最愛の妹をね!!!」
春輝右腕を上げ、そして……。
◆◆◆
一方春輝の精神世界では激闘が起こっていた。
無人の建物や建造物が一瞬で崩れ、破壊音と砂煙が立ち上る。
その中から春輝と『もう一人の春輝』が飛び出し、接近戦を繰り広げる。
「どうしたよ!それで全力か!?」
「ぐっ!」
苦戦する春輝が螺旋丸を構えると『もう一人の春輝』が合わせるように黒い螺旋丸を出す。
「「螺旋丸!!」」
ギュルルルルルルルルルルルッ!!
激突する二つの螺旋丸だが、春輝の方が押され始める
その衝撃により弾かれるが、地面に着地する。
必然的に距離を置く形になると『もう一人の春輝』が語りだす。
「諦めろ。お前が俺に勝つなんて無理な事なんだよ」
「いや、まだだ!」
そう言う春輝は雷遁の高速で動き始める。
『もう一人の春輝』の周りを縦横無尽に移動し、攻撃の瞬間を悟られないようにする。
「(なんでアイツは笑ってるんだ…!)」
だが『もう一人の春輝』は問題ないと言わんばかりに笑いながら立っていた。
明らかな挑発に春輝は乗ってしまう。
「ここだ!」
『もう一人の春輝』の背後めがけて突進し、千鳥を繰り出すが、『もう一人の春輝』の体が水に変わり、そのまま通り過ぎてしまう。
「っ!?」
「だからよぉ…」
春輝は振り向き際に『もう一人の春輝』を姿を見ると、『もう一人の春輝』の髪が青くなっている。
そう、『もう一人の春輝』は怒濤水天の力を使っていた。
「無理だって言ってんだろぉ!風遁・大突破ぁあ!!」
「ぐぁああ!?」
『もう一人の春輝』が息を吸い込み、口から突風を吹き出す。怒濤水天の力により風遁の力が強化された突風は春輝を直撃し、遠くに飛ばされる。
ズドォォォオオオオオオオオオオオオオン!!
遠くに飛ばされた春輝は身動きが取れず、雑居ビルに激突し、そのまま壁に体をめり込ませる形で止まる。
「ぐぅ…なんで怒濤水天を「考え事か春輝?」!?」
壁から脱出する春輝。そこへ電光石火で高速移動しながら眼前まで迫ってきている『もう一人の春輝』がそのまま拳を繰り出していた。
「水円陣!」
だが春輝は咄嗟に目の前に水の円を作りだし、『もう一人の春輝』を潜らせる。
そして予め真横に作ったもう一つの水の円に向かう
「(このまま出てきたところを!)」
水円陣はひとつの円とそれに通じるもう一つの円を潜ればその場所に辿り着ける術。
それを利用して『もう一人の春輝』を攻撃を躱し、出てきた所を反撃する狙いである。
春輝はもう一つの水の円から出てくるタイミングを計り、蹴りを繰り出す。
ズドォオン!!
