荒い呼吸と甘ったるい匂い、そして不規則に響く淫靡な水音と金具が揺れる音が静まり返った音楽室を侵食し、満たして揺蕩う。窓から差し込む赤みを帯びた陽射しがポツンと置かれた
長机の上で折り重なるふたつの影を紅く染め上げていた。銀髪おの少年が青みのかかった銀髪の少女の上にのしかかり、犯していた。少年の肩まで抱え挙げられた少女のか細い片脚が衝撃に耐えるように時折つま先まで力が入って伸び、小刻みに震える。無理やり押し広げられた淡い色の花弁に凶悪な雄が突き刺さり、ジュブジュブと体液の混じり合う音を立てながら抽送している。激しく行き来する度にどろりと粘り気を帯びた白い液体が結合部から溢れ出た。
「声っ、上げろてみろよ·····っ。僕以外、誰も·····っ、聞いてない、からさ·····っ」
「·····」
少年が結合部を突き上げながら下に組み敷いている少女を息荒らげに皮肉げに見下ろす。少女は固くまぶたを閉ざし、声を出すまいと歯を食いしばっている。少年の腰元からぶら下がるベルトの金具が揺れてカチャリ、と硬い音を立てた。
「はっ、そんな顔しても」
一旦動きを止めて、少年が少女の顔をのぞき込む。その燃えるように紅い瞳は情欲と憎しみで煌々と輝いていた。
「僕をきつく咥え込む、グチョグチョのここは正直だよね·····っ!」
少女の腰を浮かさんばかりに子宮の奥底まで勢いよく擦りあげると初めて彼女の唇から悲鳴じみた喘ぎが漏れ出る。先程とは打って変わって少年はその声を愛おしげに塞ぐ。そして楔を打ち込むように、繋がっている部分を更に強く押し付けると体を大きく震わせて、彼は絶頂を迎えた。クプッという音を立て、二人の結合部から白い液体が糸を引いて零れ落ちた。
[第1話]
好きってどんな気持ちになることなの?
愛ってなんなの?
恋と愛は違うと人は言うけれど、僕はそう変わらないように思える。どちらも人のエゴじゃないか。
そう思ってしまうのは僕が単に興味ないだけなのだろうけれど。
淡い光を放つ銀色の髪、切れ長の紅瞳。一寸の隙もない、整った顔立ち。
渚カヲルと彼より6つ上の兄は生まれた時から類なる美貌の持ち主だった。彼らの父親は美丈夫とは言えたが、彼らほど眉目秀麗ではなく一般的な日本人の色彩であったし、母親に至っては特に特徴のない、平凡な容姿だった。
そんな彼らの美貌はどうやら北欧の血から成る、隔世遺伝からくるものであったようだ。
気が遠くなるほどに昔、遠い海の向こうから駆け落ち同然に日本へと渡ってきた、女性の。
「ベルラーシ?」
年末年始の親戚の集まりの時だった。
毎年恒例であるとはいえ、人付き合いというものにわずらわしさを感じるカヲルにとってそれは苦痛でしかない。カヲルは彼らを避けて畳の上に横向けに寝そべり、肘杖をつきながら親戚たちの話を半分につまらないテレビ番組へと意識を向けていた。テレビの中で芸人がつまらないコントを披露していて、それが滑ったのか、観客が乾いた笑い声をたてている。
その間も尽きることの無い彼らの話題は次第に家系に混じる異国の血の話になり、その中に出てきた聞きなれない国の名前にカヲルは怪訝な表情を浮かべた。すると、彼の兄が本棚から分厚い百科事典を取り出し、テーブルに広げて説明し始めたので面倒ではあったが、とりあえず座りなおして目を向けた。
「そう。東ヨーロッパにある、世界最北の国。日本の半分くらいの大きさで、国土の多くが森で占められている。絶滅危惧種の動物が多く生息する、自然豊かな国なんだよ。白ロシア、とも呼ばれている」
「ふぅん」
さほど興味なさげに鼻をならし、再びテレビへと向き直っていったカヲルに親戚たちは非難めいた視線を向けたが、すぐに彼を無視して先ほどの話題へと戻っていった。
「ベルラーシは美貌の国らしいんだよ。それこそ人身売買が社会問題になるくらいにね。君らのその容姿はまさしくその血だねぇ」
「あとは性格だね。基本的に穏やかで、情に厚い部分を持っている。君はそんなところも受け継いでいるようだけれども、弟君のほうはねェ……」
最後のほうはやや声を潜められていたが、しっかりとカヲルの耳に届いていて、それが彼を非常に不愉快にさせた。
昔から彼らはそうだった。何かと彼と兄を比較したがる。穏やかで人当たりがよく、なんでも完璧なやってのける優秀すぎる兄。自分も特技のピアノをはじめ、勉強にスポーツ、あらゆる面で周りより抜きん出ている自信はあったが、兄にはいつも一歩及ばない。カヲルは何も聞こえなかったふりをしてテレビへと集中しようと決め込んだが、内容がどうしても頭に入って来なくて、それが一層彼をいらだたせた。
━━━━━━━━━そんな時だった。
「僕の弟が薄情だとおっしゃるのですか」
親戚たちのくだらない会話に割り込んできた、氷のように冷然とした低い、声。 いつもなら穏やかな兄が珍しく感情をあらわにしていた。
