※この作品はR-18です。

(オレの神経をすり減らす)最強で最高の仲間たち!   作:和音(わお)クロカ

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【 まえがき 】

■最強たちに愛されまくって神経をすり減らす苦労人?主人公が、んもーっ!(羞恥と怒り混じり)となるだけのお話です。
なんであっても、結局最後にはみんなを甘やかしてしまうから苦労するのだよ。
ちなみに、当初はR15で投稿しようと思って書いていましたが、どうにも変態が変態にしかならないので、R18投稿に切り替えました。新たなるR18の枠の中でも、変態は止まることなく変態のままです。ヤンデレが止まらない。
ですので、ep.1だけはR15投稿での格闘のあとが仄かに残っていたりします。

▼参考文献▼
名前案(家名案):
かっこいい『カタカナの花の名前』一覧【100種類】 - 英語表記・日本語名付き | KOTONOHA ウェブ
https://kotonohaweb.net/katakana-flower/
→カナトとカナミの家名はこちらを参考にしています

2022.03.01


ep.1 クランとパーティー

 うぅ……と小さく呻きながらなんとか背中を上にして――四つん這いの形で起き上がると、白に近い金色の髪が肩を滑り落ちた。だがそれは一瞬の出来事で、すぐさまぺしゃりとベッドに崩れ落ちてしまう。ふぐぁっ、いま鼻打ったぁ!

 

「カナトの奴ぅ、許さないからなぁっ」

 

 毎度毎度足腰立たなくなるまで抱き潰すとはどういうことだ。オレが回復魔法持ちだからよかったものの、そうでなかったなら体力を回復するのに何日かかるか考えてほしい。いやまあ、パーティーメンバーに回復魔法持ちがいたらすぐに回復するから、やりたい放題し放題なのは仕方がない面もあるかもしれないけれどもぉ。オレたちのパーティーは、オレを含めても四人は回復魔法持ちだからな。いやでも、限度はあるよな、やっぱり。際限ないのはきついでしょ。実際問題、抱き潰される方は堪らないわけでしてね……。

 

 着せられた丈が合わないシャツをそのままに、自分自身に回復魔法をかけて一息つく。このあとは着替えてクランマスターのもとへと行かなければならない。なんといっても、呼び出し音で目覚めたのだから。

 

 たまにある他人は回復出来るが自分自身は回復出来ないとかだったら確実に詰んでたわ。女神様に感謝しよう。ありがとうございます。でもオレにももっと力をくれてもいいんですよ?

 

 初期パーティーメンバー四人全員が使えるメニューウィンドウ、生活魔法、回復魔法、空間魔法、アイテムボックス、状態異常無効、言語理解、鑑定眼だか魔眼だかと聞いている見通す力、魔力・気配探知、認識妨害・阻害という素晴らしき恩恵の数々を除き、オレの攻撃手段が生活魔法の連続射撃と自分自身に結界を張るだけだなんてクソザコじゃないですか。もしも敵に張れでもしたら、他のメンバーと同じように結界の中で魔法によるフルボッコが可能だというのになあ。まあ、フルボッコといってもオレの場合は言ったとおり、威力が低い生活魔法の連続射撃になるのだから、倒すにはそれなりの時間がかかりそうだが。

 

 お願いですから、そろそろ普通の攻撃魔法も創造魔法もオレにも使えるようにしてくださいよ。パーティーの下層にいる現実に堪えられません。オレは幼なじみの性欲処理係から脱け出したいんです。もっとパーティーに貢献したいんです。

 

 何百回とそう願っていても叶わないのだから、出来ることしか出来ないけれどもね。

 

 さて、今日もクランマスター室にいきますか。

 

 シャツにハーフパンツという動きやすい姿に着替えて、フードつきのローブマントを羽織り準備万端。

 

 家というよりかは部屋と呼ぶべきか――そこから出ると、その隣のドアの前に立ち息を整える。そう、オレたち――クラン内トップの位置にいるパーティー『精霊の聖騎士(ゲルニカ・パラディン)』はクランマスター室の隣に生活拠点を構えている。リビングダイニングが中央に点在する、シェアハウスと呼ぶに相応しい作りをしている。

