京都観光を楽しんだ春輝達。彼らは一旦ホテルに帰ることになったのだが、その際に春輝は舞妓が気になることを話しているのを耳にした。
「聞きはった?この近くで殺しやて。」
「嫌やわぁ、早う帰らないかんなぁ。」
「(殺し?この辺りでそんな事が起きてるのか?物騒だな。)」
【暢気な事を言ってる場合か。お前らにも降り掛かりかねない事なんだぞ。少しはシャキッとしろ!女にうつつを抜かしてる場合か!】
「(女にうつつって……俺そんな事してないっての。)」
九喇嘛の言葉に小首を傾げる春輝に九喇嘛は説教するように体を起こして指差す。
【いや、春輝。お前は最近温くなってやがる。テメェは人柱力としての覚悟が足りてねぇ!そして、その温さがお前を殺すことになるぞ?】
「(俺の温さ……?)」
春輝がそう言うと九喇嘛は彼に対してハッキリと指摘し始めた。
【良いか春輝、テメェは区別が出来てねぇ!自分を好きだと言う女とデレデレして、挙げ句の果てには他の人柱力と仲良くなってやがる!“プライド”を持て!!“甘さや温さ”に浸るな!そんな事だといつかテメェは大怪我することになるぞ!】】
「(九喇嘛……。)」
【わしが言いたいのはそれだけだ。だがなぁ、覚えとけ?甘さや温さに浸ってたら、テメェは自分を護れなくなる。自分を護れるのは自分だけだ。】
九喇嘛はそう言うと眠りについてしまい、春輝は九喇嘛の言葉をただ黙って聞くことしか出来ず、春輝はその場に立ち尽くしてしまったのであった。
「(俺が温くなってる?優しさと甘さは違うって言われたけど、九喇嘛は何であんなに怒って……俺に何か原因があるのか?)」
そんな事を考えていると、ゆきかぜ達とはぐれてしまった春輝は辺りを見渡したが、周囲には4人の姿は無かった。
「しまった。ボケッとし過ぎた。急いで「もし、そこの少年。」?」
春輝が駆け出そうとした時、背後から声を掛けられて振り返るとそこには2人の男女がいた。
「キミ、迷子かね?」
「え?あ、はい。実は友達とはぐれちゃって。これから帰る所……」
「そうか、そうか。それなら都合が良いな……“対魔忍”。」
対魔忍……男が自分を指してそう言った瞬間に感じた魔力に春輝は動きを止めると、後ろの男女を見る。しかし今度は警戒心を最大にして睨むように二人を見る。
「お前ら、何者だ?」
「我らの話を聞いてくれるのかい?それならば話が早い。しかし、ここでは話せぬ故……タクシーに乗ろうではないか。」
「安心して下さい。代金はこちら持ちなので。」
「(ここで、戦うわけにはいかない。)……分かった。」
春輝は目の前の2人……スレッドとアイリスから目を離さないようにしながら、3人でタクシーに乗る。そして、しばらくタクシーを走らせて降りた先には森が拡がっていた。
「さぁ、着いてきたまえ。」
「……。」
スレッドとアイリスに挟まれて、やむ無く着いて行くことにした春輝は森の奥深くまで進む開けた場所に着いた。
「ここで良いだろう。では改めて自己紹介を。吾輩はスレッド・ホークス!
ノマドの所属であり、貴族階級である!」
「初めまして、アイリスです。」
「……それで?魔族が何の用だ?というか、何でこの京都にいるんだ?」
「いやなに、ブラック様が楽しむついでに嬲れ、と言われてな。そしてこの京都にはそちらの中にいる“協力者”から情報を得たのさ。内容までビッシリとね。」
春輝は驚いた。対魔忍、もしくは政府に情報を流している者がいると言う事に驚き構えるが、スレッドは「まぁ待て。」と、春輝を手で制した。
「だがしかし、吾輩はキミに興味があるのだよ。バルトと相打ち、シュトロハイムを追い詰めたその力……吾輩は“友”となりたいのだよ。」
「はぁ!!!?あんた、なに言ってんの!?本気!?」
「はい、スレッドは本気ですよ。何せあなたの話を聞いて興味を持ったくらいですから。まぁ、私もあなたには多少興味ありますよ?」
「どうだね!吾輩と共にブラック様の下で……」
スレッドが差し伸ばした手、それを春輝は弾いた。
「……。」
「どういうつもりで言ってるのか知らないけど、俺は忍……対魔忍だ!魔族とは仲間にはなれない!」
「……そうか。そうか、そうか。確かにその通りだ。いや実に残念だ、吾輩はキミと友になりたかったのだが……交渉決裂となっては、殺るしかあるまい。」
「っ!!」
スレッドは何処からアンチィーク風の弓矢を出すと弓に魔力を流し始める。すると、古びた弓は洋弓の形状になり、両端には刃が付いた弓になる。
アイリスも空間から剣らしき物を引っ張り出して構える。
「言っておくが吾輩達は強い。ナメて掛かると……死ぬぞ。」
「ちぃっ!」
春輝はファイティングポーズを取ると、スレッドはそれを見て笑みを浮かべて空に魔力の矢を放つ。
「
スレッドは上空に数本の矢を射ち、落ちてくるタイミングで矢は数十本に分裂し、矢の雨を降り注いだ。
春輝はそれを避けつつ、スレッドに向かって突っ込んでいく。
「はぁ!!」
「ふんっ!甘い!甘い甘い甘い甘い!甘い!弓使いが近接を嫌うとでも!?吾輩に不可能は無い!!
