坂柳さんに追いつくと、そこには神室さんもいた。
神室さんとはあの初体験の時から一度もセックスをしていない。普通に話はするんだけどな。
俺が神室さんとのことを遊びだと言い切ったことに、きっと思うところがあるんだろう。
とはいえ、それが俺の偽らざる本心。撤回するつもりはない。
そんな少しだけギクシャクしている俺と神室さんの間柄とは裏腹に、坂柳さんと神室さんの仲は良好そのものらしい。
坂柳さんは神室さんのことを気に入ったのか、いつからか真澄さんと名前で呼び始めていた。
羨ましいな。俺もさっさと神室さんに機嫌を直してもらいたいものだ。
それはともかく、俺たちは坂柳さんを真ん中に三人で並んで歩く。坂柳さんはどうやらケヤキモールに行くつもりらしい。
「それで、勉強会をやるんですか?」
坂柳さんにそう聞いてみた。一応。
「そう思いますか?」
「いえ、全然」
いや、やっぱり聞くまでもなかったな。本当にやるとしたらクラスのグループで通達くらいはするはずだ。
「その通り。勉強会をやるつもりはありません」
「中間テストまで残り二週間を切ってるんだけど……流石にそろそろ開いた方がいいでしょ」
神室さんの言う通りだ。
実は坂柳さん、まだ一度も勉強会を開いていない。
どのクラスも既に何度も開いているはずだ。帆波さんたちはもちろんのこと、Dクラスだってそうだろう。
当然、葛城くんもかなりの回数を行っている。
何しろ、赤点を取ったら退学だからな。
だが、坂柳さんは本当に何もしていない。
一体何を考えているのだろうか……
「大丈夫です。私のお友達に赤点を取りそうな人はいませんから」
「いえ、赤点を取らないにしても、ここで勉強会を開いて坂柳さんは頼り甲斐があるとみんなに印象付けないと。葛城派とはジリジリと差は開く一方ですが、いいんです?」
俺はそう問いかけると、坂柳さんはスラスラと自分の考えを述べ始めた。
「私が勉強会を開かないと学習を行わない。そんなクラスにしたくないんですよ。私のお友達には自主的に勉強をしてもらうためにあえてこうしているんです」
「まあ、私もやむを得ず一人で勉強してるけどさ……」
神室さんは最近の放課後は勉強に取り組んでいるらしい。
しばらく遊びまくっていたツケを払っていたようだ。俺と同じだな。
「赤点で退学ともなれば、勉強会など開かなくても真澄さんのように勉強をしますよ。それよりも高校生活が始まったばかりの今のうちから、クラスの皆さんに日々勉強をする習慣を身につけてもらいたいわけです。派閥争いは気にすることはありません。私にかかればどうとでもなりますから」
なるほどな。坂柳さんの考えも一理ある。
学力は普段の積み重ねがものを言う。テスト対策の集まりで得た知識なんて、大部分はテストが終われば消えていくものだろう。
目先の中間テストの点数だけを見れば勉強会を開いた方が良い成績を残すだろうが、長期的に見れば坂柳さんの考えが正しいのかもしれない。
「それに何より……」
坂柳さんは続けた。
「面倒じゃないですか、勉強会。やってられませんよ、あんなの」
「やっぱりね……」
やっぱりクラスのことなんて考えてなかったか。
とうとう本音が出た。神室さんも呆れている。
坂柳さんがクラスのため、なんて殊勝なことを考えるはずがない。
この人の行動理念は単純だ。
『楽しい学校生活を送る』
ただこれだけだ。そして勉強会なんてことはその理念から外れている。
「それに最近は色々と忙しくて。勉強会なんて開いている暇はなかったんですよ」
「そういえばあんたは最近の放課後は何をしてたのよ。確かに忙しそうにはしてたけど」
俺は部活をやっていた。神室さんは勉強をしていた。
では、坂柳さんは?