 

 ナンバー2からナンバー5までは訓練場の壁向こうに生活拠点があった。これは文字どおりの壁向こうだ。壁にドアがあり、開けたら生活拠点なのだ。空間魔法で弄くり回して、最適な生活をおくれるようにした。オレ以外が。オレはパーティーの拠点を作るのに全力を出した形だ。オレも手伝うと言っていたのに、なぜかハブられたんだよなあ。他のパーティーの拠点はこっちでやるから、リューちゃんは俺たちの拠点場所を作ってよってさ。

 

 リーダーににこにこ笑顔で言われたら従わざるを得ないだろう? とても胡散臭いような笑みを向けられたら、なにかあると思うだろう? そのとおりだった。活動拠点を作り終えたら抱き潰されたよ! こちらは疲れているというのに、あちらは異常なくらいの反応を示していましたよ。体力兼性欲お化けは恐ろしかったですわ。

 

 んんと軽く咳払いをして緊張を緩めると、ドアをノックして『入ってください』という返事に則り、「失礼します」とマスター室に足を踏み入れる。凛とした空気の中には同じデザインのメイド服に身を包んだ女性が二人いる。ひとりは執務机に腰をかけており、ひとりはその斜め後ろに立っていた。このクラン『精霊の戯れ(ゲルニカ・ルーデル)』のクランマスターと副クランマスターである。十前後のパーティーの集まりであり、規模としては中規模だろうか。パーティー上位はもれなく帝国に名を馳せているようだ。いやあ、照れるよね。オレはほとんどなにもしていないから、気まずい気持ちもあるけれども。

 

「今回はどんな用件ですか?」

「ギルドからの呼び出しがありました。指名依頼をしたいようですね」

「指名依頼ですか……。カナトに聞いてみないと、なんとも解りませんね」

「カナト様なら別件で動いておいででしたね。地下工房で薬品作りをしているようです。そろそろお戻りになるはずですが」

 

 ああそうか、カナトがいないからオレに呼び出しがかかったのか。おかしいと思ったんだよね。なんでわざわざオレを呼び出すんだろうってさ。まあ、オレがカナトに伝える方が何事もスムーズにいくという、ちょっとコイツ統率者として大丈夫なんだろうかという面もあるからかもしれないが。

 

「なら、カナトを呼んだ方が早かったんじゃないんですか?」

「カナト様はお忙しいお方ですから」

 

 そうだね、カナトは忙しいね。公爵家の三男でもあるし、パーティーのリーダーでもあるのだから、オレみたいに暇ではないね。だからクランマスターにはならなかったんだし。「俺はリューちゃんとの時間がほしいから、クランマスターは別の人がやるように手配しようっと」と公爵家に仕えていたメイドから二人を連れてきたんだよね。なぜメイドなのかといえば、「リューちゃんに触れていい男は俺だけだから」という一方的な理由がちゃんとある。要は他の男が近くにいるのが我慢ならないらしいのだ。なら他のパーティーが一緒なのは大丈夫なのかと聞いたが、そこはきちんと手を打っているから問題ないよと返ってきた。策が早い。怖いくらいに早い。

 

 言わなくても解るだろうが、カナトはパーティーの中でも飛び抜けて頭がおかしいからね。顔もいいし背も高いし頭がおかしいくらいに強いし! チートでガンガン攻める姿がまた腹が立つほどに神々しく美しさの塊であるのだから羨ましい限りだが、無い物ねだりである。かわいそうなくらいに敵には容赦も情けもないものだから、そこだけは敵に同情してしまうが。冷酷すぎるよ、あれは。他の二人も――カナミにチユもカナトと同じくチート攻めなんだよなあ……。かわいらしい見た目をしているのに反して、物理という名の鉄拳制裁がとてもいい仕事をしていると思うんだ。なにせ、魔法と拳で語っているんだからね。戦いにおいては三人が三人とも、脳みそまで筋肉の一員だよ、絶対に。

