娘に売られた橘京香
橘京香という女が店にやって来たとき、長田は心の中で拍手喝采を贈った。小春の母親と聞いてたから相当な美人であろうと予想はしていたが、いざ目の前に現れた彼女は期待を大きく上回っていた。
小春はおっとりとも、ぼやっととも言える癒やし系の容姿だったが、京香は全体的に鋭い雰囲気を纏ったキャリアウーマン風のキリッとした美人タイプで、娘とはまた違った趣があった。それでも時折、小春と印象が重なって見えるのは、やはり親子といったところか。
圧倒的に遺伝を感じさせるのが胸の大きさ。小春曰く下着は一緒に買ってもらうのでカップ数は一緒らしい。Kカップ爆乳女子大生に続き、凛々しいKカップ爆乳キャリアウーマンのおっぱいとオマンコもいただけるというわけか。
堪らねえなと長田は舌舐めずりしたくなるのを我慢する。どうせ舐めるなら京香のブラウスに隠れた桜色のぽっちを舐め回してやる。
「問診票書き終わりました」
京香が差し出したバインダーを殿山が受け取った。内容にザッと目を通していく。
「特につらいのは肩ということですね。具体的な症状は?」
京香は右手で自分の左肩をつかむ。眉間に皺を寄せて硬くなった筋肉を押しながら答えた。
「首の後ろの筋肉が張って、酷いときは左側が振り向けないくらい硬くなるわね。それが原因か頭痛もしてくるときがあるわ」
なるほどと言いながら殿山は頷く。「お仕事はデスクワーク中心ですか。そうすると頭痛は眼の疲れも考えられますね」
「眼ね」京香は肩を揉んでいた手で右のこめかみを押さえる。「最近かすみ目が増えた気がするわ。年齢のせいかなと思ってたのだけど、疲れが溜まってるのかもしれないわね」
「年齢のせいだなんて。全然そんな風には見えませんよ。ねえ院長」
「そうですよ」長田は急に話を振ってきた殿山に調子を合わせる。「大学生の娘さんがいらっしゃるようには見えません。お母様を紹介していただけると聞いていたのに、お姉さんのほうが来たのかなと思いました」
「お上手ですこと」
京香は口元に手を当てて上品に笑う。こちらの言葉をお世辞と捉えながらも、褒められて嬉しくないわけではなさそうだ。
あの日、小春には開発したばかりのスペンス乳腺と乳首責めでイク感覚を教え込み、気が遠くなるほど連続絶頂で追い込んだ。調教が終わるころにはすっかり長田のスペシャルマッサージに嵌り、次回の予約も取りたがった。そこで正規料金を提示した。到底ただの大学生である小春に払える額ではない。彼女は桁を一つ読み間違えたのではと何回も料金表を指さし、〇の数をチェックしていた。
そこで長田は招待券を渡した。
「この招待券を友人でも家族でもマッサージに興味ある女性に渡してください。その方が来店されたら次回また、橘さんはスペシャルマッサージ一回無料とさせていただきます」
駄目かと思っていたところに差した僥倖。ぱっと彼女の顔は明るくなり、直前までの沈鬱な顔は何だったのかという晴れやかな表情で帰って行った。
その後、小春から招待券に印刷しておいた電話番号に電話があった。母親を紹介するので予約したいという彼女に週末で空いてる日を伝えた。
母親と聞いて内心ガッカリしたことは秘密だ。姉も居ると言っていたので本命はそちらだった。美人女子大生姉妹の食べ比べは個人的に興味あるし、顧客の食いつきもいいはずだ。大学生の娘が居るということは少なく見積もってもアラフォー。最近はメイクや美容技術の発達により四十代でも十歳は若く見える女が多い。しかし、そうは言っても熟女枠は熟女枠なわけで、見た目が綺麗でも三十を過ぎると需要は限られてくる。まして四十代となれば。
来店した京香の見た目は、いい意味で長田の期待を裏切るものだった。大学生の子供が二人居るおばさんだなんてとんでもない。小春の少し歳の離れた姉と言っても通じそうだった。
親子? 義理の? 父親の再婚相手? と長田は頭にはてなマークを浮かべたが正真正銘、血の繋がった親子だという。
姉妹丼も悪くないが、親子丼も王道の味だよな。ババアは売り方が難しいなんて考えていたことも忘れ、長田は問診票を記入する京香の胸の谷間に鼻の下を長くしながら、頭の中で算盤を弾いていた。
