「曜ちゃん!私ね、彼氏出来ちゃった・・・❤️」
親友の千歌ちゃんがそんなことを打ち明けたのは今から2ヶ月前のこと。
高校を卒業した私達は同じ女子大に入学した。内浦の近くにある大学で、私も千歌ちゃんもそこを志望して、2人で受験勉強を乗り切って何とかまた一緒の学校に通うことが出来るようになった。
小学生の頃から数えると、千歌ちゃんとはこれで13年目の付き合いにということになる。小さい頃から仲良しで喧嘩した覚えはほとんどない。少し嫌な空気になったこともあるけど、明日には忘れてまた仲良く笑い合える。私と千歌ちゃんはずっとそんな関係。
そんな千歌ちゃんと高校時代に一緒にスクールアイドル『
大学に入って何かサークル活動をしようと2人で色んなところを見学していた時に、『ダンスサークル』というものがあった。千歌ちゃんはスクールアイドルで培った能力を活かして、「ここで頑張りたい!」っと張り切っていた。
私は『水泳サークル』というのがあって、得意な高飛び込みも出来る環境もあることから、入学する前からそこを志望していた。でも、千歌ちゃんと一緒になれるなら私も同じサークルに・・・そんな風に考えていたけど、
「曜ちゃんは自分のやりたい事をやってよ!私に合わせなくても良いからさ♪」
いつもの眩しい笑顔でそんな風に言ってくれた。私が考えていたことなんてお見通しか・・・サークルが別になっても講義や休み時間は一緒に居られるし、休みの日は今まで通り(高校の時よりも余暇は多いからそれ以上に)遊んだり、一緒に何かをすることだって出来る。むしろ、千歌ちゃんが「自分独りで何かに打ち込みたい」と張り切っているんだから、親友として応援してあげないと!
そうやって私達は別々の道を歩くことに決めた。サークルの時間はお互い会えなくてなったけど、それを補う形で休みの日はいっぱい遊んだ。私達はこれからもずっと一緒なんだ・・・
そして、ある日。
千歌ちゃんから「重大発表がある!」と言われ、喫茶店に呼び出された。どうせ大したことじゃないんだろうなー、なんて思いながら千歌ちゃんから話を聞くと、照れ臭そうな顔で言ったのだ。
「曜ちゃん!私ね・・・」
❤️
私達は高校は女子校に通っていて、大学も女子大を選んだ。男女共学だったのは小・中学校だけで、その頃は恋心を抱くような相手はいなかったし、異性への興味よりも同性との遊びに夢中だった時期だったからお互いに浮ついた話が上がることはなかった。
千歌ちゃんに彼氏・・・?
想像の斜め上をいく千歌ちゃんの告白に唖然としてしまう。千歌ちゃんはまだ聞いてもない内から『彼』との出会いについて語り始めた。
『ダンスサークル』で他校のサークルと親睦会を開こうという話が先輩から挙がったらしい。他校というと、そこには男女共学の大学も含まれる訳で、今回の親睦会は先輩の男友達である向こうの大学のメンバーから持ちかけられ企画されたものらしい。女子大の中の同性のメンバーだけでは彫り固まった発想しか生まれない、だから偶には異性と交流を持って意見交換したり一緒に遊んだりすることも大切なことなのだ!・・・と、千歌ちゃんは熱弁する。
千歌ちゃん・・・それって程の良い口上で、所謂『合コン』ってヤツなんじゃないかな・・・?
多分、本人はそのことには気付かず、持ち前の人当たりの良さで楽しく遊んできたに違いない。
『彼』とはそこで仲良くなったらしい。
年齢は2つ上の先輩で、自分が高校時代にスクールアイドルをしていたという話を熱心に聞いてくれて、とても聞き上手で話しやすい人なのだという。数日後に向こうから遊び(デート?)に誘われて、何度かそうして交流を持っている内に恋心が芽生え、千歌ちゃんの方から告白したのだという。
正直、驚いた・・・
彼氏が出来た・・・ということよりも、私が知らないところでそんな気の許せる異性の知り合いを作っていたことにだ。そう言えば、休日に遊びに誘ったら、「その日は別の人と遊ぶ予定がある」と断られたことが何度かあったのを思い出した。あれはその人とのデートだったのかな・・・?
