転生宇宙世紀 ―ジオンの女性士官にTS転生したので、ザビ家は気に入らないけど連邦と戦います― 作:読人不識
宇宙歴 0081年 03月 中旬 オデッサ近郊
ついにレビル率いるヨーロッパ方面軍がオデッサまで進軍してきた。
防衛側に属するマ・クベ指揮下のオデッサ守備隊は、前衛に地中海沿岸部から撤退させた地上制圧軍に任せ戦線を維持していた。
マ・クベは後方から全軍の指揮を執っているが、あたしたちの大隊はレビルの本陣であるビッグトレーに強襲をかける為本隊とは別行動をとっている。
レビルのビッグトレーの位置は、内通者であるエルランからジュダックを通じて、既にこちらに情報が横流しされている。
エルラン自身は前線の士気を鼓舞すると言って、自身のビッグトレーで別方面軍を率いて別方面に移動している、マ・クベによればそちらからの攻撃は散発的なものになるはずだ。
だが流石にレビルの周囲は本陣だけあって戦力がぶ厚く、前線にその戦力をいくらか投入されなければ、強襲しても奴を仕留める所かこちらの身が危うい…
じりじりと互いに消耗戦が続く。
連邦もモビルスーツの運用技術が上がっている?
前線での衝突をモニターしながら、そのような感想を抱く。
やはりここでレビルを排除して、終戦にこぎつけねば地上を追われることになる。
あたしは背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
やはり連邦との長期戦には勝ち目がない。
あたしの中に焦りの感情が渦巻く。
だがその時前線で異変が起きる。
キシリアがマ・クベに切り札として遣わせた黒い三連星のドワッジが、連邦軍の前線を切り裂き戦力の均衡を崩し始める。
ザンジバルと共に地上に降りてきていた黒い三連星ではあったが、当初地上の陸戦には不慣れで、ここまでの活躍を期待できるほど慣熟してはいなかった。
だが決戦に照準を合わせていたのか?
いざという時は流石にエース小隊だけはある活躍を魅せてくれる。
連邦軍のなかにも、良い動きをするモビルスーツが何機があるのだが、マ・クベは隠し持ったジョーカーともいえるアッザムで、それら動きのいい機体を封じ込め撃破させる。
何度もこんな戦術が通じる訳では無い、だがこの戦争に限って言えばこの一回だけ通じればよい。
ビッグトレーの周辺で待機していた、連邦軍の予備兵力が次々前線に投入される。
その兵力の波をジオンの将兵は粘り強く跳ね返していく。
それに対して連邦軍は数を頼みに嵩にかかって力押しをするが、黒い三連星を主力としたマ・クベの防衛網は突破されない。
更にレビルが予備兵力を投入する。
エルランが本来攻めてくるはずの方面に兵力を極力派遣せず、レビルの主力軍にのみ戦力を集中できていることがここまで均衡を保てている大きな理由の一つだろう。
物量差で多方面から攻められたら勝ち目がなかった、だがマ・クベは戦いが起こる前に勝利するための条件を整えていた。
レビル直卒の部隊まで前線に投入沙汰をの確認し、あたしはラグナロクとパイドバイパーでレビルのビッグトレーに強襲を掛ける。
「全機出撃! 狙うはレビルの首一つ! 他のものには目もくれるな! ビッグトレーを破壊すればそれでいい! それでこの戦争はあたしたちの勝ちだ!!」
あたしは味方を激しく鼓舞しながらガーベラを駆って、レビル直掩部隊に強襲を掛ける。
こちらに気付いてカメラを向けるモビルスーツにビームマシンガンを叩きつける。
コクピットを貫いて、その向こうにいた機体を巻き込み爆発炎上する連邦のモビルスーツ。
「ダブルキルだ!」
あたしたちの強襲に混乱する敵の直掩機。
前線からの激しい押上に対処するので手一杯になり、前線からは戦力を引き戻せない。
そこをついてアムロのノックアウトが、ビッグトレーの発令所辺りをビームライフルで貫き、爆発させる。
セイラのシアラから幾条かの砲撃が放たれ、ビッグトレーの武装が沈黙する。
ビッグトレーのエンジンは? どこを狙えば?