 

 その負け知らずのお蔭でいまや『特級冒険者パーティー』なるものになっているのだから、飛躍がすごいのなんの。冒険者の活動は昔からしていたのだが、いまの人数――六人パーティーを結成し直したのは三年ほど前になるからな。ああ、もちろん、飛躍といってもオレ以外の飛躍ですよ? なんといっても、他の三人――カナトとカナミとチユにはドラゴン殺しや魔族嬲(なぶ)りなんていう異名もあるし。物騒なことこの上ないが、どれも本当のことだ。いや、ドラゴンは殺してないか。ワンパンで沈めただけだからな。こうして振り返っても、やっぱり物騒は物騒だな。

 

「リューちゃん待って! どうして部屋にいないの!?」

 

 仲間でよかったと心の底から思えば、背後から凄まじい音がした。何事かと振り返ると、クランマスター室のドアを大破させて入ってきたであろう銀髪長身イケメンエルフ――カナトがオレを瞬時に抱きしめて、頬を擦り寄せながらさめざめ泣いた。リューちゃぁん、心配したんだよぉ俺はぁと。えぇ……、なんで泣くんだよ。泣く要素はどこにもないんだけれども。というより痛いから。骨が折れるから。

 

 抱きしめられる痛みとともに、うなじの位置でひとつに纏めて肩から流されている銀髪が踊るのを眺めるのと同時に、魔力探知で居場所を突き止められたのだと理解する。どこにいたとしてもすぐにバレるのだから、オレに安らげる場所などない。ひとりの時間代表たる風呂はだいたい一緒に入っているし、トイレにいてもドアの前で待たれるんだからな。本当の意味で安らげるのは、眠っている時だけだろう。

 

「ちょっとは落ち着けっての。オレはちゃんとカナトの前にいるだろ? あとお疲れ様とお帰りは言っておくわ、一応」

「ただいまリューちゃんっ! 聞いただろうけど、工房でひとり寂しく薬品を作っていた俺を癒してよー」

 

 はいはい解った解ったと背中をぽんぽん叩くと、「はぁぁー、もうすぐさま癒されるー」とさらにぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。なんでなんだ。まだなにもしていないじゃないか。いや、それはいい。強く抱きしめてくるのはぐえぇとなるからやめてくれないか。胸も潰れて痛いんだよ。胸も含めて本当に痛いからね。

 

 身動きがとりにくい中でも、なんとか背中をバシバシ叩きながら「痛いから少し力を抜け」と絞り出すと、言うとおりにしてくれたので、こちらも譲歩してやることにする。身長差も体格差もあるからか、目一杯の背伸びをしないと頭を撫でられないが、そうやって「頑張った頑張った」と頭を撫でてやると笑みを浮かべた。カナトの髪は触り心地がよすぎて困る。しかしですね、オレに極上の笑みを浮かべてもなにも出ませんが?

 

「あれ? 頬に傷があるな」

「訓練中にちょっと剣先掠めちゃった。リューちゃんに治してほしいなー」

 

 危ないから真剣を使っての訓練はやめなさいと言っているのになあ。いくら緊張感を保つためであったとしても、いくら回復出来るといっても、痛いものは痛いの一点に尽きる。それでも毎日毎日訓練の手を抜いていないのだから、オレ以外のパーティーメンバーはすごいとしか言いようがない。なにかの修行をしているのかな? と思うほどの気迫があるわけだし。パーティーの中で唯一ぬるま湯に浸かっているだけのオレであっても、こうやって頼られると弱いので、ああはいはいと容易く手を翳すが、がっしりと手首を取られてしまう。

 

 な、なんだ……? なんかカナトの鼻息が荒く見えるんだが、気のせいか?

