響鬼外伝の外伝!? かめんらいだぁふぶき ―僕っ娘師匠の裏の顔― 作:裕ーKI
小宮香 狐夏は常々気がかりだった。
この世で最も大切な師匠であり、最愛の恋人でもあるフブキの裏の顔についてを。
頭脳明晰で運動神経も抜群。優しく気さくで男勝り、凛とした雰囲気がとっても素敵な運命の人。
だけどそれだけに。
寧ろそれ故なのかもしれない。
時折感じる、師匠の危うさ。
普段は驚くほどに理性的で、正しい大人の見本であり続けようと心掛けている感じが十分過ぎるほどに伝わってくる。
人生の先輩として、指導者としての貫禄を途絶えさせないために、常日頃から心のどこかで気を張り詰めているのだ。
だからこそ、それ故に。
毎日のように傍にいるからわかる。
ずっと見ているからわかる。
他人や仲間、そして愛弟子の期待を裏切らないために、本人も気づかないうちに無理をしているんじゃないかと。
フブキ自身が、無理をしているつもりはなくても。
無意識に。無自覚に。
確証があるわけではない。
だけど常識的に考えてありえないだろう。
四六時中、隙間なく完璧であり続ける人間なんている訳がない。
ロボットでもない限りある訳がない。いや、ロボットだって――機械だって、稼働を続ければいつかは不具合が起きる。そうならないために休ませたりもする。
つまり何が言いたいかといえば、フブキの気が緩んだ時、フブキがフブキを休んでいる時――狐夏でさえも滅多に見たことのない、彼女の真の素顔についてだ。
実は時折、片鱗を目にすることはある。
例えば先刻の酒呑童子との戦いの時。
卑猥な攻撃を受けて、一時的に抵抗力を失ったフブキは、普段の営みでもなかなか見せないくらいに艶めかしく乱れていた。
勿論、狐夏自身のテクニックが酒呑童子に劣っているとか、そういう訳ではない。狐夏との普段の性行為でも、フブキは快楽に浸った愛おしい表情をいつも見せてくれる。
ただ、今回の酒呑童子の猥褻行為を受けた際に見せたフブキの様子は、狐夏の前で見せるいつもの顔とはまた違っていた。
酒に酔って自制心を欠いたせいか、随分と本能的で性感に縋るケモノのようだった。
実はあの時、師匠の救助に向かおうとしていた狐夏の決断と行動には遅れが生じていた。理由は、今まで見たこともないようなフブキの乱れっぷりに不覚にも見惚れてしまっていたからだった。
タガが外れたように腰を振る師匠の姿に、衝動的興奮に駆られてそそられてしまったのだ。
あの時、犯されるフブキの見えないところで、確かに狐夏も女陰を濡らしていた。
師匠の危機に何を考えているんだと、すぐにハッとなって酒呑童子を引き剥がしたが、内心は罪悪感でいっぱいだった。
傷つけられる師匠の姿に興奮してしまうなんて、最悪で最低。これじゃあ弟子失格じゃないか。
だけど、そんな状況下で、快楽に浸って喘ぐフブキの姿を目の当たりにして、ふと思ったこともある。それが彼女の裏の顔についてだ。
普段の様子からは想像できないぐらい色っぽい彼女の姿に、実はこっちが本性なんじゃないかと、なんとなく感じたのだ。
つまり、いつも見る“正しい大人の見本”のようなフブキは実は仮初……とまでは言わないが――勿論そっちのフブキも正真正銘本当のフブキなのだろうが、それとは異なる、本人すらも気づいていない別の一面がどこかに存在するのではないか。
普段は強い理性を持って色々抑制しているのだろう。
気づかれないようにずっと気を張り詰めているのだろう。
“正しい大人の見本”であろうと努力しているのだろう。
他人の、仲間の、愛弟子の期待に応えようとしているのだろう。
だからこそ、今回のように何らかのきっかけで理性の鎖が解けてしまうと、溜め込んでいた感情や本能や欲望が一気に解き放たれてしまうのかもしれない。本人でも制御できないほどに。ある意味別人のように。暴走という言葉が相応しいほどに。
今回は性的観点から見た話だが、彼女のこの本質は、きっと今後の未来の出来事にも影響を与えるはず。
たとえ、人間をやめたとしても、鬼をやめたとしても、まったく別の何かに生まれ変わったとしても。
それほどまでの危うさを孕んでいるのだ。フブキという女性は。
・・・
夕暮れ時。
玄関の扉が音を立てて開いた。
ここはフブキの自宅のマンション。鬼の仕事を終えたフブキと狐夏が、猛士東北支部の事務所に立ち寄ることなく、現場からそのまま直帰したのだ。
「うぅ……気持ち悪い……。悪いね、狐夏。面倒かけさせて……」
フブキは狐夏の肩を借りながら、ふらついた足取りで自室へと入っていく。
酒呑童子から受けた酒の影響が未だに抜けず、気分は最悪だった。
