『恐れるなサイバトロン戦士たち! このマトリクスニーで得た偉大なる精液で、この巨大なバケモノを産婦人科にぶちこんでみせる!! さあ私に続け!! 君たちも休まずコき続けるんだ!』
かつてサイバトロンは、トランスフォーマーという種を紛れもない勝利へと導いた。種の存続のための闘争、それは誰の目から見ても生物として正当な行為だった。少なくとも、陣営を分けて千万年にも及んだ戦争を繰り返していた事実よりも。
『こ──この余が、望まぬ赤ちゃんを妊娠してしまうとは──有り得ん、有り得んのに……!』
悠久の時を戦争に費やし、そして地球人と出会い、彼らに倣い「生産性」を学んだサイバトロン戦士たち。
『ふう……あのデカブツ、逃げたに違いない。やったぜウルトラマグナス! オナ禁の甲斐があったってもんだな!』
『ハハハ! あの動力炉、いかにも子宮ってカンジだったからオイラ何回もアレにぶっかけちゃった』
『私は奴の体内で射精してる時、奴のあまりの巨大さに自分が精子になったような気持ちだったがね』
……しかし歴史を顧みはしなかった。決して傲岸不遜ではなかったが、後ろめたさ、言い訳、そういった人情を排してきたからこそ、彼らの正義、否、性技は独りよがりと化した。
だが──或る一体のトランスフォーマーを除いては、である。
*
「コンボイ司令官が地球を流産してから……ああ、一体どれほどの時間が経過したというのだ!?」
「サッパリわかりません、シティコマンダー……じゃなかった、新司令官。そんな事より、ユニクロンに攫われてボディを改造されたデストロン残党について考えるべきでは」
「ああ、オレもそう思うぜマイスター。いっちょ、デストロンなら無条件でレイプしても良いっていう法律でも作ったほうが早いぜ」
「まったくアイアンハイドの性欲にはウンザリだな。オナ禁だって半日続けばいいほうだった癖に」
アイアコンに鎮座するサイバトロン基地では、司令官の座を継いだウルトラマグナスを核としたサイバトロン戦士らが顔を突き合わしていた。むろん、その容貌は幸福といったものからはかけ離れている。
取り留めのない無駄話を厭がり、ユニクロンから種族を守った司令官、ウルトラマグナスは右手でキンタマを丁寧に転がしながら鶴の一声を放った。
「オウォッ……いいかサイバトロンたち。我々はユニクロンを退け、デストロンをも壊滅手前にまで追い込んだ。そんな折、何者かによってセイバートロン星周辺の宙域にタイム・ロックがかけられたのは記憶に新しいだろう。デストロンが一枚嚙んでいると皆考えているだろうが、彼らにそこまでの科学力やリソースがあったかどうか怪しいと思わないか? 奴らに望まぬ子を孕ませ、屈辱を味わわせたい気持ちはわかる。だが、私たちは決して本質的な勝利をしたワケじゃな……ンアオッ!! ああっコンボイッッ!!! イグッ!!!」
教訓に呪われた男の、演説めいた雄弁は絶頂によって遮られた。しかし、ここサイバトロン基地で別状ない、それこそ咳払いや舌を噛むなどといったものと相違ないほどに常態化していたのだ。
サイバトロン戦士たちの性欲は、もはや何者かに駆り立てられているのと変わらないほどに、脅迫的に繰り返していた。異常心理として指摘するような社会性が無いのも拍車をかけ、各々が各々の性依存を否定する意識も、やはり一切なかったのである。
「随分カタブツになったじゃないの。オイラ、昔のマグナスのほうが程よく解放的で好きだったな。ま、でも流石に太陽を破壊したら発生するブラックホールをオナホにする作戦はどうかと思ったけどね」
バンブルも可愛らしく毒突くが、その落とされた視線の先にはミニボットには似つかわしくない巨チンが映っていた。当然のように、カウパーが滴り、ぶっちゃけ誰とでもセックスしたそうな顔すらしていた。
「今のバンブルなら、ガス型惑星に入っていって金属水素の波でヌくほど有り余ってそうだな。ハッハッハッ」
マイスターのよく分からない乾いたジョークに、仲間のランボルは苦言を呈すように精液まみれの口を開いた。
「それはさておき……マグナス司令の言う通り、タイム・ロックをかけられていた事がオレも気がかりではあるんだ。ジュル……太陽系が、とある時点で極端にこの星から遠のいたってニュースを聞いて、ニュッポ……前立腺オナニーを中止したつもりがかえってビックリ射精しちまったくらいには驚いたぜ!」
「おい……フェラしながら喋らないでくれよ兄弟ッ……」
「んあ、ああ、すまんサンストリーカー」
二人の親密さに苛つき、ウルトラマグナスは賢者タイム特有の厳粛な物言いで牽制する。
「こんな話をしているくらいなら、総員、アークに乗り込んで地球へと発とうじゃないか! あの惑星に情報がきっとあるはずだ!」
「はいっ!」
何も映していないモニターへ目を向け、ウルトラマグナスは戦士たちから背を向けながらひとつ疑念が浮かんでいた。……色情に苛まれながら。
──コンボイ司令官、何故私にマトリクスを託されたのだ?
