※この作品はR-18です。

坂柳有栖ちゃんに弱みを握られちゃう話   作:ノンケマン

16 / 20
第16話【非エロ】

 俺は金髪の男に向かい合った。初対面だよな、多分。

 

「えっと、誰でしょうか?」

「まずは自己紹介からだな」

 

 何が何だかさっぱり分からない俺に、男は不敵な笑みを浮かべながら言葉を繋げた。

 

「俺は2年Aクラスの南雲雅だ。これでも生徒会の副会長をやらせてもらってる」

 

 他クラスではなく他学年の生徒だったらしい。しかも生徒会副会長だとは。

 

「これはご丁寧にありがとうございます。俺は1年Aクラスの里中聡です」

 

 俺のことを知っているようだが、一応自己紹介をした。

 

 南雲副会長が壁にもたれ掛かるのを止め、俺の方に歩いて来る。その顔には笑みを浮かべてはいるが、控えめに言っても好意的ではない。

 

「それで南雲副会長。ご用件は一体何でしょうか」

「おいおい、自己紹介はもう終わりか?もう少しお互いのことを知るところから始めようじゃねえか」

 

 何故か敵意を向けられている状況でやれと言われても……

 

「部活はテニス部に所属しています。そして趣味は────」

「冗談だ。俺とお前は雑談をするような間柄じゃないだろ」

 

 そう冷笑を浴びせられる。俺のことが余程に気に入らないらしい。

 

「さて、用件だったな。何、大したことじゃない。俺の要求はシンプルだ」

 

 南雲副会長は軽く髪をかき上げてから、俺を見下ろして言った。

 

「一之瀬帆波から手を引け」

「帆波さんから?」

 

 そういえば帆波さんは生徒会に入りたいとか言っていたな。つまり南雲副会長とは面識があってもおかしくはないのか。

 

「俺と帆波さんが付き合っていることが気に入らないと?」

 

 もしかして帆波さんのことが好きだったんだろうか。俺が先に付き合ってしまい、気に入らないということだろうか。

 俺の問いかけに対し、南雲副会長は顔を顰めながら答える。

 

「気に入らないだけじゃない、不快でもある」

「不快ですか?」

 

 そりゃ、好きな女が知らない男と付き合っているのは愉快ではないだろうが……

 しかし、今の『不快』のニュアンスは少し異なる意味を含んでいるように聞こえた。

 

 南雲副会長は苛立たしげに舌打ちをして更に続ける。

 

 

 

「他人の手垢に塗れたモノに価値なんてないだろ」

 

 そう吐き捨てる南雲副会長の姿を見て、俺はどういうわけか既視感を覚えた。

 

「帆波さんが……モノ……?」

「ああ。あれほど見栄えの良い女はそうはいない。私物として俺が直々に可愛がるだけの価値はある存在だ。生徒会室に魅力的な置物として飾ってやるよ」

 

 南雲副会長の言葉を聞くたびにその既視感はどんどんと強くなっていく。

 

「だが、せっかくの上質な調度品も他の男の手垢だらけじゃ興醒めだ。聞くところによるとまだ付き合いだしてから間もないんだってな?さっさと別れろ、帆波が汚れる前に」

「……南雲副会長にとって、女とは何なんですか?」

 

 その言葉を聞いて、南雲副会長は大きく笑った。

 

 

 

「女は装飾、自分の格を表す勲章だ。横にいる女の価値でその男の価値も分かる。いい女を数多く侍らせる男ほど格の高い男だ」

 

 ああ、この人……

 

 

 

 俺にそっくりだな、気が合いそうだ。

 

「返事を聞かせてもらおうか、里中。帆波を手放すか?それとも俺と敵対するか?」

「…………俺は、帆波さんを────」

 

 南雲副会長の問いかけに答えようとしたその時、エレベーター横の階段からカツ、カツと床を突く音が聞こえてきた。

 まるで自身の存在を主張するかのように。

 

 その音を聞いて、俺も南雲副会長も階段へ振り向く。

 

 坂柳さんが杖をついて降りてきた。

 

「坂柳か」

「おや、私のことをご存知でしたか」

「この学校の理事長の娘だということくらいはな。それで、何故ここへ?」

「1年生のフロアに2年生の南雲副会長が居れば、一体誰を待っているのかと不思議に思うのも無理はないのでは?」

「なるほど、もっともだな」

 

 坂柳さんは俺の横に並び、南雲副会長に身体を向けた。

 

