転生宇宙世紀 ―ジオンの女性士官にTS転生したので、ザビ家は気に入らないけど連邦と戦います― 作:読人不識
恐らくヤシマ家のミライさんが使っていたと思われるクルーザー級のスペースグライダーを使ってあたし達はサイド7を逐電した。
流石名家のお嬢様が使っていた物だけあって足が速く、定期シャトルより気持ち早めにサイド6へと逃げ込むことが出来た。
まぁ現状の連邦には、宇宙で満足に動かせる追手もないだろうけど、万が一を考えての逃走である。
サイド6へ逃げ込んだあたしたちは人口の比較的多い1バンチへ潜伏し、アムロとセイラの為の偽の戸籍と経歴を用意する。
サイド7からの志願兵というのはちょっと経歴が怪しく思われ、セイラの場合はそこから遡ることで更にバレてはいけない情報があるので、あたしは一級ジオン十字勲章を賜った時に貰った金銭を、ここで投入し、ラル大尉の部下に使わせ、アムロとセイラさんをサイド6出身の志願兵という経歴を作り上げた。
セイラさんは自分でお金を出すと言っていたが、リーアに残してコネクションを作らせたラル大尉の部下を使うなら、あたしがお金を出すのが筋なので、あたしの払いにさせて貰った。
彼女は感謝していたが、いずれ身体で返してもらうから気にしなくていいのよ、ぐふふふふ♡ と内心で思っているので、気にするなと言っておいた。
それに多少時間がかかったが、サイド7に潜伏する予定だった時間が短く済んだ分、工作に充てる時間に費やせた。
それらが一通り終わってからバルダコロニーへ、アポイントを取り付ける。
今のアムロをララァと会わせることが目的だ。
何か変化が起きるのか? 起きないのか?
それはやってみなければ分からない。
その為にニュータイプ適正に関して検査を受けることになるだろうが、それはやむなしと言う所だろう。
ちょうどその時期シャア先輩も来訪しているらしいので、アムロとセイラの適性検査を早めに済ませ、兄妹水入らずで話せるようスケジュールを調整する。
そして翌日からアムロとセイラを連れてバルダコロニーへと赴き、数日掛けて各種適性検査を受ける。
フラナガン機関の研究員にニュータイプ適正とは何なのか? ということから質問し、あたしたちの検査結果を問い質したところ。
フラナガン機関では
『時間と空間を超えて、言語に頼らない共感能力を持ち、常人離れした直観力や洞察力を備えた人類の進化した形』
という風にニュータイプを定義しているらしい。
現状の能力的には
ララァ・スン≧サラ・ミア=アムロ・レイ>>>セイラ・マス>>>>サーシャ>>>>>ハモンさん>>(越えられない壁)>>ラル大尉>>(越えられない壁)>>一般人
という感じの能力的な差だそうだ。
そしてシャア先輩が来訪する当日、検査明けでのびのびするアムロとセイラとサーシャを引き連れ、ララァとシャア先輩が話し合っている部屋を訪れる。
全員が入室した途端空間が歪む感覚を感じる。
ララァと初めて視線が合った時に感じたあれだ。
「アルテイシア! アルテイシアか?」
シャア先輩の思念が激しく動揺しセイラに向かう。
「兄さん! キャスバル兄さんなのね?」
セイラが応じる。
「あぁ、私だ。無事だったんだなアルテイシア…」
「兄さんこそ」
姉弟の思念が再会を喜び合う。
「キャスバルって何なんスか? マスク野郎! てめぇ、ヒメさまを騙してたのか!?」
あたしの背中側からサーシャの思念がいきり立つ。
「抑えなさいサーシャ。彼にも事情のある事よ…」
あたしがサーシャをなだめる。
「けど! ヒメさま……いえ、分かりました…」
サーシャが折れてくれる。
「あなたが、シャアの恋人?」
ララァの思念があたしに問いかける。
「元恋人……かな? 今はあなたが恋人なんじゃなくて?」
ララァに対してあたしは素直に素でで問い返す。
「シャアの心の底には常にあなたがいるわ。わたしへの思いだけではなく、ままならないあなたへの思いがずっとあるの…」
ララァが優し気にそういう。
「そうなの? あなたが言うのならそうなのでしょうね…でもあの方は、あたしたちよりも、ザビ家への復讐を取るのでしょう?」
悲しげにあたしがそう問い返す。
