私たちと彼は、もう20年以上の仲になる。
しかし、よりにもよって異性の好みは被っていたらしい。彼——アオイは、小学生の頃に実家のそばに引っ越してきた。私たちは彼に淡い初恋を捧げ、20年ほど想い続け、拗らせてしまった。そうなったのは、彼を奪い合うことで姉妹の仲が崩れることを恐れたためだ。私たち三人は大学卒業まで実家暮らしをしていながら、結局仲良しこよしのままだった。
というのが、半年ほど前までの話だ。進展の契機は彼の二十歳の誕生日だった——進展と表現するのは躊躇われるけれど。私たち姉妹がシェアするアパートに彼を呼び込み、誕生日パーティをした。その折に彼を酔わせて、勢いで身体を重ねた。計画性があったわけでもなく、ただ積年の恋心が噴き出した形だった。社会人の女2人がかりで、可愛がっていた年下の男の子を組み伏せたのは、人生で一番興奮した瞬間だった。正当な手順ではなかったことは自覚しているし、ことが済み酔いが覚めたときは刑務所で彼に贖罪することを本気で覚悟していた。しかしながら彼も私たちのことを想ってくれていたようで、いびつながらある程度丸く収まっているのが現状だ。呑気に懐古できるのも、現状がそうであるからだ。
今は3人でほぼ同棲状態で、各々の学業や仕事で部屋にいたりいなかったりしながら愛しあっている。私たちの職業柄、ほどほどに2人きりの時間と3人の時間を作れるのがいい。この関係がいつまでもうまくいくとは限らないけれど、どうにか色々な手段でもって——親を裏切ってでも、国籍を変えてでも、彼と添い遂げたいと思っている。私たち姉妹のなかでは、そういう話だ。
————
「んーっ。アオイくん、撫でて……」
「ふふ、いいですよ」
私の席は彼の右側と決まっている。彼の腕に絡みついて、媚びた声を上げると、すぐに要求に応えてくれた。
彼と付き合い始めて、もうすぐ半年が経つ。たったそれだけの期間では、20年溜め続けていた妄想を実現しきることはできない。彼にしたいこと、彼としたいこと、彼にされたいことは、まだまだたくさんある。それらを口にして甘えることを覚えたのも、つい最近のことだ。
「あ、テレビ消していい?」
「あれ、10時からカオリさんの好きなドラマやりますよ?」
「録画してるからいいの。よいしょ。……ね、アオイくん。お願いがあるんだけど」
「はい」
「その……脚の間にね、こう、座っていい?」
もう男女の仲なのに、なぜおずおずと膝に座る許可をとったかは、3人の約束が理由だ。彼には、完全に平等に私たちを愛することを求めている。逆に私たちは、その均衡を崩すような要求を彼にしてはいけない。そういう約束だ。
彼の右側は私、左側はサキという、強い暗黙の了解がある。ベッドの上でも、私が彼の左半身に何かをすることは——特に痕を残すようなことは、絶対にない。しかし彼の真ん中はグレーゾーンなので、膝に座るという行為は、まず彼に確認する必要がある。そして断られる可能性もある。
「いいですよ。どうぞ」
「いいの?やった……!じゃあ、座るね……」
しかし彼は、あっけなく私を迎え入れた。腰を浮かしながら、恐らくサキは既にこれに類することをしたのではないかと勘ぐる。そのため、彼の中で真ん中はシェアゾーンという線引きが既にあるのではないか。
ともあれ、彼に背を預けて座ると、尋常でない多幸感が得られた。言わずとも後ろから抱きしめてくれて、恋人の体温と匂いに包まれる。背中に感じる、張りがある胸板と腹筋の感触がたまらない。
「お、はぁ……♡ あ、アオイくん、もうちょっと強くぎゅってしてぇ……」
「はい、痛くないですか?」
「うん、うん、だいじょうぶ……♡ 」
彼の穏やかな鼓動が伝わってくる。眠気を誘うようなリズムだ。仕事で疲れた身体が、一番リラックスした状態に移る。しかし心はそうもいかない。ずっと好きだった彼と触れ合っているのだから、どうしても昂ってしまう。心と身体がちぐはぐで落ち着かない。
「アオイくん……アレもして……♡」
「分かりました」
涙が滲むほどの快楽に加えて、私の要求に応えた彼が、耳元に唇を寄せる。そして鼻先で私の髪をかき分けて、囁いた。
