対魔忍"中忍"試験。
銀虹のシュトロハイム討伐から数日後、6月のある日、春輝達はいつものように五車学園に来たのだが、その日は学園全体がピリピリしていた。
それは廊下の壁に貼られていた一枚の紙が理由であり、そこには大きく"対魔忍中忍試験、開催!"と記されていたのである。
そう、まもなく五車学園の対魔忍の生徒たちには試練の1つである"昇級"の試験が迫っていたのである。
五車学園の生徒はこの昇級試験をクリアする事で、さらに上の任務に就ける様になり、隊長として隊を率いる事も出来る様になるのだ。
中忍とは五車設立後に作られた対魔忍の新しい階級である。各一族が独立していた時は上忍、下忍の二階級しかなく、一族単体ではその二つでも特に問題は起きなかった。しかし五車設立後、任務である問題が発生する。
下忍だけで編成された部隊だと出身一族と家柄や一族同士の大昔から因縁を理由に隊長に任命された者の命令を無視及び独断専行が多発し、それによって任務失敗、任務を担当した下忍の死亡、行方不明が独立時代より急上昇し大問題となった。事態を重く見た井河 アサギは八津 九郎を始めとした五車幹部とセクション・スリー部長の山本 信繁と協議した結果、創設されたのが中忍である。
創設当初は伝統を重んじる保守派から猛反対されたが現場の現実を知る者たちから支持され新たな階級中忍が導入されたことよって今まであった一族の位や家柄を盾にした命令無視独断専行は徐々に減り、任務における下忍の死亡、行方不明率が減少し一応は改善に成功した(流石に大昔から続く一族同士の因縁とかは解決までに至っていない)。
また副産物であるが上忍への昇進する際の資料として活用されており、上忍の質向上にも大きく貢献している。そのため上忍を目指す者にとって中忍試験は避けて通れぬ重要な試験なのである。
しかし今までの任務よりも難易度が上がり、危険も伴う為、参加は個人の自由とされている。
「中忍試験かぁ。」
貼り紙を見ながらそう呟いた春輝、すると、隣で同じように貼り紙を見ていた藤孝が首を傾ける。
「なんだよ春輝、浮かない顔して?」
「え?あぁ、ちょっとな。しかし、今回は大々的にやるみたいだな。」
「その様だな、さらに合格者の中で最優秀の者には政府から表彰もあるようだぞ。」
「ふ~ん。色々やるのね。」
凜子の言葉にきららは興味無さそうに言う。そんな中、ゆきかぜは目をキラキラさせて春輝の方を向く。
「お兄ちゃん!中忍試験、頑張って!」
「春輝さんや姉さんなら、絶対昇級出来ますよ!」
「そうだな、春輝。頑張ろう。」
「そうだな。」
ゆきかぜ、達郎、凜子の言葉に春輝が頷く中、それに水を差す者がいた。
「はっ!馬鹿が。そんな奴が受かる訳ねぇよ。」
「「「「「「!?」」」」」」
声のした方を見ると、そこには春輝達を睨んでいる男子生徒がおり、その生徒を見た生徒達は驚いた。
「あ!あいつ!?」
「獅子堂、翔馬。」
獅子堂翔馬、獅子堂家の分家の家の忍であり、アサギ達に将来を期待されている若き対魔忍。
初等部の頃から春輝と面識があり、クラス合同の体術訓練等で春輝を負かしている。
しかし、その頃からか彼は春輝を嫌うような態度を取っている。
「春輝、お前まさか受ける気か?お前みたいな半端者が?」
「半端者?俺が?」
「あぁ、そうだよ!お前みたいな奴、上の位に行かずに下で燻ってれば良いんだよ!
どうせアサギ様達に勝ったのもマグレだろうしな!」
「おい獅子堂、今のは違うぞ。春輝はアサギ達に本気で勝ったんだ。そんな言い方するな。」
「そうだぜ。こいつは修行バカだが、悪い奴じゃねぇよ。」
凜子と藤孝の反論に、翔馬は鼻で笑う。
「はっ!お前らも馬鹿なのか?こんな奴庇うなんて、相当暇なんだな?」
「お前なぁ、少し「ちょっとあんた!」って、おい!?」
ゆきかぜが翔馬の前に立ち、彼を睨み上げる。
「んだよ餓鬼。」
「あんたねぇ、お兄ちゃんを舐めんじゃないわよ!お兄ちゃんはね、あんたみたいな奴になんか負けないんだから!!」
「ったく、餓鬼はこれだから。兄貴が好きなのは結構だが現実見ろよ。」
「何よ!あんたみたいなお兄ちゃんの昔しか知らない奴が偉そうに言うんじゃないわよ!!
