BanG Dream!~happy? or Un happy~ 作:TRcrant
「………」
「し、しげる?」
無言の俺の顔色をうかがうように見上げてくる亮。
その姿を見た俺は、見逃しそうになったがそれを完全に振り払った。
「……先生に報告する」
俺は亮にそれだけ告げて屋上を後にした。
「―――――」
後の方から亮が何かを言っているのが聞こえるが、何を言っているのかまでは聞き取れなかった。
いや……正確には聞こえる前にドアが無情にも閉まったので聞こえなかったと言うべきだろうか。
俺がその足で向かったのは、三年の教室。
「すみません。氷川先輩はいらっしゃいますか?」
ちょうど教室から出てきた女子生徒に声を掛けた俺に、女子生徒は少しだけ待つように告げて教室にいるであろう氷川先輩を呼び出した。
「斉藤君。いきなりどうしたんですか?」
「あの、少しお時間良いですか?」
程なくして出てきた氷川先輩に、俺は少しだけ声を潜めて言うと、それだけでただ事では無いと悟ったのか氷川先輩は表情を引き締める。
それは、いつも風紀委員として取り締まりをしている時の物であった。
「ええ。ではあちらで話しましょう」
俺は氷川先輩に導かれるように廊下の窓際の方まで移動する。
「それで、用件というのは?」
「はい。実は――――」
俺は先ほどの出来事を事細かに氷川先輩に説明した。
廊下で隠すように見つけていたカメラのこと、そしてそのカメラがクラスメイトの亮の物であったこと。
何より、亮が認めたこと。
「なるほど……」
俺の話を聞き終えた氷川先輩はそう呟いた後、少し考え込むような仕草を見せる。
俺は氷川先輩の次の言葉を待つ。
「一つ良いですか?」
しばらくすると、思考が終わったのか顔を上げた氷川先輩が聞いてくる。
「はい、なんですか?」
「なぜ、斉藤君は盗撮事件のことを知っていたんですか? 一般の生徒には知られていないはずですが」
確かにそうだ。
市ヶ谷さんも誰にも言うな的なことを言っていたのだから、この一件については箝口令的な物があるのは想像に難くない。
そんなことを知っていれば疑いの眼差しを向けられても致し方ない。
「それは――」
俺は言葉を詰まらせる。その理由は簡単だ。
この情報元が市ヶ谷さんだったからだ。
「どうしたんですか? 言えないんですか?」
黙り込んだ俺に対して氷川先輩は追及してくる。
ここで本当のことを言うべきか言わざるべきか。
市ヶ谷さんのことを考えると、正直迷うところだが、ここは素直に言った方が良いだろう。
嘘をつくよりも誠意を見せた方が印象が良いはずだから。
……市ヶ谷さんには、場合によっては後で謝る必要があるけど。
「――それは、市ヶ谷さんに聞いたからです」
「市ヶ谷さん?」
俺の発言を聞いた氷川先輩は首を傾げる。
「はい。実は―――」
俺は、市ヶ谷さんから教えてもらったことを氷川先輩に説明する。
「なるほど……そういうことでしたか」
その話を聞いて、最初は少し怪しんでいた氷川先輩だったが、最終的には納得してくれたようだ。
「あの……市ヶ谷さんですけど、お咎めとかってあるんですか?」
俺は気になっていたことを氷川先輩に尋ねる。
「いえ、特にそういったことはありませんよ」
「そっか。良かった……」
氷川先輩から返ってきた答えに安堵する。
もし、市ヶ谷さんが処罰を受けることになったら寝覚めが悪いどころじゃないからな。
「しかし、そうなってくると少々厄介ですね……」
「えっと……どういうことですか?」
氷川先輩の言っている意味がよく分からず、俺は聞き返す。
「このカメラが鈴木君の持ち物である……その証拠がないんです」
「えっ!? どういうことですか?」
俺は思わず驚きの声を上げて聞き返した。
「このカメラが鈴木君の物であるというのはあくまでも斎藤君の話の上です。本人が否定すれば、このカメラの持ち主であるとはいないんです」
「で、でも……」
俺は反論しようとするが、言葉が出てこない。
確かに俺が言っているのはあくまで本人が自白したことを話しているに過ぎない。
それに、カメラに亮の名前が書いていない以上、このカメラが亮の物であるという俺の主張は、あくまで憶測の域を出ないのだ。
「残念ながら今の段階では彼を犯人と断定することはできません。証拠が無いのですから」
氷川先輩の言う通りだ。
亮がこのカメラは自分のではないと言ってしまえば、このカメラが亮のものであると俺が主張したところで、それを証明できない限りは単なる言いがかりになってしまう。
(だとしても)
「氷川先輩、これを聞いてくれますか?」
俺はポケットからスマホを取り出すと、ある音声ファイルを再生する。
『頼むっ! 俺を見逃してくれっ!!』
「ッ!? これは?」
スマホから聞こえてきた亮の悲痛な叫び声に氷川先輩は目を見開く。
「俺と亮が話をしていたところを録音しました。これを聞けば、十分証拠になると思います」
あの時、俺は亮との会話を録音していたのだ。
言った言わないの水掛け論になりそうなのは、簡単に想像がついていたのでそれを回避しようと録音していたわけだが、まさかこのような形で役に立つとは思いもしなかった。
『つい出来心でやっちまったんだっ! もう二度とやらねえからッ!』
さらに音声は続いて、亮の罪を認めるような発言が流れる。
「……これで、証明できますか?」