チクッ・・・っと、何かが胸に刺さる音がした気がする。スクールアイドルをしていた頃にもこんなことがあったっけなー・・・私はその『彼』に嫉妬しているのだ。あの時は相手が同性の友達だったけど、今回は異性、それも恋人だというのだから、あの時よりもショックが大きかった。
「ゴメンね、曜ちゃんにはもっと早く打ち明けようと思ったんだけど、何だか気恥ずかしくてさ・・・こんなこと初めてだったからさ・・・」
千歌ちゃんは申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
そうだよね・・・もう私達はもう子供じゃないんだ。好きな人が出来るのは当たり前だし、むしろ私達は遅いくらいだ。親友として、千歌ちゃんに『大切な人』が出来たことを一緒に喜んで応援してあげなくちゃ・・・!
その人のどんなところが好きなの?
っと、質問すると千歌ちゃんは目を輝かせながら早口で語り出した。
「うーんとね!凄く優しいところでしょ!それと大人っぽくてカッコいいところでしょ!それとこの前話してくれたんだけどー・・・」
これも前に同じことがあったなー・・・
初めてライブの歌の歌詞を決めた時、スクールアイドルの好きなところをこんな風に目を輝かせながら話してたっけな・・・
大人になってもやっぱり千歌ちゃんは千歌ちゃんだ。私も親友として、その『彼』と上手く付き合っていけるかな・・・?
❤️
千歌ちゃんに彼氏が出来て2ヶ月。
千歌ちゃんと遊ぶ時間が半分くらいになってしまった。初めて出来た彼氏にかなり夢中になっているみたいだ。千歌ちゃんの話す内容も半分くらいは彼氏の惚気話だ。
「◯◯にデートに行ってきた」、
「◯◯な話を自分にしてくれた」、
「◯◯なところがカッコよかった」、
といったような話を延々と聞かされていた。
そして、付き合って1ヶ月経った頃に、
「さっき初めてチューされちゃったよ〜///」
なんてことを電話で報告してきた。
ファーストキスは凄く『ロマンチック』で緊張しちゃった、なんて話を聞かされ、こっちまで恥ずかしい気持ちにさせられてしまった。
千歌ちゃんが幸せそうに話しているのを聞いて、前よりは嫉妬心が芽生えることはなくなっていた。彼氏のことが大好きなのは嫌と言うほど伝わってきているけど、私との時間も同じくらい大切にしてくれているのが伝わってきたからだ。何かあると一番に私に報告してくれるし、何か悩んでいることがあるとすぐに私に相談してくれた。そんな千歌ちゃんを応援してあげたいという気持ちが段々と強くなっていた。
そして今日、また千歌ちゃんに「重大発表!」なんて言われて喫茶店に呼び出された。千歌ちゃんは顔を惚けさせて、中々話を切り出して来なかった。仕方がないから私の方から「何かあったの?」と聞くと、顔を赤らめながらポツリポツリと話し始めた。
「昨日、『彼』が一人暮らししてるアパートに初めて招待されてね・・・最初はいつもみたいにお喋りするだけだったんだけど・・・なんかちょっと『変な』雰囲気になっちゃってさ・・・」
千歌ちゃんはそこで話を区切る。恥ずかしくてこれ以上先は話せない!っと思いつつも、チラチラとこっちを見て、私に続きを促して欲しそうにしている。
何があったのかは・・・まぁ・・・大体察しがついた。ちょっと想像しちゃって私まで顔が赤くなっているのを感じた。
こんな下世話な話を千歌ちゃんとする日が来ようとは・・・いつまで経っても話を切り出さないから仕方なく私の方から質問する。
「もしかして、『シちゃった』の・・・?」
千歌ちゃんは一層顔を赤くして小声で「キャー///」とか言いながら首を激しく縦に振っていた。そんなことを「重大発表!」なんて言いながら私に報告してくるなんて・・・っと少し呆れてしまった。でも、嫌な想いをした訳ではないみたいだし、嬉しい出来事を一番に私に報告してくれるのは素直に嬉しかった。
そっか・・・千歌ちゃんは大人の階段登っちゃったのか・・・
私はまだキスの経験もないのに・・・何だか遠い存在になってしまったような・・・
『そういう』話はあまり得意じゃないけど、千歌ちゃんが恥ずかしそうにしてる姿が可愛くって、「どんな感じだったの?」なんて意地悪く質問すると、「恥ずかしくて言えないよー///」なんて言って足をバタバタさせていた。
千歌ちゃんがこんなに夢中になって、『初めて』を捧げてしまうような人。千歌ちゃんから話は散々聞かさせているけど、まだ会ったことはなかった。