吐き気や頭痛は勿論、視界は歪むし、体中の火照りも治まらず、妙に汗ばむ。まるで風邪でもひいたかのような倦怠感だ。
「なに言ってるんですか、フブキさん。こういう時ぐらい、いっぱい弟子に甘えてくださいよ。その方が私も嬉しいんですから」
コンディションの悪い師匠とは対照的に、狐夏は張りのある元気な声で言う。
「ありがとう……。せっかくだから、そうさせてもらうね……」
真摯に体を支えてくれる狐夏に感謝の言葉を述べながら、フブキはベッドの上に重い腰を下ろした。
「やっぱり……いつになってもこの感じは慣れないな……」
「この感じって、お酒のことですか?」
「うん……。どうやら僕は……お酒との相性が抜群に悪いみたいなんだ……。大学や猛士の飲み会でも、決まって僕は蚊帳の外だしね……。みっともない話だけど……」
「別に良いじゃないですか、お酒なんか飲めなくても。「酒の付き合いが悪いと社会人失格だ」とか、今時そんなこと言う方がダサいんですから。……それよりどうします? シャワー、浴びれそうですか?」
「んー……。怪物の粘液に塗れた体だし、今も汗でべたついているし、本当なら狐夏と一緒に浴びたいところなんだけどね……。でもどうにも体が重くて……」
「じゃあ……後にします?」
「うん、悪いけどそうするよ……。今はとにかく、横になって眠りたい……。狐夏だけでもゆっくりシャワーを浴びて、スッキリしておいでよ……」
「わかりました、フブキさんの裸が見られないのはちょっと残念ですけど。じゃあ、そうさせてもらいますね」
「うん、行っておいで」
狐夏が入浴の支度をしている間に、フブキは汗臭い私服をベッドの横に脱ぎ捨てた。
相変わらず体が熱く、どうにもパジャマに着替える気分にもなれない。
シーツに汗が染みつくことには少し抵抗を感じたが、後で私服共々洗濯すればいいかと、フブキは思い切って下着姿のまま布団の中へと潜り込んだ。
「ああ、そうだ!」
浴室へ向かう直前、ふと足を止めた狐夏が声を上げる。
「猛士に提出する今回の報告書、シャワーの後で私が作成しておきますから、フブキさんは何も心配しないでくださいね」
「そっか……。何から何まで本当に助かるよ、ありがとう……」
「いえいえ! フブキさんにはいつも迷惑かけてるんですから、これぐらいお安い御用ですよ!」
そう言いながら、狐夏はニコッと微笑んだ。
そのさり気ない笑顔が、頼もしくも思える愛々しい弟子の表情が、何故か今のフブキには凄く魅力的に思えた。
彼女の仕草が素敵で可愛らしいと思うのはいつものことだ。
しかしどういう訳か、今日この瞬間、たった今感じたのは、普段の愛情を遥かに凌駕するほどの燃え上がるような気持ち――まさに酒に引火した炎のような心の昂りだった。
それはまるで、胸の内がキュンと高鳴る恋愛的感情。
いや、そんなロマンティックなものではない。
もっとそれ以上に、激しく乱暴な衝動のようなもの。
下半身を疼かせ、秘裂を湿らせる本能的欲求。
部屋を出ていく狐夏の姿に向けられていたのは、下心を孕んだ嘗め回すような目つき。男が女に向けるような卑猥な視線。
弟子の厚い唇を、豊満な胸を、引き締まった腰を、フブキはいつの間にか性の対象として見ていた。
布団の中で女陰に手を運びながら、彼女は熱い吐息を再び漏らし始める。
・・・
シャワーを浴び終えた狐夏が黒のタンクトップとパンツを身に着けて脱衣所を出ると、そこは静寂に包まれていた。
寝室で眠っているはずのフブキの寝息すらも聞こえず、まるで自分以外誰もいないような錯覚に襲われた。
なんとなく不安を感じた狐夏は、愛する師匠の姿が恋しくなり、少しばかり足早でフブキの待つ部屋へと向かった。
ベッドの前に立つと、当然のようにフブキはそこに横たわっていた。
掛け布団が覆い被さって顔は見えないが、布団の盛り上がりから見て、彼女がそこにいるのは間違いないとすぐに判断できた。
無意味な心配だったと一安心した狐夏は、気持ちを切り替えるようにベッドに背を向けて、傍のデスクチェアに腰を下ろした。
カウンターテーブルに置かれたノートパソコンを慣れた手つきで起動させると、フブキとの約束通り、今回の鬼の活動をまとめた報告書の作成に取り掛かった。
「よしっ。とりあえずこれで完成、かな。……うん、我ながら結構上手く書けたんじゃない」
1時間ほどノートパソコンと向き合ったのち、狐夏は緊張を解しながら背凭れに体重を預けた。
フブキがいつも作成している精緻な報告書とは雲泥の差だが、それでもそれなりに出来の良い文章を作成できたと、自画自賛しながら少しの間気抜けする。
「内容は後でフブキさんに確認してもらうとして、後は……あ~、一応口頭でも報告しといたほうがいいのか。面倒だけど、しょうがないか」
