九郎と春輝の戦闘ですが、春輝は戦いの中で決意します。
春輝とアサギの仕合から3日後、その昼過ぎ、いつもと変わらず穏やかな日々を送っていた春輝は不知火に頼まれて買い出しに出ており、近所にある店へと買い物をした帰り道を進んでいた。
しかし、その後を付いて回る男……八津 九郎は逆に春輝の様子を観察していた。
「(隊長に勝ったっていうからどんな奴かと思ったが、普通の子供じゃねぇか。
それにしても隊長も“殺すつもりで”って……いったい何を思ったんだか。)」
九郎はそんな事を考えながら春輝の後を追っていると、曲がり角を曲がった瞬間、春輝は姿を消しており九郎は慌てて辺りを見回す。しかし、何処にも春輝の姿はなかった。
「馬鹿なっ!?さっきまで歩いてたんだぞ?突然消えるなんてことが「おじさん。」っ!?」
九郎は声をかけられて振り返ると、そこには春輝が立っていたが手には買物袋がなかった。
「おじさん、何か用?さっきから後付けてましたよね?」
春輝は視線を感じたときには既に辺りを警戒していたので、曲がり角を曲がった瞬間に飛翔して九郎の背後に立ち、分身に荷物を持たせて帰らせたのだ。
「……お前、いつから俺に?」
「えっと。なんか見られてるって気がしたので、それで。あの、何か?」
「(人の気配を察するのは得意だが、他は普通の子供と変わらねぇ。後足りてないのは……。)坊主、今から時間あるか?少し俺に付き合ってくれ。」
「え?なんd……」
春輝が質問しようした瞬間、九郎は春輝を気絶させて眠らせると彼を担いでその場を移動していき、学園の近くに点在する山の1つへと移動すると、春輝をそこに寝かせ、心臓の辺りを軽く押した。
すると春輝は激しく咳き込みつつも目を覚まして、ゆっくりと起き上がる。
「あ、あれ?ここ、は……手合わせした時のあの森?」
「ここは忍獣が放たれている森でな、今は近付かないようにしてある主に鍛練や修行に使われている。あとお前にはこれから、俺と戦闘をしてもらう。」
「だからなんで戦……!!?」
咄嗟に降り下ろされた忍者刀、それを避けると忍者刀を構える九郎に春輝は構えをとると、九郎は笑みを溢す。
「ほう、どうのこうの言う割りには構えるんだな?
まぁ良い、どの程度の力か……見せてもらうぞ。」
そう言うと九郎は即座に春輝に接近し、忍者刀を奮いながら絞めや間接技を狙おうとするが春輝はそれを避けながら離れていき、その中で廻し蹴りや突きを放つが防がれてしまう。
体術の経験値が足りてない春輝にとって、九郎は遥かに格上であったが、それでも体術で食らいつこうと、廻し蹴りや連打を放つ。
九郎はそれを避けていくと、春輝の脇腹に膝蹴りを放ち、春輝は受け身をとって何とか九郎の攻撃を耐えていた。
その中で九郎はアサギから貰った資料を思い返していた。
「(水城 春輝、不知火さんと違う風遁の忍術が得意で多種多様な忍術を使う……だが、体術の方は下の中くらいだな。しかし、子供ってことを差し引いても、手は痺れるほどの威力か。
殺すつもりでって言ってたが、確かに殺す気で行かねぇと怪我するのはこっちだな。)」
九郎はかつて共に“組手をした少年”。それ全くとは違うタイプである春輝に警戒心を持って、接近していく。
その中で春輝は混乱しながら山の中を駆けていた……。
◆◆◆
春輝side
俺は山の中を走りながら何とかあの男の人から逃げようとしていた。しかし出口が見当たらない。
というか、何でここに連れてこられたんだ俺は!?
「追いかけっこでもするか?追いかけっこは苦手だが、嫌いじゃないぜ?」
「っ!?このっ!鎌鼬!」
風を刃のようにして、男の人に向かって放っていく。
しかし、その刃は全て身体をずらしただけで避けられてしまい、男の人は悠々とこちらに向かって歩いてくる。
「くっ!?」
「風遁か、ますます変わってるが……どうした?隊長が認めたって割りには大したことないな。ほら、掛かってこいよ。」
「その前に何であんたと戦わなきゃならないんだ!?」
「お前に恨みはねぇが、こっちも仕事なんだ……恨むなよ。
まぁお前が何を目指してんのかを知るためでもあるんだがなぁ!」
そう言うとおじさんは忍者刀を振って襲いかかってくるが、それを避けつつ距離を開けて忍術を発動する。
「影分身!」ボボボボボボボボボボ……!
「ほう?50人の分身か、隊長でもこれだけの人数はまだ出せないんだが……中々変わった奴だな。」
「行くぞ!!」『うおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉっ!!!』
おじさんは構えをとると、俺を混ぜた分身達を倒していき、拳打、蹴り、ナイフで倒していき、まるで後ろに目でもあるかのように避けると、次々と攻撃を避けていく。
しかし相手の方が早かった為に、腕を掴まれてしまった。
「悪いが、恨むなよ!」ボギッ!!