「っ!?あわっ!?」
スレッドは両端の刃の斬撃を飛ばし、さらに速攻で矢を数十本射つ。春輝はそれをギリギリで避けれたが2本程食らってしまい、膝をついてしまう。
さらに春輝は周囲の温度が下がっていることに気付き、周囲を見渡すと辺りの木々は凍結していた。
「こ、これは!?」
「“凍露の舞”……イングリットが炎を使うのなら私は“冷気”を使います。」
「ちぃ!」
「さぁ踊りたまえ!!」
「ふっ!!」
スレッドが弓矢を、アイリスが剣を鞭のように振って春輝に襲い掛かる中、春輝は矢の攻撃を受けた足を庇いながらも応戦する。
「(火遁は駄目だ!周りを燃やしちまう!なら!)雷遁!雷円光刃!!」
「おっと!」
「ふっ。」
春輝が雷遁で作った薄いサークルのような刃を2人に飛ばす。しかし、2人はそれを容易く避けると春輝に追撃を仕掛ける。弓矢と刃の息の合った技に翻弄される春輝は避ける中で、体のキレがいつもより悪いと思っていた。
「(なんだこれ……!?いつもより、体のキレが悪い……!!何でいつも通りに出来ない!?)」
「考え事は良くないよ!!」
「っ!晶遁、結晶壁!」
春輝は矢を放ってきたスレッドに振り返り、晶遁で壁を作り矢を防ぐがスレッドはその壁を見て、別の矢を放つ。
「“
ドリル状の特殊な矢、それを限界まで弦を引いて射貫くその技とその矢の破壊力と貫通力は桁違いであり、春輝の晶遁を削りながらヒビを入れていき、破壊すると春輝に向かって飛んでいった。
「っ!!」
けたたましい爆音と木々の破壊音が森の中へと響いたのであった……。
その頃、五車学園は戻ってこない春輝の捜索をしていた。ゆきかぜらとはぐれた春輝、しかし、夕食なっても戻ってこない事から心配したアサギと時松、零子が探しに出たが行方が分からないでいたのだ。
「見つかった?!」
「駄目だ、この辺りにはいないらしい。」
「水城の奴、何処に行った?はぐれるなんて水城らしくもない。」
「人にも聞き込みをしてみましょう!」
アサギの言葉に2人は頷くと、辺りを探すことにした。その頃、ゆきかぜも兄のスマホに連絡しているが、何故か繋がらないのだ。
「お兄ちゃん……何処にいるの……!?」
スレッドは驚き、感心したように春輝の方を見ていた。春輝に対して放った“貫き通す螺旋”の矢は僅かに軌道をずらし、春輝の右脇腹を貫通していたのだ。例え晶遁で防がれたとしても、己の技に自信のあるスレッドはその僅かな奇跡を目の当たりにしていた。
「す、すばらしい……!結晶で軌道をずらされたとはいえ、それだけの怪我で済むとは……!キミは“運”にも味方されているようだ!あぁ、この奇跡を歌に「戦闘中です止めて下さい。」くっ!」
「はぁ……!はぁ……!くっ……!?(痛ぇ……!ギリギリで何とか防げたが、あんなのまた食らったら防ぎようがねぇ!一旦ここから離れないと……!)」
脇腹から血が滴る中、春輝は2人から距離を開けようと走り出す。しかし、痛みによって足もふらつく足に春輝はその場に倒れてしまう。
「はぁ……!はぁ……!痛ぇ……!(くそ、どうする?こんな時、いつもなら何とかしようと出来るのに。何で体が動かねぇ……!)」
春輝は近くの木の影まで移動すると、春輝は息を殺して傷付いた脇腹にチャクラを集中して治していく。すると、九喇嘛が話し掛けてきた。
【無事で何よりだぜ、春輝。】
「(九喇嘛……悪いけど今戦闘中なんだ。話なら後で)」
【春輝、わしが昼間に言ったことを覚えてるか?あれは簡単に言えば、お前がだらしない奴になってるから言わせてもらったんだ。】
「(……甘さや温さに浸るなって話か?)」
【あぁ、そうだ。お前は自身と関係持った女や仲間と過ごす中で訓練にも身が入ってねぇ。何よりお前に有った“強くなる”という気概が感じられねぇんだ。
春輝……お前、何のために強くなろうと思ったんだ?女といちゃつくためか?】