「がはっ!?」
その瞬間、春輝の頭上から現れた水の円と共に『もう一人の春輝』が黒い螺旋丸を出しながら飛び出てくる。
そのまま春輝に黒い螺旋丸を当て、地面へと叩きつけられ、その衝撃により砂煙が立ち上る。
「お前の考えは手に取るように分かるんだよ。水円陣で俺の攻撃を防いでカウンターを狙ったつもりだったんだろ?……残念だが、円から出る直前に俺が水円陣を使ってお前の頭上に移動したんだよ。“電光石火”や“怒濤水天”が使えるだけじゃねぇ、お前の持つ全ての術を使えるんだよ。」
近くの建物の屋根から見下ろす『もう一人の春輝』。
砂煙が無くなり、地面に巨大なクレーターを作りながら、春輝は倒れ伏せている。
「ぐぅ…」
「無様だなぁ春輝。あの腹黒女に連敗し続けた時みたいに弱音でも吐くか?」
「だ、誰がそんな事……っ!ごはっ!?」
春輝は体にダメージを負っているにも関わらず、気合で立ち上がる。
それを見てた『もう一人の春輝』は呆れ気味になる。
「そこまでズタボロにされてんのに、まだ諦めねぇか」
「当たり前だ。俺はここから「ここから出て皆を救うってか?自分の力を否定したお前がか?」なにっ?」
「大妖怪達に力を貰い、九喇嘛からもチャクラを借りてる癖によ。いざ自分の力は信じねぇってのは虫が良すぎねぇか。」
「なにを、言ってるんだ……?おれは自分の力を信じてるぞ。」
『もう一人の春輝』の言葉に首を傾げる春輝。
「いや、言わせて貰うぜ!ーテメェ自身の力を否定する癖に!力を使う覚悟もねぇ癖に出しゃばるんじゃねぇよ!」
「……っ!」
「これまでお前は仲間だの、家族だの、を護る為に戦ってきた。だがそれはあくまで理性として戦ってきただけ……お前には決定的に足りない物がある。」
「いったい何が足りないってんだ……?」
「それは戦いに対しての【渇望】!!己の内を曝け出す【本能】!!それを有する【覚悟】!!お前にはそれが微塵もねぇ!だからてめぇは俺には勝てない!」
『もう一人の春輝』が高らかに言う。自らの主張を。
しかしそれを聞いた春輝は戸惑いながらも、構えを取る。
「まだやる気かよ」
「お前に何と言われようが、俺は絶対に皆の元へ帰るんだ!」
「…そうかよ」
ゆっくりと構える『もう一人の春輝』
「だったら教えてやるよ。俺とてめぇの力の差をなぁぁ!!」
『もう一人の春輝』がその場から飛び出し春輝に接近しながら拳に黒いチャクラを纏わせる。
「(アレは金色神楽!?だったら!!)影分身の術!」
すぐさま3人に分身する春輝。そしてそれぞれ忍術を使う。
「土遁・土流壁!」
「晶遁・結晶壁!」
「氷遁・氷牢の術!」
土遁と晶遁の厚い壁を重ねて作り出し、さらに巨大な氷を地面から次々と出現させて周りを覆う。
金色神楽の攻撃に備えた今の春輝が出来る最高の防御である。
「っは!そんな壁を出した所で無駄なんだよ!!……“崩解”・金色神楽!!」
『もう一人の春輝』が巨大な氷の牢に拳を打ち付ける
それと同時に黒いチャクラが拳から噴き出す。
まず拳周りの氷を一瞬で溶かし、次に土の壁を削り切り、最後の結晶の壁は粉砕される。
ズドォオオオオン!!
「がっは!?」
勢いが劣らず、拳は春輝の腹部に突き刺さり遠くへ飛ばされる。その後ろにある何件もの住宅の壁を突き破り、そのまま大広場へと飛ばされた。
そのまま背中から倒れる春輝は強い衝撃で口から血と息を思い切り吐き出していた。
「ごほっ!っごっほ!!(なんだよあれ!?俺の知ってる金色神楽じゃない!)」
今まで経験したことの無い痛みと衝撃に困惑する春輝。
だがその隙を『もう一人の春輝』は見逃さない。
春輝の居る場所の上空で既に印を結んでいた。
「なに呆けてるんだよ!火遁、豪龍火・炎災の舞!」
『もう一人の春輝』の口から巨大な龍の形をした炎を吐き出す。
一見で火遁・豪龍火の術のように見えるが、その後がまるで違った。吐き出された巨大な龍は渦を巻くように飛び出すと共に大きくなると同時に炎の竜巻を纏わせ、辺りに火の粉と爆炎を散らす。
春輝は咄嗟に電光石火を使ってその場から飛び出して回避する。
「今度は豪龍火か!?でも俺の知ってる術じゃ「だから言ったろ」っ!?」
回避したと思われた春輝の背後に『もう一人の春輝』が立っていた
「俺とてめぇじゃ…力の差があんだよ!」
そのまま春輝に蹴りを入れる『もう一人の春輝』。しかし攻撃された春輝は煙と共に消える。
「分身か。」
「あぁそうだよ!仙法・風遁螺旋手裏剣!」
『もう一人の春輝』の背後から少し離れた場所から春輝は螺旋手裏剣を放った。
だが『もう一人の春輝』は……
「分からねぇのかよ。俺とお前じゃ勝負にならねぇ。……仙法・風遁螺旋手裏剣・横一文字!」
既に黒い螺旋手裏剣を放っていた。しかも春輝の螺旋手裏剣とは形状が違っていた。
十字型の大型の刃を持つ、まるで風魔手裏剣・影風車のような形状だった。
互いの螺旋手裏剣がぶつかり合い、春輝の螺旋手裏剣が横に真っ二つになる。
ザッシュ!
