理解できたら苦労はない。
でもその苦労もまた、楽しいから。
顔見りゃ苦労を忘れるような、そんな人がいるから苦労するんですがね。
何を考えているか、と言うか考えているのかどうかさえ分からない。千夏先輩は、難しい。まあ俺よりずっと付き合いが長い花恋さんでさえ「ちーの考えなんて、そう分かんないし」というくらいだ、俺の頭で理解できるわけがない。
俺に出来るのは、ただ愚直に行くことだけだ。
そう思って動いていけば、きっといつか上手くいく。でもまあそんなすぐ都合良くいくもんじゃないし、時間をかけてゆっくり解決していこう。そう考えていたのに。
事実はいつだって、予想外だ。
夕陽も落ちてそろそろ夜の帳も降り始めた体育館の陰で、俺は千夏先輩に組倒されている。混ざりあう部活後の汗の匂い、伝わりあう肌の熱。そして千夏先輩の舌は、俺の顔をなめ回して。
「あの、先輩……、帰ってからにしましょうよ……」
遠慮しいしい言ってみると、先輩は舌こそ離してくれたものの。
「やだ。ここでするの!」
とワガママは引っ込めてくれず、ニヘリと笑うばかり。その顔は本当に、妖しく美しい。この人のこんな一面を知るのは、きっと俺だけだ。それは誇らしく思えなくもないけど、でも。これはなかなか、大変だ。
再び当てられた舌は汗を舐めとるように顔から首へと降りていき、そして服を剥ぐように胸元へまで入ってくる。
チロチロと小さく動きながら乳首を突いてくるその動きは、俺の勘所を全て知り尽くしてる仕草。だからこそ、ほんの数ミリずつそれを外してくる。更に俺を追い込もうと言うのか、その手は腰へと伸びてくる。触れるか触れないかの緩やかな力加減で、布越しに俺を翻弄する指技は余りにも巧み過ぎる。血が下半身に集中し、痛いほどに隆起していくのがありありと分かってしまう。
ホントにズルいな、この人は。俺が焦れて我慢できなくなるのを、楽しげに待っているんだ。
「ねえ大喜くん、どうする? こんなになったまま、帰れるのかな?」
耳元で囁き唆す、悪魔的な声。逆らえないと分かっていて弄ぶ、そんな意地の悪い問い掛け。
身体はもう、熱に侵されている。家までなんて、持つ訳がない。
それに先輩は返事を待つこともなく俺から離れ、体育館の外壁に手を突いてお尻を突き出している。早く来なさい、と言わんばかりに。
そんな事をされて、どうして逃げられようか。
薄闇に揺れるお尻に顔を寄せると、漂ってくるのは淫靡な先輩の匂い。既に役割を果たせていないショーツをずらすとそれが更に強まると共に、ひくひくと誘うように蠢く先輩の――オンナノコが露になる。
俺だけが、知っている場所。俺だけが、許される場所。
物欲しげに薄く口を開けたそこを指でかき回しながら、舌を這わせていく。
酸味の強い先輩の味は美味しくて、淫らで、余りにも尊い。
「もー、そうじゃな、い……でしょっ。早く早くー」
促されるまま、そこへと俺自身を向けていく。この瞬間は、毎回少しだけ緊張してしまう。先輩と迎えた初めての夜以来、俺はずっと翻弄され続けているんだ。
インターハイが通りすぎ、夏休みも終わりかけたあの日。俺は千夏先輩に、告白してしまった。
あの日の約束を果たせもせず、ただ悶々とするばかりの俺。こんなのが先輩にそんな事をするなんて、と思いはしたけれど。したけれど、でも俺は決意を固めたのだ。退くに決まっている、俺を嫌いになる、なんてのはあくまで「俺の考える千夏先輩の考え」だから。本当の千夏先輩がどう思うかなんて、事前に分かるわけがない。
言わないことは、伝わらない。それだけが確かなんだ。
だから俺は、言ってしまった。お風呂空いたよと告げに来た、湯上がりの千夏先輩へと。
「好きです」
たった一言、それだけ。どう解釈されようと、なんなら殴られようと構わない。
どういう反応が来ようと受け入れる、その覚悟は既に出来ている。気まずくなるからなんだ、このまま何も言わず気持ちを隠したまま一緒にいるより、遥かにマシだ。
「んー、ふー……む。なるほどねぇ……なるほどなるほど。こんなワンパクでたくましい子に挑戦状を出すとは、相当にマニアックだねえ大喜くん」
千夏先輩は普段見せないようなニヤニヤした顔で、俺をためつすがめつ見ている。うう、これはこれで気まずい。否定も肯定もされない、となるとどうして良いか分からない。