「フフ、後で教えてあげますよ」
坂柳さんは意味深に笑ってから、そう言って煙に巻いた。
まあ、碌でもないことだろうな。楽しみだ。
「そんなに勉強会が面倒なら他の勉強ができそうなやつにでも主催させて、あんたはサボってればいいんじゃない?」
「なるほど、その手がありましたか。では里中くん、お願いしますね」
「えっ?俺は嫌ですよ、部活もありますし。何よりも面倒ですから」
「フフ。やはり気が合いますね、私たち」
「こんな奴らがクラスを牛耳ったら、すぐにでもBクラスに落ちそうなんだけど……」
俺たちはケヤキモールの中のカフェで軽く飲食をしながらそんなことを話していた。
勉強会の話はひとまずいいだろう。坂柳さんも俺も興味がなさすぎる。
「そうだ。聞いてくださいよ、坂柳さん、神室さん」
俺はコーヒーを飲みながら別の話題を振った。つい先日俺の身に起こったショッキングな出来事についてだ。
「俺、この間いじめに遭ったんですよ」
「は?いじめ?」
神室さんが不思議そうに聞き返してきた。
「はい。部活の最中にですね、知らない男子生徒にシューズを台無しにされたんです」
それから俺は自分の身に起こった大まかな出来事を二人に話した。
俺は部活のときは普段使いのシューズとテニス用のシューズと二足持ち歩いている。被害に遭ったのは普段使いのシューズだ。
俺がテニスをやっている間によく分からない何かで汚されて、手洗い場の溜まっていた水の中に沈められていたのだ。
俺がテニスをやっている間は普段使いのシューズはいつも無防備に部室に置きっぱなしにしていた。
一応貴重品入れのロッカーもあるが、そこには入れていなかった。まさかこんなことになるなんて考えてなかったからな。
そして俺がその台無しになったシューズを見つけたときに、声を掛けてくる男子生徒がいた。端的に言えばバカそうな不良だった。
「これ、お前のか?」とニヤニヤと笑いながら話しかけてきたな。
その時に直感した。犯人はこいつだ、と。
大体の事情を聞いて、神室さんがパスタを食べながら話す。
「あんたみたいなイケメンもいじめに遭うことなんてあるのね」
「まさか自分がいじめに遭う日が来るなんて考えたこともなかったです」
いや、そうでもないか。
よく考えれば最近は毎日坂柳さんに飲尿をさせられるいじめを受けてたな、忘れてた。
「それにしても何で俺はいじめられたんでしょうか?この学校に入ってから、誰かに恨みを買うようなことをした覚えはないんですが……」
一体、何で俺がいじめられなきゃならないんだ……
やはり帆波さんの人生をぐちゃぐちゃにしたのがいけなかったのか?
「そいつ、一之瀬が好きだったんじゃないの?それか、好きな女があんたに惚れてその腹いせとか」
神室さんの言うことも否定はできないな。
しかし、それでいきなりいじめというのは少し段階を飛ばしていないか?
そしてこの学校は監視カメラが多い。多少俺に不満を持つ程度でいじめをするのはリスクが大きすぎる。
そう考えるよりはむしろ……
「十中八九、Cクラスからの攻撃ですね。目的はAクラスとBクラスへの、さらに言えば私と一之瀬さんへの挑戦といったところでしょうか」
今まで俺たちの話をココアを飲みながら黙って聞いていた坂柳さんがそう断定した。やはり、他クラスからの攻撃か。
「やっぱりCクラスからの敵対行為だと思いますか。俺もそんな気はしていたんですよ」
あの頭の悪そうな男はBクラスで見たことはないし、Dクラスは内が纏まっていないらしい。必然的にCクラスということになる。
「今回の一件を計画したのは間違いなくCクラスの龍園翔という生徒でしょう」
「龍園くん、ですか?」
初耳だな、どんな人だろうか。まあ、いきなり面識もない俺をいじめにかかってくる奴だ。とんでもない奴だろう。
「話によると、自身に歯向かって来たクラスメイトを全員暴力によって押さえつけて、クラスをまとめ上げている人物だとか」
「いや、どんな奴よ……」
「俺が言うのもなんですが相当ヤバい奴ですね……」
頭イカれてるんじゃないか?Cクラスの担任は何故それを見過ごしているんだろう……
というか、こんなネジの外れた奴の入学を許可したのは一体誰だ……
あっ、坂柳さんのお父さんか。またこの人かよ……
「おそらく龍園くんの目的は、里中くんを挑発して何かしらの問題行動を起こさせることだったでしょう。例えば暴行とか」
「あの男に暴行ですか。俺は女しか殴ったことがないので男を殴るという発想が無かったですね」
「いや、あのね……」