「ぐぁああ!!」
迫る風遁螺旋手裏剣・横一文字に咄嗟に体を翻して避ける春輝だったが、間に合わず片肩を切られてしまう。
そしてそのまま片膝を着く。
「…なんで…俺の螺旋手裏剣が…仙法まで付与出来たのに……!?」
「知りてぇか?」
激戦続く激戦により、もう動く力も残ってない春輝にゆっくり近づく『もう一人の春輝』。
「いくら強くなろうと、てめぇはうずまきナルトや他の連中の術をただ使ってるに過ぎない。血継限界や仙法もそうだ。」
「なんだと…?」
「てめぇはただ、人の術を模倣してるだけなんだよ。なんの捻りもないモノマネが俺に勝てるとでも思ったのか?」
「……モノマネだっていうなら、さっきの金色神楽は違うって言うのかよ」
「っくくく…ひゃーっははははははは!!!」
春輝の疑問に高笑いしながら片手で目を覆う『もう一人の春輝』。
「まだ分からねぇのかよ!気づかねぇにも程があるだろうよ!!」
しばらく笑い続けた『もう一人の春輝』は覆っていた手をゆっくりと退ける。
「これを見ても分からねぇか…春輝」
現れた金色の瞳ではなく、赤く刻まれた邪眼“転写”だった
「っ!?」
「そう、この転写の力だ。こいつでお前が出す術以上の力を出してんだよ」
「ちょっと、待てよ。それはコピーする力じゃ無いのか!?」
「っは!まさかこいつがただのコピーするだけの力だと思ったのかよ!」
『もう一人の春輝』の自身の邪眼を指さす
「こいつのコピーはオマケみたいなもんだ。本当の力のな」
「本当の力?」
「そうだ。この邪眼“転写”は……」
「“見た物に対しての情報を記録する”……それがこいつの力さ」
『もう一人の春輝』から語られる邪眼“転写”の能力だが、しかしイマイチピンと来ていない春輝にさらに語り続ける。
「一見聞けば、解析能力のように聞こえるが実際は違えぇ。こいつは技術・忍術・能力とあらゆる力をも詳細に見る事が出来、それを脳が直接記録する。そしてそれを自身の力として使う事が出来る。」
「例えば…」と言って『もう一人の春輝』は右腕に黒いチャクラを纏わすと、さらに炎・廛など様々な物が纏わりつく。
「っ!?」
「これがただの金色神楽だったら、まだ結晶の所で止まっていただろ。だが犬塚源太の火遁武芸、豪魔バルトの廛の能力、獅子堂翔馬の獅子堂流、呉一族の外し…それ等を組み合わせれば壊す事なんざ簡単だ」
そう言って纏っていたチャクラを消す。
「さっきの豪龍火もそうだ。他の同じ火遁の術の組み合わせから相性の良い風遁も加われば災害レベルの術に跳ね上がる。最後の螺旋手裏剣もあらゆる剣士達の剣術と能力を合わせれば、お前の螺旋手裏剣なんざ簡単に両断できる」
そう言って『もう一人の春輝』は春輝の目の前まで近づくと目線を合わせるように腰を落とす。
「春輝……てめぇじゃ俺を超えられねぇ。」
ドスゥ!!
