彼は好んで酒を嗜むことはない。一番好きなものはレモン酎ハイで、私たちに誘われたときは、それをちびちびと飲む。
しかし、酔わせるとかなり大胆になってくれるので、私たちはそれを狙ってしばしば晩酌に誘っていた。
いつも彼に頼り切りなので、今日は私たち姉妹が家事を担当して、彼にはゆっくりしてもらった。座りが悪いらしく、私か姉ががソファに抑えつけていないと家事を手伝おうとしてきて大変だった。
そうして、私が作った夕飯を食べて、彼を晩酌に誘った。
「ほら、アオイ。たまには飲もう?」
「ね、レモンハイもあるよ」
「そうですね……今日は飲みます」
よく冷えた缶を差し出す。案の定、彼は乗ってくれた。彼は家事を"してもらった"という認識があるため、断れなくなっている。それを私たちはよく理解していた。
カオリと私が、隙間なく彼を挟み込んで座る。乾杯をして缶の半分まで煽った。私たちは発泡酒だ。
テレビと彼の顔色を見ながら飲み進めていった。彼が350ミリリットルの缶の二本目を半分ほど飲んだあたりで、途端にペースが遅くなった。それに、いつもより笑うようになった。
「ふふ、ふふふ……」
「この芸人さん好きなの?」
「初めて見ました。ふふ、こういう王道の漫才、いいですよね……」
にこにこと笑う彼の横顔を透かして、カオリと目が合った。酒のせいばかりではない、熱の籠もった目をしていた。
こんなにも無防備に酔っ払ってしまうなんて、彼には困ったものだ。私たちと恋人になったきっかけを忘れてしまったのだろうか。泥酔させられて、レイプされたことがあるのに、その犯罪者の横で同じようにへべれけになっている。そのことに苛立つ。分かるまで教えてあげないと。
さり気なく体重を彼に預けると、すぐに気づいて、手を握ってくれた。そんな可愛らしい触れ合いで済むわけがないのに、彼は無邪気ににこにこしている。
「サキさん、好きですよ……ふふ……」
「ッ……♡ 私も好きだよ……♡」
「カオリさんも、愛してます……」
「んふッ……♡ 大好きだよ……♡」
今すぐに乱暴したい気持ちを抑えて囁いた。カオリも限界だろう。なのに彼は、さらに続けた。
「今日はいろいろやってもらって、ありがとうございました。何かお礼しないとですね」
「お礼なんていいよ?♡ 普段は私たちが頼りきりだから♡」
「いえ、いつもお仕事してくれてますから。何でもしますから、してほしいことがあったら言ってくださいね」
カオリがすっと無表情になった。
本当に、本当に、彼は何も分かっていない。自分にひどいことをしてやろうと常に思っている相手に対して、何でもするだなんて、常人ならまず言わない。そんなこと言ったら、何をされるか分からないから。
わからせてあげないと。世の中にはこんなにひどい女がいて、気をつけなければならないことを。だから私たち以外の前では飲んだり酔ったり、ましてや何でもするなんて言ったりしてはいけないことを。
「……ふざけてんの?♡♡」
「あーッ……♡♡ 言っちゃったねぇ♡♡」
「え、え?」
「アオイくんさぁ、ほんとに自覚ないの?♡♡ それとも実は全部分かってて、私たちのことからかってるのかな?♡♡」
「だとしたら、ひどいよ?♡♡ 私たちのこと、なめてるんだね♡♡ ちょっと抱いてあげたらおとなしくなるビビリだと思ってんだ♡♡」
「えっ、いや、そんなことは……」
「うるさいなぁ♡♡ ほらこっち向いて♡♡ 飲ませてあげる♡♡」
「んッ、んむ゛ぅーッ……!」
カオリは発泡酒を口に含んでから、彼の唇を奪った。じゅるじゅる、ずぞぞぞ、凄い水音が響く。彼は逃げるように身体を引いて、私に背中を押し付けてきた。
私も彼の飲みかけのレモンハイを手にとる。
「んぷぁッ……♡♡ 何で逃げるの?♡♡ 私のこと好きでしょ?♡♡ キス好きでしょ?♡♡」
「けほ、けほ……」
「アオイは苦いの嫌いだもんね?♡♡ こっち向いて♡♡ 向け♡♡」
「ん、む゛ーッ!んむ゛ーッ!」
口移しでレモンハイを飲ませてあげる。舌で無理矢理に唇をこじ開けて、上から流し込むような角度でディープキスをする。目は閉じない。彼がぎゅっと目をつむるかわいい姿が、興奮を煽る。
