彼に嫌われたかもしれない。
彼を酔わせて、ひどいことをしてしまった。でもそれそのものが不仲の原因ではない。彼の決意を、私たちが無碍にしてしまったのが悪かった。
翌朝、彼は少し遠慮気味になっていた。その原因に気付いた私たちは、そのことには触れずに、ただ彼に優しく接するようにした。
原因に触れたら、またその話になる。彼は三人で支えあう健全な関係を望んでいる。私たちは彼の時間を奪い、愛情と金銭で堕とそうとしている。きっと相容れず、溝は深まり、ついには最悪の結末を迎えるだろう。
彼と気まずい関係になって、3日目のことだった。
仕事を終えて家に帰っても、彼はいなかった。靴がないし、夕飯の準備もないので、まだ帰っていないらしかった。
でも先日のことがあるので、不安になる。彼は私たちを置いて、どこかに行ってしまったのではないか。事実、帰宅が遅れるという連絡はない。これは珍しいことだ。
『アオイくん、まだ帰ってないの?』『大学まで迎えに行こうか?』
メッセージを送ったけれど、音沙汰はない。外を見ると、天気が崩れはじめていた。嫌な予感がして、私はさっき降りた車に引き返した。
彼が通う大学のそばのコンビニに車を停めた。彼を見落とさないように、正門に目を凝らす。やはり小雨が降り出してしまった。傘を持たない学生たちが小走りで出入りする。
『いつものコンビニで待ってるよ』
メッセージへの返信はない。もう、まともな精神状態ではいられなかった。携帯のバッテリーが切れただけであってほしい。いつもの笑顔で駆け寄って、迎えにきてくれたんですねと言ってほしい。馬鹿な私たちを許してほしい。ずっと私たちのそばにいてほしい。
涙が滲んで、景色が霞む。目元を拭って、じっと正門を見る。不意に携帯が鳴った。
「!!」
彼からの連絡だ。
『助かります。今向かいます』
「……ふぅーーっ…………」
よかった。全てはただの偶然だったらしい。何か用事が舞い込んで、帰りが遅くなっただけなのだろう。車から出て傘を差し、すぐに彼が分かるように立った。
間もなく、彼が駆けてきた。私が手を振ると、横断歩道の向こうで手を振り返してくれた。
「おかえり。遅かったね……?」
「すみません、ありがとうございます。急に試験監督を任されてしまって」
それなら携帯を見ることもできないだろう。彼を車に迎え入れて、タオルを渡してから、エンジンをかけた。
「……カオリさん」
彼は窓の外を流れる景色を見ながら、静かな声を出した。すっと冷や汗が出る。
「……うん?」
「今日の晩ごはん、何がいいですか?」
「……わ、和食……」
「和食ですか。わかりました」
信号待ちで、彼の横顔を見た。少し濡れた髪が、艷やかに垂れている。
また彼を好きになった。胸が痛くなるくらい、彼のことが好きだ。
あんなひどいことを言ったのに、夕飯の献立を聞いてくれる彼が好き。
物憂げに雨を眺める顔も、優しい笑顔も好き。
天使みたいに健気で、悪魔みたいに蠱惑的なところも好き。
実は頑固なところも、礼儀正しいところも、何もかも、彼の全てが好き。
「アオイくん」
「はい、え?」
私が涙を流していたので、彼をびっくりさせてしまった。
「ごめんなさい。アオイくん、大好きだよ。もうひどいことしない」
「……カオリさん?」
「大事にするから。アオイくんのしたいようにしていいよ。ずっとそばにいてほしいって思ってたけど、働きたいなら働いてもいいよ。だから、嫌いにならないでよ。ずっとずっと、私たちのこと愛してほしい」
後ろからクラクションを鳴らされて、信号が青に変わっていたことに気付く。慌てて車を発信させた。彼は、すんすんと鼻を鳴らす私を見つめていた。
「……何のことですか?」
「え?」
「もちろん、一生カオリさんとサキさんを好きでいつづけますよ。ふふ、心配になっちゃいましたか?」
「……」
彼はこちらに身を乗り出して、優しく囁いた。今度は私がびっくりする番だった。もしかして、あの日のことは酔っていて記憶にないのだろうか。彼はそれほどお酒に強いわけではないけれど、しかし記憶を飛ばしたこともない。それにあの日は、たかだか缶酎ハイを2本強くらいしか飲んでいないから、彼にとってオーバーな量ではなかった。
「お、覚えてないの?」
「さあ、何のことですか?」
彼が耳元でくすくすと笑う。分からない。分からないけれど、もしかしたら全部覚えていて、なかったことにしてくれているのかもしれない。
マンションの駐車場に車をつけて、彼と一緒の傘に入る。雨は本降りになって、傘なしでは玄関までの短い距離でもずぶ濡れになりそうだった。
「お迎えありがとうございました。すぐご飯作りますね」
「ま、待って……。サキに何か買ってもらうように頼もう?今から準備するの大変でしょ?」
「いえ、大丈夫ですよ。これくらいさせてください」
「アオイくん、いいから!」