「こちらが施術スペースになってます。お着替え用意してあるので着替え終わったら、お声がけください。失礼します」
殿山は京香だけパーティションの向こうに残し、スライドドアを閉めた。
「お母さん若いね」
施術スペースから離れ、長田の元に小走りで駆け寄ってきた殿山が囁くように言う。
「あれでアラフォー子持ちってんだから世の中は驚くことだらけだ」
長田が真面目くさって言ったタイミングで京香から声が掛かる。
「それじゃ行ってくる」
殿山がパーティションの向こうに消えた。
相棒が真面目なマッサージを装って京香の肩を揉んでるうちに、長田は溜まってる事務仕事を片付けることにした。
受付に置いたノートパソコンを開いてメールチェック。大至急返信する必要あるのは一件。早く小春にアルバイトを紹介しろとせっつく内容だった。
長田と殿山は単に女たちを抱くのが目的ではない。町で見かけた目ぼしい女を高級デートクラブに紹介するスカウトの役目を担っていた。
小春が驚いたように店の正規料金は高く設定している。おいそれと払い続けられる額ではない。それでも続けて通いたいと希望する女性に、まず一回目は招待券を渡して知り合いを連れて来るよう勧める。一回無料プレゼントで二回目の施術を受けた女は、すでに家族や友人を売り渡してる負い目があるため、タブーの線引きが曖昧になる。
そこで今後も通い続けるためと称し、契約してるデートクラブを割のいいバイト先として女に紹介する。クラブは女の容姿やプロフィールを審査してランク分けする。登録した女にデートの申し込みがあると、ランクに応じた紹介料が男からクラブに支払われる。紹介料の十パーセントが女に、五パーセントが女を連れて来たスカウトマンに歩合で支給される。
女によってはデートした男から物品や金銭を贈られることもある。こちらに関してクラブではノータッチのため、男に貢がせれば貢がせるほど女の手取りは増す。
長田がスカウトマン登録するクラブは、男側の身元確認と財政状況を細かく調べ上げる。収入や職業が一定の基準に満たしていなければ登録することができない。また男も財政状況でランク分けされ、ランクの高い女は一定ランク以上の男でなければデートを申し込めない。
男は金、女は容姿でマッチングする相手が制限されているのだ。
最高級のSランクともなれば一日のレンタル料は五百万円にもなる。高価な設定金額は利用希望者を篩に掛ける意味がある。この程度の額を一晩の遊びに投じられないような人間は、うちの客じゃないという宣言だ。また、これだけの金額をポンと払える人間は社会的な身分が高く、秘密を外部に漏らすデメリットが大きい。それゆえクラブの存在を秘匿する助けにもなっていた。
女たちには、あからさまに身体を売るよう強制したりはしない。売買春の斡旋をしてるわけではないからだ。ただデートが盛り上がり、自由恋愛の結果としてホテルに行くことは二人に任されているし、楽しい時間を過ごした褒美に男が小遣いをあげることもある。
すでに小春の写真と簡単なプロフィールはクラブに送っていた。仮ランクだが小春はSと認定された。何百人という女が登録してる中でもSランクは一割に満たない。Sランクの女はクラブの質の高さを示す看板だ。看板になれる女をクラブは常に欲している。それが早く小春にバイトを紹介しろと急かす理由だ。
通常のマッサージ店と変わらず店長業務をこなしていると、いつの間にか二十分ほど経っていた。そろそろかな。施術室のほうに目をやりながら背筋を伸ばしているとドアが開いた。
殿山が目で呼びかけるので席を立ち、そちらへ近づいていく。パーティションの中を覗くと京香が仰向けで施術台に寝ていた。目を隠すように布が掛かっている。
「あとは、よろしく」
至近距離の長田にしか聞こえない小さい声で殿山が言う。
長田は頷き返した。
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