しばしの間意識を失っていたあなたは、いつの間にか自室のベットに仰向けに寝かされていた。このベットは大修道院で一般的に使用されており、あなたにとっても非常に身近な物である。シーツが少しごわごわしているのが特徴で、教師として赴任した当初は傭兵あがり故、独特の心地良さになかなか慣れないものだったと懐かしむ。
あなたは久しい寝台の感触に思わず浸りたくなる気分だったが、今はそれどころでは無かった。
「ふふ……先生」
あなたを呼ぶ声が横から耳をくすぐる。同時に、自分が何者なのか忘れてしまいそうになるほどの情動があなたを包み込もうとした。それを何とかして振り切ろうと、あなたは事を起こしたであろう張本人──イングリットに対して問い詰めようとするが、身体が思うように動かない。
「お茶に一服盛らせて頂きました。およそ一晩で解けてしまう軽いものですから安心してください……」
あなたは己の身より這い出てこようとする熱を何とか抑えながら、およそうわ言に近いものをイングリットに対して発する。全く言語として成立していない言の葉を、虚空に投げ続けるその様子は傍から見ればきっと情けない物に違いない。
「何をするつもり、ですか……? 先生、寝台で二人の男女がする事といったら一つだけですよね?」
イングリットは諭すようにあなたに呟く。
あなたはそれを聞いて、何かの手違いが起こって冗談となる可能性もあるのではないだろうかと一抹の光明に縋ろうとするが、あなたを捉えて離そうとしない瞳が全てを物語っていた。
「人払いは前もって済ませてあります……邪魔するものは何もありません……」
あなたを愛おしそうに見つめてくるイングリット。その瞳から、彼女が言わんとする事が、何一つ分からないあなたでは無い。しかし余りにも唐突であり、普段誠実で実直だった彼女がそのような凶行に及んだ事に対して、あなたは極めて狼狽し、そのまま硬直してしまっていた。
「む……そのお顔、あくまで分からないと通しますか……」
固まったまま肯定も否定も返さないあなたに対してイングリットは、この場をやり過ごすために無知の子供の様に素知らぬふりをしているのだと受け取った。
「……ならば、先生に理解して頂くために、行動に移す事にしましょう……」
イングリットはその囁きを皮切りに、あなたが寝ている寝台へ跨るようにして登り、そしてそのままあなたに馬乗りとなった。薬の効果から満足に身体も動かせないあなたは、必然的に彼女を下から見上げた形で向かい合う事となる。
「……先生、ご覧ください。私の身体を……」
あなたとイングリットは元教師、生徒間という枠組みの中での話だが、親しい関係なので、お茶会といったような二人だけで会う場ならば、当然の事ながら鎧といった防具は必要とされない。故に、イングリットは軽装であり、彼女の行為を阻害する物は何一つとしてなかった。
衣擦れの音と共に衣服を取り除く動作が迅速に遂行されていく。そこには一切の淀みも無い。
やがて、彼女の裸体があなたの目の前に露わとなる。
「どうでしょう……? 人並み程度ですが……」
イングリットから目を反らすという選択肢は最初からあなたには無かった。
彼女の身体は色白できめ細やかで、引き締まった肉体でありながら、そこにはしっかりと弾むような瑞々しく凄艶な女性としての丸みを残していた。ひとえの彫刻の様な傷一つないその身は、人並みという言葉だけでは表せないほどの神秘的な物で、あなたの情欲を大いに奮い立てる。天馬騎士として常に最前線で戦わなければならなかった彼女の身体には傷跡の一つや二つ付いてても不思議ではないのだが、大事に育てられた箱入り娘の様に全くもって見当たらない。それは彼女が一撃離脱の手慣れだった事の何よりの証なのだろうか。
「や、その、まじまじと見られると流石に恥ずかしいですね……」
イングリットの恥じらいの情と相反するように、彼女の肢体が揺れ動く。それと同時に火照りからか彼女の頬から流れ落ちた汗が、彼女の首筋を過ぎ、鎖骨を辿り、乳房の間を通り、下腹部を抜けて、あなたの身体へたどり着く。意図せずとも訴えかけるように自己主張する彼女の妖艶さを、あなたは余さず脳内に刻みこんでいく。
「先生……これでも、まだ……分からないと仰るんですか?」
あなたを見つめながら甘く囁くイングリットの言の葉に、感情よりも先に身体が反応した。
「……っ! 先生、これはその……」
イングリットは丁度あなたのモノの上に跨っていた。よって、何か一つでもあなたの身に変化が起これば、彼女の身体を通してすぐに察知される状態となっている。