狐夏は渋々受話器を手に取ると、猛士東北支部の事務所に電話をかける。
数度の呼び出し音の後で、受話口から聞こえてきたのは聞き慣れた中年男性の声――東北地方の鬼たちを管理している支部長の声だった。
狐夏は事務所に顔を出さずに直帰した理由を前置きし、それから今回の戦いの詳細を大まかに説明し始めた。
そんな中、背後のベッドの掛け布団がモゾモゾと静かに揺れ動く。
電話に夢中になっている狐夏は、真後ろの異変を知る由もない。
「予測通り、キャンプ場近くの湖に潜んでいたのはイッタンモメンでした。正確にはその幼体で、成長しきる前に妖姫共々退治することはできました。ただ……」
『ん? ただ……なんだ?』
「――イッタンモメンと妖姫はとくに苦戦することなく倒せたんですが、問題は童子の方でして……」
酒呑童子の件を切り出そうとするも、電話の相手が支部長だと、どうにも言いづらく言葉が詰まる。
自分たち――とくにフブキが受けたみだらな行為のことを思うと、躊躇うのも当然といえば当然なのだが。
しかしそう口が渋っている間に、狐夏の背後に1つの影が忍び寄ってきた。
完全に気配を隠しているそれは、狐夏の脇下に向かってゆっくりと両腕を伸ばし出す。
開いた掌は、狐夏の胸部に狙いを定める。
そして。
「詳しいことは……、後ほどお送りする報告書を見てください。とにかく、厄介だったのが童子の方で――」
次の瞬間。
「――猛士のデータベ……ッ!?」
刹那、狐夏の声音は途中で不自然に飛び跳ねた。
『どうした小宮香? 猛士のなんだって?』
「い、いえ……、なんでも……ンンッ!?」
不審がる電話越しの支部長に対し、狐夏は咄嗟に冷静さを取り繕う。
しかしそうしながら彼女が目の当たりにしたのは、自分の乳房を弄る脇から伸びた2本の腕だった。
黒いタンクトップの上から双丘を揉みしだく、細くて奇麗な見慣れた両腕。狐夏はすぐにその正体を看破した。
「フブキさん!?」
支部長に聞こえないように口元から受話器を離し、小声でその名を述べながら後ろを振り返る。
背凭れの裏に潜んでいたのは、さっきまでベッドの上で眠っていたはずの師匠だった。
いつの間にか目を覚ましていたことにも、起き上がっていたことにも十分驚きだったが、しかしそれ以上に泡を食ったのは、絶賛実行中のフブキの予想外の行動だ。
知的でクールで麗人のような彼女にはとても似つかわしくないハレンチな行動。恋人同士だから許されるものの、相手が相手で、状況が状況なら猥褻罪として罰せられるような突拍子もない行為。
“正しい大人の見本”であり続けようとしている人が、なぜ唐突にこんなことをしているのか、狐夏には一瞬理解ができなかった。
「どうしたのぉ……。報告の途中なんでしょ、ちゃんと最後までやらなくちゃ……」
フブキは狐夏の耳元にそっと唇を近づけると、吐息を交えた色っぽい声で囁いた。
背筋に走るゾクゾクとした感覚に身震いしながら、狐夏は困惑の表情を浮かべる。
一体何がどうなっているのか。
フブキの様子が明らかにおかしい。
潤んだ瞳に怪しく火照った顔。息遣いは荒く、口調も雰囲気も言葉を失うほどに凄艶だ。
師匠が師匠らしくない。
フブキがフブキらしくない。
本当に、何が何だか訳がわからない。
兎にも角にも、フブキの言う通り、まずは報告を終わらせなくては。
悩むのも戸惑うのも対処するのも、全ては通話を切ってからだ。
「すみません、ちょっと受話器を落としてしまって……。大丈夫です、報告を続けます……」
咄嗟に嘘をついて誤魔化しながら、狐夏は支部長との会話を続行する。
しかし。
「えっと……そ、それで……ンっ……童子のこと……なんです……けど……アッ……アァッ……」
狐夏が説明を続けている間も、フブキは手の動きを止めようとはしなかった。
寧ろより一層意識を集中させて丹念に揉み解していく。
最初のうちは優しくゆっくりと。
重量感たっぷりの脂肪を掌で掬い上げながら、トップのあたりを指の腹で撫で回す。
「ハッ……あぅン!?」
途端に狐夏は全身をビクッと震わせながら首を反射的に仰け反らせた。
『おい、なんか声が変じゃないか? どうかしたか?』
「い、いえ……。ッぁぁあ……。大丈夫です……。なんでも……ハァぁ……ありません……」
なんとか報告を続けるものの、狐夏は心の中で悲鳴を上げて悶えていた。
仕事の最中だというのに、どうしてこんな意地悪を、邪魔をするような悪ふざけをするのか。別人のような行動を取り続けるフブキの意図が全くわからない。
――ひょっとしてフブキさん……、酒のせいで……酔っ払ってる?