大体ね、お兄ちゃんはあんたよりも強いわ!獅子堂なんかよりもね!!!」
ゆきかぜがそう言った瞬間、翔馬は彼女の首を掴んで握り締めた。
「がっ!?」
「ゆきかぜ!?おい獅子堂、何をしている!?」
「ピィーピィーうるさいんだよ……!!お前みたいなくそ餓鬼、ここで殺せるんだぞ!?」
「がっ!?かはっ!!」
「おい獅子堂!お前なに考えてんだ?!」
「止めなさいよ!!」
「うるさい!!この餓鬼はウチを、獅子堂を虚仮にしやがった・・・ここで!」
全員で止めようとした瞬間、春輝が翔馬に一瞬で近づき、翔馬が力をさらに込めようとした瞬間、春輝がその手首を掴んだ。
「あ?何のつもりだよ?」
「ゆきかぜを離せ。じゃないとこの手をへし折る。」
「あ?やれるものならやって・・・!?」ミシミシッ!!!
翔馬が言い終わるよりも早く、春輝は呼吸と外しを使い、その腕を締め上げていく。
鍛えられた翔馬であったが、腕から伝わった痛みに顔を歪ませて手を離すと、ゆきかぜがその場に落ち激しくむせ混んだ。
「げほっ!!げほげほっ!!」
「ゆきかぜ!!?」
「大丈夫!?」
「見せろ・・・うん、大丈夫だ。首の骨にも影響はない。春輝、妹は大丈夫だ!」
凜子達が駆け寄り様子を見る中、春輝は安堵するがすぐに翔馬を睨み付けさらに掴んでいる腕に力を込め、翔馬も腕を振り払おうにも振り払えずにいた。
「っ!?(なんだこの力!?明らかに俺より・・・いやそんな筈は!?)」
「お前、俺が半端者とか言ったよな。確かに少し前ならそうだったかも知れない。
けどな、今は違う。俺は家族や友達を守る為に戦う!
・・・そして、それを傷つけんなら、獅子堂だろうが何だろうが許さない!!!」
「っ!?」
春輝から溢れ出た殺気と覇気、それらを間近で感じた翔馬は汗が吹き出て後ろに数歩下がり、それに気づいた翔馬は驚いて目を見開いた。春輝の背後には巨大な狐を見た。
「(な、なんだ!?こいつは!?)」
互いに睨み会う膠着状態、周囲の生徒達が息を飲むその時だった。
「なんの騒ぎだこれは?」
「ちょっとごめんね。」
騒ぎを聞き付けてやって来たアサギと紫、そして他の教師達も来て、それを見た翔馬は春輝の手を振り払い、後ろに下がる。
「獅子堂、水城、お前ら何をしてた?」
「獅子堂の奴が喧嘩吹っ掛けて来たんですよ。それでちょっと。」
「はぁ・・・翔馬、ちょっと来なさい。紫はゆきかぜを診て。みんなは生徒を教室に。」
「分かりました。お前達、ちょっとついて来い。話を聞きたい。」
紫がゆきかぜに近付く際に翔馬を睨み付ける春輝を見て、その肩を叩く。
「水城、お前も来い。」
「・・・分かりました。」
そんな春輝の様子を中から見ていたもう一人の春輝は笑みを浮かべていた。
『(へへっ、中々良い怒りだったな。それに一瞬だがチャクラも強くなった・・・。お陰で僕も動けるようになったし、このまま行けば、春輝はもっと強くなる!)』
もう一人の春輝は笑いながら眠るのであった・・・。
その頃、アサギに呼ばれた翔馬が理事長室にてアサギと向かい合っていた。
「翔馬、なんであんなことをしたの?あなたらしくないわ。」
「・・・別に、何でもありません。ただ少しムカついて。」
「あなたねぇ、当主の宗一郎はムカついたからって手を出したりしないわ。
それに、何にムカついたの?」
アサギがそう訪ねると、翔馬は腕を抑えながらアサギを見る。
「水城春輝・・・あいつですよ。あんな奴がいるのがムカつくんだ。