「ごっふ!?」
「てめぇじゃ使いこなせねぇ。この邪眼“転写”をなぁ。」
春輝の腹に右腕を突き刺した。
そこからヘドロのようなものが出ると春輝の体を侵食し始める。
「な、なん…だ…これ…!?」
「弱い奴に従う必要はねぇ。てめぇと俺が入れ替わり、現実の春輝が俺になるだけの話だ。」
「な、に……!?」
話す間も体の浸食は進んでいき、既に下半身は黒く覆われ、徐々に上半身へと登っていく。
「てめぇは一生、俺の力の一部として生き続ける。だからもう何もする必要はねぇ…覚悟も無いお前は何もするな…あぁ現実世界の奴らの事なら気にするなぁ、俺が代わりに戦ってやる。だから…」
「永遠に眠りな。春輝」
「あ…あぁ……(俺は…このまま…)」
浸食は首まで到達し、顔まで覆い尽くし始める。
そんな中、春輝は心の中に家族や仲間、そしてこれまで自分を手助けしてくれた大勢の顔を思い出す。
「「「「「「「「「「「「「「春輝/さん/水城/先輩」」」」」」」」」」」」」」
「お兄ちゃん!」
「春輝!」
「っ!?(いや、諦めるな!)」
ガシッ!
「ッな!?」
既にヘドロに覆われた右手を動かし、『もう一人の春輝』が突き刺した右腕を掴む。
それだけでなく、全身が覆われる寸前でヘドロは浸食を辞め、戻っていく。
「お前は俺だって言ったよな。だったら…」
そう言ってヘドロから顔を出した春輝は模様が変わった邪眼“転写”で『もう一人の春輝』を睨む。
「この力も俺のだよな!」
「っちぃ!」
『もう一人の春輝』は睨まれて一瞬怯むが、すぐに突き刺した右腕を引き抜き、掴まれた手を振り解こうとする
だがそれをさせない春輝は力を込めて逃がさない
「何をしたって無駄なのが分からねぇのか春輝ぃぃ!」
「水遁・霧隠れの術!」
春輝は口から濃霧を吐き出す。至近距離で術を使ったことにより、その一帯が霧に覆われ互いに視界を奪われる。
だが春輝に捕まれてる状況で、場所を見失う訳がない。
「苦し紛れかよ!?こんな術吹っ飛ばしてやるよ!」
『もう一人の春輝』は風遁で辺りの霧を吹っ飛ばす。
そこに居たのは変わらず腕を掴む春輝。
さらにその周りには、それぞれの火、水、風、雷、土、氷、晶、木、闇遁の術の螺旋丸を投げている9人に分身した春輝達。
「なッ!?」
その光景に思わず声を上げて驚く『もう一人の春輝』
「お前の話をして分かったよ。俺は俺だ…例えふうまの血が流れていようと、俺は俺、水城春輝だ!!!誰が何といようと…この力も俺の力だ!」
「正気かぁ、てめぇええ!」
「お前だけは絶対に倒す…それが俺の覚悟だ!」
「死ぬ気か!?」
「死ぬつもりは無い。それに……!」
9つの螺旋丸がすぐ近くまでやってくる。
「俺は、もう惑わねぇ!!」
「ッ!?」
「螺旋丸・九尾狐!!」
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
9つの螺旋丸がぶつかり、それを中心に巨大な螺旋丸が生まれ大爆発が起きる。
周りの建物もその衝撃波と風圧で破壊される。それにより隕石でも降ってきたかのような跡が残る。
そこら中に土煙や砂煙が立ち上り、静寂だけが流れる
そこに居たのはズタボロになりながらも立っている春輝
その前には背中から大の字で倒れている『もう一人の春輝』だった。
春輝は倒れている『もう一人の春輝』をじっと見る。
「………」
「…なんだよ。さっさとトドメを刺せよ」
『もう一人の春輝』が言葉をかけるも無言で見る春輝。
その顔はどこか悲しい顔をしていた。
「今更慈悲でもくれるってか?……は、はは、ははははは!!!!そこが甘ちゃんだって言ってんだよ!いくら強くなろうがな!根本が変わりもしねぇてめぇがこの先、あの腹黒女のような奴が現れて最後には利用されて終わりなんだよ!!」
