男女逆転世界に転生した俺は、最強のサポート職として成り上がりハーレムを作ります。 作:窓月 弘樹
街への道を走りながら考える。
1つわかったこと。
「勇者」であるのを他の人に公言するのはとてつもないリスクが有るということだ。
宝くじに当たった人が調子に載ってそれを言いふらしたら、
その日から色んな詐欺や宗教の人が代わる代わる家にやってくるようになった、という話を思い出す。
金の卵を産むニワトリが最後にどうなるか、なんて小学生でも知っている。
「チートスキルでうはうは生活」なんてのはなかなか上手くいかないものらしい。
決めた。
セシリアさんに「色んな女の子と関わっていけ」と言ってもらった手前悪いけど、
俺はなるべくこっそりと過ごすことにする。
ソロ狩りで異世界ライフを楽しむ事にしよう。
とりあえずは、オーク相手にも楽に勝てるようになるようにレベル上げと装備を整えたい。
「まずは、セシリアさんはの言ってた冒険者ギルドだな」
やるぞ、平和な異世界ライフ!
そう心のなかで叫んで、俺は街への道を急いだ。
◆
「いらっしゃいませ、ようこそアリア冒険者ギルドへ!」
やっと辿り着いた街。名前はアリアというらしい。
活気があって、楽しそうな街だった。
異世界の街と聞いて身構えていたが、もともとどうも旅人や冒険者が多いのだろう。
野菜屋の人に冒険者ギルドへの道を聞くと、快く教えてくれた。
「冒険者登録でお間違いありませんか?」
受付のお兄さんが、爽やかな笑顔で語りかける。
こういうのってお姉さんとかいかついおっさんがやってるイメージだったんだけど、
男の人が出てくるのはちょっと意外。
「はい、冒険者登録をお願いします」
「承知しました。それでは、ステータスを読み取りますので、こちらに人差し指を置いてください」
お兄さんは、そう言うとカウンターの下から真っ白なカードを取り出した。
これが噂の冒険者カードというやつか!
俺は、内心めちゃくちゃテンションを上げつつカードに指を置いた。
パチッ、と静電気のような感覚が一瞬走り、カードにぼんやりと俺の顔と文字が浮かび上がってきた。
「名前は『サトウ ヒロト』様、現在の職業は……『勇者』ぁ?」
「あっ、やべっ」
受付のお兄さんが、驚きのあまり声を上げる。
その瞬間、ギルド内に居た人たちが一斉にこちらを見るのを感じた。
「た、大変失礼しましたヒロト様。つかぬことをお伺いしますが、本当に『勇者』で間違いありませんか!?」
「いや間違ってます間違ってます!!俺勇者とかじゃないんで!!!
俺たちの会話を聞きつけて、剣や杖を構えた女の人達が沢山集まってきた。
「勇者!?」「勇者だって」「ほんもの?」
視線が痛い。
ひたすら陰キャだった俺はこういうのには慣れてないんだよ!
人垣の中から、一人の大柄なおばさんが一歩前に踏み出してきた。
男の俺より背が高く、いかにも「ベテラン」の雰囲気を醸し出している。
周りの人が、畏怖と尊敬の目で彼女を見ていることからも、それが感じられる。
「はじめまして、勇者様。私は『彗星』のリーダー、リンディ」
「こんにちは。はじめまして、俺はヒロトって言います」
物腰は丁寧ながら、「お前をモノにしてやる」といわんばかりのギラギラした目。
俺は、ビビりつつぺこりとお辞儀をした。
「単刀直入に言う。勇者様、我らが『彗星』クランに来ないか?
その格好や姿から推測するに、別の世界からこの世界に呼び出されたのだろう?
