愛の伝道師は愛を独占したい? 作:若杉優太(テト/teto)
「いやー、疲れた疲れた……」
カルデア食堂のカウンター席で、アンリマユは顔を突っ伏したままどことなく言葉をぼやいていた。
バゼットとカレンの二人と身体を重ねてから丸一日以上は経ったが、まだ少し身体の倦怠感が消えない。
「(あの後、俺が起きてもカレンもバゼットも寝てるとは思いもしなかったぜ……結局バゼットを俺が運ぶハメになっちまったしよ……)」
特段、筋力がある訳でもないアンリマユにとって、一人の女性を部屋まで運ぶというのは中々にキツイものがあった。
それでもなんとか気合いを出してバゼットの自室まで運び込み、現在に至る。
「それにしても、喉が渇いて仕方ねぇぜ……おーい!シェフは居るか?」
カウンター席から少しだけ見える厨房に声を掛けると、すぐに奥から足音が聞こえた。
すると、すぐさま足音の主であるエミヤが姿を現す。
「何か用か?アンリマユ……」
「おう!わりぃんだけどさ、少しばかり水をくれねぇか」
「分かった。ああ、そういえば君に届け物が届いていたのでな……それも受け取るといい」
エミヤはそう言って、一旦厨房へと戻った。
届け物……ぱっと言われても中身が想像できない。
唯一思い当たる点があると言うならば、バレンタインチョコの届け物……それしか想像ができなかった。
「(でも、バレンタインチョコだったら手渡しが良いと思うけどな……)」
そんな疑問を頭で膨らませていると、厨房に戻っていたエミヤがコップと二つの小包を持って、厨房から帰ってきた。
「そら、持ってきたぞ。水と届け物のバレンタインチョコだ」
水と小包をエミヤがカウンターに置くと、アンリマユは水より先に小包に目線を向ける。
一つの小包はハート型で、もう一つの小包は四角い形をしていることから、すぐに誰が作ったのかが分かった。
そんな心境を察するかのように、エミヤが先んじて言葉を呟く。
「大体分かったと思うが、このハート型の小包がカレンで四角い小包はバゼットの物だ」
「なるほどね……しかし、何で俺に直接渡してこなかったんだ?」
「さぁな?彼女達から詳しい事は聞いていないが、少しばかり聞こえてきた話によると”渡し忘れていた”と……」
それ以上はエミヤも知らないらしく、不思議そうに首を傾げるだけだ。
「とりあえず、渡す物は渡したからな……後は好きにするといい」
「分かった!精々、好きにさせてもらうぜ」
再び厨房へ去ってゆくエミヤに笑顔で言葉を返すと、アンリマユは改めて小包を見つめる。
バレンタインデーとは縁が無いと思っていたアンリマユにとって、今こうしてチョコを貰えたことに自然と喜びを感じていた。
「さて、チョコはどんな感じかな……?」
開けるのも勿体なく感じる綺麗な小包だったが、中身を確認する為にバゼットとカレン、両方の小包の紐を解いて中を見ると、一瞬でアンリマユの目が喜びと驚きに満ち溢れる。
「すげぇ……これ、全部自分で作ったのかよ!?」
箱と同様にラッピングされた透明な袋に入っていた物に思わず声を上げる。
二人は箱の形と同じように、バゼットは四角い生チョコ、カレンはハート型の生チョコとそれぞれ作っており、互いに若干形が一定でない部分を見ると、自作したのは明らかだった。
「(俺の為にこれを用意してくれたのか……なんか、食べるのが勿体なくなってくるぜ……)」
アンリマユはまるでダイヤモンドやルビーといった宝石を扱うようにして、丁寧にラッピングされた袋を小包へと戻す。
そして、その戻した箱を太陽より眩しい笑みを浮かべて見つめる。
アンリマユにとって初めてのバレンタインチョコ……それを貰えただけで、アンリマユの胃は十分に満たされていた。
「……へへ、ありがとなバゼット、カレン……」
この場には居ない二人に感謝をしつつ、アンリマユは今日という日が最高であると、心の底から感じるのだった……
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