神社を手入れしたら4匹の狐が現れたので招き入れた件 作:八雲ネム
第1話 異界
「 ここが今回の現場だ」
「築30年の戸建住宅で、取り壊しの話が上がった物の費用算出する担当者が失踪した事で調査依頼が回ってきました」
「ここまで身近にあるとは思っていませんでしたよ。本当に」
探偵事務所に移籍後、1週間は異界についての情報や潜入時の行動、発見時の連絡の仕方などに関する教育を受けてから先輩達に玉藻と共に連れられて実際の現場へと向かった。
その現場は、閑静な住宅街にある一戸建ての建物で普通の人が見れば変哲のない普通の外見をしている為、何も知らなければ俺だって依頼を受けた現場だとはわからなかった。
ただまぁ、現場に到着してから玉藻が反応していて尻尾をピンと伸ばしながら辺りを警戒していたので、何かしらを感じ取ったのだろう。俺も件の建物に意識を集中させるとぼんやりと違和感を感じる。
「それで、今回は内部調査をして何かしらの物的証拠があれば処理する事でよかったでしたっけ?」
「その通りだよ、岩波くん。処理方法はこちらに任せる、という事でその分の費用も上乗せしてもらってるからチャチャっと終わらせよう」
そんな事を感じながら、仕事の先輩兼上司にあたる井上さんに今回の仕事内容を確認してみると肯定の反応が返ってきたので腹に力を入れて気合いを入れた。
何しろ、俺にとっては初仕事にして初めて人外の領域に足を入れる事になるので建物の中がどうなっているのか、素人の俺からすれば予想し辛いのだから。
(ゾンビ映画みたく血まみれか? それとも魑魅魍魎な存在がうじゃうじゃいるのか? それすら分からないとなれば慎重にもなるわな)
そんな事を考えつつ、先に行く井上さん達の後に続いて建物の中に入ると意外にも何ら変哲のない内装だったので拍子抜けしたのだが、入る前から感じ取っていた違和感が強くなった感じがした。
「………スポット、と言うべきでしょうか。人間社会にはない力を2階から感じ取れます」
「流石は玉藻さん。よくお分かりで」
「こう見えて神霊の一部なんです。そんじょそこらのコスプレイヤーと一緒にしないでください」
「ははっ、そうですね。じゃあ」
「調査を開始します」
玉藻と井上さんが短く会話をした後、もう1人の先輩である前田さんの言葉で異界の穴を閉じる調査が始まった。
さて、今の世界における異界とはなんぞや?と言うのを改めて確認すると幽霊や妖怪といった人外の存在が跋扈する世界であり、人間の世界からすれば想像できないような光景が広がっているかと言えばそうでもない。
海底へ潜っていけば光を失って海は暗くなり、水圧が増す様に異界も俺達がいる世界に近ければこちら側の原型を人界の名残として、しっかりと保っているのだが異界に潜れば潜るほど、人界の名残は共に原型を失って人間も自我を失って異界の住人に喰われるそうだ。
これらは、あくまで異界を探索した人達によって判明した話なので実際に見た訳ではないのだが、そういう物なんだなという事で片付けて彼らの指示に従って行動した。
何しろ、今の俺は消えかけていた玉藻を拾っただけの一般人で異界に関する事柄に関しては素人な上に、死ぬつもりもないので経験者の指示に素直に従った方が生き残れる可能性は高くなる為、慎重に建物内を探索すると異界の住人 異界でも人界にいた頃の姿を保っている存在を漂流者と呼ぶらしい とエンカウントした。
「………ありゃあ、ひでぇや」
「あんなのは序の口ですよ。酷い物になると人の形から逸脱してますから」
「ここはミコーン!と奥に入れてあげましょう」
その漂流者は、総合的に見て女性だと判断したが力士以上の肥満体には不釣り合いな筋肉質な右腕と女性の様な華奢な左腕なのだが、両足は虫の脚のように関節が多い上、顔は目や開きっぱなしの口には眼球や歯などの本来あるべき物がなく、真っ黒な空洞になっていて鼻の穴も呼吸の度に開閉する様になっていた。
これだけでも、顔を
昔、興味本位でグロ系の映画なりを見ていたおかげでそういう物に対しての耐性は多少、身に付けていたのだが実際に見ると臨場感も相まって吐き気が込み上げてきたのだが吐くまでもないので何とか堪えたが、漂流者は俺の想定以上の事をしてきた。
それは、何もない空間になっていた右の
余りの劇物を直視してしまった結果、グロ耐性を貫通して吐き気が一気に込み上げて来たので我慢できずに吐くと前田さんが背中をさすってくれた。
(あれで序の口ってやべーな、異界。仕事以外では近づかない方が良さげだな)
一通り、吐ける物は吐いて胃袋を空っぽにしながらそう思っているとこれ以上、好き勝手させると危ないとの井上さんの話で玉藻が術を使って漂流者を人界に影響が出ないレベルの下層に引き摺り下ろした。
現在、俺達がいるのは異界の中でも人界に近い表層なので人界にアクセスしやすい為、自制心がない漂流者なんかが表層にいると勝手に人界に行こうとするので今回みたいな案件が出るとすぐに実働部隊が派遣されるとの事だ。
そして、住宅の中で異界と繋がっている物を探していくと2階の一室にそれはあった。
「………これが?」
「えぇ。これが今回、人界に異界を呼び寄せた張本人さ」
「酷い事をしますね。動物虐待をする輩は
それは、動物虐待によって命を落とした猫の死体で酷く傷付けられた状態で横たわっていた。
ボウガンの的になったらしく、背中には2本の矢が刺さっている上に尻尾と2本の足が千切れていた挙句、死んだ後でカラスなどに食われたらしく、所々の肉が抉られていた。
「痛ぶられた結果、この世に強い未練を残したんだろうな。普通、動植物は弱肉強食の世界で生きているからか、死んだら現世に未練を残さずにすぐに異界の深い所まで潜っていく。だから大抵、表層に居るのは未練を残した人間ばっかりさ」
「つまり、強い未練を残しているこの猫は余程、酷い事をされたって事ですか?」
「そうなるな。だから精々、深い所に送るしか、供養の方法がないんです」
井上さんが、そう言いながら指で空中に模様を書いてから印を結ぶと猫の死体は開いた黒い穴に飲み込まれていった。
「これで作業は終わりました。お疲れ様です」
「あぁ、はい。お疲れ様でした」
前田さんの言葉に、緊張が解けて疲れが一気に来たので碌に質問できずに帰路についた。
「壮絶だったぁ」
「ふふ、今までの価値観が一変したでしょう?」
「あぁ。あんなのを直に見せられたらガラッと変わっちまったぜ」
「ああいう仕事に就いている人が居るからこそ、人界は平和を保てているんです。感謝しないといけないんですよ?」
「そうだな」
帰宅後、玉藻にそう聞かれたので素直に答えると彼女は話を続けた。
異界というのは、異形の存在を中心とした死者の世界なので人界の兵器群では死体である漂流者を止める術がないので日々、それらを監視する人達が異界に対応した武器を使った異界者として暗躍している。俺が所属する事務所もその一端なのは言うまでもない。
そして今回、一緒に仕事をしてくれた井上さんと前田さんは異界者としてそこそこの実力がある様なので、新人の俺を同行しても良い許可が降りたとの事だった。
その為、俺も一端の異能者として頑張らないとなぁと思いながら玉藻と一緒に夕食を食べた。