どんな人なんだろう・・・
❤️
それから数日経った日曜日。
その日は千歌ちゃんと遊ぶ約束を取り付けようとしたら、「その日は『彼』とデートの日」なんだと言われてしまった。なら仕方がないか・・・と思った矢先に千歌ちゃんの方から、
「良かったらその日は3人で遊ばない?私も『彼』に曜ちゃんのこと紹介したいからさ♪」
と、逆に誘われてしまった。
いやいや、二人の邪魔をするのは良くないよね・・・目の前でイチャイチャされてたら私も気不味くなりそうだし・・・
でも、ずっと気になっていた『千歌ちゃんの彼』がどんな人なのか知れる良い機会かもしれない。悩んだ上で私はそのお誘いに乗ることにした。
そして、デート当日。
私が待ち合わせ場所に早く着いたので、少し緊張しながら待っていた。千歌ちゃんの『彼』はどんな人だろう・・・もしかしたら、ライブの時よりも緊張しているかもしれない。
私がソワソワしながら待っていると、2人は恋人らしく手を繋いでやって来た。並んで歩いている2人を見て、まず『彼』の身長の高さに驚いた。180センチくらいはあるのかな・・・自分の周りにそんなに高い人がいなかったから見入ってしまった。
千歌ちゃんから『カッコいい!』と何度も聞かされているように、凄く美形でルックスの良い人だと感じた。とても優しそうな顔で穏やかな印象を受けた。
「君が曜ちゃんだね。千歌から話は沢山聞いてるよ。よろしくね」
そう言って、『彼』は右手を差し出して握手を求めてきた。
・・・この時、何となく私は少し嫌な気分になってしまったことを認める。
初対面でいきなり下の名前で「ちゃん」付けで呼ばれたこと、恋人同士だから当たり前とは言え、親友の千歌ちゃんが異性から『千歌』と呼び捨てで呼ばれ慣れていること、そして握手とは言え、いきなり異性に対してボディタッチを求めてきたこと。
少し馴れ馴れしくはないだろうか・・・?
千歌ちゃんと初めて会った時も、こんな感じで接してきたのかな・・・?
それとも、私が気にし過ぎな性格だから・・・?
『彼』の握手の要求から少し間が空いて、2人はキョトンとしたような顔をしている。私は慌てて『彼』の握手に応じた。
「渡辺曜です。よろしくお願いします・・・」
いけないいけない・・・
この人は千歌ちゃんの大切な人なのに・・・親友の私が不和を作るようなことをしてどうするんだ・・・
それから『彼』を含めて3人でデートに出掛けた。『彼』についてわかったことは、とても聞き上手で、千歌ちゃんに話を合わせるのが凄く上手だということ。千歌ちゃんが興奮気味で話すようなことも熱心に聞いた上で、千歌ちゃんが『言って欲しい』こと、『聞いて欲しい』ことを自然体で合わせて、更に千歌ちゃんが楽しそうに話を続けられるようにしている。2人は凄く相性が良いんだな・・・と感じた。良い人に出会えて良かったね、千歌ちゃん・・・
カラオケをしている時、千歌ちゃんが席を外している少しの間、『彼』と2人きりになったタイミングがあった。私が気不味そうにしていると『彼』の方から話しかけてきた。
「2人は本当に仲が良いんだね」
当然だ、千歌ちゃんとはずっと長く一緒にいるんだから。それこそ貴方よりも・・・
「千歌は俺と2人でいる時、いつも曜ちゃんの話ばっかりしてるんだよ。何だか彼氏の俺が嫉妬しちゃうくらい2人はラブラブなんだなって思ったよ」
『彼』は笑いながらそう言った。
そっか・・・千歌ちゃんはデートしてる時も私のこと話してたんだ・・・
初めて聞かされたその話に少し嬉しくなった。
私は思い切って言ってみることにした。
「千歌ちゃんは私の大切な友達なんです。千歌ちゃんのこと幸せにして貰えますか?」
「勿論!俺にとって大切な彼女だからね。必ず幸せにするよ!」
『彼』のその言葉に安堵の息が漏れた。ほんの少しだけだけど、『彼』と心を通じ合わせることが出来たかもしれない・・・
「だから、親友の曜ちゃんとももっと『仲良く』なりたいと思ってるよ。長い付き合いなると思うし、これからもよろしくね❤」
ゾクッ・・・とした嫌な汗が噴き出るのを感じた。
何故だろう・・・『彼』のその言葉から強烈な悪意を感じてしまった。
席を立っていた千歌ちゃんが部屋に戻ってきて、空気はすぐに変わったけど、さっき感じた『嫌な感じ』がずっと抜けなかった。
この人・・・本当に悪い人じゃないよね・・・?
