ヒーリングっど♥プリキュア! とアダムとイヴになる話 作:a-su
「起きてください、ユーイチさん」
優しい声で、ユーイチは目を覚ます。
「ん……アスミさん?」
寝ぼけまなこを開くと、目の前に美しい女性の顔があった。ベッドのユーイチにキスしようと、彫刻のように端正な美貌や大きな紫の瞳が迫っている。
「ユーイチさん……」
唇と、甘い吐息が近づく──が、ユーイチの意識は顔ではなく腰から下に集中していた。
(まっずい。朝から元気すぎる)
布団の中で、寝起きの生理現象がしっかり自己主張している。この体勢でキスなんかされたら腰が浮く。腰が浮いたら布団がずれる。
「……おはようございます」
片手で彼女の顔をそっと押し返し、もう片方の手で布団を腰に引き寄せた。
「すみません、やはり嫌でしたか?」
「いえ、じゃなくて、まだ心の準備が」
申し訳ない気持ちと切実な焦りで答えると、ベッドに腰かけていた金髪の美女が軽やかな動作で立ち上がった。
「わかりました。でも、わたくしは いつでも大丈夫ですので」
穏やかに微笑む彼女は〈風鈴アスミ〉。またの名を伝説の戦士プリキュア、キュアアース。
そしてユーイチは、地球を救う使命を帯びた〈最後の地球人〉。
ふたりは恋人ではない。使命によって結び付けられたセックス・パートナーだった。
ヒーリングっど♥プリキュア!
と
アダムとイヴになる話
ユーイチは、断りを入れてからアスミと暮らす家を出た。
小道には様々な種類の花々や草木が自生しており、深呼吸すると胸いっぱいに清らかな空気が入ってくる。優しい風が肌に心地いい。
「ふう……気持ちいい……」
この世界は、ヒーリングガーデンと呼ばれている。地球から遠く離れた妖精たちの楽園だ。常に花が咲き誇り、緑溢れる大地が続く。気候も穏やかで住む者に安寧を与えてくれる。幻想的で、妖精郷という表現が相応しい。
そして地球で死んだユーイチが転生した場所でもある。言うなれば天国だ。それも飛びきりいい天国。美味しい食事も楽しい遊びもたっぷりある。そして何より、
「ユーイチさぁーん!」
人間離れした容姿の美女が自分とのセックスを希望している。朝日の中で駆け寄ってくるアスミは、絵画に描かれた天使のようだった。
「どうしましたか?」
「せっかくですから、わたくしと一緒に歩いて関係を深めませんか?」
ユーイチの指に
「お散歩デートですっ♪」
「ありがとう、アスミさん」
歩きながら、ついアスミの横顔に見入ってしまう。
朝の光が頬を滑っていく。睫毛の影が薄く落ちて、唇のかたちがやけにくっきりと見えた。
(本当にきれいだ。人間じゃなくて地球の精霊っていうのも納得できる)
花畑を軽やかに歩くアスミの金髪が太陽光に照らされ、繊細な輝きを見せている。アップにした髪型が白い首筋を美しく強調していた。
「ユーイチさん、今日の朝ご飯は何でしょう?」
「そうですね。昨日の残り物をシチューにして、パンと一緒に食べるというのはどうでしょう」
「いいですね! わたくし、とても楽しみです」
目元や口元にもたらされる繊細な表情は、感情の移ろいを一つ一つ丁寧に描いて変化し、時に儚く、時に優雅に微笑みを見せる。大きな紫の瞳は深い宇宙に浮かぶ星々のように輝いている。
そんなアスミは、安らぎとともに存在の不思議さを感じさせた。それは見つめるユーイチを引き込む魅惑的な力を持っている。
「でも、ユーイチさん。あなたはちゃんとお休みしていますか? なんだか疲れた顔をされているように見えます」
「そうですね……確かに、少し寝不足かもしれません」
「何か悩みごとでもあるのですか? もしよければ、わたくしに相談してみてください」
「いや、男が弱音を吐くわけにはいきませんから」