カヲルは横向きの姿勢のまま顔だけ向けて彼らのほうを見やったが、兄の表情は見えず、親戚たちの狼狽した表情だけが見えた。
「いやぁ、それは言葉の彩で……」
「薄情だなんて一言もいっておらんよ、なあ?」
「そうそう」
彼らは口々に言い訳を述べながら、視線をきょろきょろとさまよわせて汗をぬぐっている。そんな親戚たちの姿にカヲルは冷めた視線を投げると再びテレビへと意識を戻した。
だが、苛立ちが消えない。
カヲルの兄はいつもそうだった。幼いころからいつもカヲルをかばい、優先する。
カヲルが彼の持ち物を欲しがると、困った顔をしつつも譲る。それがおもちゃだったり、本だったり、筆記具だったりしたが、年の離れた弟が可愛くて仕方ないと言わんばかりに彼は躊躇なくなんでも与えた。
カヲルとしては本気でほしかったわけではなく、半ば嫌がらせのつもりでねだったりしていたので、一度それらを手にするとあっさりと捨てた。それでも兄は怒るそぶりを見せない。眉をハの字にして困ったように笑う。
あいつに何があっても譲れないものはあるのだろうか。
何をされても怒る様子の見えない兄に対してカヲルは密かに臍を噛みながらどうしたら彼を歪める事ができるのかを考える。
彼がカヲルを蔑む人間であったらば、同じようにカヲルも彼を憎むことができただろう。それさえもさせてくれない兄の存在が彼は疎ましかった。
そしてお互いにそっくりな容姿が兄以上に彼は大嫌いだった。
10人いれば10人振り返るような、際立った出で立ち。だが、この容姿のせいでカヲルは女難続きで、整いすぎた顔立ちは彼にとって得一つない、呪いでしかなかった。
カヲルの女難は幼稚園に上がった頃から顕著になった。お遊戯の際はカヲルを巡って女児達が喧嘩をする。保育士達でさえ競い合って彼の面倒を見たがった。極めつけは知らない子に抱き着かれてキスされた事。
生ぬるい唇の感触に嫌悪を覚えて、怒りのまま突き飛ばすと、その子に泣かれ、こっぴどく叱られた。彼のほうが被害者だったのに、誰も彼の話を聞いてくれなかった。思い出したくもないファーストキス。
小学校に上がると更に状況は悪化した。クラスが変わるたびに別の女子に付きまとわれ、そのせいで男子に疎まれ、友達一人できなかった。教師が女性だったりすると、あからさまに贔屓されて迷惑だった。
中学校も同様だった。おまけに大学に入ったばかりの兄の同級生にまで目をつけられ、その結果カヲルと家族は地元に居られなくなった。
家庭教師として入ってきたその女子大生は当初、兄が目当てだったらしい。仲の良い級友だったようだが、兄との関係がなかなか進展しない事にしびれを切らせてきたのか、彼女は当時まだ中学生になったばかりのカヲルに手を出した。
二人きりの部屋で押し倒されたカヲルは晴天の霹靂と言わんばかりの出来事に混乱し、はじめは拒否したが、兄を出し抜きたいという気持ちの方が勝ってしまい、結局彼女を受け入れてしまった。
13歳になる少し前の、夏休みだった。
初めての女性経験ではあったが、残ったのはこんなものなのかという落胆とつまらないという感情だけだった。そして結果は骨折り損のくたびれ儲けだった。出し抜いたと思った兄は級友の彼女に女性としての興味はかけらもなかったのだ。彼女が兄の仲の良い級友でしかないと知ったカヲルはあっさりと彼女から興味を失ってしまったのだが、相手側はそうはいかなかったらしい。
彼女はカヲルに執着して追い回し、俗にいうストーカーと化したのだった。最終的には彼女に階段から突き落とされ、カヲルは大けがをした挙句入院、同級生より1年学年が遅れることとなった。当然、この出来事は傷害と殺人未遂、そして未成年への強制わいせつ罪で警察沙汰になった。
兄の級友には執行猶予が付き、カヲルへの接近禁止令も出たらしい。本来ならば軽すぎる処罰だった。彼女は相当いいとこのお嬢様だったらしく多額の賠償金が出たが、刑は執行猶予に留まった。カヲルの両親と兄は激怒したが、彼女の親は彼らの住んでいた地域の名士でその影響力は大きく、力及ばなかった。カヲルに自業自得の一面もありはしたか、女性のあまりの執着の強さにこのままでは危険だと心配した家族は彼の回復を待って、住み慣れた街を離れることにしたのだ。
━━━━━━新しい街、第3新東京市へと。
そこでカヲルはシンジという少年に出会い、そして彼を通してレイという少女と知り合う。カヲルの兄を巻き込み、苦くて痛い物語が開幕する。
元々は好きなカヲレイ小説書きさんの貞本カヲルと庵野カヲルが同時に存在するカヲレイ小説に刺激を受けて書いてみたくなったお話です。ご本人様からは了承を受けてスタートしたものの、お話が鬱々としたものとなりそうだったので、こちらに投稿しました。