狐夏は受話口に言葉を発しながら、改めて背後のフブキに目を向けてみる。
すると弟子の視線に気づいたフブキは上目遣いでニヤリと笑った。まるでイタズラに興じる小悪魔のような悪辣な嬌笑を浮かべたのだ。
――フブキさん、やめて……。すごい……感じちゃう……。
優しい愛撫を繰り返され、狐夏の大きな胸は既に出来上がっていた。
ジンジンと痺れるように敏感になり、些細な刺激すらも電流のように感じるほどに。
「それでェ……戦闘の中で……ンぅッ……怪童子は……アハぁ……酒呑童子……にィぃンン……」
受話器を通して支部長へと向けられた狐夏の声にも、次第に甘い喘ぎが目立ち始める。
思考も感情も声音も、少しずつ、しかし確実に蕩けていく。
すると今度は一転、乳房を包んでいたフブキの手つきがいきなり暴力的に変わった。
タンクトップを捲り上げ、肉厚な双丘を大胆に露にすると、甚振るように、形が崩れるほどにギュウっと力任せに指を沈み込ませた。
「ひぁッ!? ぁぁぁああああ……♡」
途端に狐夏は弓なりに背中を大きく反らせながら、ひと際大きな悲鳴を上げた。
しかしそれは痛いからではない。寧ろ痛みは一切感じない。
胸に走った痛覚は全てそのまま性感へと変換されている。
気持ちよかった。
不意を突くような急激な甘い痺れに、体中の神経が緩んでしまった。
狐夏の意思とは無関係に、彼女の股から溢れた蜜が下着の中心にくっきりと染みを作り上げる。
『小宮香! どうした! 今の悲鳴はなんだ!?』
受話器の向こう側では、狐夏の唐突な叫び声に驚いた支部長が何事かと戸惑っている。
「ご、ごめん……なさい……。ハァ……ハァ……。ちょっと……なんか…ァッ…ビックリした……だけです……。ンフッ……」
『ビックリしたって……、それはこっちのセリフだぞ。いきなりでかい声を上げて……。本当に大丈夫か?』
「は、はい……アアッ……。戦いの後だし……ンっ……少し……疲れてるのかも……。すみません、報告は……また改めて――」
このままだと仕事にならない。そう思った狐夏は、ここは一旦電話を切ろうと、支部長に断りを入れようとする。
しかしそこへ、その言葉を阻むように、再びフブキの悪意に満ちた囁きが狐夏の鼓膜を突き抜ける。
「ダメだよぉ……。最後までするように言ったでしょ……。途中で切ったら……許さないから……」
それはまさに雪や氷のように冷たい、総毛立つような悪女の声だった。
「フブキ……さん……?」
「さっさと続けなさい……。支部長も男なんだからぁ、あんたのいやらしい声で興奮させてやればいいじゃない……。ねえ、できるでしょ……? 手伝ってあげるからぁ……」
「そ……そんな……」
背凭れの裏から威圧的にそう言うと、フブキは狐夏の左右の乳首をギュッと抓りだす。手加減もなく、引きちぎるような勢いで。
「ひぎっ……あああああああ♡ ……あ゛……あ゛あ゛……ぁ゛♡」
その瞬間、狐夏はビクビクと痙攣しながら胸を宙に向かって突き上げた。
上半身を海老反りにしながら、大きく開いた口をパクパクとさせている。
体中から力が抜け、握りしめていた受話器が掌から滑り落ちそうになる。
しかしそれを、フブキが自分の手を重ねて無理やり掴み直させると、そのまま狐夏の耳元へと運んでいく。
支部長との会話を続けなさい。その色欲に満ちた声をせいぜい聞かせてやりなさいと、そう言わんばかりに。
『小宮香! おい! しっかりしろ! 大丈夫か!』
「ひゃい……、大丈夫……でしゅよ……オッ……ォォ……。話……続けましゅ……からぁ……♡」
口から一筋の涎を垂らし、身体をブルブルと震わせ、涙ぐんだ瞳をとろんとさせながら、狐夏は魔性と化した師匠に強制されて報告を続ける。
もはや報告と呼べるかどうかすらも怪しいものだが。
「酒呑……童子はぁ……、口から出す……ハァん♡……お、お酒で……アッ……あぁぁン♡……ああぁ……すごい……♡」
『は? 凄いって……何が……?』
「お酒のォ……力……♡ でもそれより今は……フブキさんが……すごい……」