 

「カナト……?」

「違うよリューちゃん。ちゃんと舐めて治してくれないと! ペロペロして早く!」

「なに言ってるんだ?」

 

 コイツの思考回路は働いていないのか? 舐める必要がどこにあると言うんだ、どこに。一切ないだろうがとは思うが、それを口に出すことはない。この鬼気迫る表情が怖すぎるので、秒でおとなしく受け入れることにしたのだから。でないと、このままここで喰われかねない空気をしている。カナトについては解らないが、オレは人前で抱かれる趣味はないので、最善の選択であろう。

 

「じゃあ、ちょっと屈んで」

「はいどうぞ」

 

 機嫌よろしく目線を合わせるごとく屈んだカナトの頬を手で挟んで傷痕にそっと舌先を這わせると、すぐさま癒されていく。舌で舐めても治るのか。すごいなあと感心していると、「リューちゃんかわいい! かわいすぎて我慢出来ない」と唇を奪われた。すぐさま始まる情熱的すぎるキスに咳払いが届くが、カナトに聞く気はないらしい。

 

 足に力が入らなくなったところでようやく解放されたオレはカナトの膝の上に抱え下ろされた。横抱きだよ。なんでだよ。ソファーに座らせろよ。そうは思っても、乱れた息を整えるのに精一杯で、なにも言えやしないが。頬を撫でてくるカナトの手を払い落とす力もないからね。

 

「――それで、リューちゃんを呼び出した理由はなに?」

「ギルドからの呼び出しがありまして」

「断っていいよそんなもの」

 

 はあ!? おいおい、なにを言っているのですかね? ギルドをそんなもの扱い出来るのかコイツは。……いや、そんなもの扱いに出来るほどの力はあったな……。あるのは解るんだけどもさあ、オレには多大な権力持ちの考えが解らないわ。さっぱりだよ。

 

「カナト、断るのは――んひゃんっ!?」

 

 いくら権力持ちであっても、断るのは外聞が悪くなるだろうと言うより先に耳に触れられたかと思えば、かぷりと柔く歯を立てられた。ぴくんと躯が跳ねると、背後からリューちゃんかわいいと小さく笑う気配がする。

 

「や、やぁ、カナト、やだぁっ」

「俺はねえ、リューちゃんとの時間が削られるのがなによりも嫌なの。解るよね?」

「は、ぁ、ん……! やぁ、耳ぃ、嫌ぁ!」

 

 歯を立て、舌を這わせ、先の尖りを軽く吸う。――特にオレのエルフ耳は開発済みなので、性的に触れられるとぐずぐずになる。開発してきた本人に――カナトに触れられるともうダメだ。何度も何度も抵抗して、何度も何度も思考が溶かされてきた結果、いまではもうふにゃふにゃにしかならない。

 

「か、にゃとぉ、み、みっ、らめぇっ」

「うんうん、そうだよね。リューちゃんも俺といたいんだよね?」

「ん……っ、オレぇ、いっしょ、いたいぃ」

 

 カナトの言葉に涙声で必死に答えると、よく言えましたと耳の先に口づけられる。と、甘い痺れが全身に走り、躯が跳ねた。「んぅぅっ!」という甘い声とともに。どうしよう、軽く昇天してしまった。いくら耳を開発されていても、耳を弄ばれて人前でイくなんてそんなの恥ずかしすぎる。呆然としていれば、カナトの手が耳の形をなぞるように触れてくる。

 

「んゃぁ……っ!」

「本当、リューちゃんはかわいいねえ」

 

 びくびくと躯が跳ねると同時に熱くなる頬にも唇が落とされ、湧き上がる羞恥にカナトの胸元を握りしめる。顔が熱い。

 

「へ、変なことするなよぉ」

「変なことと言われても、俺は耳を触っているだけだよ?」

 

 言われればそのとおりなんだが、オレは耳も弱いのだ。そんなことはカナトが一番よく知っているだろうに、ベッドの中でも人前でも、意地の悪いことばかりをしてくる。現に嫌だと言っているいまだって、耳の先を三本の指で絶妙にさわさわしてきているし。腹黒野郎の手から逃れるように「やだぁ」と躯を捩ると、カナトは自分の顎に手を添えて「んー」と考える素振りをする。解放されてほっとしたが、コンマ数秒で再開されて泣いた。