俺は内心勝利を確信しつつも、氷川先輩の顔色を伺いながら尋ねる。
「そうですね……。カメラの持ち主の証拠にはなりませんが、少なくとも鈴木君が盗撮犯であることは十分証明できると思います」
氷川先輩は真剣な表情のままそう答える。
カメラの持ち主が亮であることは証明できなかったが、盗撮犯であることを証明することはできた。
そうなれば、カメラの持ち主など些末な問題だろう。
「では……」
「はい。これで彼を告発することができますね」
「ありがとうございます」
俺は礼を言う。
正直、亮が犯罪を犯しているとは思いもしなかっただけにショックだが、これで沙綾を苦しめる可能性は取り除けたのだと思うと、少しだけホッとした気持ちになった。
「それでは、私はこれで」
俺がカメラとスマホの音声データを氷川先輩に渡すと、氷川先輩は軽く一礼して俺に背を向けて去って行った。
放課後、ホームルームも終わりクラスメイト達が帰宅したり部活に向かったりする。
結局、あの後いつも通りの感じで時間が流れて行ったので、昼休みの一件は夢だったのではないかと錯覚しそうになる。
亮も最初はビクビクしていたが、最終的にはいつものように帰って行ったし。
「沙綾、一緒に帰ろうぜ」
この日は部活が休みだったので、俺は鞄を手にして席から立ち上がると、席に座っている沙綾に声をかける。
「あー……ごめん。今日は用事があるから先に帰っててくれる?」
「用事?」
俺は沙綾に聞き返す。
「うん。ちょっと野暮用があってさ……」
「……なあ沙綾。お前最近変じゃないか?」
俺は心配になって沙綾に問いかけるが、彼女は誤魔化すように笑みを浮かべると、
「大丈夫だよ。何もないし」
そう言って俺の質問を受け流そうとする。
しかし、彼女の瞳の奥に一瞬暗い影が見えた気がした。
「何かあったのか?」
「う、うぅん。本当に何でもないから」
俺がもう一度聞くと、今度は沙綾が引きつった笑顔を見せる。
「もう。嫉妬?」
「ち、違うって……俺は、ただ――――――」
沙綾は、俺の言葉を遮るように、俺に顔を近づけてくると、そのまま唇を重ねてきた。
「ちゅっ………はむ」
「ッ!?」
俺は驚いて離れようとするが、いつの間にか腰にも手を回されていて逃げられない。
「んっ……ちゅっ……」
「ちょっ……まっ……」
このままなのはよくないことは分かっている。
でも、俺は引き剥がすということができず、沙綾にされるがままになっている。
「ふぁ……れろ……しへる……んっ……」
「ッ!?」
俺の唇を割るようにして、沙綾の生温かい舌が口内に侵入してくる。
「はあっ……れろぉ……じゅぷ……」
沙綾はトロンとした表情で俺の唾液と自分の唾液を混ぜ合わせるようにして、ゆっくりと舌を絡めてくる。
「んくっ……ごくっ……」
俺は、流れ込んでくる沙綾の甘い蜜を飲み込む。
そのたびに頭がクラクラして、思考が麻痺していく。
(やばい……)
俺は必死に理性を保とうとするが、それももう限界に近い。
「しへる……しゅきぃ……」
「ッ!?」
沙綾が熱い吐息とともに囁いた言葉に、俺は溶けてしまうような感覚に陥る。
「んむぅ!?」
「んぐっ……はぁっ……」
気が付くと、俺は夢中で沙綾の口を貪っていた。
今度は俺が歯茎の裏をなぞり、舌を絡ませ合う。
「ん……はぁっ……!」
すると、沙綾は艶っぽい声を上げながら身体をビクンッと震わせる。
その反応が嬉しくて、俺はもっと沙綾を求めていく。
「はぁ……んっ……あむ」
「んむ……はぁ……れろ」
俺たちはお互いに相手の唇や舌を求めて激しく絡み合う。
そうしているうちに、お互いの唾液が混ざり合い、口の端から垂れる。
「ん……はぁ……ちゅぱ」
そして、どちらからともなく名残惜しそうに唇を離すと、糸を引いた唾液がプツンと切れた。
「はぁ……はぁ……」
俺は肩で呼吸をしながら、ぼんやりと沙綾の顔を見つめている。
沙綾の表情は上気していて、目は潤んでいた。
「じゃ、行ってくるね」
呆けている俺に、沙綾はそれだけ言って教室を後にしていった。
そんな沙綾を、俺はただ見送ることしかできなかった。
「沙綾、遅いわね」
「……」
そろそろ日も暮れようとする時間。
やまぶきベーカリーの手伝いをしながら亜沙綾の帰宅を待っていた俺だったが、沙綾は帰ってくることはなかった。
「茂君。何か知ってる?」
「え? ええ、まあ……」
千紘さんからの問いかけに、俺はどこか気の抜けた返事になってしまった。
そんな時、来店を告げる鈴の音が響いたため、俺は接客モードに頭を切り替える。
「いらっしゃ……沙綾ッ」
「……ただいま、茂。お母さん」
お客かと思っていた俺だったが、入り口にいたのは俺が待っていた沙綾だった。
その沙綾の表情から、俺はどこか疲れているような印象を受けた。
「沙綾、こんな時間まで何をしていたの? 茂君、心配してたのよ」
「ごめん。ちょっと先生の手伝いをしてたら時間かかっちゃって」
千紘さんの問いかけに対して、沙綾は申し訳なさそうに答える。
「そう……あまり遅くならないようにしなさい」
「うん。私着替えてくるね」
千紘さんの窘めるような言葉に、沙綾は頷くとそのまま奥に入って行く。
(……沙綾)
その後ろ姿に、俺は言いようのない不安を抱くのであった。
いかがでしたでしょうか?
亮の結末に関しては次話にて明らかになる予定です。
H:1
B:2(+1)