「話の大部分は聞かせていただきました。一之瀬さんが欲しいと仰っていましたよね」

「お前には関係のない話だ」

「そうでもないですよ。里中くんは私が一言言えば一之瀬さんを手放しますから」

「ほう?窓口は里中ではなく坂柳、お前だったか」

 

 俺と坂柳さんの関係を察したのだろう。ここで南雲副会長の意識が俺から完全に逸れ、坂柳さんに向いた。

 

「まあどちらでもいい。とにかく帆波を寄越せ」

 

 単刀直入で一方的な要求に、坂柳さんは端末を弄りながら迷いなく答えた。

 

 

 

「一之瀬さんですか。別に構いませんよ」

 

 南雲副会長へ帆波さんを譲り渡す。

 そういう回答だった。その答えに南雲副会長は満足そうに白い歯を見せた。

 

「いや、悪いな。もちろん、タダでとは言わねえよ。代替は用意させてもらう。帆波ほどの上物とはいかないが、それなりにいい女を何人か見繕って……」

「南雲副会長。一之瀬さんを譲渡するのは結構なのですが、実は少々問題がありまして」

「問題?」

 

 怪訝そうな表情をする南雲副会長に坂柳さんは端末を横に傾けて突きつけた。

 俺にはその端末が何を映し出しているのかが見えない。

 

「…………何だ、これは?」

 

 横からでは一体何なのか分からないが、正面からそれを見る南雲副会長にもよく分からないらしい。

 気になったので俺も少し前に出て端末を覗き込む。

 

 

 

 ああ。これ、あれか……

 

「…………ッ!これは!?」

 

 南雲副会長もようやく理解に至ったらしい。

 その反応を見て、坂柳さんが心底可笑そうに笑った。

 

「一之瀬さんは既に少々手垢に塗れていますが、大丈夫でしょうか?」

 

 坂柳さんの持つ端末に写っていたのは、クリトリスを赤く勃起させて、膣内から男に屈服した証を零す女の陰部。

 それと、使用済みのゴムの横にある、純真な少女の笑顔を上から精液で上塗りされている顔写真が付いた学生証だった。

 

 そう。俺が趣味で撮った帆波さんの学生証の記念写真の一枚を、坂柳さんは南雲副会長に見せつけていた。

 

 

 

 

 

「そんなわけで帆波さんをパクッと食べちゃったんですよ!いやあ、ちょろかったですね!」

「ったく、少し帆波から目を離している間にこんなことになってるとはな……」

 

 今、俺と坂柳さんは南雲さんの奢りで、敷地内の高級焼肉店に連れてきてもらっていた。

 この店は南雲さんのお気に入りらしい。といっても、男子高校生で焼肉店が嫌いな奴なんてごく一握りだろうが。

 

「フフ。里中くんは私ほどではないですが、なかなかに優秀でしょう?どうですか、南雲副会長。私たちを生徒会に入れてみるというのは。このつまらない学校を根本から作り替えることを保証しますよ」

「ふっ。面白そうではあるが、残念ながら堀北会長が許すはずがないな。俺が生徒会長になったときにもう一度声を掛けてくれよ」

「テニスやってた方がモテそうなんで、俺は生徒会にはあまり入りたくないですね……」

 

 あれから坂柳さんは、俺と帆波さんの一週間の出来事を撮り溜めた動画や写真も交えながら包み隠さず話した。

 

 坂柳さんの手で短く編集されたエロ動画を見ながら、素直に帆波さんを横取りしたことを謝ると普通に許してくれた。

 南雲さんには初めこそ敵意を向けられていたが、話してみると意外にも親しみやすい人らしい。

 

「ところで、南雲副会長も面白いことをなさっているそうではないですか。他クラスの生徒からポイントを徴収しているという話を聞きますが?」

「何です、南雲さんは何をやってるんですか?」

「2年生全体から俺にポイントを集約させるシステムを構築している最中だ。Aクラスに上がる目のないDクラスやCクラスの奴らに『2000万ポイントを用意してAクラスに引き上げる』と口約束をしてポイントを巻き上げる、という感じだな」

 

 と言っても、あんなにあっさり許してくれたのは南雲さんが親しみやすいからというだけではないと思う。

 

 一番の理由はおそらく、俺と南雲さんはお互い非常によく似ていて馬が合ったからだろう。

 俺たちはとにかくよく気が合い、少し話しただけで俺と南雲副会長は『聡』と『南雲さん』で呼び合うほどの仲になった。

 

