お互い初めてのカレカノなんだが、彼女がエロに積極的すぎる 作:淫久兵衛太
「す、好きです! 僕と付き合ってください!」
言った。ついに言ってしまった。僕、生田秋広は、同じ文芸サークルに所属する九段下深冬さんへ告白したのだ。
サークルの飲み会でしこたま飲んだ末の、酔った勢いである。もちろん彼女には以前から好意を持っていた。
飲み会が終わって解散した際、彼女が部室に忘れ物をしたから取りに行くというので、夜道は危ないからと同行を申し出てついていった。
はやし立てる部員を追い散らしてふたりきりで部室に向かっているときにはもう覚悟を決めていて、彼女が部室で荷物を回収し終えるなり勝負に出た。
彼女の様子を見るのが怖くて頭を下げてしまったので、どんな表情をしているかはわからない。えっ、と息を呑むようなつぶやきだけが耳に入り、自分の顔が強張るのがわかる。
沈黙が部室を支配する。やばい、勢いにまかせてやらかしただろうか?
思考が悪い方向へぐるぐると回り始める。
彼女からすれば同じサークルの部員であるため、断ったとしても嫌でも顔を合わせなければならない相手だ。気まずい思いをしたくなくて上手に断る言い訳を考えているのかもしれない。
いや、もしくは夜に他に人のいない部室で酔っ払いとふたりきりなのだ。断った瞬間僕が何かするんじゃないかと怯えているのかもしれない。
―――しまった! 時と場所を間違えた!
僕は青ざめた。
今から冗談にして誤魔化すことはできるだろうか? いや、冗談で告白とか最悪じゃないか! この場は有耶無耶にして話を打ち消すか? しかし結局後で気まずくなるのが目に見えている。
僕の思考は既にこの状況をどうやって終わらすかの一点に集中していた。そのため、彼女の言葉に気がつくのが遅れてしまった。
「……嬉しい。ぜひよろしくお願いします」
「……え?」
僕は彼女の言葉を聞いてから数秒後、言葉の意味を半分も理解せぬまま顔をあげる。
九段下さんは、お酒で赤くなっていた顔を一層赤くして、頬に手を当てて恥ずかしそうに微笑んでいる。
この場を凌ぐために言っているようにはとても見えない。
「ほ、本当に……?」
それでも僕は確認してしまう。ネガティブな想像をしすぎて彼女の言葉が信じきれなかったのだ。
ここで、「なぁんて、うそだぞっ☆」なんて言われた日には僕は電車の前に飛び出さなければならなくなる。しかし、
「うん、本当だよ。私も生田君のこと、いいなって思ってたから」
首肯しながらの彼女の言葉に、僕は腰が抜けてしまって椅子にドスンと座り込んだ。
「だ、大丈夫?」
慌てた様子を見せる九段下に苦笑してみせる。好きな女の子にはカッコつけたいところであるが、今はちょっと難しそうだ。
「ごめん。気が抜けちゃって……」
「ふふ、そんなに緊張してたんだ?」
「いやあ、告白なんて初めてだったから……」
「そうなの?」
ちょっと驚いた様子の九段下さん。しまった、恋愛弱者であることが露呈してしまった!
そんなのバレたからってどうということは無いかもしれないが、今後のお付き合いに影響する可能性もある。
……まあ、言ってしまったからにはもう遅いのだけれど。諦めて僕は白状する。
「まあね……。高校も男子校だったし機会がなくて」
言い訳がましい言い方になってしまったかと思ったが、九段下は気にした様子もない。逆に、
「そうなんだ。私も女子校だったから付き合うのって初めてなの。お互い初めて同士だね」
と、ちょっとした共通点に嬉しそうだ。……よかった、九段下さんも初めてなんだな。元カレとあれやこれや比べられたりしようものなら、繊細な僕の心が傷ついてしまっていたところだ。
しかし、そうか。告白、成功したんだな……。
僕は改めてつい今しがた僕の彼女になった女の子を眺める。肩まで伸ばした黒髪。顔には化粧っ気がなく眼鏡も野暮ったい。猫背気味な体躯にゆったりとしたワンピースの上からカーディガンを羽織っている。もう夏も近くなって暖かくなっているのに、寒がりなのだろうか?