あたしがビッグトレーのエンジンの場所を探るように眺める。
なんとなくそこにエンジンがあるという所が分かるような気がする。
そこに向かってビームマシンガンの連射を加える。
確かな手ごたえを感じ距離を取るように移動する。
一瞬にしてビッグトレーが破裂するように膨らみ、自壊してゆく。
「レビル、召し取ったり!」
あたしは全軍に繋がるオープン回線で殊勲をあげたことを喧伝する。
それが呼び水となったかのように連邦軍は混乱し次々壊滅してゆく。
あたしたちはそれを掃討すべく戦い続ける。
圧倒的な大軍であったはずの連邦軍が、なすすべもなく崩壊する。
オープンチャンネルで、エルランが連邦軍全軍に撤退を呼び掛けている。
蜘蛛の子を散らすように兵やモビルスーツが撤退する。
レビル指揮下の部隊はほぼ壊滅状態だ。
それでも生を求めて、敵が撤退しようとする。
あたし達も無駄に損害を出したくないので撤退を命令する。
撃墜するのはこちらの撤退の邪魔になった敵戦力だけだ、悲しいけどこれ戦争なのよね…
あたし達は戦場の外縁部に待機していたラグナロクとパイドバイパーに帰還し、戦場から撤退してゆく。
ここでの戦いは終わった。
次の戦場は宇宙か? 政争か?
だが我々はやり遂げたのだ。
「全機帰投したか?」
あたしは各中隊長に確認を取る。
「はっ! 問題なく」
ランバ・ラルが返答する。
「問題ねーっス」
サーシャが返答する。
あたしはホッと胸をなでおろす。
生き残ったのだ、全員で生き残ることが出来たのだ……
安堵の息を吐き、身を震わせてコンソールに顔を突っ伏す。
しばらく嗚咽を漏らしながら声を殺して泣く。
「誰も…失わなかった……よかった…よ゛がっ゛だぁ゛……」
一人むせび泣く。
この大隊を設立する時、あたしは誰かを失うかもしれないと覚悟をしていた。
だから誰も失わないため必死に鍛えた。
だが流れ弾一発で、当たり所が悪ければ戦死する可能性があるのが戦場だ。
常にあたしは誰かを失うかもしれない恐怖と戦い、それを性欲として発散し、精神の均衡を保っていた。
その関係がより一層相手に愛着を持ち、愛情を深くさせ、相手の存在を確かなものとして依存した関係を築く原因にもなっていた。
だが戦争はようやく終わりを迎えた。
これからジオン内部で政争や内戦が起きるかもしれない。
だが、それでもあたし達はこの戦争を生き残ったのだ。
歓喜と安堵に身を震わせあたしが泣いている間にラグナロクとパイドバイパーはマクベの本隊と合流する。
白旗を掲げたドラゴンフライがこちらに向かってくる。
ジュダック辺りが和平の使者として派遣されてきたのかもしれない。
本格的な交渉はまだ後になるのだろうが、とりあえずあたし達はやるべきことをやり遂げた。
次の戦場でもまだ戦わねばならないのだろうが、しばらくは心身ともにゆっくりと休めるだろう。
赤道付近の気候の良い地域でゆっくりと休むのも悪くない。
反ジオンの急先鋒たるレビル将軍はもういないのだ、無駄な戦端を開く理由もない。
マレーシア辺りで部隊ごと休暇を取るか…
あたしはヘルメットを脱ぐとあふれ出ていた涙を拭き、容貌を整える。
士官たるもの情けない姿は見せられないのだ。
「喜ぶのはいいけど、まだ第三種警戒態勢で要警戒、非番の者は酒を飲んでもいいけど深酒はするな、まだ終戦協定は結ばれてないってことは忘れないで」
あたしは部下達にそう警戒を要求すると、ハッチをあげて勝利に沸くクルーの輪に入ってゆくのであった。
とりあえず、オデッサを防衛してレビルを排除できました。
ここから先はどうなるやら……