「カオリさん、好きです。大好きです」
「……ッ♡ うん♡♡ わたしも好き♡♡」
「ふふっ、愛してます。ずっと、ずっと、好きでした。愛してますよ、カオリさん」
「ふーッ……♡♡ 好き、愛してる♡♡ ふーッ……♡♡ ふーッ……♡♡」
耳元で愛の言葉を囁いてもらうのが、たまらなく好きだ。だから「アレして」と言えば伝わるほどに、何度もしてもらっていた。後ろから抱きしめられながらだと、その行為の快感は何十倍にも跳ね上がった。視界に眩しいものがちらついて、涙が滲む。全身からどっと汗が噴き出る。手足の先が熱くてぴりぴりする。囁かれただけで、私の身体はいくらかの異常を示していた。それも仕方ないかもしれない。こんなの、五感を通じて脳を犯されているようなものだから。
「カオリさんは、右耳のほうが弱いですから、今度はこっちから囁いてあげますね」
「あ、あ゛、みぎ……♡♡」
「カオリさん、かわいいです。耳に息がかかっただけで、体中ぶるぶる震えてますね。抱きしめてるから、カオリさんの反応が全部伝わってきて、不思議な気持ちです」
「ひぃっ♡♡ ごめんね……♡♡ 耳よわいから♡♡」
「分かってますよ。耳、噛みますね。愛してますよ……」
「お゛あ゛ッ……!?♡♡ …………ッ!!♡♡」
「んっ……ん、んむ……」
「あ゛ッ……あ゛ん♡♡ あ゛ぉぉッ♡♡」
硬い歯と柔らかい唇の感触。息継ぎをする吐息の温かさ。彼の口腔に響く反響音。それらが変化をもって与えられて、背骨が溶けそうなほどぞくぞくする。獣めいた声が漏れてしまうけれど、それを恥ずかしがっていたのは少し前までのことだ。堪えることなんてできないことは、もう分かっている。
「ん、ちゅっ……カオリさん。あんまりやりすぎても、よくないですよ?もうやめておきますか?」
「やめ、やめないでよッ♡♡ 舐めてッ♡♡ 耳のあなほじほじしてよ♡♡」
「分かりました。しますから、ね?そんな顔しないでください」
「はやくッ!♡♡ はやくはやくッ♡♡」
「ん、れぇ……」
彼の舌が、ぞぶりと音を立てて耳に侵入した。もはやセックスしているのと遜色ない性感に襲われる。腰が跳ね上がってしまうので、彼に抱き止めてもらわないと落ちてしまいそう。
「あ、あ゛、あ゛ッ!!♡♡♡ あ゛ーッ!?♡♡♡」
彼は右耳を舐りながら、左耳も指先で優しく撫でてくれた。ささやかなはずの愛撫の音が、耳元で嵐のように鳴り、それしか聞こえなくなる。
「すきっ!!♡♡♡ すき!?!♡♡♡ アオイぐんすきッあ゛いしでる!!♡♡♡ もッもっとしてッそれ゛、あ゛ーッ死ぬ゛ッ♡♡♡ ごわれる゛ゅッ……♡♡♡」
「ん、んんっ、ふふふ……愛してますよ……♡ カオリさんが廃人になっても……ん……僕が一生そばにいますからね……」
「死ぬ♡♡♡ 死にゅッ♡♡♡ イッたら死んじゃゔッからぁぁ!?♡♡♡ 脳みしょ焼げてる゛ッ!!♡♡♡ イ゛ぎ、も、イ゛ッ!?♡♡♡ イきまず!!♡♡♡ ごめんなざい゛!!♡♡♡」
「イってください……♡ 耳で気持ちよくなって…… んむ、じゅるる……」
「耳イ゛キするッ!!♡♡♡ イぐッイくイくイぐぉッ……♡♡♡ ……こォッ?……お゛、あ゛あ゛あ゛あ゛イぎァ……ッ♡♡♡」
思い切り抱きしめられて、身体と頭を固定されて、逃げられなくされてから、思い切り耳を犯された。あっけなく私は絶頂した。一人で触ってイくのと同じ分類の快感とは思えない。脳に近いところを責められたからか、あり得ないほどイキ方が重い。
「……う゛ぁぁ……♡♡ んふーッ♡♡ ふーッ♡♡ あぁあ……イッた……♡♡ みみこわれた……♡♡ アオイくぅん……愛してるよ……♡♡」
「上手にイけましたね……カオリさん、えらいです」
「はへ、はぁ……♡ アオイくん……ベッドいこ♡ 明日おやすみだから、絶対セックスするって決めてたんだよ?♡」
「ふふ、分かりました。掴まってください、運んであげますね」
「えへ……♡ もう準備できてるからすぐ入れられるよ♡ 絶対気持ちいいよ♡」
彼に抱き上げられる。夜はまだ長いから、たくさん愛を深め合える。
(ごめんね、サキ……♡)
双子の片方は仕事中なので出てきていません