「………」
「てめぇのそれは優しさでもなんでもねぇ、ただの甘さだ!だから俺がお前の体を「もう良いよ。」っ!」
春輝は『もう一人の春輝』の手を握る。
「お前と最初に出会ってから、お前は俺の事を誘惑したり誑かしていたのは確かだ。お前が俺の身体を乗っ取ろうとする事もあった。」
「…それがどうした?」
「だったらなんで俺が衰弱しきっていたのに助けたりしたんだ?」
「っ!?」
春輝の問いに目を見開く『もう一人の春輝』。
そして自身の邪眼“転写に目に手を添える。
「この目で見るまでは分からなかった。九尾のチャクラは九喇嘛、状態変化は大妖怪達の力…だけどお前だけはどうしても分からなかった。一体何の力なのか…だけどこれでハッキリした」
そして春輝はゆっくりと告げる。
「お前は邪眼“転写”だ。いや正確には俺の流れるふうまの血そのものだ」
「………」
「この目が情報を記録するって言ったよな。俺とお前の間には目に見えない繋がりのような物が解析できた。本来ふうま裂果の罠で俺の意識は二度と目覚める事は無かった」
「………」
「九喇嘛や大妖怪達と繋がりが途絶えた事で俺がふうま裂果に操られるのは分かっていたんだろ?だからお前は俺と繋がる事で意識を目覚めさす事が出来た。繋がってるからこそお前の事を知る事も出来た。これまでお前がどれだけの事をしたのかを」
「………」
「俺が水城春輝として生まれた時からお前は既に俺の側にいた。邪眼が発現した時も負荷を掛けないようにしてくれたんだろ。お前がずっと俺を守ってくれた。だから言わせて欲しい」
そう言って春輝は頭を下げる。
「ごめん、今まで気づかなくて…」
「…っち。遅ぇんだよアホ。」
春輝の謝罪に悪態をつく『もう一人の春輝』。
「一人で何もかも背負いやがって、てめぇ一人の命だと思ってるのかよ」
「ごめん、本当に」
「…あぁもうウザってぇ!」
『もう一人の春輝』はそう言って上半身を起こし、春輝を指さす。
「良いか!今度またそんな顔をしたら、てめぇのその体を頂くからな!無様に負けても同じだ!」
「あぁ、もう大丈夫だ。だから…」
春輝はそっと『もう一人の春輝』に手を差し伸べる
「お前も一緒に戦ってくれ」
「はぁ?」
「お前言ったよな。弱い奴に従う必要は無いって、だったら俺が勝ったから従ってもらうぜ」
そう言って笑う春輝。
しばらく差し伸べる手を見る『もう一人の春輝』。
そして勘弁したように溜め息を付きながら春輝の手を掴む。
「分かったよ。だが俺の脚だけは引っ張るなよ」
「ありがとう!あ、そういえば…何て呼べばいいんだ?」
「あぁ?」
春輝の言葉に『もう一人の春輝』は眉を顰める。
「名前だよ。お前の…九喇嘛達みたいに名前あった方が良いだろ?」
「名前なんざどうでもいいだろ。邪眼でも転写でも良いだろ」
「そう言う訳にも行かないだろ。う~んっと」
そう言うと春輝は『もう一人の春輝』の名前を考え始める。『もう一人の春輝』を見て「色が反転してるし」や「全体的に白で…」とぶつぶつ言っていると……。
「冬輝…冬輝ってのはどうだ!?」
春輝が自信満々に言うが『もう一人の春輝』が微妙な顔をする。
「お前、俺の色のイメージとお前の名前に季節が入ってるから冬輝って安直過ぎないか?」
「い、良いだろ別に!」
「冬輝、冬輝ねぇ……まぁ悪かねぇか」
『もう一人の春輝』改め『冬輝』は立ち上がり、相変わらず好戦的な笑みを浮かべる。
「さて、そろそろ戻った方が良いか。現実によ」
「あぁそうだな。ってどうやって帰るん……!?」
春輝が疑問に思った。
その時、至る所から光が出て、春輝と冬輝だけでなく世界が包み込まれる……。
◆◆◆
「さぁ殺せ!!最愛の妹をな!!」
「ゆきかぜ!!逃げて!!!?」
「螺旋丸!!」
ズガァァァァンッ!
