魔法少女きょうこ☆マギカダークネス 流れ者達の平凡なひととき 作:凡庸
闇が満ちた廃教会の中、長い赤髪の少女が立っていた。
緑のパーカーと青みがかった短めのホットパンツ。
どちらもやや薄汚れ、日々の生活の匂いを染み付かせていた。
少女の右手には、長大な真紅の十字槍が握られていた。
廃教会の割れたステンドグラスから差し込む月光が、真紅の槍に青白い輝きを与えている。
磨き上げられたように美しい刃は、黒髪の少年の顔を映していた。
少年ではあるが、その顔は美しい少女のそれに近い。
指先から額、そして腹までを包帯に巻かれているとはいえ、浮かび上がる形の輪郭だけでそう見てとれる姿をしていた。
彼は今、古びたソファを寝床として死と生の淵を揺蕩っていた。
数時間前、黒い魔法少女からの襲撃を受けた彼は魔法少女の脚力を胸に受け、肋骨を全損させられていた。
折れた肋骨は心臓を切り裂き肺を串刺しにしていた。
とうに絶命していてもおかしく無さそうなのに、彼は驚異的に過ぎる生命力で死に抗っていた。
口元にも巻かれた包帯は朱が滲み、喉や胸には咲き誇り牡丹のように広がった吐血の痕が見えた。
時折見受けられる痙攣は、はたして復活の兆しか或いは死への誘いか。
その両方だと、彼女は、佐倉杏子は思った。
数日前、成り行きで拾った兵器兼憂さ晴らし用の罵倒相手。
ナガレと名付けた少年を、杏子は槍を携えながら見続けていた。
その時間経過は既に、三時間に及んでいる。
今はまだ闇が支配する時刻だが、もう三時間が経てば朝焼けが世界を包む。
そんな時刻だった。
此処のライフスタイルによるとはいえ、大概の人間が生きる為に行動を開始する時刻が迫っている。
しかし彼女にはどうでもよかった。
年齢は16歳であり、普通なら高校に通っているか或いは働いているか。
杏子はそのどちらでもなく、ただ日々を食い潰すように生きる存在だった。
また彼女自身、自分が生きているのかどうか、今一分かっていなかった。
呼吸はする、食事もするし間食は常にというレベルで行っている。
当然の結果として、排泄もするし汗もかく。
月のものも来るし、その度に行動不能になるほどの不快感と苦痛に苛まれる。
その他にも複数の感覚がある。笑いもするし、不愉快な気分になる事もある。
だがそれだけだ。
それら全ての上に、自分が死に追い遣ってしまった家族の最後の姿が重なる。
舌の上で感じる、味を認識することの心地よい感覚。
その度に、首を吊った父の顔が脳裏に浮かぶ。
林檎を噛み砕いたとき、首を切られて苦悶の表情で絶命した妹の眼が見える。
好きな菓子を口に運んだとき、血の海に沈む母の虚無を浮かべた表情が、瞼を閉じても見え続ける。
彼女の生は、常に彼女の家族の死と共にあった。
常に罪が付き纏い、罰を求めて心がザワつく。
その感覚が目覚めてから起きている間にも、眠りに落ちてからも絶え間なく続く。
その中で彼女は心と体を休ませ、今日も生きている。
死んだように生きている。
そんな破滅的な生の中で、杏子が拾った少年は彼女にとっての玩具であった。
やがて訪れる地獄への道のりを進む自分の人生の途中で、唐突に現れた存在。
魔法少女にも匹敵する腕力と技量。
美少女のような顔でありながら、並みの男など比較にもならない雄々しさを携えた精神。
そのどれもが、彼女を苛立たせた。
まるで二次創作のキャラクターのような、都合のいい存在。
少し前、ネカフェに赴いた際にたまたま見かけて読んだネット小説にこんな感じの奴がいたなと杏子は思った。
自分と同じ、されど全く異なる空想上の魔法少女を描いた物語。
魔法少女と共に歩み、戦い、そして愛を深め合う異性。
版権物の魔法少女作品に作者が思い描いた存在を投じる。
杏子はその作品を読み耽った。
空想の中だから許される、魔法少女と謂う存在の煌びやかな姿に惹きつけられたのかもしれない。
そして自分とは無縁な異性との交流という様子も、彼女の興味を誘った。
更新されている部分まで読み切った時、少しながら晴れやかな気分になった。
空想の中ではあるが、その魔法少女は愛する存在と共に過ごせるという幸せを掴んでいたからだ。
しかし、それを自分が受けるとなると話は別だった。
実体として自分の傍にいるこの異性は、見かけは美しいが杏子の苛立ちを誘った。
空想だからこそ許される、物語の都合上に絶対に必要である都合のよさが、杏子には我慢ならなかった。
それを兵器としてという名分はあれど、傍に置いておく事を赦している自分に対しても苛立ちが募った。
これまでの短期間で、幾度か暴力を重ねた。
杏子が喧嘩を売り、ナガレはそれを買う。
殴り合い、蹴り合い、武器を用いて命を削り合う。
ベテランの魔法少女であり、風見野では敵無しである自分と渡り合える存在は、どうにも不愉快で不気味だった。
しかし一方、彼の存在は杏子にとって玩具でもあった。
簡単に死なないから、存分に痛めつけられる。
何度も立ち上がってくるから、何度もブチのめせる。
顔を見る度声を聞く度、存在が近くにあるだけで苛立ちは滾々と湧き出てくる。
そして発散する術は、他ならぬ彼自身へとその想いを物理的な暴力と、罵詈雑言という言葉の刃で傷つける事。
感情の発言と発散、それらが矛盾なく行える相手が彼だった。
感情の捌け口、生きたサンドバッグ。
但し自分と同等の力で、少なくとも暴力を遣り返してくる危険な玩具。
彼女にとって、彼はそんな認識の存在だった。
だからこそ、というべきだろうか。
杏子は更にもう一つの欲求の解放を彼に求めた。
愛はない。
親しみも無い。
だが自分は雌であり彼は雄。
間に新しい命など欲しくはないし、自分は命を繋ぎたくない。
しかし死んだように生きていても、欲望は絶えることが無い。
瀕死となった彼の上着を脱がし、肌に包帯を巻いたとき。
無力となった彼の身体に触れたとき。
狂暴なまでの支配欲が、佐倉杏子の心に渦巻いた。
「テメェは」
杏子は小さく呟いた。
「あたしのモノだ」
隙間としては小さく、横幅としては耳まで裂けたかのように杏子の口が開いた。
牙のような歯が並び、赤い舌が蛭のように唇を舐める。
色欲を帯びた動きだった。
「だからあたしの、思うがままに使ってやるよ」
右手から槍を消滅させ、自由となった手を杏子はホットパンツの中に滑らせた。
薄い陰りが指先に触れる。
皮に包まれた突起を撫で、淫らな唇に人差し指を這わせる。
何度か擦ると、結果が表れ始めた。
唇からは淫らな液が溢れ、皮を剥かれた陰核は指の腹から受ける刺激に震えて彼女へと痺れるような快感を伝える。
そんな快楽を貪る今この時も、彼女は記憶に苛まれていた。
家族の死の光景を脳裏に浮かばせながら、佐倉杏子は己の雌を弄び始めた。