男女逆転世界に転生した俺は、最強のサポート職として成り上がりハーレムを作ります。 作:窓月 弘樹
気がつくと、俺は森の中にいた。
「うわー、すげー綺麗だなー」
森は透き通るような青で彩られ、小鳥たちが楽しげに鳴いている。遠くには湖があり、そこから流れてくる川があった。
コンクリートと電柱ばかりの風景とは大違いだ。
「本当に異世界に来たんだな」
この美しい景色を見ているだけで心が洗われるようだ。
「それじゃあ、まずは街に向かうか」
そう思った瞬間だった。
「キャー!!!」
「え?」
突然、悲鳴が上がった。
いくらなんでもイベント発生が早すぎるだろ!
声の方を見ると、フードを深々と被った女性が2人、成人男性より頭2つほどもデカい、棍棒を持った醜い魔物に襲われていた。
見た目からするとオークだろうか?
「お嬢様に手を出すな。くらえぇぇぇぇ!!!」
女性の1人が叫ぶと、剣を振りかぶって魔物に斬りかかった。
だが、その攻撃はあっさりと避けられてしまう。
「キャッ……きゃあああっ!! 誰か助けてくださいっ……!」
もう一人の女性が叫んだ。
流石に女性が危ない目に合ってるのに放っておけない。
「大丈夫ですか? 今行きます!」
咄嗟に叫んで走り出し、オークと女性の間に立ちふさがった。
……のはいいけど、俺魔法の使い方も何も聞いてねえ!
冷や汗が背中を伝う。
「こいつを食い止めておきますので、逃げて下さい」
とりあえず、必死にカッコつけてみた。
「は、はいっ! ありがとうございます! お願いしますっ」
女性は、そう言うと脱兎のごとく駆け出した。
いや、カッコつけた俺が悪いんだけど、手伝ってくれよ!!
「ブモォオオオオッ!!!」
オークは、獲物を奪われた怒りからか、棍棒を大きく振りかざして俺に突っ込んできた。
俺は、諦めてぎゅっと目をつぶった。
(ああもう……早速セシリアさんの元に送り返されて、3回もエッチを……。いや、エッチはちょっと嬉しいかも……。)
そんなことを考えながら、衝撃に備えて歯を食いしばった。
棍棒が振り下ろされ、俺の頭蓋骨が……。
ごつん。
「いっってええええ!!!!!!」
「フガァ!?!?!?」
まるでげんこつで殴られた時のような、鈍い痛みが俺の頭に走った。
痛いは痛いが……全然死ぬほどじゃない。恐る恐る目を開けると、そこには驚いた表情をしたオークがいた。
「これが……《勇者補正》ってやつか」
ありがとうございますセシリアさん! いやセシリアさま!
「ブモォオオォ……」
オークは明らかに狼惑していた。
これはチャンスかもしれない。
「よし……」
俺は覚悟を決めた。そして、拳を強く握るとオークに向かって突進した。
「どりゃぁぁぁぁ!!!!」
ぼすん。
「あれ……?」
これがゲーム画面だったら「1ダメージを与えた!」とでも出てそうな、情けない音が響いた。
俺のパンチが当たったのはオークの腹の部分で、全く効いていないようだった。
「まさか、防御力補正はあるのに攻撃力補正は無いのか!?」
こんなんじゃ、ただの不審者じゃないか。
「ブモー!」
そんなことをしているうちに、オークが反撃してきた。
「ぐっ!」
ドゴっという音とともに、重い一撃が脇腹に入った。
衝撃は凄かったが、これも生命に影響が出るほどではない。
「くそぉおおおっ、こうなりゃヤケクソだ」
俺は、オークに殴りかかることをやめなかった。
それから10分間ほど、ヒットアンドアウェイを繰り返しつつ無我夢中でオークを殴っていた。
「ぜぇ……はぁ……はぁ」
オークは、既に虫の息になっていた。
「……とどめだ」
俺は、渾身の力を込めてオークの顔を思い切りぶん殴った。
「ふぅ……は?」
オークは一瞬びくんと跳ねたかと思うと、そのまま地面に倒れて動かなくなった。
「やったぞ……勝ったんだ」
ぼふん、という音ともにオークの死体は消滅し、見たこともない赤い宝石が現れた。
まさか、これがこの世界の通貨なのか?