彼女の性格通りの、タレ目でおとなしめな顔立ちも相まって、文学少女感が漂っている。
これで女子校にいたら、本人にその気がなければ恋愛未経験なのも納得だ。
僕も最初は九段下さんよりも垢抜けた感じの他の女の子や先輩たちに目がいっていた。
ただ、ふと彼女が目に入る時、手足は意外とほっそりしているなとか、化粧っ気はないのに何気に整った顔しているなとか(これはナチュラルメイクというやつかもしれないが)、彼女の細かい部分に目がいくようになり、気がつけば好きになっていたのだ。
……後、僕にも優しいというのもポイント高い。
「……生田君?」
じっと僕に見つめられて、九段下さんは首をかしげた。いけないいけない。僕は慌てて腰をあげる。ちょっと不安だったがふらつくこともなさそうだ。
「そろそろ帰ろっか。九段下さん、駅から電車でしょ? 送るよ」
「あ、そうだね。けど、生田君ってこの辺で一人暮らしじゃなかったっけ?」
僕は地方から出てきて一人暮らしをしているのだ。確かに駅に寄るとちょっと遠回りではある。しかし、僕はかぶり振った。
「ついでに駅前で買い物もしていくから。それに、彼女を送るぐらいのことはするよ」
僕の言葉に、九段下さんは照れたようにはにかんだ。
「それなら送ってもらっちゃおうかな。ありがとう」
その表情はとても可愛らしく思えて、彼女と恋人になれて本当によかったなと思えた。
僕らは部室を出て、駅に向かった。暗がりの中、他愛のない話をしながら並んで歩いているだけで幸福感が半端じゃない。現在が今までの人生での最高潮だろう。
しかし、酒の入っている僕はそれだけじゃ満足できなかった。
せっかく二人で歩いているのだ。これは手をつなぐチャンスではなかろうか……!
僕はちらりと左隣にいる九段下さんの様子を伺う。彼女はにこにこしながら話をしている。酒が入っていて気分が高揚していることもあるだろうが、それだけじゃないと信じたい。
これはいけるかもしれない。僕は、さり気なく左手を彼女の右手の方に近づける。が、九段下さんの右手がすっと持ち上げられて僕は慌てて元の位置に左手を戻す。
彼女は右手で頬を掻いてすぐに手を下ろした。何気ない行動だったのだろうがタイミングが悪い!
僕は再チャレンジを試みようとするが、どうにも最初の失敗で緊張してしまって手がでない。何も言わずに手を取るのはちょっと不躾だから許可を取ったほうがいいかなとか、初日からことをすすめるのは危ないんじゃないかとか、色々と考えてしまう。
「……生田君、手、つなぎたいの?」
僕が左手をふらふらと挙動不審にさまよわせてしまったせいか、九段下さんに気がつかれてしまう。
「う、うん。……駄目かな?」
内心恥ずかしさで死にたい気持ちになりながら、なんとか言葉だけ返す。彼女はおかしそうにくすくすと笑った。
「ふふふ。私たち、もう恋人同士なんだから、駄目なんてことはないよ。手、つなご?」
そう言って、僕の左手を取ってぎゅっと握ってくる。優しい彼女と、柔らかい手の感触に感動を覚えたが、同時に、本来控えめな性格の九段下さんにリードされる感じになり、申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいいっぱいだ。
「ごめん、緊張と興奮でちょっとおかしくなってるかも」
僕は、胸の内の感情を吐き出すように彼女に言う。今日はもう何をやっても裏目になる気しかしない。後はもう彼女を送り届けてさっさと帰って寝たほうが良さそうだ。
僕がなさけない様をさらしても、彼女は優しい表情を崩さない。
「それはそうだよ。生田君は、告白なんて勇気のいることをしたんだもん。私だって逆の立場だったらどうなってるかわからないし」
「……そうかな?」
「そうだよ」
九段下さんの励ましの言葉に気を取り直す。先程までぐるぐると渦巻いていたネガティブな感情は吹き飛んでしまったようだ。男なんて単純なもんである。
「ありがとう。ちょっと落ち着いたよ」
「よかった。けど、手をつなぐぐらい気にせずしてくれていいのに」
「いやあ、そうは言ってもさっき付き合ったばっかりじゃない? どこまで許してもらえるかって、難しくて……」
なにせ恋愛初心者なのだ。付き合い方の手順なんてものもわからないし、相手が不快に思う行動はできるだけしたくないものである。
「ううん、そう言われるとそうかも」
九段下さんも頬に左手をあてつつ同意してくれた。彼女とて僕と同じで恋愛初心者である。その辺りのことがわからないのは彼女も同じだろう。
僕はこの先ちゃんとやっていけるか不安になった。手をつなぐだけでこれである。この後には、デートとか、キスとか、家に呼ぶとか、……それからエッチなこととか、段階を踏んでいかなければならないのだ。特に最後が一番の難関だろう。
そういったイベントを九段下さんが不快に思わないようにスマートにこなすなんてことが僕にできるのか……?
