足元にライトを照らして歩いていると、後ろから犬が追いかけてくる気配がした。やっぱり匂いを辿っているんだろうか、私はちょっと焦りつつも道はさらに暗い森の中へと入っていく。
そこからは少し道もなだらかになっていて、悪路に足を取られる心配がなくなったことでより歩を速めていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
息が上がるけど、足は止めない。すると痩身の猟犬たちももしかしたらあの一匹を私が殺しちゃったせいで、警戒されてるのかもしれない。立ち止まらずに歩を進めていると、襲ってくることなく後をつけて様子を伺う、もしくは立ち止まった時を狙っているのかもしれない。
「あ、あれ……?」
しかし、数分くらい歩いていて、ふと気づくと犬の気配はなくなっていた。諦めたのかな、立ち止まって振り返ってもつかず離れずの気配だったあの足音と息遣いは聞こえてこなかった。
「……助かった……?」
でも、不気味な気配がする。何か害意めいた……そう、あの時のローブ男が私を犯すために入ってくる時のような害意がある。森の中だからきっと朝が来ても暗く、視界が悪い空間だ。慎重に進んだ方がいいかもしれない。
私は、周囲を見渡しながら、降りるであろう道を歩いていく。だけど、道がなだらかになっている代わりに降ってる感じが全然しなくなってしまった。
「静かだな……」
この静寂の空間に音はすごく少ない。風で森のざわめく音くらいだ。生き物の気配っていうのかな、そういうのが少ない。よくよく考えると虫の鳴き声も、聞こえてこない。
虫は苦手だけど、こうなると余計に不気味に感じてしまうよ。
「……なに?」
──ちょっと立ち止まったその時、ガサガサと何かが草木をかき分ける音がする。自分の心臓の音が強くなる。間違いない、さっきの猟犬の音と同じだと思う。森を回り込んできたんだ。そう思って身構える。襲われるくらいなら、犯されるくらいならと覚悟を決めてスタンガンを構えた。
「バウ、バウッ、ギャッ──!」
「な、なにが……っ!?」
それは──断末魔のような声だった。草をかき分けて近づいてくる足音がしたと思ったら何かに吠えてその声は聞こえなくなった。好奇心か、なんなのか、恐る恐る前に進み、ライトをそちらに向けると、そこには恐ろしくて理解できない状況だった。
「ひっ……なっ、なにこれ」
樹の間に犬が、何かにぐるぐる巻きにされて宙に浮いて──ううん、蜘蛛の巣に引っかかってもがいてる。蜘蛛の巣、うん多分蜘蛛の巣だ。大きすぎて、猟犬すらも絡め取ってキバで絶命させてしまえるほどのサイズの蜘蛛が張ったものだけど。そして、ここはその蜘蛛のテリトリーだって理解した。理解した方が早かった。
「きゃ……!」
何かが降ってきて、咄嗟に地面を転がる。ううん、何かなんて曖昧な危機感はもうなかった。この巣を張って獲物を待ち伏せてる狩人だと私は理解していた。
「……う、気持ち悪い……」
ライトに照らしたその毛むくじゃらの足は私が知ってる一番大きな蜘蛛なんて比較にならないほど大きくて、全長は私の身長とほぼ変わらないくらいの大きさだった。
蜘蛛はそのまま私の方は確認することなく、じたばたともがいて、だけど段々と息ができないせいか動きに元気のなくなっていた猟犬の方へと糸を伝って這っていく。
──その後で何が行われているかなんて、見たくもなかったから私はその場から走り去った。
「あれは、あれだけは、嫌……!」
森にある害意の正体は間違いなくあの巨大な蜘蛛だ。あれが、ローブ男と同じような害意を含んでいると感じるだけで寒気がした。なんで、どうして、そんな疑問なんてもう飽きるくらいしたけど、あんなありえないような巨大な虫に捕まっても、食べられるんじゃなくて、犯されるんだ。あのローブ男が、何かしたのか、逃げられないようにそうしたのかわかんないけど。
「はぁ、はぁ……っ」
しばらく走って、走って、力が抜ける。身体が熱い、なんで。
ぞわぞわする。肌が敏感になるような感覚、私がよく知ったあのお香を嗅いだ時の感覚だった。
もしかして、あのローブ男は、蜘蛛のナニカから──例えば糸からとかそういうところからあのお香を作り出していたとしたら?