神室さんは呆れているが、俺は女にだって基本的には正当な理由がないと本気の暴行はしない優しい男だ。いきなりレイプしてくる女とか腹を殴られるのが趣味のマゾ女とかにしか殴ったことはない。
理由がなければおまんこを蹴り飛ばす程度に留めている。
「何にしろ、速攻で真嶋先生に相談したのは正解でした。今後は俺にちょっかいをかけるのは難しいでしょう。二度目の被害が出れば学校も本気で動きますし」
良かった、良かったと俺はあの出来事を終わらせたが、坂柳さんは思うところがあるらしい。
「それにしても許せませんね。里中くんは私の所有物だというのに、随分と好き放題してくれますよ……」
ん?どうやら坂柳さんは龍園くんへの仕返しを考えているのかもしれない。
仕返しか。嬉しいことを言ってくれるが、頭のおかしい男を敵に回したくないという気持ちの方が強い。龍園くんとはノータッチで行こう。
「いえ。いいんですよ、坂柳さん。報復なんてしなくても、その気持ちだけで十分です」
それにしても坂柳さんのさっきの言葉はなんか、こう……心が温かくなった。この人があまり見せることがない優しさというものを感じた気がする。
しかし、そんな坂柳さんはきょとんとした顔をして言った。
「…………?報復なんて考えていませんが……?」
は?
「いや、だって……さっき許せないと言ったじゃないですか」
「ええ、本当に許せませんよ。私の許可なく勝手に里中くんをいじめるとは。きちんと許可を取ってから、私が見ているところで里中くんをいじめてほしいものです」
どうやら俺がいじめられたことに憤っていたわけではなかったようだ。
『見ていないところで俺がいじめられるのは自分が楽しめない』と遺憾の意を表明してだけだったらしい。
「真澄さんだって見たかったでしょう?里中くんが持ち物を隠されてうろうろと探し回っていたかわいい姿を」
「まあ、見たいか見たくないかで言えば見たいけどね……」
「龍園くん、なかなか良い趣味をしているじゃないですか。ぜひお友達になりたいものです」
本当にこの人は……
その後、二人は龍園くんにいじめられて暴力に屈服させられる俺が見たいとかなんとか、楽しそうに話し合っていた。
坂柳さんも神室さんもボーイズラブには一切の抵抗はないらしい。男がガールズラブに抵抗がないのと同じだ。要は他人事だから受け入れられるんだろうな、お互いに。
いや、俺は男は無理だぞ……
坂柳さんと神室さんがカフェで軽く昼食を済ませた後、俺たちはショッピングへと乗り出した。
今日のこのお出かけは帆波さんを落としたことへの慰労会というのが目的らしい。最近は俺の部活が忙しかったからな。それで今までできていなかったというわけだ。
「一之瀬のチョーカーはここの店のを買ったってわけ……あのチョーカーは安いけど、他の商品はどれもなかなかに高いわね……」
「真澄さんは確かヘアゴムが欲しいと言ってましたよね。これなんてどうです?なかなかにおしゃれだとは思いませんか?」
「4000ポイントか……ちょっと高いでしょ、これは」
と言ってもお疲れ様会の意味もあるが、実際には帆波さんと行ったデートスポットを巡りつつ、二人とデートして楽しんでいるだけだ。
「里中くんが支払ってくれるんですから、好きなのを買えばいいじゃないですか」
「……いいの?」
「もちろん。坂柳さんの杖と比べれば大したことはないですから」
今、俺は坂柳さんと神室さんへのプレゼントを買わされていた。
帆波さんにチョーカーを買ったからな。それで自分にも買えと坂柳さんに命令されたということだ。
女に金を出させられるのは初めての経験だな。
坂柳さんに買ったのは新しい杖だ。
以前のは俺の身体を殴るのに使って少し湾曲してしまったとか。細い杖だったからな、あんなに乱暴に使えばそうなる。
「たかが4万ポイント程度の杖じゃないですか。あの壊れた杖は20万円ほどしたんですよ?」
「えっ。あれ、20万もするものだったの?」
神室さんが驚いている。20万か、杖にしてはちょっと高いような気がするな。
「日本円なら大した額ではないですが、プライベートポイントで買うのは厳しいですね」
「そもそも特注品ですから、この学校で手に入れるのは難しいと思いますよ」
そんなものを俺の身体を殴るのに使って曲げないでくださいよ……
「あんたたち、割と金銭感覚おかしいわよね……」
「この間言ったように、俺の実家はかなり裕福なんですよ。そして都合の良い女から金を搾取していましたから、金銭的に困ったことはないですね」