そんな事を考えていると、彼女は提案した。
「それじゃあさ、今後お付き合いしていくにあたって、決め事を作らない?」
「……決め事?」
「そう。まあ、あんまり細かく決めるとお互い束縛されて辛くなっちゃうかもだから、ゆるいのでいいんだけど」
たしかに、なにもわからない状況で暗中模索しながら付き合うよりは簡単な決め事があれば行動に移しやすいかもしれない。僕は彼女の言葉に賛成する。
「いいね、それ」
「それじゃあ早速決めちゃおっか」
そう言うと九段下さんは僕の手を引いて駅までのルートから逸れ、裏道に入った。
「ど、どこいくの?」
「いいからいいから」
ずんずんと進んでいく九段下さん。
……おとなしめな性格だと思っていたけど、思いのほか押しが強い性格なのかもしれない。
初めて知る彼女の一面に驚いているうちに、公園にたどり着いた。
ベンチに砂場と、小さなすべり台だけが置かれている。ポツンとある建屋はトイレだろう。
街灯もないため、トイレから漏れる明かりだけが頼りだ。
「……驚いた。こんなところに公園なんてあったんだ」
「私も帰りになんとなく探検してたら見つけたの。人もほとんど通らないし穴場なんだ」
使い道はあんまりなかったけど、と笑ってベンチに座る九段下さん。手を握ったままの僕は自然と隣に座り、身を固くする。
手をつないだままであるため、距離が非常に近い。肩はちょいちょい触れ合うし、つないだ手はお互いの太ももの間に置かれているため、九段下さんの脚に手の甲が触れてしまっている。
そして彼女からとてもいい匂いがするのだ。せっかく落ち着いていたのに、僕は頭がくらくらになりそうである。
そんな僕に対して、彼女は「ちょっとドキドキするね」なんて言って小さく笑うぐらいで、動揺した様子もみせない。
これ以上九段下さんに下手なところをみせられないと、僕は内心気合を入れて彼女に話しかけた。
「それじゃあ、どうしようか」
「そうだね、浮気しない、とかは当たり前すぎるよね。生田君はなにかある?」
「それじゃあ、名前で呼び合うとかはどう?」
せっかく恋人になったのにお互い名字呼びでは味気ない。それに、早いうちから呼び方を改めないとタイミングを失ってしまいそうだった。
「いいね、それ。それじゃあ……秋広くん?」
……やばい、めちゃくちゃぐっときた。同世代の女の子に名前で呼ばれるだけでも快挙なのに、ましてやそれが恋人となると、喜びもひとしおである。僕が余韻にひたっていると、九段下さんが恥ずかしそうに僕を急かす。
「ほ、ほら、秋広くんも私の名前を呼んでよ」
「そ、それじゃあ……。み、深冬?」
自分で言い出しておきながら、緊張でどもってしまう。女の子を名前呼びするなんて人生初のことなので仕方がない。
そんな拙い呼び方でも、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
「……うん。なんだか、すごい恋人っぽいね」
お気に召してくれたようである。後は、彼女からの提案で、帰りはできるだけ一緒にすることが提案された。
ふたりとも帰りには活動がなくても部室に寄るし、規則正しい、言い換えるとあまりイベントの無い生活をしていることがわかったのでこれは簡単だった。
数少ない不定期イベントであるバイトはシフトを共有し、予定があれば素直に伝えれば良い。これぐらいならお互いに苦ではなかった。
「他に何かあるかな……?」
頬に手を当てて考えている九段下さん……、もとい深冬。
僕は彼女に提案した。
「それならさ、やりたいことがあれば遠慮しないで言葉にするっていうのは?」
僕は先ほどの自分の醜態を思い返す。やはり手をつなぐだけでばたばたするのはいただけない。
恋愛未経験の男がわかりもしない場の雰囲気を読んで行動に移すよりは、はっきりと言葉にしたほうがお互いのためだろうと思ったのだ。
……同時に、何かしたければ口に出して言わなければならないという枷にもなるのだが、ここは将来の自分に期待しよう。
「……うん、いいねそれ。色々はっきりさせた方が、お互いのためかも」
果たして僕の提案を彼女は承諾した。提案が通ってホッとすると共に、今後の事を考えて、僕はひっそりと気合を入れる。