そして流れる短い沈黙を打ち破ったのは、千夏先輩の一言だった。
「好きになってくれて嬉しいよ、大喜くん」
え、と思う暇もなく俺は、――千夏先輩に抱き締められていた。
洗い髪から漂う先輩の香り、伝わる肌の熱さ。心どころか魂まで揺さぶられるような、女の子そのものな先輩の身体が、密着している。
告白して、抱き締められて。これ以上に幸福な事なんか、有り得ない。望んでもいけない、そう思うのに身体の芯が勝手に熱くなっていく。あまりのことにおかしくなってしまったのか、その熱は下半身に雪崩れ込んでそして。危険なほどに、一点に集まっていくのが分かる。
ダメだ、それだけは。こんな時に、
「ん、んー……? あ、そっか。そういうことか。男の子って、
何が起きているのか察したんだろう、先輩の頬が赤くなる。いくらなんでもこんな場面でなるべきじゃない、軽蔑されても文句は言えない。いやさっきの言葉を撤回されてしまうかもしれない。
でも先輩は、そうしなかった。逆に俺を、強く強く抱き締めて。
「そうだね。折角だし、しちゃおうか」
とんでもないことを、囁いた。
千夏先輩は完璧で、清廉で、そして高貴でさえあると思っていた。でもそれも、俺の勝手な思い込みでしかなかったんだ。
まだ風呂上がりの熱も落ち着いていない先輩の肌は、遮るものの無い産まれたままの姿。妄想することさえ畏れ多かったその肢体が、すぐ目の前に……手を伸ばせば触れられる所に迫っている。その非現実感は、俺を昂らせて余りあるくらいだ。それはきっと、先輩にも伝わっている。視覚的に、非常に分かりやすく。
「ふー……ん、本物って初めて見たよ。ねえ大喜くん、これってどれくらいなのかな。普通なの、それとも大きい方?」
「いや……えー……比べたこと無いんで分かりませ、……んっ」
言い終えるよりも早く先輩の手に触れられ、思わず声が上ずってしまう。
物怖じしないというか異常に積極性が高いというか、距離感がおかしいのはこういう面が隠れていたせいだったんだ。そう確信しながらも、驚きが隠せない。千夏先輩に、こういう行為への欲求があるなんて。
さっき服を脱ぎながら、先輩は言っていた。男の子との経験はまだ無いけど、一人では結構するよ、と。壁越しに俺がしている音を聞きながら、オカズにしてしまったこともあると。
女子はそういうのしないと思っていたし、ましてや千夏先輩がそういう話をするなんて、信じられなかった。でもきっとそれは、俺がそう思い込んでいただけだ。
だって千夏先輩は楽しそうに、俺をしごいて笑っているんだから。
「どうかなー大喜くん、これで良い? ちゃんと気持ちいいかな?」
無邪気ささえ感じるその声は、でも堪らなく興奮する。こんなの、耐えられるものか。
「あ、はっ……い、出ま……すっ」
許可をとる暇もない程に呆気なく、俺は射精していた。先輩の手を汚し、飛沫を飛び散らせながら。
それでも先輩の手は止まらない、残りを扱き出すように動いていく。誰かにしてもらうなんて、考えた事も無かった。こんなにも、凄いなんて思わなかった。
「ごめ……なさ……っいぃ……」
「? 謝る事じゃないでしょ、大喜くんは気にしすぎだよ。……そりゃスマッシュもこれくらい速かったら良いのにね、とは思ったけど」
う。この人どこまで本気なんだろう。
全部なのかもしれないけど。
「それに、まだ大丈夫だよね? 続き、しないとさ」
続き。それは、つまり。
この先にある行為は、一つしかない。
それを示すように床へ腰を下ろした先輩は脚を拡げ、そして――そのオンナノコをも、指で開いて見せた。
小さく聞こえた粘りけの有る水音は、溢れてくる何かは、明らかに風呂上がりの汗なんかじゃない。
話で聞いた、「濡れる」というヤツではないか。恐らくは。
「んふふー、分かるかなー? ここに入るんだよー?」
まあ私も良く分かんないけどさ、と笑顔の先輩。
頭の奥は甘い熱に痺れ、これが現実かどうかさえ分からなくなっていく。ただ色濃く残っているのは、たった一つの衝動。ここに入りたい、という本能だけだ。
覆い被さるように身体を寄せて、拡げられた肉の谷間へ先端を押しあて。そのまま、――力を込めていく。
