春輝は九喇嘛の言葉に、自身が何を思って対魔忍を目指していたのか改めて考えていた。確かに最近は浮わついた気持ちがあったりもしたが、その中で自分が“協力”ではなく“甘え”ていたことを思い返した。
「(九喇嘛に言われて改めて考えたけど……確かに甘えてたな。そりゃあ彼女とかが出来て気は緩んでたな。そりゃあ九喇嘛にも言われるわな。)」
【分かったみてぇだな……テメェは気が緩みがちなんだよ。そんなんだといずれ自分の命や仲間まで失う。それを忘れるな!】
「(分かった……なら、もう2度と気を緩めたりしないよ。家族も仲間も大事なものは全部護る。)っつ……!」
その時だった。春輝は突然目に鈍い“痛み”を感じて両目を押さえるが、血などは出ていなかった。しかし、体には感じたことのない感覚が満ちており、その事に若干戸惑っていた。
【どうした?】
「(いや、何か目が痛かったんだが……今は治まってる。それより九喇嘛に頼みたいことがあるんだ。九喇嘛にしか頼めないんだ。)」
【あ……?何をすりゃあ良い?】
その頃、スレッドとアイリスは中々出てこない春輝に疑問を持ちながら、攻撃せずに待っていた。スレッドは殺られたと思ったからであり、アイリスも同様に死んだと若干思ったからである。
「くたばったかね?」
「あの程度で死ぬような者には見えませんがね。それより、早く片付けてしまいましょう。私が凍らせるので、トドメをお願いします。」
「仕方ない、もう少し楽しみたかったが……ん?」
スレッドが魔弓“ローゼン”を、アイリスが蛇腹剣“シーサーペント”を構えた時、春輝がゆっくりと木の陰からなにかが飛んできて、2人はそれを避けると木に刺さり見てみると、氷の手裏剣であった。
すると、木の陰から春輝が出てきて、その腹に穴を開けながらも立ち上がる姿と未だに闘志の折れていない目を見てスレッドは驚きながらも、心から歓喜した。
「……。」
「おぉ、生きていたか。しかし氷の刃とは、面白いものを投げてくるではないか!さらに狙いも良かった。我々でなければ頭を射たれて死んでいたな!!まだまだ闘志は曇っていないようだ!」
「興奮してないで構えてください……ああいう手合いの人間は危険です。あの目……“負けない”。という強い意思を持った人間はとにかく厄介です。何より、日本の諺にありますよね。“窮鼠猫を噛む”というのが。」
「あぁ、確かにあるな。確かに彼の目はまさにそれだ!ならばこちらも全力で当たるとしようではないか!!」
スレッドがローゼンを構えて矢を放つと、春輝は撃ち抜かれた腹の痛みをチャクラで抑えながら構え、そしてそのまま2人へと突っ込むかのように突進してきたのだ。普通に考えれば後ろへ退くか、破れかぶれで突貫しようとする。
しかし春輝は退く訳でも破れかぶれで突貫しようとした訳でもなく、敵だけを見ており、その敵と戦うために春輝は“覚悟”を決めて駆けており、そんな彼にスレッドは興味が湧き、全力をぶつけようと弓を引き絞る。
そして、アイリスはというと春輝という人間をただ倒すため、そして何より春輝の目を見たときに感じたのだ。“ただの忍”から“消すべき相手”となり、春輝を倒すために全力の冷気を出し、シーサーペントをバラバラにする。
「
「氷龍の舞!」
「「合技!烈氷螺旋!!」」
2人の技が合わさり、放たれた破壊力抜群の回転する矢と分裂した氷の龍の群れが春輝へと突っ込んでいく。その冷気で周囲は凍り、矢が周囲の木々を削り進み春輝へと迫る中、春輝は印を結び大技を出すことにした。
「火遁、
春輝の口から放たれた巨大な炎は伝説の生き物、鳳凰のような形となり、氷龍と矢へと向かっていき、そしてその3つがぶつかるとすさまじい爆音が響き渡り、森に大きなクレーターが出来る程であった。