そんな僕をよそに、深冬は口を開く。
「そうしたら私、やりたい事があるんだけどいいかな?」
「お、さっそくだね。いいよいいよ、なんでも言ってよ」
僕の失態を除けば順調なお付き合いのすべりだしと、酒の残滓で気が大きくなっていた僕は、彼女の言葉に安請け合いする。
そして、思いもよらぬ言葉に硬直することとなる。
「あのね……。私、キスがしてみたくて」
「キ、キス……!?」
「そう。……ダメかな?」
動揺してしまった僕は、そっとこちらを伺う彼女に慌てて言葉を返した。
「いい! 全然オッケーだよ!」
冷静に考えれば、僕にとってデメリットはひとつもないし、なんなら僕もいつかはと思っていた一大イベントが目の前に転がり込んできているのだ。
恋人の要望でもあるし、ここで否の選択肢はない。
「ほんと? よかった! ……それじゃあ」
嬉しそうな深冬が、体をこちらに向けてくる。僕も合わせてがちがちになった体を無理やり彼女に向けた。
深冬の顔が近づいてくる。彼女の手が僕の太ももに置かれて心臓が早鐘を打ち始める。
僕もバランスを取るために彼女の肩に手を―――、置く勇気が出せなくて、ベンチの背もたれに手を置いた。
深冬の吐息が感じられるほどに近くなり、彼女が目を閉じたのに合わせて、僕も目を閉じた。
唇が触れ合った時の感触は一瞬だったし、鼻や歯がぶつからないように体勢を整えるのに精一杯であまりわからなかった。
ちゅっ、という音を立てて離れたのだけはわかって、僕は内心ほっと息をついた。
よかった、無事に成し遂げられた。
緊張しすぎてなにがなんだかわからなかったが、時期に慣れて感触を堪能することができるようになるだろう。
……達成感と共に次回以降の展望に気持ちが向かっていた僕は、油断して不意打ちをくらった。
深冬の唇が、もう一度僕の唇に触れたかと思うと、にゅるん、と生暖かく湿ったものが侵入してくる。
それが彼女の舌だと気がつくのに数瞬かかった。
「―――!?!!?」
動揺する僕だが、深冬の舌はお構いなしに僕の口内を這いまわる。
声をあげそうになって口内で浮いた僕の舌は絡め取られ、彼女の舌に愛撫される。
僕がなすがままにされること、おそらく数秒間。舌が抜き取られ、彼女の気配が離れていく。
そこでようやく目をつむったままであることに気がつき、目を開けた。
彼女はてらてらと濡れた己の唇を舌で舐め、堪能するかのようにほうっ、と艶かしい溜め息をついた。
僕がなにも言えず呆然としていると、彼女は僕の様子に気がついてはっとする。
「ご、ごめんね? 私ったらつい。……やりすぎちゃったかな?」
申し訳なさそうに言う深冬に、僕はまた慌てて声をあげた。
「いやいやいや、全然大丈夫だよ! むしろ、もう一回したいぐらいだから!」
フォローの意味も込めて言うと、彼女は目を輝かせる。
「いいの? じゃあ、もう一回」
そう言った彼女は僕の肩に手を回し、顔を固定すると、ぐいっと顔を寄せてきた。
ためらいのない行動に焦ったが、僕も覚悟を決めて彼女に顔を寄せる。
今度のディープキスは、なんていうか先ほどよりも濃厚だった。
唇同士がぴっちりと押しつけられる。舌は深く差し込まれ、ねぶるように舌を絡め合う。
思い切って僕も彼女の口内に舌を入れると、舌にまとった唾液をすすらんばかりに吸引される。
「あむ……。んっ……」
喘ぐように呼吸する深冬の声に、どうしようもなく興奮が高まり、僕の逸物はすでにギンギンだ。
その行為は長く続いた。たぶん一分くらいは続いていたんじゃないだろうか。もっとかもしれない。
名残惜しむかのように透明な糸をひきながら唇が離れていく。
深冬は先ほどにも増して頬を紅潮させ、息を荒げている。おそらく彼女から見た僕も同じような感じになっているだろう。
「ふふ。私、すごく興奮しちゃった」
「……僕も、めっちゃ興奮した」
息を整えた彼女が普段と同じように微笑む。僕は同意するのがやっとだった。
それから彼女を駅まで送って別れたのだが、どんな会話をしたとかの記憶はあまりない。
とにかく僕はスーパーにも寄らずにまっすぐ家に帰り、先ほどの感触を思い出しながら、気絶するように眠りにつくまで、何度も自慰にはげんだ。