「ということは、南雲さんのクラスはもうかなりリードしてるんですか?」

「現状ではBクラスとは500ポイントほど、Cクラスとは800ポイントほど差が開いてるな」

「CクラスやDクラスの生徒はもう戦意を喪失しているわけですか。張り合いがなさそうですね。私なら退屈してしまいますよ」

「全くその通り、退屈してるぜ。とりあえず次は堀北会長を超えてみようとは思うが、どのような結果で終わるにしろ、1年後には堀北会長は卒業となる。その後は……そうだな、お前らに倣って女遊びでもして暇を潰すか」

 

 俺と南雲さんはまさに瓜二つだ。

 勉強も運動もできるところも、女にやたらモテるところも、そして何より女をモノと見做す価値観もそっくりだった。

 

 俺は女を玩具と見做し、南雲さんは女を装飾と見做す。その程度しか違いがない。

 

 そして坂柳さんとも南雲さんは話が合いそうだ。退屈な学校生活を送りたくないというところなんてそっくりだな。

 

 

 

 ようやく料理がやってきた。俺と南雲さんは会席コースを選び、その上でちょくちょくと食べたい肉を選んだ。

 坂柳さんは何も頼まなかった。さっきクレープを食べたからな。お腹があまり空いていないのかもしれない。

 

 まず初めに、シャトーブリアンを焼いていく。この一皿で1万5000ポイントを超える高いメニューだ。

 俺は流石にこれを頼むのは気が引けたが、南雲さんが頼んだ。3人で分けて食べようとのこと。ありがたいことだ。

 

「しかし、一之瀬さんは本当によろしいのですか?先ほども申し上げた通り、南雲副会長に差し出しても私は構いませんが」

「いや、いらねえよ。あそこまで男に弄ばれた後じゃ、飾りとしての価値は半減だからな」

 

 それにしてもやはりディナーは高い。食べ盛りの高校生が好きに注文していけば、1人当たり3万ポイントは優に超えるだろう。学生向けではなく敷地内の大人向けだな。

 

「それに、かわいい後輩たちのお気に入りを無理矢理奪い取る、なんてみっともないことはしないさ」

「そうですね……私としても一之瀬さんは気に入っていますから、手放したくないという気持ちはあります。ですが、一之瀬さんとセックスをなさる程度なら大歓迎ですよ?」

「いや、それは聡が嫌がるだろうが……」

「……?俺は一向に構いませんが……」

 

 南雲さんが不思議そうに俺の顔を見てくる。俺もおそらく同様に南雲さんを見ているだろう。

 なんか、南雲さんと初めて意見が大きく食い違ったな。

 

「自分の女が他の男に汚されたら不愉快だろ?」

「それはそれで楽しめると思いませんか?」

 

 なるほど。俺と南雲さんの僅かな価値観の違いから意見が異なったらしい。

 

 南雲さんは女を装飾と考えているから、他の男が触れるのは許し難いのだろう。

 一方の俺は女を玩具と考えているから、自分が楽しめれば別に問題ないとなる。

 

 つまり、南雲さんは純愛主義で、俺はNTRも許容するというわけだ。

 

「私としては里中くんに賛成ですね。楽しめればいいじゃないですか」

「ですよね?南雲さんに抱かれた事実を俺から必死に隠す帆波さんとか見てみたいですよ!」

「いや、流石にないな……苦労して堕とした女を他人に抱かせはしないだろ、普通は……」

 

 

 

 こんなことを話しているうちに肉も焼けてくる。当然、俺の目当てはシャトーブリアンだ。流石に入学前でもこれを頻繁に食べることはできなかった。

 

 本当に美味そうだな……

 俺はお目当てのものを食べようと箸を伸ばす。が、横から伸びてきた箸が先に奪い去っていった。

 

 そしてそのまま坂柳さんの口の中に入り、咀嚼される。それから坂柳さんは俺の顔を見てにっこりと笑った。

 

「まあ、美味しい」

 

 ああ……俺のシャトーブリアンが……

 

 俺が食べようとする瞬間をずっと狙っていたのだろう。坂柳さんは俺へ嫌がらせをして困らせるのが楽しくて仕方ないらしい。何も注文しなかったのは、俺が食べようとするものを横取りするつもりだったからか。

 

 仕方ないと俺は別に焼いていたカルビを取って食べる。うん、まあ美味しいな。

 

「どうだ?旨いよな、この店」

「はい。高いだけあってとても美味しいです」

 