「遠慮はいりません。わたくしたちは地球を救うために、セックスをするパートナーなのですから」
「うっ」
この澄んだ瞳に透明な声で「セックス」と言うのだから堪らない。
「男性だからこそ、女のわたくしが助けになれることもあると思います」
アスミは、ユーイチの手を握り自分の胸元に引き寄せた。
清楚な白のワンピースを押し上げる胸の膨らみに、自然と目が吸い寄せられる。
「ちょ、ちょっと、アスミさん」
性のつながりを暗示する行為に、思わず目を逸らしてしまう。その反応を見てアスミがさらに距離を詰めた。
「ユーイチさんは、どうして目を背けるのですか?」
「それは……申し訳ないからです。アスミさんは真剣なのに、俺はただ棚からぼた餅みたいな形で今の立場を手に入れただけですし……」
「そんなことはありません。これは地球を滅亡から救うために結ばれた絆なのです。パートナーとしての関係を深めることは当然ではないですか」
「…………」
アスミのことは好きだ。肉体関係を持てることを、嬉しく思わないと言えば嘘になる。しかし同時に、過酷な使命を背負う彼女を思えば思うほど、ユーイチの心は重くなる。
そもそもなぜ自分がここにいるのか、その経緯を思えば当然のことなのだ。
◆◆◆
日本の高校生だった
それから十数年が経過した数日前に、雄一は〈精霊ユーイチ〉となってヒーリングガーデンに転生した。そして妖精たちの女王テアティーヌから驚くべき事実を聞かされる。
十年前、地球は滅亡した。意思を持った邪悪なウイルス・ビョーゲンズの
そして彼は〈精霊ユーイチ〉に、またの名を〈最後の地球人〉に選ばれた。
テアティーヌは言う。あなたは地球という星を滅亡から復活させられる最後の希望なのだと、あなたが生み出した生命のエネルギーが母なる星を癒やしていくのだと。
テアティーヌに促されたアスミが、紫の瞳に決意の光を宿して言う。
「率直に言います。貴方がわたくしを妊娠させれば、滅びてしまった地球が復活するのです」
唖然とするユーイチに、アスミが穏やかな笑みを向ける。
「とても信じられない話でしょう。しかし、それが唯一の手段なのです」
男性型の精霊ユーイチと女性型の精霊アスミに託された使命、地球という星の最後の希望。
それはセックス。
地球のため、みんなのため、ユーイチがアスミを妊娠させる事だった。
◆◆◆
食卓に朝の穏やかな陽射しが降り注いでいる。
朝食の準備はユーイチの仕事だ。アスミは食器を出したりする程度の手伝いしかせず、基本的にじっと待っている。
「ふふ、新婚さんみたいですね♪」
「まだ恋人でもないでしょう」
アスミの天然さは、さすが精霊だと思わせた。転生する前に持っていた、女性とは
「お待たせしました」
テーブルの上に皿を置く。昨夜の残り物をアレンジして野菜や鶏肉が豊富に入ったクリームシチューに仕上げた。ミルキーな温かい匂いが部屋に広がり、それと共にパンの香ばしい香りも漂っている。
「いただきます」
「はい」
手を合わせるとアスミもそれに倣った。
口に運べばシチューの濃厚な味わいと煮込まれた野菜の食感が広がる。パンのサクサクした食感も心地よく、バターの塩気が甘さを引き締めた。
「んーっ、おいしい!」
アスミは満面の笑みでスプーンを動かし、あっという間に一杯目を平らげた。
「……おかわりを、いただいてもよろしいですか?」
少し恥ずかしそうに差し出された皿によそってやる。
ユーイチがパンをちぎっている間に、二杯目も綺麗に消えた。そして三杯目。今度はもう恥ずかしさを捨てたのか、空の皿を両手で抱えて子犬のような目をしている。かわいい。
「……もう一杯、いいですか?」
「食べすぎじゃないですか?」
「精霊の代謝は人間と異なりますので、太りません」
胸を張って宣言された。太らないのか。ほんとか?