 

「かにゃとぉっ、おみゃっ、おみゃえぇ……っ!」

「そうだねえ……。リューちゃんがキスしてくれたらやめてあげる。唇舐めてから塞いでね?」

 

 言葉使いは柔らかいのに、重圧をかけるがごとくにこりと笑うカナトにぐぅぅと奥歯を噛みしめるが、「わっ、解ったぁ」と快感に震える声で同意する。なんといっても、この快楽地獄から解放されるのならいちいち手段なんて選んでいられないからな。

 

 口元を緩ませたままのカナトの頬に手を添えながら何度か唇を舐めて、頑張って羞恥を押し殺しつつも唇を押し当ててやった。のだが、またもや情熱的すぎるキスを食らってしまう。必ず後頭部に手を添わされるので、自分からは離れられないのがつらいのです。

 

 カナトが満足するまで続いたが、終わればカナトの胸板に顔を押しつけていた。もはやう゛ーう゛ー唸るしか出来ない。嫌だもう恥ずかしすぎて死ねる。頭を撫でてくるな。背中をぽんぽん叩くな。ついでに髪を弄ぶな。全部の行動をいますぐにやめろ! 誰の所為で恥ずか死にかけていると思っているんだ。

 

「部屋にいなかった罰だよ」

「そうは言ったってなぁっ、呼び出されたんだから少しは考慮しろよ!」

「出来ませーん」

 

 にこにこ笑いながら言うなよ! なんて頭の固い奴なんだ。悔しさに左肩から流されたひとつに纏まるさらさら銀髪をくいくい引っ張ってやると、「痛っ」という声が届いた。ふへへ、ざまあみやがれと口端を上げると、両肩を勢いよくがっしりと掴まれてしまう。

 

「リューちゃんそんな子どもみたいなことをするとかわいすぎてかわいすぎていますぐに押し倒して貪りたくなるからやめようか」

「あ、はい」

 

 二度めの鬼気迫る表情は恐ろしい。前と違って今回は目が血走っているのだから。ひょえっ本当にすみませんと銀髪からぱっと手を離すと、カナトはふーと短く息を吐いてオレを胸板へと案内する。「我慢する身にもなってほしいなあ」という呟きが聞こえたが、お前それはオレが一番言いたいことだからな? 抱き潰される身にもなってほしいんだからな。いま言う必要がないと思うから言わないだけであって。

 

 何度かオレの頭や頬や肩を撫でて落ち着いたであろうところで、逸れに逸れてしまった本題へと入ることにする。

 

「カナト、ちゃんとギルドから話を聞けよ?」

「断るって言ったよー」

「そりゃあな、オレたちはこの地に派遣される形で来たわけだけどさあ、ギルドは横の繋がりが強いと言われているんだし、貸しを作るのも悪くはないだろ?」

 

 いまオレいいこと言ったなあ。胸板に顔を押しつけたままであっても、いいことを言ったぞ。

 

「エルフの国――ユグドラータ王国ならそうだけど、この国で貸しを作ってもねえ」

 

 意味がないんだよと言外に滲ませる声に反論しようとすると、唇を舐められる。なにをするんだと声を上げる前に、小さく笑ったカナトにまた頭を撫でられた。

 

「まあでも、今回は優しい優しいリューちゃんに従おうかなあ」

「えっ、マジでか!?」

「うんうん、本当本当。対価はいるけどね。――メイド服かスク水かどちらがいい?」

「……カナトさん、選択肢がその二つなのはなぜなんですかね?」

「俺が見たいからに決まっているでしょ。おっと、リューちゃんはどこに行こうとしているのかな?」

「いやいやっ? どこにも行かないませんよっ? あは、あはははっ。――ひびゃっ!」

 

 妙な選択肢しかないことにいいことがなにもないと判断して、少しずつ退避する姿をあっさりと看破され、がっちりと腰を掴まれて腕の中へと閉じ込められる。「逃がさないから」と笑う姿にオレは死んだ。ひぃいぃ……! いい笑顔すぎるよぉ。目が笑っていないのがなによりも怖いですぅ……。でもなでもな、メイドもスク水も見る方が好きなんだよ。着る方の心の準備なんて皆無なんだよ!