掴んでいた頭を開放してあげると、彼はまた咳き込んだ。
「アオイくんごめんね?♡♡ 苦しかったね?♡♡」
「んふッ♡♡ ごめんね♡♡ でもアオイも悪いんだよ?♡♡ 君が先に煽ったでしょ?♡♡」
「う゛、けほ……。ごめんなさい……」
「……ッ♡♡ だからぁ……♡♡ しおらしい態度見せないで?♡♡ ほんとにレイプするよ?♡♡」
両側から彼をがっちりと支えて、身体を擦り付ける。そうしながら、酒で火照った吐息を首筋に吐きかけると、彼は身体を縮こまらせた。
「ね、アオイ♡♡ 私たちだけのものになって?♡♡ いつでも求められたら、私たちと相思相愛のセックスしますって誓えるよね?♡♡ そしたらレイプじゃなくなるからね♡♡」
「ね、大好きな私たちと、らぶらぶセックスしたいよね?♡♡ レイプいやでしょ?♡♡ ほら、何でもするなら私たちだけのものになって♡♡ 就職もしないで、お外にも出ないで、ずっと私たちのためだけに生きようね……♡♡」
「……い、嫌です……」
「は?」
彼は顔を上げて、ぼんやりした目をこちらに向けた。
「僕は……二人を養えるだけの、甲斐性がある男に……なりたいです……。二人と、結婚して……」
「!?!?♡♡♡」
思わずカオリと顔を見合わせた。彼がきちんと将来のことを考えてくれていたとは。
将来のことを話すのは、暗黙のタブーだった。日本で重婚なんてできないし、外聞も悪い。だけど彼はなあなあに付き合わないで、私たちの関係を保とうとしていたのである。しかし。
「……ふふ、んふふッ……♡♡♡ 嬉しい……♡♡♡ 嬉しいな♡♡♡ ね、サキ♡♡♡」
「ん♡♡♡ でもね、アオイ、そんなことしなくていいんだよ?♡♡♡」
「アオイくんはね、私たちだけのものにならないとだめなんだよ?♡♡♡」
「外に働きに出たら、ひどいことされるかもしれないでしょ?♡♡♡」
「私たちの稼ぎで足りてるんだから、アオイくんは私たちのことだけ考えていればいいの♡♡♡」
「私たちを愛することだけ考えて……生きていればいいんだよ……♡♡♡」
彼は家事が得意だけど、別に苦手でも構わなかった。甲斐性なんて必要ない。むしろ、二人に対して平等に人一倍の愛情を注ぐという甲斐性を、彼は既に示している。必要なことはそれだけだ。
「い、いや……」
「ね、キスしよ?♡♡♡ まだまともに考える脳みそが残ってるんだね♡♡♡ お酒飲ませてあげる♡♡♡」
「んッ、んぶ……」
「ねぇ、アオイ?♡♡♡ ひとまずセックスしよ?♡♡♡ 気持ちよくなったら、もっと私たちといたいって思うようになれるよ……♡♡♡」
「……」
「んッはぁ♡♡♡ 大好きだよ、アオイ……♡♡♡ ほら、サキともキスして?♡♡♡」
「アオイ、これ口に入れて?♡♡♡ それで私に飲ませてよ♡♡♡」
「……はい………、ん……」
「んふッ♡♡♡ じゅりゅるるッ♡♡♡ んァッおいしッ♡♡♡ あ゛ーッばかになる……♡♡♡ ちゅるッ、じゅう゛う゛ッ……♡♡♡」
何度も何度も、ぬるい酒と唾液を飲ませる。そうしていると、彼はさらに酔いを深めていった。
「あッはぁ゛……♡♡♡ もうアオイのおちんちん、がちがちだよ……♡♡♡ 楽にしてあげるね?♡♡♡ 酔ってて動けないもんね?♡♡♡」
「じゅう゛う゛う゛ッ♡♡♡ こぼしちゃだめなんだよ?♡♡♡
次は全部飲まないとだめだからね?♡♡♡……んく、んく……」
「…………」
「ふッ、ふッ……ッお゛お゛♡♡♡ あ゛ーやばッ♡♡♡ これすぐイぐッ……♡♡♡ レイプだめなのに、クセになっちゃった……♡♡♡」
「ぷぇッ……♡♡♡ お酒カラになっちゃったね♡♡♡ じゃあ普通にキスしようね♡♡♡」
「ほぉ゛ッお゛ぅッ!♡♡♡ あっアオイすきッ!♡♡♡ 好きだよ愛してる゛ぁ゛ぁ゛ッ♡♡♡ も゛ッイぎゅッ♡♡♡ イぐイぐイッ……ぅ゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!♡♡♡♡♡」
もはや何も反応せず、虚ろな顔でカオリのキスを受け入れる彼を見つめながら、腰を叩きつけた。
繋いだ彼の手が、びくんと握られたのが、よく記憶に焼き付いた。