「昨日の残りもこんなに美味しく変身させられるなんて、さすがユーイチさんですね」
「いやあ、はは。元々独り暮らしでしたから」
「独り……人間のみなさんは、高校生ならご家族と一緒に暮らすものではないのですか?」
「俺、両親とも中学の時に死んでて……」
しまった、と思った時には遅かった。気まずさに視線が泳ぐ。
アスミが優しく微笑んだ。
「すみません、無神経なことを訊いてしまいましたね」
「……いえ、いいんです」
取り繕うように笑って、シチューを口に運んだ。なぜか味見の時より物足りなく感じてしまう。
「わたくしとしたことが、配慮が足りませんでした。ごめんなさい」
「気を使わないで下さい。俺は男だから」
強がりではなく本心から出た言葉だった。自分の中では割り切れている。
しかしアスミはスプーンをテーブルに置き、まっすぐな視線と真摯な目を向けてきた。
「いいえ、そういう問題ではありません。わたくしはプリキュアであり、あなたのパートナーです。心の痛みへ、寄り添わずにいる事はできません」
「アスミさん……」
「これからふたりで一緒に過ごしていくのですから、わたくしはもっとユーイチさんのことを知りたいと思います」
彼女はそっと手を伸ばした。テーブルの上で所在なく彷徨っていたユーイチの手を包み込み、ぎゅっと強く握る。
「…………」
細く滑らかな指先から温もりが伝わり、優しさが染み込んでくるようだった。まっすぐに向けられる紫の瞳はどこまでも澄んでいる。
「辛いときは言ってください。寂しいときも仰って下さい。わたくしの心はいつも貴方の側にありますから」
(きれいだ)
危うくそう言いかけた。清らかな女性に見惚れながら、どこかへ落ちていく感覚を覚える。彼女とセックスできるかもしれない、そう思うと体が燃えるようだ。
(俺も、態度を決めないと)
佐藤雄一は男として生まれた。そして世界に唯一残った男、ユーイチになったのだ。そこにはきっと意味がある。そう思いたい。
(男にならなきゃあ。アスミさんのために。そして、自分のために)
そうだ、いつまでもウジウジしているのは男じゃない。
「アスミさんはきれいです」
「えっ? あ、あの、ありがとうございます」
面と向かって言われ、さすがにアスミも戸惑ったらしい。頬を赤らめ、うろうろと視線を定められないでいる。
(かわいい)
「こんな素敵な人が俺と子供を作ってくれるって言うんですから、光栄だし嬉しいですよ」
「……まあ♪」
照れ笑いをすると、つられたように彼女も笑った。指が絡み合い、手のひら越しに体温の交わりを感じる。
「でも、一つだけ聞かせて下さい」
「なんでしょう?」
少しためらった後、思い切って質問を口にした。
「どうして、地球を救いたいんですか?」
「……え?」
その質問は予期していなかったのだろう。一瞬きょとんとした後、困ったように目を逸らされてしまった。
「ユーイチさんは、地球を救いたくないのですか?」
「すみません、変なことを聞いて……でも、そうかもしれません」
地球を救う理由など、あるのだろうか。
「みんな、もう死んだんでしょう。ガッコのみんなも、バイト先の店長も、総理大臣も大統領も地球と一緒に消えたんですよね」
「はい……」
視線を落とすと、アスミはシチューの三杯目をまだ食べていた。沈痛な受け答えをしながら、スプーンは止まっていない。
少なくとも、彼女はとても元気に生きている。不謹慎だろうか。でも、なぜか口元がゆるむ。
地球の最期、滅亡の瞬間は知らない。だがそれでも、生まれ育った世界が取り返しのつかない終わりを迎えたことは理解していた。
「今さら、って思うんです。まして、アスミさんを傷物にしてまで」
沈黙が流れた。やがてアスミは小さくため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。
「わたくしを、守ろうとしてくれているのですね。みんなの期待や、貴方自身から」
「いや、そんな大層なもんじゃ……ただ、アスミさんには未来がありますから」
曖昧に笑うと、彼女も同じように微笑を返してくれた。
「わたくしも同じ気持ちですよ。未来を守りたいと思っています」
「……」
「あれから十年……今では、わたくしがプリキュアだったと知る者も少なくなりました。