その中でスレッドとアイリス、そして春輝は互いに吹き飛びながらも体勢を立て直して互いに睨み合う。しかし、スレッドとアイリスは爆発による衝撃で体のあちこちを怪我しており、春輝も塞がり掛けていた穴が開き始めて血が出ていた。
「素晴らしい……!実に素晴らしいよ!対魔忍、キミのような人間がいるとはねぇ!だが悲しいかな。吾輩達は分かり会えない……なればこそ、この場でキミを始末するしかなぐぇ!?」
スレッドがローゼンを構えて矢を放とうとした瞬間、アイリスは上空から気配を感じて空を見上げるとスレッドの襟首を掴んで後ろに跳ぶ。すると、空から大量の砂が降り注ぎ、砂が止むとそこには、獅子堂 時松と獅子崎 万太郎が立っており、そして芳陰 真が砂に乗って2人を見据えていた。
「大丈夫か、春輝?」
「真、それに先生達も。来てくれてありがとうございます。」
「水城、勝手にいなくなったこと。帰ったらアサギに事情を説明し、学園に戻り次第反省文だ。覚悟しておくんだぞ。」
「はい……すみません。」
春輝が反省して謝罪するが、時松はすぐに優しげに笑みを浮かべて頭を優しく撫でる。
「だが、よくぞ無事だった。」
「あとは私らに任せて、お前は芳陰と下がっていなさい。」
時松と万太郎がスレッドとアイリスと対峙する中、春輝は真に連れられて後ろへと下がった。春輝は九喇嘛に頼んで、真に連絡を取るようにしてもらったのだが九喇嘛はそれを最初は拒否していた。
けれども春輝は九喇嘛に頼み込んで、渋々でありながらも九喇嘛は守鶴を通して真に連絡し、真も万太郎と時松に説明し、この場所に来たのである。
【おいおい、馬鹿狐。お前自分の人柱力くらい護れよな?】
【はっ!喧しい、こいつが頼むからテメェに頼んだだけだ。】
「(真、守鶴、ありがとう。)」
「(無事だったのなら礼は別の機会にしろ。だが、無事で良かった。)」
春輝が真と守鶴に礼を言う中、スレッド、アイリスと対峙していた万太郎と時松はポキポキと骨を鳴らしていた。
「うちの生徒相手によくも怪我させてくれたな。ただじゃあすまんぞ貴様ら?」
「スレッド・ホークスとその従者のアイリスか。幸いと言えば幸い、これが別の幹部だったら危険だったかもな。何せノマドは化け物の巣窟だからな……ハアァァァァァァッ!」
すさまじい闘気を全身から溢れさせて2人を威圧する両名にスレッドは小さく息を吐くと、ローゼンを仕舞い込み、アイリスに告げた。
「アイリス……もつ煮が食べたいな。」
「はぁ?」
「貴様、ふざけているのか?」
「ふざけてなどいないさ。吾輩は今、無性にもつ煮が食いたいのさ。しかし、バルトの言っていた通りだ。対魔忍の中には一部の連中以外に幹部と渡り合える“猛者”がいる。眉唾物と思ったが……どうやら間違いではないらしい。」
「「……。」」
「だが。今回は帰らせてもらおう、アイリスの手作りもつ煮を食べたいからね。」
「ではこれにて、失礼します。」
スレッドとアイリスが撤退すると、時松と万太郎は闘気を霧散させる。すると、後ろからドサッという音が聞こえて振り向くと春輝が倒れ込んでいた。
「春輝!?春輝!!」
「気絶している!しかし出血も酷い!近くの病院にいくぞ!」
春輝を抱えて時松は病院に向かい、真は春輝を心配しながらも万太郎と一緒に帰ることになり、万太郎がアサギに事情を説明し、春輝はしばらく動けなくなった上に駆けつけたゆきかぜに思いきり泣かれてしまい、泣き止ますのに神経を使った。
しかし驚異的な回復力のお陰か傷は回復し、アサギ達と合流出来たが魔族の幹部に襲われたという事も有り、春輝はアサギと動くことになり、アサギに深く謝罪した……。
とりあえず、春輝が無事で良かった!!