「ガハァァァッ!!!?」
「え……?」
「「「「「「なっ!?」」」」」」
「「御館様!!」」
螺旋丸を受けて吹き飛んだ裂果、一方でゆきかぜは螺旋丸を放った春輝の方を見ると、春輝の身体が金色の九喇嘛のチャクラに包まれ、優しい笑みが彼女を見つめる。
「ゆきかぜ、心配掛けたな。」
「お兄ちゃん……私が分かるの?」
「あぁ、迷惑かけて済まない。」
「お兄ちゃん!」
ゆきかぜは歓喜のあまり、春輝に抱き着き、不知火も安堵の表情を浮かべる。
洗脳が解け、正気を取り戻し元の姿となった春輝
その前には模様が変わった邪眼“転写”が出ており、さらに身体には勾玉のような模様と衣のようになっており、背中には黒い玉も現れていた。
「どういうことだ。あの洗脳が解けるなんて…」
「ふうま裂果、お前をここで倒す!」
裂果に向かってその場から飛び出す春輝。その背後から鐘鬼と正宗が奇襲を仕掛ける。
その時、春輝の背中に黒い影が現れ何かが飛び出す。それは鐘鬼と正宗の顔面を掴み、そのまま力任せに投げ飛ばす
その正体は……
「出るなら言ってくれよ…冬輝」
「お前が背後を取られるのが悪いんだろぉ…それにシャバの空気が吸いてぇ気分だしよ」
春輝と背中合わせをするように冬輝が立っていた。
思わぬ存在が現れた事に裂果・鐘鬼・正宗は目を見開く。
「あそこの雑魚二人は俺がやる。てめぇはあのアマをやれ」
「分かったよ。負けるなよ冬輝」
「はぁ!誰に言ってやがる。てめぇこそ勝てよ春輝!」
そんな会話をし、春輝は裂果と冬輝は鐘鬼・正宗と戦闘を始める。
鐘鬼は手刀に蒼雷を纏わせ、正宗は刀で冬輝に斬りかかる。だが冬輝は笑みを浮かべながら紙一重で躱し続ける。
「お前、一体何者だ!」
「さぁな、一体何者だろうな!千鳥千本!」
冬輝が躱しざまに千鳥を針状に形態変化させ、放つ。
正宗はその場で飛ぶが、いくつかの針が腕に刺さる。
そこへ鐘鬼の手刀で冬輝の背後を狙う。
ガキィイン!!
「見え見えなんだよ。」
しかし瞬時に冬輝は王亀を口寄せし、防御する。
さらに鋼羅を装着し、鐘鬼の懐に入り両手の握り拳を当てる
「六王銃・雷霆!」
ドォォオオオオン!!
「ごっはぁああ!?」
凄まじい衝撃と激しい雷撃が鐘鬼の体内に炸裂する。
鐘鬼は口から血を吐き出し、勢いよく吹っ飛び、壁に激突する。
「まぁまぁの威力だな。さて次は」
「多重影分身!!」
ボボボボボボボボボボボボ……!