「先生……薬の効果もあるとはいえ、私で興奮して頂けて嬉しいです……」
変化を悟ったイングリットは少し後ろに下がり、嬉しそうに服の上からでも分かるほど大きくなったあなたの怒張を一心に撫でた。すぐにそれだけでは満足できなくなったのか、あなたの下半身はあれよあれよという間に彼女によって剥かれてしまう。あなたを守る砦は難攻不落のメリセウス要塞の様にはいかず、あっさりと陥落してしまった。
「先生の、ここ……こんなにも強張っています……」
イングリットの痴態によってすでに血管が浮き出るまでに張っていたあなたの怒張を、彼女は興味深そうに見つめている。これから何が起こるのか、あなたにとって想像は難くない。彼女の一挙手一投足、全てが今のあなたにとっては危険なものとなっていた。
「すぐにその……するわけにはいかないから……まずこうやって、刺激を加えるんですよね……」
一度入り込んでしまえばなんのその。イングリットはそのままあなたの怒張に手を使ってゆっくりと愛撫を加えていく。彼女によってこれからもたらされるであろう甘い快感に、あなたは咄嗟に身構えるが──
彼女の動きはどうにもたどたどしかった。
「ええと、こうすればいいんですかね……あれ?」
イングリットはあなたの上で、ああでもないこうでもないと書庫で課題に苦しむ学生の如く悩みふける。そんな彼女の様子を見て、あなたは一つの懸念を抱く。
もしかして彼女は男女の交わりを表面上の事しか知らないのではないのだろうかと。
前段階、いわゆる前戯というやつをどうすればいいのか分からず、あたふたしているのではないかと。
杞憂であれば何よりだったが、そんなあなたの懸念事項は予想を外れなかった。
「え、えい……! こうですかね……?」
男性器の中で色的に一番目立つであろう亀頭を重点的に揉んで刺激を与えようと試みているが、加減が上手くいっていない。恐らく彼女の思考の中では、ここは快楽を得る為の性器というよりも、攻撃されれば命に関わる急所としての認識の方が強いのだろう。そのせいか、力が余りにも弱められすぎていた。不器用な手で与えられる細やかな刺激というのもそれはそれでいいものだが、あなたにとっては少し物足りない。男性器を上手く刺激してくれと言われても、初見だと難しい話なのは当然の話なのだが。
焦らされていると言えなくも無いもどかしい攻めに、あなたの思考は悪いベクトルへ向かって行く。どうにかして己が望む一番の快楽を享受したい。そう、普段ならばとても考えない様な悪い方向に。まるで最初から、それが自分の意思だったと言うかの様に塗り替えられてゆく。
そんな悩める子羊であるあなたに、ふと主から天啓が降りた。
教師として、あなたが導くのだと。
「裏をなぞるように……でしょうか」
あなたはプライドも矜持も何もかも捨て去り、ただ目の前にある快楽の為だけに──身を動かせないままでも、言葉で『生徒』に対して道を示していった。最初はあなたに指示されるがままだったイングリットも、あなたを気持ちよくしたいという一心で、貪欲にあなたの教えの全てを吸収していく。それによってぎこちなかった彼女の動きは、次第に緊張と共にほぐれていった。カリ首を下から刺激する様に攻めてくれだの、亀頭を少し押しつぶす様に攻めてくれだの、士官学校時代に他の教職者に聞かれれば即懲戒免職ものの指示も、彼女は何なりと受け入れた。そして、ついに彼女はあなたの想い描くままに大成したのである。
「なるほど、こうして扱うのですね……」
傍から見れば、己の性感帯を教えているに過ぎなかったが、あなたの個別指導によってイングリットは見事、あなたに対する攻めの才能を開花させた。教え導く者としての才覚がこんな所で発揮されるとは……と、あなたは悲しくなった。
そのため、僅かな間あなたはなんとか正気に戻ったが、努力も虚しく快感の波にすぐに押し戻される。
「先生、気持ちいいですか……? ふふ……お顔を見ていれば分かります」
早速、会得した技を武器にしてイングリットはあなたを攻め立てる。彼女から与えられる快感は、あくせくしていた時とは比べ物にならないほどじっとりとしていて、まるで蛇の様にあなたの身体を縦横無尽に這い回る。それでいて時として繰り出される緩急の差は、依然彼女があなたの気持ちいい所を探し出そうとしているからだろうか。
「こんなに、いっぱい……」
繰り返される一方的な攻めの末、彼女の手はあなたの先走りによってベタベタになってしまった。彼女はその手で、閉じては開きを繰り返し、糸が曲線の橋となって指の間に架かるのを愛おしそうに見つめている。