『フブキ? フブキもそこにいるのか? ……っておい! 聞いているのか! 小宮香!』
「あああああ♡ すごい♡ すごいよォ♡ フブキさぁん……♡」
まるでパン生地を捏ねるような激しくも巧みなフブキの手つきに、狐夏の乳房はおもちゃのように翻弄される。
タプタプと波打つたびに押し寄せる性感に意識は完全に押し流され、いつの間か狐夏自身も、さらなる快楽を自ら求めだしていた。
受話器を握る腕とは反対の手を下着の中へと潜り込ませ、既に愛液でグッショリと洪水になっている秘裂に指を突っ込む。
ジュボジュボと出し入れを繰り返す指の動きに合わせて、椅子の上で腰をくねらせ始める。
『小宮香! お前今何してるんだ!? 声の調子もおかしいし、変な音も聞こえるぞ!』
もはや彼女の耳に支部長の声は届いていなかった。
聞こえているのは、自らが奏でる卑猥な声音と水音だけ。
「ふあっ……ああっ……ああああっ♡ ふっ……ふっ……ンンッ ンぁああああ♡」
クチュクチュクチュ! ブチュブチュブチュ!
上の口と下の口。我が身の2つの口が同時に歌唱する讃美歌――聖歌ならぬ性歌に促され、狐夏の興奮のボルテージは高まり続ける。
もう自分がなぜここにいて、さっきまで何をしていたのかさえ思い出せない。
それほどまでに、今は頭の中は色欲でいっぱいだった。
「も……だめッ♡ 私……もう……ムリぃ……♡ 」
「そう……。もう、限界なんだ……。いいよ、最後は僕が……イカせてあげる……」
上半身も下半身も、どちらもガクガクと震わせながら、絶頂の瞬間に備える狐夏。そんな彼女の耳元に、フブキは再び顔を近づける。
悪気に満ちた冷笑を浮かべ、赤い舌が口からペロッと顔を出す。
そして次の瞬間。
「あっああああああぁぁ♡ だ、だめぇええええ♡」
フブキは再度、狐夏の左右の乳首を力いっぱい抓り、そして同時に、今度はぬめって光る舌先を、耳の穴の中にグリグリとねじ込んでいく。
「イッグぅうぅぁああああああああ♡」
耳と胸、そして秘部の刺激が同時に最高潮に達したその刹那、狐夏は絶叫し、椅子から離れた腰を大きく突き上げた。
膣口から勢いよく吹き出した熱い飛沫が、下着を濡らし、椅子を濡らし、カウンターテーブル下の床に小さな水溜まりを作った。
「あ゛……あ゛あ゛……ぁ……ああ……♡」
恍惚な顔でぐったりと椅子に凭れ掛かり、ビクビクと余韻に浸る狐夏を尻目に、フブキは弟子の絶頂と同時に床に落ちた受話器を拾い上げる。
「なかなか派手にイッたね、狐夏……。よくできました……」
受話器からは支部長の戸惑いの叫び声がうるさく鳴り響いている。
フブキは終話ボタンを押して一方的に通話を切ると、その辺にポイっと受話器を投げ捨てた。
今のフブキにとっては、猛士の仕事も支部長の心境も、どちらも心底どうでもよかった。
今この瞬間、彼女にとって最も重要なのは、ただ1つ――。
「あ~あぁ、床がビショビショ……。人ん家を汚すなんて、狐夏は悪い子だね……」
冷たい眼差しでほくそ笑みながら、フブキは狐夏の半べその顔を楽しそうに覗き込む。
「ごめん……なさい……。でもなん……で……。フブキさん……、なんで……こんな……ことを……」
ヌッと近づいて翳るフブキの顔が、まるで狂気的で、全く知らない人のようにも思えて、狐夏はある種の恐怖を感じた。
今まで1度も見たこともなかった。
今まで一切知らなかった。
初めて見る、師匠の顔。
初めて知る、師匠の一面。
優しくもなく、温もりもない師匠の顔。
とにかく恐ろしく、とにかく妖艶な師匠の一面。
怖い。怖い。ただただ怖い。
でも。
その怖さが。
その恐怖心が。
「なんでって……、そんなの決まってるじゃない……。狐夏のことが……大好きだからぁ……」
全身に駆け巡るその畏怖が、狐夏の雌の感情をさらに滾らせる。
「僕は狐夏が好き……。本当ぉに大好き、愛してる……。だからそんな狐夏の色んな顔を見てみたい……。苦しそうに悶える顔も、怯えた顔も、エッチに乱れる顔も……。沢山沢山、色々とね……。いいじゃない、恋人ってそういうものなんだからぁ……」