彼を抱きとめる。雨でしっとりと濡れた身体と、蒸れた匂いが、余計に私を駆り立てた。
「ほんとに好き……♡ 好きだよ、愛してる♡ アオイくん、私に『何でも』していいよ♡」
「……」
「何でもします♡ 言うこと聞きます♡ 君の奴隷になります……♡ 私をアオイくんのものにして、ずっとそばに置いてください……♡」
私に必要なことは、献身だと思った。彼が、与えられるのではなく、与えることを望むのなら、それを受け入れる。彼が望むことを全て受け入れる。少なくとも今はそうして、私がしてきたことの帳尻を合わせないといけない。
「僕は……、カオリさんの、強引なところも好きですよ」
「うん……♡」
「でも、時々僕のしたいようにさせてくれるなら、まあ、嬉しいです」
「うん……♡ んッふ……♡」
彼は私と向き合って、ぎゅうっと抱き締めてくれた。包み込んで、私の中身を絞り出すように。身体に詰まった彼への愛が、吐息になって溢れ出す。
彼からキスをしてくれたので、行きどころのない愛が彼の中に注ぎ込まれる。背中を撫でられると、愛が涙にも変わってこぼれる。
「んふッ、ぢぅぅ……♡ アオイひゅん……♡♡ しゅひ、しゅき……んお゛ッ!?♡♡」
彼の手が、下に伸びた。服越しに、お尻とおまんこを撫でられる。あぁ、彼が私を求めている……。
「ふひゅ♡♡ んすッ♡♡ も゜ッ、へぉ゛ぉ゛ぉ゛……♡♡ ん゛む゛ぅ゛ぅ゛……♡♡」
深いキスをしながら、腰より下に着ていた服を全て下ろした。彼が触りやすいように、つま先立ちになり、腰を後ろに突き出した。彼の手のひらがお尻を撫で、指が膣内に滑り込む。
「んずッ♡♡ ひッ、すき、すき……♡♡ ずっどわたしのこと好きでいでぇ……♡♡」
「大好きですよ。独占欲が深いところも、性欲が強いところも、僕ならちゃんと受け入れられますからね」
「う゛んッ♡♡♡ アオイぐんしがいないよ゛♡♡ ぉほッ♡♡ わたしみたいなやつを゛ぉ♡♡ こッ……こんなに愛じてくれるの、きみだけ……♡♡」
彼の焦らすような緩慢な動きに我慢できず、浅ましく腰をへこへこと揺らす。逞しい身体に縋り付いて、愛の言葉で言外に快感を強請る。いくら恋人相手でも、こんな姿は普通は見せないだろう。でも彼は違う。こんな私でも、ありのままを愛してくれる。
「たくさん垂れてきちゃってますよ。我慢してたんですか?」
「うんッ♡♡ セックス我慢してたぁ♡♡」
「ふふ。ね、カオリさん。口でしてあげましょうか」
「く、くちッ……!?♡♡♡ してッ!♡♡♡ おねがいッ!♡♡♡」
抱擁を解くと、彼は跪いた。私はぐちゃぐちゃになったおまんこを彼の前に突き出す。ああ、まだシャワーも浴びていないのに。彼はすんっと鼻を鳴らしてから微笑んで、舌をちろりと出した。
「ッ……!♡♡♡ 舐めてッ♡♡♡ 早くッ♡♡♡」
「ふふ……。また、前のカオリさんに戻っちゃいましたね……。 性欲に素直なカオリさん、可愛いです……♡」
彼は、ゆっくりと唇を寄せて、クリトリスにキスをした。それから、舌をゆっくりと這わせる。
「あ゛ッ!!♡♡♡ あ゛ッあ゛ッお゛お゛お゛お゛!!♡♡♡」
「んふ……、ぢぅ、んむっ……」
「お゛ッしぬッ!!♡♡♡ ほお゛ぉッお゛ん゛ッ!!♡♡♡ それ゛ッほんとにやばいッ!!♡♡♡ あ゛あ゛あ゛あ゛ぎぼぢい゛い゛ッ!?♡♡♡」
気持ちよくなることしか考えられなくなった。勝手に手が彼の頭を掴んでいて、無意識に腰をがくがくと擦り付けていた。これが単に身体への刺激のみによる快感だとは思えない。彼への愛を再確認したことや、彼に受け入れてもらえたことといった心理的な要素が、快感を数十倍にブーストさせていた。
「じゅるるる……、ごくっ、れりゅ……」
「ア゛オイぐん゛ッすッすきぃ゛ぃ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!♡♡♡ あ゛ッッイぎッしんじゃう゛ッ!?♡♡♡ イぐイくイ゛ぐおまんこ溶けるゥゥぉぉおおお゛ッほお゛お゛お゛お゛お゛ん゛!!!♡♡♡♡♡」
彼が口を付けてから、一分も経っていないと思う。ものの数十秒で、呆気なく絶頂させられた。彼の口におまんこを押し付けたまま、がに股で、かくかくと余韻で腰を振る。
「ぐヒィッ……イ゛ッてる゛ぅぅぁぁぁぁ……!!♡♡♡♡♡ ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛しぬ……♡♡♡♡♡」
快楽に狂った頭では、分からない。彼に誓ったことと、今彼にさせたことが、矛盾しているのか。これでは前と代わらない、でもこれは彼からしてくれたことだから受け入れなきゃで、でも気持ちいいからよくて、彼の吐息がおまんこにかかってまた変になってきて。
正しいことは分からない。でも正しいことなんて、私たちの間柄にはなかった。だったら、彼に従おうと思った。