 

 もう少し軽いものにしてくれないかと交渉する時間を作りたくて一時退避をしたかったのに、呆気なく終わったのは笑うしかない。凡人なオレの考えなど、賢すぎるカナトにはお見通しということなのだろう。悔しいことだが。素直に負けを認めよう。これ以上怒らせてしまえば、死が重なるだけだ。他でもないオレの死が!

 

「あぅぇぇ……、ちゅみましぇぇん……」

「しょんぼりするのはかわいすぎて困るんだけれどもね、俺も心を鬼にするから。リューちゃんがそういう態度をとるようなら、両方にするからね。三日三晩は寝かせないから、覚悟するように」

「嫌だぁっ! 三日三晩は無理だから! オレを殺すなぁ!」

「大丈夫大丈夫、蘇生に回復も出来るから。リューちゃんには劣るけど」

 

 話の最中にもオレの頬を撫でてふにふにしながらへらへら笑う男は――悪魔である。悪魔にしか見えない。今回は交渉を失敗したオレの自業自得なのだが、それでもひとこと言わずにはいられなかった。

 

「断ると言ったら?」

 

 どうなるのでしょうか? と思いつつ窺うと――自然と顔を上向かせるか、上目遣いにならざるを得ないが――、カナトは「そうだねえ」と目を細める。愉快げに。頬をふにふにしたままで。

 

「三日三晩は横に置いておいても、リューちゃんの良心が痛むかなあ」

 

 俺はこの国がどうなろうとも平気だけどと、からから笑うカナト。本当に――心の底からそう思っているのだから質が悪い。

 

「そのとおりだよ! 三日三晩抱かれてやらあ!」

 

 いまだって良心が痛いんだから、放置すれば胃が死ぬだろう。オレの神経はカナトたちのように図太くないんだからな。事態を改善するには、要求を飲むしかないのだ。

 

「言質はとったからね、リューちゃん」

 

 悪魔はとても美しく綺麗な笑みを浮かべるが、逆にオレの神経はゴリゴリにすり減っていく。

 

 助けなど期待出来ないことは経験上理解していても、今回ばかりは助けてほしい。カナトの顔を見るにヤる気満々なのだから、気力が持つ気がしないんだよぉ。昨日も散々したというのに、連日なんて無理だからな!? カナミでもチユでもいいから助けてくれ。この際チュキでもキューハルさんでもいいから! マスターでも副マスターでもいいからお願いします!

 

 救援を求むという視線を二人のメイドに向けるが、可憐な笑みでもってかわされる。そうさ、現実というのはいつだってオレの味方をしないんだ。

 

「リューちゃんは誰を見ているの? 俺を見てよ、リューちゃん」

「っ……!」

 

 美声の囁きが聞こえるまま、大きな手のひらで目元を覆われる。少しして衣擦れの音がしたかと思えば、首筋辺りに感じるぬめりと痛みは舐められたあとに噛みつかれたからだろうか。

 

「んぅ……!」

「ごめんねリューちゃん。俺は心が狭いから許してね」

 

 そうだね、お前は本当に心が狭いよ。――生まれ変わってからは特にな! ここまで酷くなるとか聞いてませんからね!