そして坂柳さんはこの学校の理事長の娘。当然金持ちの家だ。どうやら神室さんが一番まともな金銭感覚を持っているらしい。
「なかなか似合ってるじゃないですか。校則にも違反しませんし、学校でも付けられるでしょう」
俺たちはケヤキモールのソファーに座って少し休憩していた。
新しいヘアゴムでサイドテールをまとめた神室さんを見て坂柳さんがそう評する。
「その、ありがとう……」
「なんですか。しおらしいですね、神室さん」
俺に恥ずかしそうに礼を言ってくる神室さん。うん、かわいげがあるな。
坂柳さんなんて4万の杖を買わせておいて、いつも通り「ありがとうございます、里中くん」と言って終わりだからな。
周囲に人の目がないことを確認してから、神室さんを抱き寄せて軽く口付けをした。
「この間は酷いことを言ってごめんなさい。機嫌を直してくれましたか?」
「別に、怒ってないし……」
「じゃあ、えっちしてくれますか?」
「……あんたは私のことを弄びすぎなのよ……」
まだまだ機嫌は直してもらえそうになさそうだな、残念だ。
そんな俺と神室さんのやり取りを眺めて坂柳さんはクスッと笑う。
今度は頬にキスをしてから神室さんを離した。
「それにしても、4万ポイントの杖とは流石に高すぎですよ。帆波さんのチョーカーなんて1000ポイントもしなかったというのに」
坂柳さんはお高いお姫様だよ、本当に。それに比べて帆波さんは経済的に優しい女の子だな。
俺がそう不満を漏らすと、坂柳さんは可笑しそうに笑いながら話し始める。
「フフ。私たちは毎月10万ポイントの収入がありますが、それでも4万ポイントの支出は大きな負担ですよね」
そう言うと思っていた、と言わんばかりに得意げに話す坂柳さん。何か言いたいことがあるみたいだ。
「今回のショッピングは収入に対して支出の割合が大きすぎるから問題な訳です。つまり、もっと収入があれば何の問題もないですよね」
「えっと……何?あんたは何かポイントを稼ぐ方法が思い付いたってこと?」
プライベートポイントなんて誰もが欲しいに決まっている。誰もがどうにかそれを定期収入以外で増やす方法がないか考えて、そして諦めるだろう。
簡単にお金を増やせたら誰も苦労はしない。
だが、坂柳さんはその方法を思いついたらしい。
「ええ、もちろん。しかも、ただのお金稼ぎではないですよ。プライベートポイントを貰いながら、女の子を弄んで、ついでに葛城くんたちの派閥を壊滅に追い込むことができる、まさに一石三鳥の夢のような方法です。今日、たくさん散財した里中くんには朗報ですね」
何だろう……何か少しドキドキしてきた。
「時に真澄さん。クラスの女の子たちがこんなことを言っているのを聞いたことはありませんか?『一度でいいから里中くんに踏まれてみたい』と」
「クラスで言ってるのを聞いたことはあるし、グループでもちょくちょく言ってたはずだけど」
俺はもう分かった。坂柳さんが何を言いたいのかを。
「さらにあの一週間、里中くんが一之瀬さんを調教している姿を見てこうも思いました。『これはお金が取れるな』と」
「…………あんた、まさか……」
坂柳さんは心底愉快そうに笑った。
「この退屈な敷地内に、学校設立以来初めてのSMクラブを開業してみましょうか」
神室さんが唾を飲む音が聞こえた。
この学校の理事長の娘は、自分の父の学校で、こっそりとSMクラブを経営するつもりらしい。
坂柳さんが自分の計画を話す。と言っても計画自体は何も複雑じゃない。
俺に調教されたい女の子を集め、サービスを提供して対価を受け取る。これだけだ。
しかしこの計画の難しいところは、まず最初の女の子を集めるところだろう。
俺に調教されたい女の子を集めるのはさほど難しくないだろうが、それに加えて口が固くて信用ができる女の子を見定めるとなると厄介だ。
だが、それは坂柳さんが解決するらしい。
「最近の放課後、私は交友関係の拡充と顧客となり得るお友達の人物像の見極めに努めていました。直接お話をして、その人はどのような性格か、どのような嗜好か、どのような主義を持つかを」
「『二人だけの秘密』を話してみて、その後の反応を確かめてみたりもしました」と言う坂柳さん。
この人は本気でやる気だ。
「十分顧客候補の方々を観察した上で、可能な限り周囲に口外するリスクの低い方達から順にサービスを開始しましょう。まずはあなたの部活動にも顔を出していたほどの熱烈な女の子たちからです」
「なるほど。確かに彼女たちなら俺が不利益を被ることをする可能性は低いですね」
しっかりと美味しい思いを、飴を与えておけば大人しく俺の言うことに従うはずだ。