「フブキさん……、なんだか……“あの時”の伊月みたい……」
酒に飲まれて狂酔し、その挙句に狂想するフブキの姿に、狐夏は既視感を感じた。師匠の姿に重なって見えたのは、今は遠いところにいる、かつての友の姿。
「伊月……? ああ~、そうだねぇ……。稲守 伊月――稲守さんがいたからぁ……、僕と君は付き合えたんだよね……。僕のこの気持ちも……あの子の影響なのかなぁ……。そういえばこれも、あの子が教えてくれたことなんだよ……。狐夏の欲情のスイッチは……耳の穴だってね……」
そう言いながら、フブキは狐夏の耳に手を伸ばす。
さわさわと、軽いタッチで耳たぶに触れる。
「はうっ♡」
まるでおもちゃのように、面白いぐらいに狐夏の肩が跳ね上がる。
触れれば触れるだけ。何度も何度も。ビクビクと。
続けて下顎を持ち上げると、半開きでよだれ塗れの弟子の唇に、自身の唇を強引に重ね合わせた。
「んふぅ!? ん……んん……♡」
熱気と冷気を同時に纏った師匠の舌と唾液が、遠慮する素振りなど一切見せずに、ずかずかと口の中に入り込んでくる。
同時に狐夏の味覚と嗅覚に充満したのは、強烈過ぎるほどの酒の風味と香りだった。
――酷い匂い。でも……凄くいい。
まるで自分も酒に酔ったような、そんな錯覚に襲われて、頭の中がボーっとしてくる。
もう、思考なんて働かない。何かを考える気力も湧いてこない。
フブキにリードされるように、その場の流れに突き動かされるように、狐夏もまた、自ら舌を突き出した。
2枚の舌は、2人の口の間を行ったり来たり。
絡め合い、吸い合い、混ざり合いながら、師弟の間を往復する。
やがて、どちらからともなく舌を解き、唇を離すと、未練がましく互いの口の間で唾液がネチャっと糸を引く。
「狐夏……、今度は2人一緒に……」
うっとりとした眼差しで見つめ合いながら、フブキは狐夏に問いかける。
「はい……、フブキさん……」
身に着けていた下着を外し、全裸となったフブキに導かれて、狐夏もまた衣類を全て脱ぎ捨て、生まれたままの姿でベッドの上に飛び込んだ。
さっきまでフブキが眠っていたはずのベッドのシーツは、何故か既に濡れてそこら中染みだらけになっていた。
「狐夏がシャワーを浴びてる間も、パソコンに向かって一生懸命仕事していた間も、実は僕……、こっそり隠れて1人でイッてたんだよ、何度もね……」
ベッドの上に押し倒されて横たわる狐夏。その上に馬乗りになったフブキは、そう言いながらニヤッと口角を上げる。
「酒呑童子に犯されてからずっと、身体が疼きっぱなしだったんだぁ……。狐夏が横槍を入れたからだよ……。一番いいところで止めたもんだから、身も心も火がついておかしくなりそうだったよぉ……。だからさっきの意地悪は、そのお返し……」
眼前の乳房に両手を重ね、円を描くようにゆっくりと揉みしだくと、狐夏は「あっ♡」と甘い声を漏らす。
「でもあの時……、狐夏は狐夏でしっかり楽しんでたみたいだよねぇ……。知ってるんだよ、僕……。醜い怪物に犯される僕の姿を見て、狐夏もちゃっかり欲情してたのをさ……」
「ああぁ……♡ んっ……ごめん……なさい…。私……あはぁ♡」
「そんな喘ぎ声で謝られても、ねぇ……。だけど気にしないでよぉ……。寧ろ僕もそんな目で見られて嬉しかったんだぁ……。狐夏が僕をいやらしい気持ちで見てくれていたんだと思うと……ンっ♡……凄く興奮したから……。ただ、だからこそ……中途半端は困るよね……。あの時満足できなかった分……、しっかり相手してくれるよね……、狐夏……♡」
フブキはうつ伏せになって狐夏の胸に顔を埋めると、彼女のぷっくりと膨らんだ乳首に舌を走らせた。
「んぁあああぁぁ♡ フブ……キ……さん♡ いやぁ……♡」
ざらついた感触に襲われて、ビリビリと体が痺れる。狐夏は背中を浮かせ、激しく身を捩じらせる。
フブキの舌は徐々に上へと伝っていき、胸から首筋、そして狐夏の一番の性感帯である耳元へと辿り着く。
赤みを帯びた耳にチュッチュと吸い付きながら、自らの乳房を狐夏の乳房に重ね合わせる。