 南雲さんが感想を聞いてきたのでそう答えた。

 確かに旨いが、これだけポイントを支払っているんだ。旨くないと困る。

 坂柳さんも自分の感想を述べた。

 

「流石にシャトーブリアン。最高級の部位なだけはあります。ですが最も素晴らしい点は、最高の味付けがされているということでしょう」

「最高の味付け?」

 

 タレは普通のやつと大差ない気がするんだけどな……

 

 坂柳さんは上機嫌に微笑みながら話を続けた。

 

 

 

「2年生の皆さんのお金で食べているという事実が味を格段に引き上げていますね。Aクラスへ上がるため、先輩方が必死になって貯めているポイントで贅沢をしていると思うと、自分のポイントで食べるより何倍も美味しく感じますよ」

 

 ああ、言われてみればそうなりますか……

 

「だろ?俺もその背徳感がたまらなくて頻繁に通い詰めてるんだよな」

「普通の生徒はAクラスで卒業できるかどうかで人生は大きく左右するでしょう。私たちは文字通り人の人生を食い物にしているわけなのですから、美味しくないわけがありません」

「俺たち、最低ですね……」

 

 2年生の先輩方、ごめんなさい。

 

 それから残りのシャトーブリアンを焼いた。

 2枚は南雲さんが食べた。そして後の三枚は俺と坂柳さんの分だ。

 だが既に2枚は坂柳さんに食べられて、最後の一枚も奪われようとしていた。

 

「あの、坂柳さん。一枚くらい食べちゃダメですか?」

「フフ、どうしましょうか。とても美味しいですから里中くんには分けてあげたくないんですよ。食べたいのなら、可愛らしくおねだりしてくださいね?」

「お前ら、いつもこんなことをしてんのか?羨ましい限りだぜ……」

 

 その後、拝み倒してなんとか坂柳さんに最後の一枚を食べさせてもらった。本当に旨かった。

 女から金をたくさん搾り取ったらまた来ようか。今度は神室さんも一緒に。

 帆波さんとも2人で来よう。シャトーブリアンをお腹いっぱい食べさせて、一生スーパーの特売の肉を食べられない身体にしてやるか。

 

 

 

 

 

「そういえばお前ら、中間テストは大丈夫か?色々と忙しくて勉強をしていないんだったよな」

「ええ、まあ。ですがご心配には及びません。私も里中くんも赤点を取ることはありませんから」

「そうですね。ところで坂柳さん。いい加減俺が食べようとしたものを狙って取るのはやめてくださいよ……」

 

 三人で夕飯を食べながら軽く雑談をする。

 中間テストか。確かに俺も坂柳さんも勉強なんてしなくてもクラスで葛城くんと合わせてトップ3を占めるだろう。

 

 南雲さんが焼けた肉を摘みながら何気なく話す。

 

「テスト対策はしないにしても過去問に目を通すくらいはしておけよ。特に今回はな」

「今回は、って何か理由でも?」

 

 思わず疑問の声が漏れた。何か理由があるんだろうか。

 

「なんだ、気が付いてないのか?この学校は例年、1年の1学期における中間テストは全く同じ問題を出題していることを」

「そうなんですか?」

 

 へえ、そうなんだ。初耳だな……

 横に座る坂柳さんを見てみる。どうやら坂柳さんも気がついていなかったらしく、少し驚いていた。

 

「五月の初めに中間テストで赤点を取れば退学と知らされただろう。その時に担任から退学者を出さずに乗り切れる方法があると示唆されたはずだ」

「ああ、確かに真嶋先生がそのようなことを言っていたような……言ってなかったような……」

「私も里中くんも、あの時の真嶋先生の話は大体聞き流してましたから気が付きませんでしたね」

「担任も可哀想に。こんな教え子たちがクラスを引っ張っていこうとしてるんだからな……まあ過去問はこの後、クラスメイトに持って来させてやるよ」

 

 正直、あの時は帆波さんが敵だということに興奮していて中間テストの話なんて全く聞いてなかったな。あまりにも興味がなさすぎた。坂柳さんも同様だろう。

 

 思えば昨日の試験範囲の変更も伏線か。僅か2週間前の試験範囲なんて、勉強ができない生徒には危機的な状況だろう。それでも赤点を回避する方法があると学校側は言っている。それが過去問というわけか。

 

 学校側は言っているわけだ。物事を深く考え、裏を読めと。

 

「良いことを教えてもらいましたね、坂柳さん」

 