「すごい面白そうなのは認めるけど、あの子たちが周囲に絶対漏らさないなんて確証はないでしょ。万一、教師にでもバレたら大変なことになるんじゃない?」
「バレるといってもあくまで噂程度ならば大丈夫でしょう。そしてサービスを受ける際にはきちんとボディチェックをして、盗撮や盗聴の可能性は排除します。物的証拠が無ければいくらでも言い逃れはできますから」
それにこれは双方の合意があっての行為になる。言ってみればこんなサービスを受ける顧客側にも問題はあり、周囲には知られたくないことということになる。
坂柳さんによる完全招待制の秘密クラブとすれば、決定的な物的証拠の漏洩の危険性は相当に低いだろう。
「そして里中くんには性行為を基本的に我慢してもらいます。セックスは本当に極一部の、信頼のおけるお得意様向けの裏オプションとしましょう」
「そうですね。信用が完全には置けない顧客には、性行為はせずに性的サービスに留めておきましょうか」
リスク管理という意味でも、クラブの売上という意味でも、その方が利点がありそうだ。
「では、具体的なサービスの内容を考えましょうか。先程はSMクラブと称しましたが、顧客層は広い方が良いです。マゾ女調教コースだけでなく、恋人体験コースや性感マッサージコースなども用意しましょう」
「そうするとSMクラブと言うよりは、女性向け風俗店のようになりそうだけど。まあ、こいつなら大体のことはこなせそうだしちょうどいいか」
「プレイ時間は30分で一区切りとするのはどうでしょうか?2時間を上限の時間として、30分で3000ポイントからのスタートとします。一度目の30分延長で倍額の6000ポイント。二度目で4倍。三度目で8倍の2万4000ポイントというのは」
30分で3000ポイント、これは安いだろう。金銭的な負担も低くして、手軽にサービスを始めやすくする。
だが一度始めたが最後。きっちり2時間たっぷり楽しんでもらって8倍の2万4000ポイント払ってもらう。
まだまだ女から金を搾り取る考えは思いつく。
例えばオプションをコース別にすることだ。仮に性感マッサージコースを頼んだ女がいたとする。その女は俺に性感マッサージをされて身体を煽情的に触られていれば、どうせもっと男と触れ合いたくなってキスしたくなるだろう。
そこで、キスのオプションは恋人体験コース専用にする。キスをしたければ性感マッサージコースだけでなく、恋人体験コースも取らなくてはいけなくなる訳だ。
もし、性感マッサージコースが三度目の延長が終わった後に追加で恋人体験コースを注文して、恋人体験コースを実質30分しか体験していなくても、支払いの料金は2時間コースの2万4000ポイントを払ってもらう。性感マッサージコースと含めて4万8000ポイントだ。
さらにもしも俺に首を絞められたり、おまんこを叩かれたりされたければ、マゾ女調教コースも追加しなければならない。
つまり、別のコースを注文した時点でコース自体の額は倍になり、最大で3倍になるということだ。時間延長を最大まで行えば掛け算で24倍の7万2000ポイント。これがコースだけでかかる料金の天井だ。ここからさらにオプションの料金も上乗せとなる。
思わず口角が吊り上がった。なんだこれは。めちゃくちゃ楽しそうだ。女によっては簡単に破産しかねないぞ。
そして、破産させて支払いができないようにさせれば別の使い道が出る。
俺の言うことに従えば金銭的な負債をチャラにするが、従えなければ二度とサービスを受けることはできないと通告することによって、金銭以外の見返りが得られるかもしれない。
坂柳さんも神室さんも興奮気味にサービスの詳細を話し合っている。
こんなに最高に面白そうなことを思いつくとは、やはり坂柳さんは天才かもしれない。
「いいですか、里中くん。あなたに惚れ込んでいる女の子の中には、私ではなく葛城くんの方についているという子も少なくありません。あなたが女の私を支持するということが気に入らなかったのでしょう」
「谷原とか、まさにそんな感じよね」
確かに俺のことが好きでも、坂柳さんではなく葛城くんについている女の子はそれなりにいる。
そしてそういう女の子は、俺に対して熱狂的に夢中になっていた子が多い傾向がある。谷原さんはまさにその典型だ。
「そういった女の子をしっかりと接待して心を引き寄せてください。しかし、すぐには私の側には置きません。葛城くんの側にいてもらいましょう」
坂柳さんが最高に悪い顔をしている。要は、スパイだな?