狐夏以上に豊満な膨らみが雪崩のように覆い被さっていき、狐夏の双丘があっという間に飲み込まれていく。
「ああっ♡ ダメっ……フブキさん……、おっぱいが……おっぱいが……熱いよぉ……♡」
既にこれ以上ないほど発情しきっているフブキの乳首は、まるで欲しがるように硬く勃起している。
そんな師匠の乳頭が、ダイレクトに狐夏の乳首を襲撃する。
互いの卑猥な突起物がコリコリと突き合うように擦れて、言葉にならない高揚感が生まれる。
「んふあああ! いいっ! これすごい……あはぁぁ……♡」
胸に伝わる電流のような気持ちよさに不意を突かれて、狐夏の耳から思わず口を離したフブキが我慢できずに声を張り上げた。
理性を失い、堪えることを忘れてしまったフブキは、さらなる快感を求めて夢中で狐夏の身体に抱きついた。
「フブキさ……ひゃぁああん♡ ダメッ……ダメぇ~……! 変になる♡ おかしくなるよぉ……♡」
耳元ではしたなく咆えるフブキの淫らな声が、狐夏の動物的本能をさらに燃え上がらせる。
もっともっと気持ちよくなりたい。
もっともっとフブキさんを感じていたい。
蕩けきった頭の中に響き渡る声に従うように、フブキの背中に両腕を回した狐夏は、くねくねと下半身を師匠の秘部に押し付け始めた。
弟子のその動きに気づいたフブキもまた、呼応するように腰を振り乱す。
ピチャピチャと互いの舌の感触を味わいながら、体中を弄り合う2人。
唾液に汗、そして膣口から溢れさせる愛液。恋人同士のありとあらゆる雫がグチャグチャに混ざり合い、ベッドのシーツに新たな染みを次々と滲み出していく。
「フブキさん……、もっと……もっと激しくして……」
「いいよ……。全部忘れちゃうくらい……とことんぶっ壊れちゃおうよ……」
狐夏のはしたないおねだりに、フブキは目を細くして微笑すると、一旦愛撫を止めて上半身を起こす。
体勢を変え、狐夏の片足を持ち上げて彼女の股を大胆におっぴろげる。そして、自身の女陰を狐夏の秘部に押し当て、腰を前後に揺らし始める。
グチュッ……グチュッ……グチュッ……――。
最初はゆっくりと、様子を見るように。
グチュッグチュッ……グチュグチュグチュッ!……――。
しかしすぐに加速を始め、徐々に勢いは増していく。
グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!――。
揺らせば揺らすほど、擦れば擦るほど快感は大きく膨れ上がっていく。
グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!!!!――。
「オ゛ッ!? オ゛オォ……ンぁああああああ♡ ああぁすごい……♡」
フブキが繰り出す容赦のない貝合わせに、狐夏はケモノ染みた歓喜の悲鳴を叫ぶ。
「気持ちいいでしょ……、狐夏……アッ♡ ああああぁ! ほら、狐夏も……ンハァ……いっぱい動かして……はぁあああああああああああ゛あ゛あ゛♡」
師匠の教えに従うように、狐夏もまた腰を揺らめかせて、フブキの女性器を突きまくる。
「ひゃあああっ……はぁああああああ♡ フッ……フブッ……フブキさっあっあっあ゛ぁ゛♡ 壊れるぅううう! し、死ぬぅ♡ イキ死んじゃうぅぅ!!♡」
「いいよぉおおお! 今だけはぁあああ……狂って壊れてえぇえ……死んじゃいなよぉおおおォォオオン♡ 僕が殺してあげるよぉ……お゛オ゛ォん♡」
フブキは下品な咆哮を上げながら片腕を伸ばすと、狐夏の首をガっと掴んで締め上げる。
途端に呼吸が詰まり、狐夏の首筋に痛みが走る。しかし狐夏は決して不快感を感じてはいなかった。寧ろその苦しみや痛みさえも堪らなく心地良くて気持ちがいい。
「オ゛ッオ゛オ゛オ゛……フブギざん゛……凄ぐ良い゛♡ もっと強く……締め付げでぇええええ♡」
「狐夏ぅうううう♡ 大好きぃいいい♡ ぃいぎぁあああああ♡ 死ねぇ♡ 死んじゃえぇ♡」
「あ゛あ゛あぁぁ……死ぬぅ♡ イギ死ぬぅ♡ だから殺してぇええええ♡」