❤️
『彼』と初顔合わせをしてから1ヶ月が経った。
あれから何度か3人で遊ぶことがあった。でも、私はあの時『彼』から感じた嫌な気配がどうしても忘れることができず、『彼』と2人きりにならないように立ち回っていた。千歌ちゃんが席を立つ時は、いけないと思いつつ私も何かと理由をつけて席を立ち、『彼』から距離を置くようになっていた。こんなこといつまで続けているつもりだろう私は・・・
千歌ちゃんは相変わらず、『彼』との惚気話を私に聞かせてくる。何か嫌なことがあったらすぐに私に話してくれるはずだ。でも、そんなことは一度もなかった。逆に自分が『彼』に対して良くない態度を取ってしまってションボリしていたことがあるくらいだ。何も心配はいらないはず・・・
そして、『その日』がやってきた。
それは私、渡辺曜にとって人生最悪の一日になる日・・・
千歌ちゃんに『彼』のアパートに一緒に遊びに行こうと誘われた。私が行っても場違いになるだけだと一度は断ったけど、千歌ちゃんがあまりにも熱心に誘うものだから根負けして誘いを受けることにした。一人暮らしの男の部屋に行くなんて余りにも不用心・・・でも千歌ちゃんが一緒だったら大丈夫だよね・・・?
『彼』の住んでいるアパートは私の家から歩いて行ける距離にあることに驚いた。
一人暮らしの経験はないけど、家賃が高そうな綺麗な外観、部屋も広くて一人で生活しているにも関わらず部屋が3つもあった。大学生の一人暮らしだともっと手狭な部屋をイメージしていたけど、『彼』が言うには家が裕福で親が学友達と交流を持てるようにと広い部屋を提供してくれたのだという。
千歌ちゃんはもう何度もこの部屋に遊びに来ているようで、まるで自分の家のように「どうぞどうぞ」と私を中に招いてくれた。
一番広い大きな部屋は私の家の居間の2倍くらいの広さがあった。『彼』は生活の大半をこの部屋で済ませてしまっているらしい。大きな液晶テレビが部屋の一角にあって、その反対側には大きなベッドがあった。
『彼』がいつも寝ているベッド・・・多分、千歌ちゃんはここで・・・
ハッと我に返る。自分は何を考えているんだ・・・
千歌ちゃんはベッドの側にあるテーブルの前に座って、私も隣に座るように促してきた。私はなるべくベッドの方を見ないようにして千歌ちゃんの隣に座る。その時に千歌ちゃんは小声で、
「緊張しなくても大丈夫だよ」
っと言ってくれた。私が周囲を見渡してソワソワしていたことに気づいていたようだ。そうだ、千歌ちゃんが側にいるんだから・・・何も心配する必要はない。
それから私達3人は、彼が用意してくれたジュースを頂きながらお喋りをしていた。内容は大したものではない。学校であったことや、最近流行りのドラマの話、今度3人でまたどこかに遊びに行こう、そのような普通の話題だ。
ふと、『彼』はキッチンからいくつか見たことのないパッケージの飲み物を持ってきた。
「曜ちゃんはお酒飲んだことある?」
『彼』はお酒を飲むのが趣味らしく、私に聞いてきた。私はサークルの集まりで何度か先輩達に勧められたことはあったけど、まだ未成年だからと断ってきた。千歌ちゃんも同様だと思っていたのだが、千歌ちゃんはバツが悪そうな顔をしながら、なんと実は飲んだ経験が何度かあると話したのだ。サークルの先輩に勧められて断り切れずに飲んでしまい、それ以降も『彼』の趣味に付き合う形で、何度か内緒でアルコールに手を出してしまったという。
さすがにそれは黙っていられないと思い、私は少し千歌ちゃんに怒ってしまった。
「私たちはまだ未成年なんだよ!?」
千歌ちゃんは「ゴメンゴメン」と両手を合わせて謝って来た。未成年だと知っているのに勧めた『彼』も同じだ。
「そういうことを千歌ちゃんに勧めるのはやめてください!」
と『彼』を叱るように言ったが、千歌ちゃんがそれを庇う。千歌ちゃんは危機管理が足りな過ぎるよ・・・