かつて教え子として見守り、目にしてきた彼女が持つ喜怒哀楽の一面。そのどれにも当てはまらない淫靡な表情に、もはやあなたの理性は決壊しかかっていた。
「身も心も、先生のも……すごく熱くて、私は……んっ……」
イングリットはあなたの先走りでまみれた手をそのまま、ほぼ無意識のうちに自身の秘所へと伸ばし快感を貪ろうとした。数少ない彼女の理性の表れなのか、下半身の衣服がその行為を途中で邪魔するが、鬱陶しそうに彼女はそれを捨て去る。
興が乗っていたのか、彼女の秘所は既に溢れんばかりとなっていた。
「あぁっ……先生っ……!」
生まれたままの姿となったイングリットは、彼女の熱で生暖かくぬめったそれと、あなたのそれをぬちゃぬちゃと混ぜ合わせる。彼女は切なそうな表情をしながら、秘所を弄ぶその指をあなたの分身と見立てて、ただ情欲の行く末に身を任せていた。
彼女の手に纏わり付く銀色の糸が元々どちらのものだったか、もう今となっては分からない。
やがて思いのやり場を失った彼女は、容赦なく己が持て余す程の情欲をあなたへ向けた。
「んぁっ……いけません……私一人だけで気持ち良くなっては……」
イングリットは虚ろな目をしながら、それでいてあなたをしっかりと瞳の奥で捉えていた。もうあなたの身体の全てを知り尽くしたと言わんばかりの彼女は、その先にある終着点に恋い焦がれ、求めて、あなたを更に貪ろうとする。
「もう、抑えきれません……。先生……私に、お情けを下さい……」
これ以上、となるとそれはたった一つ。いわゆる子作りに準ずる行為だけ。そんな現実を噛み締める間もなく、イングリットはあなたの怒張をならして、己の秘所にあてがおうとする。このままではきっと、数秒後には、彼女と溶け合っている未来が待ち受けているだろう。
個別指導しといて今更なんだという話だが、かつて可愛がってきた教え子と
あなたは最後の力を振り絞って、イングリットに訴えかける。
「……やはり、これ以上は駄目と申しますか……」
あなたの必死の呼びかけに対して呼応したのか、それともある程度予想していた事だったのか、イングリットは導こうとする手を、事が起こる寸前で止めた。
「……先生、あなたは……素敵なお方です。どことなく人を惹きつけるその魔性の魅力に、沢山の人が虜になってきました。それは、あなたが女神の力を失った今でも変わりません。そして、私も……」
イングリットは事の始まりからずっとあなたに向けていた目線を、初めてあなたから反らした。それは知られたくない含みがあったからなのか。
あなたには分からない。
「先生。私はあなたと共に在りたいのです。病める時も、健やかなる時も、あなたが傍に居てくださったら、どれ程までに幸せな事か。……ですが、周りは決して許してくれないでしょう……。この想いは、誰にも知られてはならないもの……! 当然、あなたにも知られずに終わるはず、でした……」
抑え込んでいた感情の波が堰を切って、勢いよく流れ込む。
「先生の進む道には輝きが満ちていて、この大修道院が無くなったとしても、あなたが望めば、それは永遠に……。ですが……」
彼女の口がわなわなと震え、紡ぎだされる声が徐々に
「……ですがっ、その道には私は居られません……! 私が、先生の隣に立とうものならっ! きっと、あなたを遮る影となってしまう……! 私は所詮、いくら名をあげど……王国の、裏切り者の女に過ぎないのですから……」
彼女は泣きながら語気を強めた。親愛、敬愛、偏愛、情愛。そして、嫉妬や羨慕。様々な感情が複雑に入り組みあい、最後には零れ落ちた涙と溶けあって、あなたを包み込もうとする。
「でも……でもっ! こうして先生に遭って、前と同じ様に優しくして頂いて……! 封じていたはずの私の想いはまた、轟々と燃えあがるように這い上がってきてしまって……! 誰かに奪われる前に、と言うつもりはありません……。ただ、私は欲しいのです。先生の元を離れても、かつてあなたと共に在ったという何よりの証が……」
矢継ぎ早に紡がれる想いの丈。それを受け止める暇はあなたにはなかった。
イングリットは再び、あなたの剛直を己の身に受け入れようとする。今度こそ、あなたと一つになる為に。
そこにはもう、一切の躊躇も無い。
「先生、許して頂けなくても構いません……。私は欲しい物は手に入れずにはいられない、そんな強欲な女だっただけなんです」
ちょっとギャグテイストになってしまった