俺は、それを腰のポーチにしまい込んだ。
「あーあー、やっぱりな」
俺は、半ば予想していたことを口に出した。
「まあ、モンスターを倒したら何かしらの報酬があるとは思ってたけどさ。
とりあえずこれが換金かなんかできるんかな」
お約束お約束。
ステータスを確認すると、レベルが上がっていた。
「レベルが5になってる。それにHP、MP、筋力、敏捷性、魔力も少しだけ増えてるな」
ちょっとだけ身体が軽くなった気がする?
いや、気のせいか?
こういうのってどれぐらい実感湧くもんなんだろうな。
「とりあえず、この宝石のことも知りたいし、街に向かうとするかな」
そう呟いた瞬間だった。
「あの!!! さっきのお方!!大丈夫ですか!!」
さっきの逃げていったフードの女性……「お嬢様」を守っていたほうが、フードの下に真っ白な鎧を着て戻ってきていた。
めちゃくちゃ高そうなピカピカの鎧にフードを被って顔を隠しているのは、なんとも滑稽な姿だった。
よく知らないだけで、この世界の正装なのかもしれない
「あのくそオーク! 寝込みを襲われたせいで、男なんかに任せて逃げてしまいました。リリス、一生の不覚!
さあ、オークはどこに逃げましたか!? それか、テレポートアウェイでどこかに飛ばしてしまいましたか!?」
なんか、色んな意味ですごい濃い人だ……。
しかも「男なんか」って。本当にジェンダーが逆転してるんだな。
俺は、オークを殴り倒した疲れを感じてその場に座り込みながら言った。
「もういないよ。オークなら、倒した」
「……は?」
女性は、俺の言葉を理解するまでたっぷり10秒ほどかかってから、やっと口を開いた。
「……今なんと言いましたか?」
「えっと、だから、倒しちゃったんですけどぉ……」
沈黙が流れた。
え、なにこれ、気まずい。
完全に仕事で「なんかやっちゃった」ときの反応だよこれ。
「…………」
「……どうしました? あの、聞こえてますか」
「……いや、すみません。ちょっと理解が追いつきませんでした。まさか、推定レベル20ほどのオークを一人で倒したと?」
「剣すら跳ね返す皮膚を持ってる、オークを!?」
「いやなんか、効かなかったんで10分ぐらい殴って削りきりました!」
また、沈黙が流れてきた。
「……ぷっ、あっはははははは!!」
リリスと名乗る女性は、突然笑い始めた。
「いやいやいや! そんな馬鹿なことあるわけないでしょう!
あなた、頭おかしいんじゃありません!?」
「いやいやいや! ほんとですよ!」
学校で失敗を責められてるときの気分になってきた。
「どうせどこかに仲間がいるんでしょう? 出てきて構いませんよ」
「そんなわけないですよ! 俺この世界に来たばっかりで仲間とかいませんし」
「……この世界に来たばっかり?」
あ、やばい。口を滑らせた。
目の前の女性の顔が、どんどん真っ青になる。
「いや、あの、俺頭がおかしい人とかじゃなくて……」
女性は、ばっと地面に頭を擦り付けると、大声で叫んだ。
「たいっへん、申し訳ございませんでしたあ!!!!!!」
あまりにも手慣れた、キレイな土下座……。
俺、他人から土下座されたの始めてだ。
エロ漫画だと土下座させて喜んでる男とかいたけど、全然うれしくない。
むしろ、めちゃくちゃに気まずい。
「『勇者』様であられるとは!!! 私リリス、夢にも思いませんでしたっ!!!! どうか、お許しください!!!」
「ゆ、ゆうしゃさまぁ!?」
俺は、驚きの声を上げた。
「ええ、ええ、そうでしょう!? 神の使いとしてやってきて、世界を救うために剣を振るう!
まさか男性だとは思いませんでしたが……。
あの! 私なんでもします! なんでもしますので是非我々を……」
目が完全にキマっている。
やばい、このままではなんか祭り上げられてすげえ面倒くさいことになりそうな気配を感じる!
俺は、土下座してるリリスさんを置いて、街が見える方へと逃げ出した。
「……追ってくる様子はないな」
後ろを振り返ると、まだ土下座のポーズのまま固まっている。
「とりあえず、森を抜けてから考えよう」
俺は、ひたすら走った。