あの子たちと言うとき、アスミの声が震えた。テアティーヌから聞いた、アスミ以外のプリキュアについて語っているのだろうか。
キュアスパークル、平光ひなた。
キュアフォンテーヌ、沢泉ちゆ。
キュアグレース、花寺のどか。
ビョーゲンズの脅威に晒された彼女たちは自らプリキュアに変身し、アスミと共に戦ってくれたという。
その甲斐あってアスミは最後にして最強のビョーゲンズを制した。
だが代償は大きく、アスミ以外のプリキュアと妖精たちは全滅してしまったそうだ。
「あの子たちは、中学生の女の子でした。十年経って、もし生きていれば今頃と、そう思ったのです」
ここではない、どこか遠くを見るような眼差しでアスミは言う。きっと、思い出の中の少女たちを見つめているのだろう。
「大人になって、素敵な恋をして、結婚して、子供を育てて……そういう未来があったかもしれないと」
視線が、ユーイチの目に真っ直ぐ注がれた。紫の瞳には悲哀や慈愛ではなく、心を射抜くような強い光がある。
「未来です、ユーイチさん。わたくしが欲するのは、わたくしの未来。あの子達の分まで、自分の未来に進みたい」
ユーイチはこの時初めて、目の前の女性が伝説の戦士プリキュアなのだと実感した。
「それがアスミさんの理由ですか? 俺と……」
「はい。きっと、この出会いは運命だから」
そう言うと彼女は静かに立ち上がった。テーブルを回ってユーイチの後ろに立ち、そして優しく抱きしめてくる。
「わたくしは地球のため、自分のため、貴方とセックスがしたい。それが今、わたくしの一番大事なことなのです」
後頭部に感じる柔らかい胸の感触、背中に広がる甘い温かさに体の力が抜けてしまう。
「わたくしを気づかって下さっている事はわかります。自分を押し殺していることも……ですが今は何も考えず、ただわたくしを求めて欲しい」
上から注がれる声は、吐息混じりに甘かった。清純な女性が精いっぱいの色香を出そうとしている。首元を撫でる指は愛撫のようでもあり、しかし同時に子供をあやす母親のようでもあった。
「だめですよ、まだ朝なんですから……」
そう言って誤魔化そうとするも、ユーイチの気持ちは既に一線を越えている。
アスミにもはっきりと伝わったのだろう。手のひらは熱く湿っていて、彼女の昂ぶりを物語っていた。
「ユーイチさん……わたくしと、お風呂に入りませんか?」
◆◆◆
「わたくしは、あなたと裸のお付き合いをしたいのです」
この家の風呂は、かつての日本にあった温泉旅館に似せて作られているという。木造の脱衣所には鏡もなく籠が置いてあるだけだが、広々とした空間の中に湯煙が立ち込めていた。
「いや、あの、気持ちはわかるんですけど……順序ってものが」
「もう待ちきれません。わたくし、何だかあなたに裸をお見せしたくてたまらないのです」
その言葉通り堂々と恥ずかしげもなく、ワンピースを床に落とす。
その下から現れたものは、ユーイチがかつて見た地球の下着だった。
「うわっ」
咄嗟に目をそらしたが、それでも網膜に焼き付いた残像が消えるわけではない。飾り気のないシンプルな白地の上下セットは、転生前に見たエロ本とは違う生々しさを彼の心に刻み込んだ。
「さ、ユーイチさんも脱いでください」
「い、いいですって!」
言うが早いかこちらの服に手をかけてこようとするので、慌てて風呂場に逃げ込む。ぽんぽんと服を脱ぎ捨て、どぼんとヒノキ風呂に飛び込んだ。熱めのお湯が全身を包み込む。
「ユーイチさん、マナー違反ですよ? 温泉ではまず掛け湯からです」
「他人の服を脱がせるのもマナー違反ですよっ」
明後日の方を向きながら言い返すと、楽しげな笑い声が浴場にコダマする。濡れた床を踏みしめるペタペタと軽い足音に続いて、背後でチャポンと音がした。
「隣、失礼しますね」
反射的に振り返りそうになり、理性を総動員して目をつぶる。
今、アスミは一糸まとわぬ姿で浴槽に入ってきたのだ。そして湯の中を進み、自分の隣に身を寄せてきている。
(アスミさんは細身だし、きっと胸は控えめなんだろう。いや、控えめだとしても、形がよければそれはそれで……)
妄想が次々湧いてきて頭の中を埋め尽くす。乳首の色は? 肌の質感は?