 

 おそらくローブマントの前合わせの隙間から腕を伸ばしてオレを抱きしめ直すカナトからはんふーと機嫌よい音が聞こえる。目の前はまだ暗いままだから、はっきりとしたことは解らないが。リューちゃんリューちゃんかわいいかわいいとオレの頭辺りに頬を擦り寄せてようやく解放される。

 

 うっ、少々明るさがきついぜ。

 

 なにしやがるんだとぺちりとカナトの腕を叩くと、カナトはリューちゃんが俺を見ないからだよとほざいた。

 

「自業自得の部分が大きいけどさあ、連日に渡って酷使する気満々だったから、ちょっと助けを求めただけなんですが?」

「なに言ってるの。リューちゃんのことはちゃんと大事に大事にしてるけど?」

「大事にしてるならなぁっ、弱い耳を弄ばないからなぁっ」

 

 ふーふー熱い息を吐きながらそう叫ぶと、カナトは「うんうん、解った解った。部屋に行って押し倒してあげようね」と全然解っていないような、コイツ絶対反省してないだろうと解る声で転移陣を発動させる。淡い光がオレたちを包んでいく中でも、オレはカナトの胸板を叩き始めた。

 

「おいこら、人の話を聞けよ!」

「リューちゃんの話ならきちんと聞いてるよー。大丈夫大丈夫」

「どこかだ! お前絶対人の話を聞いてないよな!? ――ひぅんっ!」

 

 泣き声混じりのその声は、カナトの唇に溶かされていく。

 

 だから耳を弄ぶなと言っているだろ!? 舐めるなってばぁ! 唇だって塞がなくていいんだからなぁ!

 

 この銀髪イケメン変態くそエルフがあ……!

 

 そんな恨めしい声はもちろん、カナトによって溶かされていくわけで。部屋に転移する前の最後の言葉は「あっこらっ、胸を揉み始めるなぁっ」である。

 

 情けないにもほどがあるだろう。

 

 なんで人の話を聞いてくれないの?

 

 

 ◆◆◆

 

 

 魔法陣の光に飲まれた二人が消えると、メイドたちからは安堵の息が漏れる。張りつめていた空気がようやく緩和したのだ、いまは誰に怒られるはずもないので緊張していた躯も軽く解(ほぐ)し始めていく。

 

 背筋をまっすぐに伸ばしたまま肩を回すメイド――副クランマスターという大役を与えられたウーラは、人のいなくなったソファーを見つめて口を開いた。

 

「やはりカナト様があれだけ蕩けた顔をするのは、マリュー様だけでございますね」

「見ている限り、本人は大変そうですがね。しかし私(わたくし)たちでは相手にさえしてくれませんから、致し方ないでしょう」

 

 メイド兼クランマスターでもあるファルスタは眉間を揉んでいる。元々この二人は公爵家に仕えるくらいに力はあったのだが、カナトとカナミ、チユによって強化されてさらなる武人となっていた。いまやパーティーにいてもおかしくないほどの強さを持っている。もちろんこの二人だけではなく、公爵家に仕える者たちは役職に関係なく、カナトたち三人によって強化されていた。目的はもちろん、自分たちがいないときにマリューを守れるようにである。長く公爵家に仕える身であっても、これだけ深く深く愛されている者を他には知らない。

 

 そして愛されている理由を二人は身を持って知っている。まずちまりとした背丈に破顔したくなるし、コロコロ変わる表情は見ていて飽きがない。困ったような顔、泣きそうな顔、泣き顔、しょぼんと落ち込む姿にはこれでもかと庇護欲を掻き立てられていくのだが、おそらくカナトも同じであろう。花が咲くような笑顔は愛らしすぎてもうなにも言えなくなるし、作られる美味しい料理や菓子も、パーティーの者たちや他の者たちが容易く釣られるに価するものだった。自分たちも例外ではなく――。

 

 料理や菓子は教わった料理長が同じものを作っているのだが、なぜか味が違う。マリューとチュキだけはおいしいなあと言い合いながらとても幸せそうに食べていたが、他の者たちの感想はまずくはないの一点だけである。料理長は泣いていたという話だが、それはマリューに誉められた嬉し涙か、他の者たちの舌を満足させられなかった悔し涙かは本人にしか解らないであろう。

 