2人は一心不乱に振り乱す。
淫乱に。
何もかも忘れて。
今にも爆発しそうな凄まじい快楽だけを求めて。
そこに人のために戦う音撃戦士としての面影は微塵も存在しない。
そこにいるのは、ただひたすら獣欲の本能に突き動かされて腰を振り続ける、2人のただの雌。
「あ゛あ゛あ゛あああ……もぉダメぇぇぇ!!♡ イグイグイグぅううううう♡」
狐夏は白目を剥きながら天井を仰ぐ。
そして――。
「ぼ、僕も……んあああ゛あ゛あ゛ッ……オ゛オォア♡ イッ……イッちゃ……あああああああああ!!!♡」
フブキもまた、背中を仰け反らせ、舌を突き出す。
そして――。
「あ゛っあ゛あ゛! ダメェ! イグッ! イッグぅうあああああああ!!!♡♡」
「あひぃいいいいい! イ゛ッぢゃぁぁあああああああああ゛あ゛ぁ゛!!!♡♡」
――そして2人は、未だかつてないほどの最大級の快楽の中で、ほとんど同時に絶頂を迎えた。
宙に跳ねた2人の膣穴からプシャァアアッと迸る熱い汁を、互いの身体でビショビショになるまで受け止め合う。
これ以上ないくらい最高で最低な至福の瞬間を。
だらしなく崩れた表情で堪能し、満喫する。
身も心も、おまけにベッドのシーツまでも、文字通り潤いに満ち溢れている。
きっとこれこそが、酒呑童子が欲していたもの。酒呑童子が求めていた――人間の汁気……。
強烈な快感の余韻に浸る間もなく、狐夏はベッドの上で気を失ってしまった。
パタリと横たわり、ビクビクと全身を痙攣させながら。恍惚な表情を残して。
だがその一方で。
「あ……あぁ……ああぁ……♡」
絶頂直後に脱力して、ベッドの上に倒れ込んだのはフブキも同じだった。
しかし彼女は、狐夏とは違い意識を保っていた。
それどころか。
「まだ……まだ足りない……。もっと……もっと……」
体力を使い果たして眠ってしまった弟子とは違い、フブキの女陰の疼きは消えずに残っていた。
「ねえ……、狐夏……、起きて……。もっとしようよ……。満足するまで、もっといっぱい……」
フブキはうんともすんとも言わない狐夏の身に擦り寄り、さらなる快楽を求める。求め続ける……。
結局、真夜中まで1人で自慰行為を繰り返したフブキは、数えきれないほどの絶頂の末に、とうとう力尽きて意識を失い、そのまま眠りの中へと落ちていった。
・・・
目が覚めるとすっかり朝になっていた。
酒の影響が完全に抜け落ちてようやく素面に戻ったフブキだが、早々に部屋の惨状に愕然とし、言葉を失った。
床もベッドも壁も、そこら中が水漏れしたように濡れていて。
おまけに部屋全体に異様な臭いと熱気が充満している。
それに何より。
「なんで……、僕も狐夏も裸なの……」
フブキも、そして眼前で眠り続けている狐夏も、一糸纏わぬ姿、素っ裸。
決して鬼に変身していた訳ではない。どう見ても、行為の後の形跡だ。
しかし何があったのか思い出そうにも、何1つ思い出せない。
昨日の夕方以降の出来事が完全に記憶にない。
オロオロと戸惑っていると、ベッドの上で横たわっていた狐夏が目を覚ました。
「あ、おはようございます、フブキさん……」
眠そうに目を擦りながら身を起こす狐夏に、フブキは血相を変えて叫ぶのだった。
「狐夏! 昨日、家に帰ってきてから何があったの!? 僕、全然覚えてないんだけどぉ!」
結局、今回の件をフブキ自身が知ることはなかった。
本人も知らないフブキの意外な二面性のことは、自分だけの秘密として留めておこうと、狐夏が語ることを拒んだのだ。ただ――。
「乱暴でエッチなフブキさんも、普段とは別の魅力があって良いですね。また近いうちに……ね」
この日を境にフブキの自宅には、時々さり気なく酒が置かれるようになったという。
ちなみに電話越しに一部始終を聞いていた支部長には、後日狐夏が説明してなんとか――ほとんど強引にだが、一方的に乗り切ることができた。
「今回の件は酒呑童子との戦いで受けた後遺症でした。絶対に深い追及はしないように」と、何度も何度も何度も、鬼の形相で脅迫するように、念を押して。