「んぎゃあぁぁぁぁぁっ!!?このっ!!」
左腕を掴まれ、肘と膝で挟まれてそのまま折られたが、咄嗟に足で蹴ると離れることができ、一旦距離を取っておじさんを観察することにした。
影分身達が一斉におじさんに立ち向かっていく中、おじさんは慣れた感じで分身達を倒していき、50体いた分身は徐々に倒されていき、俺はそれを見てただ立っている事しかできなかったが、同時に身のこなしからこの人も忍の類いの人だと言うのが分かった。
「坊主、お前才能はあるが“忍”としてはなってないな。」
「どういう、意味だ!?」
「お前には忍になろうって“動機”がまるで感じられない。
お前さん、何のためにその力を使うんだ?」
「なんの、為?」
「あぁ、動機と言うのは言うなれば“覚悟”だ。
“金”がほしい……。
“モテたい”……。
“認められたい”……。
そういったモノが動機で忍をやってるモノもいるが、お前さんからは何も感じられない。
お前さん……“何の為”にその力を使うんだ?」
「っ!そ、それは……。」
言われて即答できなかった。何の為に、この力を使うのか、そんな事は考えてもいなかった。
この人は能力は恐らくはたけ カカシと同じくらいの実力なんだろう、そして、血の滲むような鍛練をして得た力なんだろう、それに住む時代、環境などは違えど何かのために戦ってるんだろう……。
そう考えると、俺には何もないと言うのが良く分かる。
俺には何もない。ナルトみたいに目指したモノも憧れた人はいても、なにかを護るって思いとかも……。ただナルトに憧れただけだった。
「(ははっ……俺ってば空っぽだな。こんな俺に何が……)」
そんな中、俺の中にリーさんにガイさんが言っていたセリフが思い浮かんだ。
“自分を信じない奴なんかに 努力する価値はない!!!”
「(自分を信じない奴か。今の俺は確かにそれだな……。けど、俺は……。)」
そんな時、俺の中に浮かんだのは俺を叱ってくれる父や母、それに妹の、ゆきかぜの姿が浮かび、友達になってくれた真達の姿だった。
「(俺の守りたいもの……出来てるじゃないか。俺は1人じゃない……俺は1人じゃない!!!)」
俺は木陰から立ち上がると、分身を倒しきったおじさんの方へと全身を向ける。左腕の方はかなり痛むが取り合えず木で固定しながら治癒をしていく。
「ほう、出てきたか……。」
「おじさん、おじさんは大切な家族とかいるの?」
「?あぁいるぞ、それがどうした?」
「俺にも家族や友達がいる……だから、そう言う人を護るために……あんたに勝つ!!!」
「……言うじゃねぇか、小僧。良いぜ、来いよ。」
「雷遁、オーバードライブ!!雷遁、雷光大蛇!!」
おじさんが独特な構えを取るのを見た瞬間に雷遁で高速移動しながら連激を放っていくが、おじさんはそれを全て捌いていく。しかし、この人と打ち合うことである程度の事が理解できてきた。
・両目は見えてないが、並外れた感覚がセンサーになっており、それで攻撃を塞いでいる。
・戦闘技術が恐ろしく高く、近中距離では無類の強さを持つ。
今のところはこの2つしか分からないが、なら、トラップを仕掛ける……。
俺は距離をとると、分身を1体出すと螺旋丸を作り、突貫させた。
「風遁、烈風掌!!行っけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「くっ!!?……ぐっあぁぁぁぁぁぁあっ!!!」
おじさんが忍者刀で分身を貫いたが、その瞬間に分身が雷に変化していき、強力な電撃がおじさんの身体を襲う。さらに“雷遁影分身”は体を感電させて麻痺して動きが鈍くなる。
感電し、動きが鈍くなったおじさんに向かって用意していた雷球を放っていくと、おじさんは空へと跳んだ……やっぱりフリか。
「甘かったな!分身に電撃を合わせたのは良かったが、詰めが……はっ!?」
おじさんが螺旋丸を投げた方を見ると、そこには分身が丸太に変わり身をしており、上を見るとそこには影分身と共に“あの術”を放つ。
「食らえ!!螺旋丸!!!」
「がっ!?おおおおおおおっ!!!?」
おじさんは螺旋丸を受けて、そのまま落下してしまった。
影分身を予め2体用意しておき、一体を雷遁影分身に、もう一体を待機させてタイミングを見てから、変わり身をして場所を入れ替えたのだが、なんとか上手くいってよかった。
ボンッと分身が消えて俺本体は慣れないことを連発した為に疲れが来てしまい、その場に寝転ぶ。すると、九喇嘛が話しかけてきた。
【どうだ、春輝?何か気持ちは変わったか?】
「(うん、何とかね。これからは自分を信じて動いていくよ。限度を考えてね。
九喇嘛も力、貸してくれる?)」
【ふんっ。気が向いたからな。】
俺は取り合えず疲れたので、寝ることにした……。
◆◆◆
「がはっ!い……痛てぇ。くそっ、分身と本体を見分けれないほどに精巧な分身作るとはな。
こいつはぁ、かなり癖のある奴だったが……“家族や仲間を護る”、か。
動機としては甘いかもしれんが及第点だな。」
気絶から目を覚ました九郎は眠っている春輝に歩み寄ると、その寝顔を見て優しげに微笑むと彼を抱えて水城家に運び、傷だらけな春輝を見た不知火に説明をするのに苦労したのであった……。
その後、九郎はアサギに報告をしに五車へと向かった。
「ご苦労様。それで九郎、彼についてどう思ったかしら?」
「癖が強いし甘い所がありますが……一皮剥ければ変わりますね。
良くて俺らクラスになるかも知れねぇが、ま、今後に期待だな。」
「それは……楽しみね。」
九郎の報告を聞いたアサギは楽しげに笑うのであった……。