柔らかく湿った肉に挟まれ、絡み付かれるようにして内側へと呑まれていくのが見える。まるで千夏先輩に、喰われていくようでさえある。
進む毎に内面が少しずつ変わっていく、吸い付くような快感に意識まで蕩けていく。
そして二人の腰と腰が、完全に密着した。
俺はもう根本まで先輩の内側に包まれ、完全に見えない。突き上げた肉の感触はきっと、一番奥。千夏先輩の最深部に、触れている。この先は、何よりも神聖な場所。先輩の――。
そこまで考えた瞬間、背筋に冷たいものが走った。このまま射精したら、どうなるか。この奥を、先輩の子宮を、汚す。取り返しがつかないことになる、その予感に一瞬腰を引きそうになった俺を、先輩の中は強く締め上げた。逃げないで、と言わんばかりに。
「あ、やめ、出ちゃ……」
「良いよ、このまま。私は平気だから、ね?」
その一言は、余りにも予想外すぎた。呆気ない許可に身体は勝手に反応し、頭を無視して一気に本懐を遂げていく。
「あー……、なんか出てるね……。スゴいなぁ、これ……」
うっとりした顔の先輩にしがみついたまま、俺の意識は暗がりへと溶けていった。
あの後先輩が話してくれたのは、部活に影響を出したくないからずっとピルを続けていると言うこと。それが良いことなのかどうなのかは俺には分からないけれど、引退するか何かでピルを止めない限りは妊娠する事はまず無いんだとか。そう言ってくれると多少は気が楽になったけど、でもそうなると逆の事も考えてしまう。この人に、俺の子供を身ごもってほしい。そんな罰当たりな事を。
まあ、そんなことになったら俺たちは揃ってお仕舞いなのだけれど。
それからは毎日のように先輩は俺を求めるようになり、嬉しいけど結構その、困る。下手をすると母さんたちにバレそうなのに、声を潜めるとかそういうのに無頓着過ぎるんだこの人は。
その極みが、今みたいに学校でしたがる事。
とは言え目の前で揺れるお尻を前にして我慢が効く程、俺は冷静ではない。
「っふぁ……来た来たぁ……」
今まで何度したか分からない、でも何度しても気持ち良い。先輩の声を聞きながら入っていく、この瞬間は頭が壊れそうになる程に気持ちいい。
後ろから入ると顔が見えないけど、でもその分腰を掴んで強く突き上げることが出来る。どっちが良いか、とかは分からない。どう入ろうと、先輩の中が気持ち良い事は変わらないから。
「ぅあっ、あぃぁ、~!! い"、もっどぉ、激し……!!」
激しく喘ぐ先輩の声は、我慢とかそういう配慮を完全に忘れている。バレたら停学どころじゃ済まないのに、この人は本当に勝手でワガママだ。まぁ、千夏先輩だから仕方ないけど。
俺はまだ、この人を理解しきれていない。この先もきっと、驚くことばかりなんだろう。
それで良い。それが良い。
先輩だって、俺を全部知っている訳じゃないんだから。
これからわかりあっていこう、きっと俺たちはずっと一緒だから。
そんな思いにかられながら、背骨を貫く衝動に身を任せ、先輩の奥へと精液を注いでいく。今は意味がないかもしれないけど、いつかは――
「っうー……。お腹いっぱいぃ……」
幸せそうな声を味わいつつも、俺は再び腰を動かしていく。どうせこの人は一回じゃ満足しないんだ、動ける限り動き続けよう。大好きな先輩のために。
「やー……怒られたねえ」
「ですねえ」
二人揃って帰りが思いっきり遅くなった事を母さんにお説教され、俺たちは部屋で項垂れている。まああんな生臭いじゃ帰れないけどまさか学校のシャワー室も使えないし、水で一旦形だけ身体を洗ってから近所の銭湯に駆け込んだ時には既に20時を回っていたのだ。
まあ、それは怒るだろう。秋になって部活も一段落したこの時期にこんな遅くなって、しかも服は洗濯の暇がなくてドロドロ。俺が親なら殴ってるな。
「ねね、大喜くん。ご飯も食べたし、一汗流しませんか」
……懲りもせず可愛い顔で俺を脱がせようとする先輩に、思わず苦笑してしまう。
この人には、敵いそうも無いな。
どんなに考えたって、通じるはずがない。器が大きいのか底が抜けているのか、俺では理解しようもないんだな。
なるように、なるしかない。それはきっと、幸福だから。
先輩にキスしながら、考えることは一つ。この日々が、続きますように。