しかし、『彼』はあまり悪びれるような様子もなく、
「でも、付き合いで飲むこともこれから必要になってくることだからさ。その『予習』も兼ねて少しは経験しておいた方が良いと思うよ?外で初めて飲んで失敗して、周りに迷惑をかけちゃう子だって何人も見てきたし」
そんな『予習』は必要ない。私がそう言おうとしたら、千歌ちゃんは「なるほど」と『彼』の言葉にスッカリ感化されてしまっている。そういう問題じゃないと千歌ちゃんを説得しようと思ったけど、
「でも、曜ちゃん。私たちもう19歳になるんだからさ。一年くらいフライングしても誰も怒らないし、みんな言わないだけでこっそり試したりしてると思うよ?」
それこそ初歩的な失敗の始まりじゃないか・・・私が呆れるような顔をしていると、
「曜ちゃんも一回だけ挑戦してみようよ!私も一緒にいるから大丈夫だよ♪」
千歌ちゃんが目を輝かせて私に言って来る。『彼』も「初心者でも飲みやすいのを教えてあげるから」と持ってきた瓶の中から、アルコール度数の低いものを選りすぐって勧めてくる。
何だかここで無理に断ったら私が空気を悪くしているみたいになってしまう気がした。千歌ちゃんもさっきから「おねが~い!」と言いながら、一緒に飲んでみようとおねだりしている。本当にしょうがないなぁ・・・
「じゃあ、本当に少しだけですよ・・・?」
私がそういうと、千歌ちゃんは顔を綻ばせて「ありがとう~♪」と喜んでいた。その時の顔が、私が千歌ちゃんとスクールアイドルを一緒にやろうと言った時に見せてくれた笑顔と重なったような気がした。
何だか懐かしい気持ちになって少し気が緩んでしまったのかもしれない・・・
私たちは『彼』に勧められたお酒を口にした・・・少し甘い味がして飲みやすかった・・・
❤
気づいた時にはテーブルの上には空いたお酒の瓶や缶がたくさん並んでいた。初めのうちはジュースみたいな感じで飲んでしまったけど、何度か口を付けている内に今自分が飲んでいるものがアルコールなんだと分からせられた。
頭がぼーっとする・・・これが『酔う』って感覚なんだ・・・
確かにこの感覚を知らないまま飲み会とかに参加してしまったら危なかったかもしれない・・・『彼』には感謝しないといけない・・・のかな・・・?
千歌ちゃんは私の隣でテーブルに顔を突っ伏したまま眠ってしまっている。顔を真っ赤にして茹蛸みたいになってる・・・
「千歌ちゃん・・・大丈夫・・・?」
肩を揺すってみたけど返事はない。相当眠りが深いみたいだ・・・
私も少し眠くなってきちゃった・・・
ここで寝る訳にはいかないし、私は帰ろうかな・・・家はすぐ近くだし・・・
でも、千歌ちゃんをこのまま放っておく訳には・・・
「千歌ちゃん、千歌ちゃん!」
何回も揺すって名前を呼んでみても反応が一切ない。だからあんなに飲んじゃダメだって言ったのに・・・私が千歌ちゃんの顔を覗き込んでいると・・・異変に気付いた。
「千歌ちゃん・・・?」
アルコールで酔って寝ていると言っても、普通はこんなに反応がないものなのかな・・・?
千歌ちゃんは泥酔しているというよりも、昏睡してしまっているような・・・
急性アルコール中毒なんて恐ろしい言葉も聞いたことがある。
もしかしたら、千歌ちゃんは今、危険な状態・・・?
少し怖くなって『彼』に助けを呼ぼうとした時、
「曜ちゃん」
『彼』はいつの間にか、私のすぐ横に座っていて驚いてしまった。肩がぶつかってしまいそうになるくらいすぐ真横にだ。しかし、今はそんなことを気にしている場合じゃない、千歌ちゃんが・・・
「あの・・・千歌ちゃんの様子が変で・・・」
私の言葉を遮るようにして『彼』は続けた。
「曜ちゃんって可愛いよね❤ 前からこんな風にしたいって思ってたんだよね❤」
そう言われて私は『彼』に唇を奪われた。
千歌ちゃん・・・私のファーストキスは全然『ロマンチック』じゃなかったよ・・・