「それは…」
ララァが言葉に詰まる。
「父を殺され、幼い頃から命を狙われてきたのだ。復讐を企てて何が悪い!?」
キャスバルの思念が激高する。
「それがダイクンの遺志だと?」
今まで口を挟まなかったアムロがそう問う。
「父の無念を息子が晴らす、それの何が悪い!?」
シャアがアムロに思念をぶつける。
「それじゃあ、スペースノイドはいつまで経っても自立できないよ……」
悲しげな思念をアムロが飛ばす。
「アムロはあたしのスペースノイド協調路線に賛成してくれるのね」
あたしがアムロの思念のそばに立つ。
「それは、サラ姫の考える理想が僕にもマシな未来に思えたから……」
アムロが自信なさげにそう思念を飛ばす。
「それが父の目指した理想に近い事だということは私も認めよう…だがザビ家への憎しみは忘れられんのだ!」
ぶつけ所のない憤怒の思念をシャアがまき散らす。
「やめて兄さん。あなたまで同じ過ちを繰り返す必要はないでしょうに」
セイラさんが割って入る。
「止めるなアルテイシア! 私は既に覚悟を決めたのだ!」
泣き叫ぶような思念を飛ばすキャスバル。
恐らく彼は幼い頃からの恐怖の記憶に駆られているのだろう。
それを分かってはいても自らを御することが出来ない、表面的に平静を装っているのは彼の超人的な自制心のおかげだろう。
「シャア…可哀想な人……」
ララァがそう言ってシャアの傍らに立ち。
「わたしはシャアの行く道に従います」
と決意を告げる。
「そんなあめぇ事言ってっから、このマスク野郎はつけあがるんスよ! おめえ一人の我儘で宇宙移民に迷惑かけるってわかっていってんのか!?」
サーシャが怒りの咆哮をぶつける。
「ならば私にどうせよというのだ?」
キャスバルが悲嘆にくれた様子で問い返す。
「それは既に申し上げたはずです」
あたしが、決然として
「連邦との戦争に終止符を打ち、宇宙移民の自治独立を勝ち取った上で、ザビ家を打倒する。宇宙移民だけでなく、地上の人にも不幸を与えるギレン、デギン、キシリアに対する報復だけでよいのでは?」
三度あたしは先輩に提案する。
「それで私に納得せよと?」
キャスバルが反駁する。
「ではあたしが知っている、ザビ家滅亡後の宇宙の記憶をご覧になりますか?」
何故かあたしは前世であった記憶を共有出来る気がしてそう提案する。
「ならば見せて貰おうか」
それをきっかけに記憶の扉が開く。
一年戦争の終結。
ジオンの火星圏への逃亡。
そこでの内部抗争。
星の屑作戦。
先鋭化する地球連邦と宇宙移民への差別。
ティターンズによる宇宙移民弾圧。
グリプス戦役。
第一次ネオジオン抗争。
シャアの反乱によるアクシズ落とし未遂。
連邦の腐敗とマフティー動乱。
全員が全てを知り、それらを理解する。
「まさか…これほどとは……」
キャスバルが愕然としてそうつぶやく。
「これは酷い……人類は、こんなに進歩出来ない物なのか…」
アムロが呆然として言う。
「あなたはこうなることを恐れていたのね?」
セイラさんが私にそう問いかける。
「確実に未来がこうなるとは言えません、ですがこうなる可能性は少なくないのです」
あたしはそう言い切る。
「ヒメさま、こんな酷い未来を避けようとなさってたんスね……」
サーシャがあたしに寄りそう。
「シャア…どうするの? あなたの答えを教えて」
最後にララァがシャア先輩に問いかける。
「私はザビ家を倒したい……だがこのような救いのない未来も望まない。だからサラ・ミア、私は今度こそ君の目指す理想に手を貸そう……私を…私達を導いてくれ」
吐き出すようにそういうシャア先輩。
「あたしのできる範囲で全力をもって…ですが一人で出来ることは限られています。皆さんにもご協力願いたい」
あたしは誠意を込めてそうお願いする。
その場にいる全員から、了承する意味の思念があたしに向かってくるのを感じる。
あぁ、やっと入り口に立つことが出来た……そう思うとあたしは全身の力が抜けるのを感じ意識を手放すのであった。
第一章 完
今までシャアはサラに先手を打たれ続けて、納得できないまま協力してましたが、今回でやっと一区切りです。