分身した大勢の正宗が襲い掛かるが、冬輝は冷静に印を結ぶ。
「水遁・八岐水龍!」
辺りの水から八本の水龍弾が現れる。
本来の水龍弾の術に脳内に記録した拡散技や能力を分析し、組み込んだ術である。
水龍弾は猛スピードで本体を含んだ正宗達を囲む。
「(術の速度が速い過ぎる!こいつは一体!?)」
「ついでにこいつも試してみるか」
冬輝は次に鋼羅を装着した両手を手刀にしクロスするように前に出して構える。
さらにそこに蒼雷が纏わり始めると手刀の先端からまるでクワガタのような巨大な鋏が出現する。
それを見た正宗は驚愕する。
「それは鐘鬼の!?何故お前がそれを!」
「ちょっと記憶しただけだぜぇ?ただし、こいつは挟むだけじゃ収まらなねぇけどな」
「雷遁・蒼雷裁鋏!」
本来の蒼雷顎鋏に加え、千鳥光剣、天御剣の剣士達の技術、ヒクソスのアシュラフのインドラなどを掛け合わせた雷の斬撃。
全ての分身は両断され、本体は両断は免れるも大きく斬り裂かれる致命傷を負った。
しばらくして壁にめり込んでいた鐘鬼が動き出す。
「まさか、他の術をコピーするだけでなくそこから新たな術を生み出したとでもいうのですか」
「見てわからねぇか?ふうまって奴は実力はあっても此処が足りてねぇんじゃねぇか」
冬輝は自分の頭を指で叩き、挑発をすると鐘鬼が額に青筋を立てる。
「随分と舐めてくれますね。調子に乗るのも…ごはっ!?」
鐘鬼が冬輝に向かおうとした瞬間、体の自由が利かなくなる。それどころかある異変に困惑する。
「か、体に力が…それに蒼雷が使えない!?」
「てめぇの体は既に解析済みなんだよ。面倒だからあの時に既に仕込ませてもらったぜ?」
そう、冬輝が仕込んだというのはさっきの六王銃・雷霆である。
通常の六王銃に加え、晃の雷犂熱刀の強烈な速度と威力、ゆきかぜの雷銃撃、ヒクソスの魔剣士ラムセスの封印術などを組み合わせたオリジナル以上の攻撃に加え、相手の体内の対魔粒子を一時的に封じるというものである。
「さて、準備運動はこれ位に良いか」
冬輝はそう言って全身から膨大なチャクラを吹き出すと、それを見た正宗と鐘鬼は大量の冷や汗を出す。
「もっと楽しませろよぉ、滅多に現実には出れねぇからな!!」
◆◆◆
尾獣モードから新たな姿、“尾獣仙人モード”になった春輝と相対する裂果とアサギ達は、初めて見る春輝の金色の姿に驚き、固まっていた。
「なんだ……その姿は?それがお前の力の最高点か?それにあの男は何なんだ?」
「さぁ、な。」
ダァァァァァァァァンッ!
「ぐふっ!!!?」
「悪いけど、今相当頭に来てるから……加減出来ねぇぞ。覚悟しておけよ?」
「くっ!?ゲホゲホッ!はぁ、やってくれるよ全く。(打撃が内側に浸透してきやがる。こいつの打撃、俺の術と相性悪いな。傀儡眼を警戒してるからか視界に捕らえるの難しいぜ。)」
殴り飛ばされた裂果は、自身の術と春輝の攻撃の相性を即座に理解し、どうするべきかを考えるが、春輝はその隙を逃さず攻撃に移る。
「はあああああああああっ!!」
「ちぃっ!大道寺!」
「御意!」
「邪魔だ。仙法・氷遁螺旋槍!」ビュオオオオオオオオオオッ!!
バキイィィィィィィンッ!!