 クランのトップパーティーは大陸全土に名を馳せている。それもそのはずだ。普遍的な魔法の精度や練度が非常に高く、かつ他に類を見ない魔法も使用可能な見目麗しすぎる集団など、目立つに決まっている。帝国に留まるのは、懇意にしているギルドからの派遣という一面もあるが、ユグドラータ王国の次に治安がよい方だからだ。ただただエルフの国に近いからという理由もあるにはあるのだが、治安のよさが一番にくる。たとえどんなに遠く離れた場所にいても、転移陣を設定さえしてしまえば簡単にユグドラータ王国に帰れるのだが、他に安全な拠点を作るのには治安がよい近場だと決定済みであった。マリューとチュキを除いて話し合った結果である。

 

 そもそもの話、冒険者になるにしても、パーティーの結成においても、要のマリューが『いつかはエルフの国の外も見てみたいよなあ』と言ったからである。エルフ的な成人――百歳を迎えたあと、約束どおりみんなで外を見に行こうかと、カナトがマリューの手を引いたのだった。

 

 自分が劣っていると常々考え、密かに落ち込んでいるマリューは知らないのだ。どんなに重大な位置にいるのかを。パーティーメンバーから過剰すぎるほどに過保護にされていることを。

 

 マリュー・リリーベリーはパーティー『精霊の聖騎士』ひとりひとりの手綱を握れる唯一の人物である。

 

 そう、彼女にしか出来ないのだ。最強格のパーティーを束ねているクランマスターであっても、副クランマスターであっても出来ないものは出来ない。そもそもが強制的に従わせる権限は持っていないのだが、最も難しいことが出来るのは唯一彼女だけだ。

 

 扱いづらい面が強すぎる最強たちを甘くさせるなんてことは。

 

 マリューは知らない。神経をすり減らすのはそれだけ甘えられているのだということを。いや、カナトにおいてはただただ離したくない一心で抱き潰しているのだが、そのカナトが自分自身の考えを曲げてでも言うことを聞くのは――甘い判断を下すのは、マリューただひとりだけだということを。

 

「やっ、やらぁ……っ! かにゃとぉ! しょこぉっ、らめっ! らめなぉぉっ!」

「嫌じゃないでしょ? マリューはここを擦られるのが大好きだよね?」

「ぁぅ……っ! 違っ……! 好きじゃ、にゃっぃ、いぁっ! んぁあぁんっ! あ、あっ、あーーーーっ!」

 

 羞恥に躯中を朱に染めながら、マリューは与えられる強い快感に背中を大きく仰け反らせていく。シーツに影を落とす白に近い金色の髪の毛一本一本にも情欲が湧き上がって止まらないし、潤んだ深い海の色をした瞳にはずっと自分だけを映していてほしいとさえ思っている。ぴんと伸びる足の先にむしゃぶりつきたいし、内腿にも痕をつけたい。大きな胸もむしゃぶりたい。ばるんばるんに揺れるのももちろんのこと、眼下にある艶かしくも美しく可憐な肢体に舐め回すかのようにねっとりと熱い視線をおくるカナトは、止めどなく嬌声を漏らす柔らかな唇を貪り始める。

 

 んむんむと必死に舌を追いかけるマリューの姿はなんとかわいらしいことか。かにゃとぉと切なげに名を呼ばれる度、中の怒張が勢いを増していくが自分でも解る。

 

 抱き潰して恨まれようが、マリューが離れていかないのならそれでいい。本当ならマリューの口からは否定的な言葉は聞きたくはないのだが、自身の行いの結果だと受け入れてやる。マリューが隣で笑ってくれるのなら、どんな手段でも躊躇(ためら)わない。なんでもする。たとえ嫌われようとも――。カナトは必死だ。いかにマリューを自分自身に繋ぎ止めるのかということに心血を注いでいる。

 

 正常位でんあんあ喘がされながらも、ぎゅっとシーツを握りしめるマリューの両手首には魔法製の手枷があり、半分はベッドに埋められていた。そう、文字通りベッドに縫いつけられながら激しく抱かれるマリューだけは知らない――。

 

 銀髪長身イケメンエルフな男の底知れぬ愛を。パーティーメンバーたちの多大なる愛情を。

 

 前世からの友人と家族という近すぎる距離ゆえに、知り得ないのだった――。

 

 

 

 

 

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