これがあるから勉強会なんてしなくても派閥争いを気にする必要がなかったのか。
プライベートポイントを貰いながら、女の子を弄んで、ついでに葛城くんたちの派閥を壊滅に追い込むことができる。
坂柳さんの言葉通りだ。文字通り、一石三鳥だ。
ああ、この人……やっぱり最高だ!
しばらくケヤキモールのソファーで話し合った後、軽くクレープを食べてから俺たちは帰路に着いた。
SMクラブを実際に開くのはもう少し先のことになりそうだと坂柳さんは言っていた。早ければ6月、遅ければ7月だと。
もう少し被害者の女の子たちをしっかりと見極める必要があるとか。ぜひ存分にやってほしい。
「SMクラブはいくらなんでもやばすぎるでしょ」
「ええ、流石にやばいですよね。今から楽しみですよ、俺は。どんな子をぐちゃぐちゃにできるんでしょうか……」
「一日で一体いくら稼げるかしら。15万くらいは超えそうよね」
「それは俺の手腕次第なところはありますね」
寮のエレベーターの中で俺と神室さんは話し合っていた。
普段は覚めている神室さんだが、今日はあれからずっと興奮しっぱなしで口数も多い。スリルを求めて万引きをやっていただけあって、こういった非日常を求めていたんだろう。
「6月になればAクラスの生徒は皆30万ポイントを支給されたことになります。高校一年生に30万ですよ?まさに鴨がネギを背負っているというわけです」
坂柳さんの言う通りだ。クラスポイントが0ポイントのDクラスを除けば、Cクラスでさえ15万ポイントほどは支払われることになる。
学校からの収入が入る6月初めや7月初めが収穫時期としてはぴったりだろう。
「金のありがたみが分からないガキ共から搾り取れるだけ搾り取ってやりましょうか」
「フフ。その詐欺師っぷり、なかなかに似合っていますよ」
そう言って坂柳さんと二人で意地悪く笑い合った。
「いや、お金のありがたみが分からないのはあんたたちもでしょうが……」と神室さんにツッコまれながら。
エレベーターが俺の部屋がある階に着く。エレベーターから降りながら坂柳さんと神室さんに軽く会釈をする。
「では坂柳さん、神室さん。また今度」
「ええ。じゃあね」
神室さんがそう返事をした。
坂柳さんは何も言わなかった。何かエレベーターの外に気を取られていたように見える。
そのままエレベーターが閉まり、上の女子寮の階へ昇っていった。
さて、部屋に戻って帆波さんでも呼んで夕飯でも作るか。
俺は端末を取り出そうとしたときに、見慣れない男が壁にもたれかかって端末を弄っているのを見た。
金髪の、そこそこカッコいい男だ。自分で言うのもなんだが、俺といい勝負かもしれない。
この階は一年Aクラスの寮があるフロアだ。基本的には見慣れない生徒がいるはずがないんだが……
他クラスの生徒?あるいは他学年?
まあ、いいか。誰かを待っているだけだろう。
俺はその男を横切ろうとした時、予期せず声を掛けられた。
「お前が、里中だな?」
男は薄い笑みを貼り付けて、その鋭い眼光で俺を射抜く。
どうやら、この男は俺を待っていたらしい。