そんなことを考えている間に、すぐ隣にアスミの気配を感じた。肩先が触れ合い、柔らかな肌の感触を覚える。
(やばい)
緊張のあまり体がこわばってしまう。股間を隠すように体育座りしていると、不意に声がかかった。
「あの、ユーイチさん?」
「ひゃいっ!?」
驚いて目を開ける。鼻先数センチのところに、彼女の顔があった。至近距離から紫の瞳が覗き込んでくる。薄めの唇が間近にあり、今にもくっつきそうだった。
「ごめんなさい、少し意地悪をし過ぎましたね」
ふふっと笑って、体を離す。
ようやく人心地ついた気がしてため息をつくユーイチに、気を取りなおすようにしてアスミが言った。
「気持ちいいですか?」
(何が!?)
心臓が止まるかと思った。
だがどうやら彼女の真意は違ったらしい。
「ふう、やはり温泉はいいものですねえ」
両手でお湯をすくい上げ肩にかける仕草が妙に色っぽい。
ぷるんと弾む胸元を凝視してしまいそうになり、慌てて目を逸らした。
「もっとリラックスしてくださいな」
「難しい注文しないでもらえますか……」
「?」
きょとんと首を傾げられ、苦笑いを返すことしかできない。長い髪をまとめ上げた彼女は大人の色香を放ちながらも少女のように無邪気で、そのアンバランスさに目を奪われてしまうのだ。
結局ほとんど言葉を交わさず、ただのんびりと時間だけが過ぎていった。
そのうちふと気になって、疑問を口にする。
「アスミさんって、いくつなんですか」
「え? 歳ですか? わたくしは十歳ですが……」
「十歳!?」
「ええ、そうです。わたくしは十年前、ビョーゲンズとの戦いのために生まれましたから」
十歳? 十歳でセックス? 地球を救うために妊娠?
「いやいやいやいやいや……いくらなんでも若すぎませんか?」
「あら、そうでしょうか?」
「いや、だって、見た目は二十代くらいじゃないですか」
「ふふ、ユーイチさんも、地球人の年齢で言うと十七歳くらいでしょう」
「まあ……でも、地球人の感覚だと、10歳の女の子とセックスするって犯罪ですよ」
「わたくし、人間ではありませんから」
あっけらかんと言い放つ様子に呆れていると、くすくす笑いながら腕を取って抱き着いてきた。白くて柔らかくて、でもハリのあるものが形を変えて押し当てられる。
「うおわっ」
「そんなに驚かなくてもよいではありませんか」
言いながらもさらに押し付けてくるのでタチが悪い。腕を振り払うわけにもいかず為す術なく固まっているユーイチの耳元で、そっと囁く。
「地球を救わないのであれば、わたくしと性行為をするべきではない、ですか?」
「そっ! そういうわけじゃなくてですね……」
もうそんな理屈は吹き飛んでいた。今ユーイチの体を固くしているのは、少年らしい照れと恐れだけなのだ。
アスミはゆっくりと体を離し立ち上がった。ユーイチの前で両腕を開いて、隠すことなく裸身をさらけ出す。
「いかがでしょう。わたくしの肉体は、あなたの目にどのように映りますか?」
湯気の中で、眩しいばかりに白く研ぎ澄まされた肢体が輝いていた。
まず目を奪われたのは胸だった。ツンと上を向いた形のよい乳房は、予想をはるかに裏切る豊かさでそこにあった。ワンピースの下にこれが隠れていたのか。服ってすごい。
スラリと伸びた手足が品の良さを感じさせ、くびれた腰回りがヒップラインを際立たせている。その中に新しい命を育むための器官があることを思い出させた。わずかな恥毛が秘所を隠し、お湯の温かさで上気した肌がいっそう奥にある神秘を想像させる。
「…………」
何も言えない。ただ、唾だけがごくりと喉を通る。
「はしたないとは、お思いにならないで下さい。あなたに裸をお見せしたくてたまらないのです。あなたの目に、わたくしがどのように映っているのか知りたいのです」
アスミはゆっくりと近づいてくる。
滑らかな脚の動きに合わせて水面が揺れ、透明な波紋がいくつも広がった。
「さあ、ユーイチさん。遠慮なさらずに、ご覧になってください。わたくしの全てを……どうぞ、ご存分に……」
湯船の縁に腰を下ろした彼女が足を伸ばし、大胆にも左右に広げる。まだ他人を知らない割れ目が空気にさらされ、小さく震えていた。