ならばうちに来ると良い。この世界の事を何でも教えるし、快適な衣食住も提供する。
話し相手や伽の相手が欲しいなら、ウチの若いのを何人かあてがってもいい」
リンディを取り巻くように見ていた人の空気がぐっと緊張する。
嬉しそうにしている人もいれば、悔しそうにしている人もいる。
これは、あれか。
「勇者」がもたらす力はみんなわかっていて、既に政治が始まりつつあるということか。
はっきり言って、そういうのに全く興味がない。
さっさと楽しい冒険を始めたいのに、いきなり「取り合い」みたいな事に巻き込まれるのは嫌だった。
正直、右も左も分からない状態なのでリンディの提案に魅力を感じないことはない。
だけど、着いていったが最後、家畜のように飼い殺されるような未来しか見えない。
あと、正直言うとこのゴリラみたいな体格の人に犯される事を考えると割としんどい。
ラブラブエッチとか絶対しなさそうなタイプだもんな……。
「すいません。お言葉は嬉しいんですけど、お断りします」
「……何が欲しい?」
リンディが、完全に「交渉」の目をして俺の顔を覗き込む。
「何も要らないです。一人で冒険がしたくて」
「なるほど。でもね、勇者様。勇者様の世界ではどうだったか知らないけど、この世界で男が一人で冒険するのは無理だよ」
「無理なんですか!?」
「ああ無理さ。この街の外には、女2人で掛かってやっと倒せるようなモンスターがゴロゴロしている。
見たところ、勇者様はそんなに力が強いわけでもなさそうだし、魔力も感じない」
「それは」
そんなことはない、と言おうとしたが、実際のとこそうだったので何も言い返せなかった。
「だから、私と仲間がしっかり守ってあげるし、行きたいところがあるなら連れて行ってやる。
食べたいものがあるなら何でも取ってくるし、ウチのコックは優秀だから、勇者様の舌の好みに合うものも作らせる」
あげる、やる、らせる……じゃないんだよな。
俺は一人でのんびり冒険してえんだよな。
なるほど、この世界の事がちょっとずつわかってきた。
気に食わねえ。
俺は、ポーチに手を突っ込んで赤い宝石を取り出した。
リンディは、それを見ると目を丸くした。
「これ、俺はよくわからないんですけど、オークを倒したら出てきました」
「なに!? オークを、倒した?」
「ええ、俺、結構強いんですよね。だから、クランとかどうでもいいんです」
周囲の女性たちがざわめく。
リンディは、しばらく押し黙っていたが、ぱっと邪悪な笑顔になった。
そして、次の瞬間、目にも留まらぬ動作で俺の懐に入り込み、身体を担ぎ上げた。
「うおわあああ!!!!!????」
「まさか勇者様のチカラがそれほどまでとは思わなかった。
それなら多少強引な手を使ってでも、我々のものになってもらう」
「離せ!」
「おら、お前ら。勇者様がお疲れだと言っているぞ。みんなで休ませてあげなきゃなあ!」
じたばたと虚しい抵抗をするが、リンディの鍛え上げられた筋肉と鎧の前には無力だった。
リンディは、俺を抱え上げたままのっしのしと歩き出す。
その後から、彼女の仲間と思われる人たちがついてくる。
くそぉ……とりあえず今は一旦捕まって、うまいことスキを見て逃げ出すしか……。
リンディが冒険者ギルドの扉を開けようとした瞬間、彼女の前に一人の女が立ちふさがった。
「そこの野蛮人。勇者様を放しなさい」
この声は、リリスか?
「なんだぁ、お前は? いきなり人を野蛮人扱いとは」
「おいてめえ! リンディ様になんて口効いてんだ!」
「ぶっ殺すぞ!」
「ナニモンだてめえ! フードを取りやがれ」
次々と怒号が飛び交う。
そりゃそうだよ!
オークにすら勝てなかったんだから無理だって!俺のことは良いからさっさと逃げてくれ。
リリスは、一瞬ためらったような手付きを見せたが、真っ黒なフードを脱ぎ去った。
彼女の素顔が曝け出された瞬間、怒号は鳴り止み、全員が口を噤んだ。
真っ白な髪に黒い肌、青い瞳。
リンディに向けられた尊敬の沈黙とは真逆の、軽蔑と排除の沈黙だった。
「てめえ、マガリかよ」
「アリアの野蛮人は口の効き方もしらないのだな。
もう一度その蔑称を口にしてみろ」
「口にしたら何だってんだ?」
リリスは、両手に短剣を構えて臨戦態勢に入る。
「ロックイヤー家の名前に掛けて、お前を殺す」
「へえ、面白い。やってみろよ、マ――」
「辞めましょうよリーダー!!!」
挑発に乗ろうとしたリンディを、ナンバー2と思わしき彼女の付き人が食い止めた。
「魔種の人間に手を出したら、何をしてくるかわかりませんよ!
ほら、なんかあいつら呪いとか掛けてくるらしいですし」
「そうですよリーダー! こんな奴ほっといて行きましょう」
リンディに対する怯えもあるが、それ以上にみんな、リリスのことを恐れていた。
「……チッ。どけよダークエルフ。俺は勇者様をクランに案内してあげるところなんだよ」
「どかない。案内だと? どう考えても誘拐にしか見えない流れだったが。
そうやって自分の横暴を貫き通すのが『彗星』のやり方というわけか」
「人聞きが悪いな。力のある人間が力を有効に使って世の中を良くするべきなんだよ」
俺を挟んでバチバチの丁々発止が行われる。
正直早く下ろしてほしいんですけど!
「力が正義と言うなら、力ずくで止めさせてもらうおうか」
「いいぜ、一瞬で切り刻んでやるよ」
リリスが、短剣を改めて構える。
決闘の気配を感じて、リンディの周りの人間が二人を取り囲むように離れていく。
リンディは、俺を床に下ろすと、腰の剣を抜いた。
それを見るやいなや、リリスは大声で叫んだ。
「今です! お嬢様!」
全員がわけがわからず唖然としてしていると、人混みから一人の女の子が出てきて俺の手を引いた。
「走って! 逃げるわよ!」
「えっ!? わかった」
「おい、何やってんだてめえ!!!」
瞬時に状況を把握したリンディが怒号を上げる。
「そこだ!」
リリスは、リンディが『お嬢様』に気を取られた一瞬の隙に、素早い足技で剣を蹴り飛ばした。
(すげー……)
リリスの神業に見とれながら、『お嬢様』に手を引かれて俺は冒険者ギルドを後にした。