「……ん♡ やだ、濡れて……あっ♡」
おそるおそる指で触れると、ショーツは既にシミを作っているみたいだった。そして指で触れた瞬間に、甘い痺れが身体を駆け巡った。
糸には触れた、蜘蛛から発せられる匂いとかだったならすぐわかるから違うと思うけど。
「やだ、指、気持ちいい……もうちょっと、ちょっとだけ、っあぁ♡」
こんな衝動、自分でも抑えたい。抑えたいのに、抑えられない。あの匂いとともに、あの肌全部が気持ちよくなる感覚と一緒に味わった、心が壊れるくらいの快楽がもう頭から離れない。本当は、猟犬におちんちんをこすりつけられた時も、すごく発情してた。また言いなりになって犯されるのが嫌って気持ちと殺してしまった恐怖でなんとか鎮まっていたけど、そこにお香の成分が加わってしまうと。もう、自分の性欲のタガが外れてしまう。
「ほしい、ほしいよお……もっと、もっとおっきいの♡ っあ、あん、あっ♡」
ショーツをズラして直接指をこすりつけ、膣内に入れていく。快楽に溺れつつも、私は本能で警鐘も鳴らしていた。あの蜘蛛に見つかるのは危険だ。捕らえられたら犬の時みたいに咄嗟に抜け出せる確率がすごく低い。その前に、こんな風に発情して、えっちしたくなって、そのまま何も考えられなくなっちゃうんだから。
「ん、あ、あっ、あっ、んぅ──っ♡」
ビクビクと頭のてっぺんまで気持ちいいのがきて、私はその場で絶頂した。一気に体力が削られるような倦怠感が私を包む。でも、一回イッたことで、欲求の波が鎮まっていく。
「はぁ……はぁ……♡ ん、しょ……これ、危ない」
糸や蜘蛛には気をつけなきゃ、でも追手の猟犬がいなくなってくれたことで、ちょっとだけ腰を落ち着ける時間的猶予ができたのはラッキーだった。絶頂の余韻に浸って、息を整えて、また冷静になれるだけの時間があった。
「……ここにも」
巨大な蜘蛛は通常、樹のもっと高いところで獲物を待ち伏せているみたい。目は悪いから光を当ててもあんまり反応はしないけど、その分振動には敏感だった。特に糸を揺らしてしまうと必ず地上に降りてきて、獲物が掛かっているのかを確認しにくる。
そしてなにより獰猛で、狡猾な
「あ……ここなら、大丈夫そう」
そうやって蜘蛛に気をつけながら歩いていると、また小川の近くの木の少ないところに出た。ここなら、蜘蛛の影響もないし、大丈夫そうだと思って、ドロドロだった身体を清めて、ライターを使わせてもらって枝葉なんかを集めて服を乾かした。
「はぁ……やば、もう……眠気が」
──安全だと判断したせいか、走った疲れからか、カバンに入っていたブランケットに身を包んで、浅い眠りについた。でもこの睡眠は思っていた以上に大切だったみたいで、起きた時はちょっとだけ、すっきりした気分だった。
「そういえば……お腹、減らない……なんでだろ」
暗い森の朝を迎えて起きた時に気付いた。眠気は、疲れたせいかあったけど、お腹は減ってなかった。あの駅の降りた時に感じた喉の乾きもない。よくよく考えればあのローブ男には体感的に何日も、一週間以上くらい凌辱されてたのに、お腹が減ってなかった。
「考えててもしょうがない……よね、ラッキーって思わなきゃ」
飢えてたり乾いていたら、とっくに餓死していた。私の身体はまるで時間を止めたみたいになっている。違うのは体力と身体の汚れくらいだろうか。それも、外部の影響を受けてるからだと思う。身体を洗わない汚さとかじゃなくてドロや……精液とかの影響が強かった。
「こういうのって、川を降れば……いいんだったよね?」
遭難した時のセオリーみたいなの、何かで見た気がする。それをとりあえず信じてみて、私は、川の流れる方向に沿って道を行くことにした。
──余裕が出来たから休みながら歩く。何度も、いつまでこんなことしなくちゃいけないんだろうと頭の中で考える。目をつぶると思い出したくもない凌辱の記憶がフラッシュバックする。そして、その度に私の身体はあの容赦のない快楽を求めて疼いていた。
「……ほしく、なんて……ない……」
頭を横に降る。でもさっきまで喉なんて乾かないって思ってたはずが、まるで喉が乾いたみたいにカラカラになる。
嫌だったはずなのに、何度も何度も強制的に快楽を与えられたせいで、私の身体はとっくにおかしくなり始めていたことに今更気付いたのだった。
「はぁ……はぁ」
頭の中で何度もあのローブ男との行為が繰り返される。私の身体からあふれるくらいに何度も何度も射精をされて、何度も何度も絶頂させられて、口は身体に垂れるくらい出された。顔にも掛けられて、逃げられないという諦めがいつしか、逃避としてその行為を求めるようになっていた。
「う……私は、私は、帰るんだ……もう、戻らない……!」
それでも意地でも帰りたいと思えるのはきっと、私だって少しは変わったからだ。モニカのみんなに、バンドを通して香澄さんや他のみんなを見て、変わりたいって思ったからだ。
──頑張った後にある達成感を、今の私は知ってるから。
「はぁ……ここ、から」
そんな風に快楽の誘惑を振り切った私は、再び森の中に入っていく。川はどんどん細くなって、その分地面がぬかるんでくる。そこから急激に下り坂で、下には湖のようなものが見えた。
「きゃ……これ、危ない……よね」
ぬかるんだ急勾配、そこで転がった先に岩なんかがないとは言えない。身体に当たるだけでも致命傷になりかねない。幾ら身体の時が止まってるようだと思っても、外的要因で傷つくのは知ってる。のしかかられた爪の跡や、あのローブ男に首を締められた時の苦しさは大丈夫だなんて言えるようなものじゃなかった。
「迂回、した方がいいよね」
急がば回れ──森を迂回すれば、それは確かに危険があるかもしれないけれど、近道で安易に転がって死ぬ方がもっと危ない。少し探索するとぬかるんでない、かつ緩やかな下り坂として使えそうなルートもなんとなく見えてきた。こんなところでサバイバル的な能力が上がるなんて、ちょっと苦笑いしたくなっちゃうけど。
「……でも、道がどうなってるか先まではわかんないし……また陽が暮れたら」
眠るのは正直、怖い。頭の中で疼く快楽の記憶がいつまた私をおかしくするのかもわからない今の状態で待つという選択肢はないに等しかった。
──急勾配を下るか、それとも森を迂回するか。私はどちらの方が安全かを決められずにいた。
選択肢①:ぬかるんだ急勾配を下る。
選択肢②:森の中を迂回する。
あなたならどっちを選ぶ(最新話の分岐)
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選択肢①ぬかるんだ急勾配
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選択肢②森の迂回路