ユーイチは誘われるようにふらふらと立ち上がる。アスミに全身をなめ回されるような錯覚を覚えながら、一歩ずつ近づいていく。
あと一歩踏み出せば、禁断の世界に踏み込むのだ。それでも足を止めることはできない。
「き、きれいです……」
絞り出した声は震えていたかもしれない。
膝の間に体を割り込ませると、目の前でアスミの顔が紅潮した。
「……ありがとう、ございます」
蚊の鳴くような声で言い、長いまつげを伏せる。そして何かを決意したように顔を上げると、ユーイチの肩に両手をかけて言った。
「でも別の言葉も聞きたいです。わたくしの体を見て、セックスしたいとお思いになりますか?」
アスミはユーイチの体、特に股間の屹立を注視していた。すでに起ち上がって湯から顔を出す亀頭を凝視している。興奮しているのか息も荒く、瞳を潤ませていた。
「わたくしが人間の女であれば、見れば自然と納得できることなのかもしれません。しかし、わたくしは精霊です。あなたがわたくしに抱いている感情は、わたくしには分かりません。だから、教えてください」
「俺は……」
言葉に詰まる。答えはとっくに出ているのに口が追いつかない。男になるんだ。男になれ。
勃起は治まらない。むしろより硬度を増していく。熱い血流がどくんどくんと脈打ち、先端がぴりぴりと痺れて痛みすら覚える。
そんなユーイチに、アスミはそっと顔を寄せ、そして囁いた。
「あなたはわたくしに、性的興奮を覚えるのですか? わたくしに欲情して下さるのですか? わたくしを愛せると、そう思ってくださるのでしょうか」
「……正直に言います。興奮します。今すぐにでも押し倒したいくらいに」
それはユーイチの本心だった。
触れたら壊れそうなくらい綺麗な人を、それでも組み敷きたいと思っている。頭がどうにかなりそうだ。
「俺は、アスミさんのことが好きなのかどうか分からない。だけど、こんなにきれいで魅力的な人に迫られたら、ドキドキするに決まってる!」
言い終わると同時に抱き寄せていた。濡れた素肌同士が密着し、鼓動まで一つになったかのような錯覚を覚える。
そのまま唇を重ねようとして……直前でためらった。するとアスミの方から唇を寄せてきたので、今度こそ重なるように口づけを交わす。
「……♡」
初めてのキスは甘く柔らかいものだった。ちゅっと音を立てて離れ、目を開く。
「ふふっ……わたくしは、まだ、あなたを愛しているわけではないと思います。ただ……」
アメジスト色の大きな瞳がいたずらっぽく輝き、もう一度唇が触れる。さっきよりも強く押しつけ、お互いのカタチを確かめるようにスライドしていく。
「ん……衝動を抑えられないだけ……今、この瞬間、こうしたい気持ちが抑えられなくて……」
「アスミさん……」
舌を出して唇を舐めると、彼女も同じ動きを返してきた。それが嬉しくて何度も繰り返していると、不意に舌が絡め取られる。
「う……!」
「んふ、だめです……離しません」
ユーイチはアスミを押し戻そうとしたが、彼女は恐ろしく力が強く、びくともしない。ぬるぬると蠢く粘膜の感触に背筋が震えた。
(なんだこれ……!)
今まで経験したことのない刺激だ。他人の口内なんて汚いものだと思っていたのに、果実を味わっているような心地よさがある。未知の快楽に、自分がどこにいるのかさえ分からなくなっていた。
しばらく貪るように求め合い、やがて名残惜しそうに離れる。二人の間に銀色の橋がかかり、重力に従って垂れ落ちた。
「はぁ、はぁ……」
肩で息をしながら、アスミを見つめる。
彼女も荒い呼吸を繰り返し、頬を上気させていた。
「アスミさん……いや、『アスミ』……」
「はい、『ユーイチ』……」
「俺は君のことを、愛せるところまでは行っていない」
「はい」
「でも、君のことを魅力的だと思っている」
「はい」
「そして、俺の体は、君とセックスしたがっている」
「ふふ、そうですね」
伸びてきた細い指にペニスが
それを優しく撫でさすりながら、アスミが確かな意志の光を放つ瞳を向けてくる。
だからユーイチも力を込めて応えた。
「寝室に行こう。君の使命や意志がどうあれ、君を俺のものにする」
(続く)