 南雲さんには本当に感謝しかないな。坂柳さんも楽しそうに笑っている。

 

「ええ、本当に。早速明日にでもこのことを公表し、クラスのお友達に過去問を配布しましょうか」

 

 坂柳さんがそう話すが、それは良くないんじゃないか?過去問を渡すのが早すぎる。

 

「それは不味いでしょう。今、実質の答案を配ればみんなの勉強意欲が落ちてしまいます。ここはテストの前日か2日前に渡すべきでしょう。その方がクラスのためになります」

 

 テストの答えなんてもらえば誰も勉強なんてしない。そうなれば当然基礎学力に影響する。それよりもギリギリまでこのことを知らせずに勉強してもらった方がいいだろう。

 

 そんな俺の意見を聞いて、坂柳さんはそれを嘲笑った。

 

 

 

「里中くんは何を言っているので?テストまでまだ2週間近くありますよ。それまでこの事実に気がついていない葛城くんを馬鹿にするのを我慢させるつもりですか?」

「いや、葛城くんを馬鹿にするためだけに過去問を配らないでくださいよ……」

 

 坂柳さんは一日でも早くこのことをクラスの皆に言いふらして、無知な葛城くんを玩具にしたくてしょうがないらしい。

 いや、自分だって気がついてなかったですよね?

 

 仕方ないので、俺は別の選択肢を提案してみる。

 クラスのためになりつつ、坂柳さんの娯楽にもなりそうな第三の選択肢だ。

 

「それなら、葛城くんたちにこの事実を公表するのはテストの結果が出てからにしてみませんか?過去問は俺たちの間だけで共有してテストに臨みましょう」

 

 いくらなんでも明日に過去問を広めるのは、クラスとしても派閥争いにおいても旨味がない。つまりは坂柳さんの利益にならない。

 

「つまり、採点が終わるまでの三週間も私に自制をしろと?」

「そうなります。ですが、それだけの価値はあると思いますよ。今まで一度たりとも勉強会を開いてない俺たち坂柳派に、毎日頑張っていた葛城派が何故か平均点で大差をつけて敗れることになります。その時の葛城くんの愕然とした顔を見たくはありませんか?」

 

 俺の言葉を聞き、目を閉じて口元を綻ばせる坂柳さん。

 

「……フフ。確かに見てみたいですね……」

「ですよね?ああ、この事実は葛城くんたちにずっと教えないというのも面白いかもしれませんよ。何故俺たちに敗北したのか訳も分からず思い悩む葛城くんを、毎日小馬鹿にして過ごすんです」

「……いいでしょう。三週間は少々長いですが、仕方ありませんね……」

 

 坂柳さんが仕方なくといった感じで俺の提案を受け入れた。

 ……俺もこの人の扱い方がだんだんと分かってきたよな。

 

 ともかく、これで坂柳派も葛城派もテスト前まで普通に勉強をして学力が上がる。坂柳さんがクラスを支配した時に役立つはずだ。

 そしてテスト2日前辺りに坂柳派に過去問を配ろう。どうせ、テストの採点が終わるまでは葛城くんを馬鹿にできないんだ。坂柳さんもいつ配るかは気にしないだろう。

 

 最終的にクラスの基礎学力は向上し、葛城派は縮小することになるはずだ。クラス全体の平均点自体は葛城派にも過去問を配った方が上がるが、まあしょうがない。それよりも早くこの不毛な内輪揉めを終わらせることを考えよう。

 

「ふっ。トップよりもナンバー2の方が苦労しているわけか」

 

 俺たちの様子を端末を操作しながら眺めていた南雲さんが笑いながら言った。

 

 俺はクラスの序列なんてどうでもいいんだが、坂柳さんがリーダーになるというのならAクラスを維持したほうがいい。もしBクラス降格ともなれば、リーダーの責任問題に発展しかねないという懸念があるからだ。

 

 坂柳さんは天才かもしれないが、隙もある。好悪が激しいところと、自分が楽しむためには手を抜く癖があるところだ。

 興味がないことには手を抜きがちなのは俺も同じだからあまり強くは言えないが、それとは別に舐めプ癖があるのは良くない。俺が上手く軌道修正しないと。

 

 しかし、俺があまりでしゃばると坂柳さんは不機嫌になるだろう。基本は坂柳さんの望む計画に沿いつつも、何か問題があればそこを変えよう。クラスのためになりながらも、坂柳さんが楽しめるように面白おかしく。

 

 やれやれ、気難しい主導者を宥める側近は大変だ……

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。