奴は、ゴッコ遊びで対魔忍をしている。それがムカつくんだ。俺らみたいな信念も、覚悟もない癖に。
ヘラヘラしてるアイツがムカつくんだ!」
「春輝は優秀よ。今の対魔忍の中ではまだ中核だけど、必ず成長するわ。
何より仲間や友達、家族を大切にしている・・・。」
「アサギ様!?何であんな奴を庇うんですか!?あなたの後継者は!!」
「落ち着きなさい。」
今にも飛びかかりそうな翔馬を宥めるように話し掛けるアサギに、翔馬は肩で息をしながら彼女を見る。
「翔馬、私はなにも特別扱いはしてないわ。みんな平等よ。誰も差別したりしてないわ。」
「アサギ、様。」
「さぁ、あなたも昇給試験に出るんだから。あなたも用意しなさい。」
「は、はい!」
翔馬は一礼すると理事長室を出ていくが、アサギは机にしまっていた春輝のデータが記されていた書類に目を通す。
「・・・やはり、彼しかいない。私と同じ、強い対魔の力を宿す彼しか。」
アサギは春輝の書類を見ながら、顔を手で隠すもその顔は・・・笑っていた。
その頃、春輝達は保健室のベッドで眠っているゆきかぜの側にいた。
「ありがとう、みんな。心配かけちゃって。」
「気にするな、あれは獅子堂が悪い。」
「本当よね!あいつ、女に手をあげるなんて最低よ!」
「落ち着けよ、まぁ気持ちはわかるけどよ。」
「ゆきかぜ、大丈夫?」
「新条先生はしばらく休んでなさいって言ってたから、次の授業は休んだ方がいい。」
春輝達がそう言うとゆきかぜは微笑んだ。
「うん、みんな。ありがとう。あと、お兄ちゃん・・・。」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとう。」
「妹を守るのは、兄としては当たり前だ。んじゃ俺らは授業があるから。」
春輝達はそう言うと教室に戻っていき、ゆきかぜは休むことにしたのであった・・・。
その後、授業を終えた試験が近いため部活をやらずに生徒達は家へと帰っていき、試験に向けて勉強をするのであったが勉強を終えた春輝は夜遅くにランニングに行き、今日の事を忘れようとしていた。
「はぁ、はぁ!」
【大丈夫か春輝、あまりアップしすぎるなよ。】
「(あぁ、そうだな。少し休むか。)」
春輝はベンチに腰掛けて座ると、星空を見ながら凝り固まった首を廻す。
しかし、すぐに昼間の出来事を思い浮かべてしまった。
「(翔馬、いや、獅子堂・・・あいつは俺が倒す。あんな事をされて黙ってられるか!)試験は来週だ、必ず強くなる!
待ってろよ!!獅子堂!!絶対ぎゃふんと言わせてやる!!」
「へぇ、俺らをぎゃふんっと、ねぇ。」
叫び声に帰ってきた声に春輝が闇の中を覗き構えると、そこから大柄で頭ターバンを巻き、大きく長い"ストロー"を持った男が現れた。
「イーヒッヒッヒッ!俺らをぎゃふんとねぇ。こいつぁ、面白い奴が居たもんだ!
だが、俺の気配に気づけないようじゃあまだまだだな。」
「(誰だこの人、いつの間に!?)あなた、誰?」
「俺か?俺の名前を聞くんならお前が先に言いな。礼儀ってもんだぜ?」
「・・・春輝です。水城春輝。」
「お?お前が水城 春輝?へぇお前みたいな奴が超新星ねぇ・・・。
確かに少しは面白そうだが・・・まだまだ餓鬼だな。」
「あの、名乗ったんですからあなたも答えて下さい。」
春輝がそう訪ねると、男は頭をかく。
「ん~?あぁ、こいつぁ失敬。俺は"獅子堂 緑郎"。対魔忍救出部隊所属で、獅子堂家の人間だ。宜しくな。」