「っ!?ぐっ!!」
「これは、氷の遁術!?」
春輝の放った氷の螺旋丸を受けた裂果の部下は、ガチガチに凍り付く。
春輝の氷遁螺旋丸は、きららとのまぐわいによって力が春輝に渡り、さらに強い力となって春輝にプラスされ、さらに呪力により鋭い槍へと形状変化した物である。
「ちぃ!厄介な!」
「多重影分身!プラス!仙法・尾獣螺旋手裏剣・九尾!(九喇嘛やるよ!!)」ボボボボボボボボボ!
【何があったかは知らねぇが調子良さそうじゃねぇか!良いぜ!ぶちかませ!!】
影分身9体に増えた春輝は、圧縮されたチャクラ、尾獣玉を螺旋手裏剣に合わせて作り、いつでも発射できる体制を整える。
それを見た裂果は吹き飛ばされた正宗と鐘鬼を掴むと、空の空間に裂け目を作り、その中へと避難する。
「!?まずいあんなの食らったら……!!」
「「「「「「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」
ドギューーーーーーンッ!!!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
空で起きた空爆のような爆発に驚き、アサギ達は固まっていたが晃達人柱力は驚きながらも、春輝と九喇嘛の相性の良さに笑みを浮かべるのであった……。
◆◆◆
空間の裂け目から居城へと戻った裂果達。
彼らは、酷く疲弊していた。
「ぐっ!?くは!はぁ、はぁ……!水城、春輝……とんだ化け物じゃないか。」
「御館様、如何致しますか?」
「あの春輝とかいう奴、かなり強いですぜ?」
「くふ。くふふふっ。くふふふっ!かはははははははっ!!欲しい!ますます欲しいぜ水城 春輝!あんなにスゲェ力を見たのは初めてだ!あれは制御すればデカい力になる。いつか必ず手に入れてやる!」
「おやおや。」
「これはまた、大した熱の入り様で。」
「だが今は力を蓄えるんだ。水城春輝とあの春輝に似た男、それにあの五車の粒共を相手にするのなら力がいる。最悪、葉取に声を掛ける。」
春輝に負けながらも、春輝を諦めそうにない裂果はカラカラと笑いながら空を見上げるのであった……。
◆◆◆
翌日、春輝はアサギ達五車の教師達に呼ばれて理事長室へと来ていた。
金色の姿とその力の詳細について聞かれた春輝は、アサギと五車の教師達にだけ九喇嘛の存在を明かし、さらに対魔粒子以外にも、チャクラというエネルギーが流れているということも明かす。
時松から何処で修行をしているのかを尋ねられた際には、柱間に鍛えられているという事を伝え、その中で五車が大切だという事に偽りは無いという事を宣言した。
「春輝、あなたがどれだけ五車を思ってくれているのかよく分かったわ。でも、貴方に似たあの青年は誰なのかしら?」
「えっと。彼は冬輝って言って俺の大切な友人です。たまにしか出てこないんです。」
「そうなの。機会があればまた会いたいわね。」
「だがのぉ春輝。お前の力は中忍のレベルを超えとる。下手に振るえば負傷者を出しかねない力じゃ。分かっとるのか?」
「尾獣モードも尾獣仙人モードも、そうそう使える力ではありません。この2つをコントロールしながら任務に当たっていきます。」
祖父である逸徹にそう言うと春輝は理事長室を出て授業へ行き、その姿を見ていた宗一郎は、ソファーに座ると茶を啜った。
「今回は荒れましたね。」
「獅子堂は敵の結界に阻まれて遅れたのだ。歯がゆかったであろうに。」
「他の十二宗家に助けられましたよ。……あと、乙女崎からです。相州蛇子とニ車骸佐は無事意識を取り戻した。ただ、土橋権左は間に合わなかったと。」
「そう。相州蛇子さんは五車に残ってもらうわ。ニ車骸佐、彼には聞きたいことが山のようにあるのだから。」
◆◆◆
戦いは五車の勝利で終わった。
しかしふうまはまだ、残っている。
春輝達はふうまに、ノマドに、陰に立ち向かって行かなくてはならない。
負けるな、五車よ!
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