「? マグナス司令、後ろを向いてどうされたのです? 変形して、発着場に行かないのですか?」
「いや……すべき仕事がある。先に向っていてくれ、マイスター副官」
「イエッサー。それじゃ皆、トランスフォームだ! 久々に車モードで激しい床オナをしようじゃないの!」
「やった! オイラこの高速ズリチン大好きだもんね!」
「オレは皮が逆巻いて痛むから正直好かんが、せっかくだからシてみるか」
ウルトラマグナスはリーダーの重圧に耐え切れず、疑問を呈したのではない。彼の胸中、マトリクスよりも深みに至る「心」で、ウルトラマグナスが憮然としているのは、コンボイという偉大なリーダーの思想を少しずつ知り始めていたからである。
「ううっ……マトリクスが疼く……コンボイ司令の精液の味を知ったあの日から……止まらない……ッ!! あっまたイく!」
思惑を悟りつつあると同時に、その百倍くらいの執拗く性欲にも負けていたようである……。
*
「いやぁ、こうして地球へ向かうのも久しぶりですね」
「だが妙だな。地球人たちが我々を近づけない為に拵えたアンチエレクトロンフィールドがないぞ」
トランスフォーマーたちは、かねてから種族間対立と向き合わず、戦争という手段に逃げ、責任を端から放棄した繁殖行為を習得し、資源を貪り、自由を謳いながら何かを破壊してきた。
彼らは繁殖欲を滾らせたまま地球へ向かい、誰にも歓迎されない種族は──今また、歴史を繰り返そうとしている、のかもしれない。
アークのコクピットから、前方の窓ごしに地球の姿が臨まれる。摂氏マイナス二百七十三度の、黒い大空洞に浮かぶ青い第三惑星……がそこにあるはずだった。
「ふうむ、オプティックセンサーに異常がなければ、アレはまるで火星のような色だと思うんだがね」
一人だけポコチンの付いてないドラッグがこの事態に気付いた。地球人を最も忌避していた彼が、いち早くこれを察知したというのを皮肉に思う仲間はいなかった。
「ちょうど同じ感想を抱いたところだよドラッグ……私のレンズにも、地球があそこに浮かんでいるとは感じられない」
テレトラン1の航行能力や、探査能力に欠陥がないのを誰もが知っていた。だからこそ、全員がひとつの結論に至るまでに時間が必要なかった。
「ああ。我らが相当の年月、タイム・ロックをかけられていたのかもな。クソッ、それだけ時間があったなら、何回デストロンを輪姦し、凌辱できただろうか……っ!」
ウルトラマグナスは腹裡に堆積していた憔悴から、そう怒鳴りながらつい計器部を鋼鉄の拳で叩き割ってしまった。然も待っていたかのようにテレトラン1は警報を鳴らし始める。
「警告! 警告! 本艦ノ操縦機能、修復不能! 不時着! 不時着!」
艦体が平衡感覚を失い、重力を安定させる装置らしきものをも破壊してしまったのか、図体のでかいトランスフォーマーたちは情けなく無重力のコクピットでさながらピンボールみたく事故を起こしていた。
「ウワーーッ!! マグナス司令なにしてんのさ! ワアアアッ!」
「ぐおっ! い、き、キンタマが片方潰れちまったァァッ!」
「す、すまない……だが感情を性欲ばかりに昇華させていては……」
自身が口走ったセリフに驚きながら、マグナスはそこから先の言葉を紡がず座席にしがみついた。以下、サイバトロン戦士たちも同様に、何かに、あるいはナニかにしがみつき、精液とついでに愛液を撒き散らし、コクピットをラブホテルの使用済みティッシュとコンドームまみれのゴミ箱そのままのニオイに染めた。
そんな混乱の中でも──新司令官は旧司令官の意思めいたものを、マトリクス越しにキャッチしていた。……もちろん、それは第六感だとか、そういった感動的なエネルギーではなく、マトリクスニーによって精液まみれになった穢れし善のエネルギーを彼が摂取したからである。
「ああ地球の引力に捕まった! あの時と同じだぁ!」
「総員! 衝撃に備えろおおおおっ!」
「畜生おおっ!」
神を責めるように乗組員たちは慟哭し、興奮の坩堝と化しながら、ひび割れた地球の地表へと墜落するのであった。
つづく