※この作品はR-18です。

坂柳有栖ちゃんに弱みを握られちゃう話   作:ノンケマン

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2日連続投稿です、ご注意ください。


第19話

「一年Bクラスの一之瀬帆波です!これからよろしくお願いします、朝比奈先輩っ!」

「ちょっと……なんかこの子、とっても可愛いんだけど!」

 

 昼休み、俺は帆波さんと珍しく食堂で昼食を取っていた。いつもは帆波さんとお弁当だが、中間テストが終わって無事に在学が決定したのでちょっと贅沢をしたいと思い、学食でスペシャル定食を頼んだ。

 

 それから2人で昼ご飯を食べようとしたときに偶然南雲さんと朝比奈先輩がやってきた。せっかくだから4人でお昼を食べようとなったわけだ。

 

「朝比奈先輩は南雲副会長と同じクラスなんですよね?ということは、入学時はBクラスだったんですか?」

「そうなの。でも1年の3学期の頃にAクラスに上がってね。だから帆波もBクラスに配属されたからってがっかりする必要はないからね?これからが大事だから」

「えへへ、ありがとうございます!これから何をするかが大事ですよね!」

 

 帆波さんは朝比奈先輩とは面識が無かったんだが、あっという間に打ち解けてしまったらしい。和気藹々と2人でお喋りに洒落込んでいる。

 

 朝比奈先輩はすっかり帆波さんを気に入ったらしい。そこは流石帆波さんといったところか。

 何というか理想的な後輩だよな。おそらくは意識していないだろうが、年上に気に入られるのが上手い。笑顔を振り撒いて自然に相手を持ち上げている。

 

 帆波さんも俺と同じで水商売が向いていそうだ。キャバ嬢にでもなってみたらどうだろうか?お偉いおじさまからの指名が止まないことだろう。

 

 一方の俺と南雲さんは完全に無言で飯を食っていた。朝比奈先輩も帆波さんもよく喋るよ、ホントに。

 

 

 

 俺はしばらく女2人の楽しそうな話し声をBGMに頭を空っぽにして飯を食っていた。

 が、朝比奈先輩の非難めいた声音によって意味のない環境音が再び会話として認識され始めた。

 

「ところで男はしっかり見張ってないとダメだよ、帆波。特にこの男はね」

 

 この男?一体、誰のことだ?南雲さんのことか?

 

「朝比奈先輩、それは一体……?」

「この間、里中くんはね、他の女の子と晩御飯を食べてたんだよ。それだけならまだしも同じ食器を使って。帆波なんて最高の彼女がいながらどうしてそんなことをしようと思えるのか、信じられないんだけどね」

 

 どうやら俺のことだったらしい。酷い言われようだ。

 

 嫌悪感を顔に滲ませて俺の彼女にチクリまくる朝比奈先輩に、これまた不快感を顔に滲ませてそれを聞く帆波さん。

 

 全く、朝比奈先輩は潔癖な人だな。こういう不誠実な行為は本当に嫌いらしい。

 

「朝比奈先輩。その女の子というのは……」

「生意気そうで嫌な感じの子だったね。確か名前は……」

「やっぱり坂柳さんだ……」

 

 生意気そうで嫌な感じで坂柳さんが思い付くのか……帆波さんも大概失礼だな、いや正論か。

 

 慇懃無礼を体現したような人だからな、坂柳さんは。

 

「そうそう。有栖なんてかわいい名前してたけど、全然かわいげがないの。何処となくこっちを馬鹿にしてる感じでさー」

「坂柳さんは前からそうなんです。いつもいつも聡くんのそばをうろちょろとしていて……」

「へえ、いつもそんな感じ?彼女持ちの男の子への配慮が無いんじゃなくて、わざとなんだ?」

「そうなんです。完全にわざとなんですよ、あれは!もう聡くんは私の彼氏なのにいつまでもちょっかいを出して……!」

「ああ、やっぱり……なんか嫌な感じしたんだよね、あの子。何処となく私を見下してくるっていうかさ」

 

 帆波さんがプリプリと怒って愚痴を垂れて、それに朝比奈先輩が相槌を打っている。

 

 まあ、なんでもいい。

 朝比奈先輩がどう思うかはともかく、坂柳さんが俺の周りをうろつくなんて帆波さんにとってもはや日常茶飯事。今更面倒な事は言ってこないだろう。

 

 俺は黙って箸を動かして昼ご飯を食べ続ける。

 

「でもね、帆波。坂柳さんも当然悪いと思うけど……」

 

 食べ続けようと思ったんだが、風向きが怪しくなってきた……

 

「私が一番信用できないのはこの男の方だよ!」

 

 俺ってそんなに信用できない男か?できないか、それもそうか。

 

「私の勘だけどね。里中くんは全く油断ならない、信用できない男だよ。間違いなく」

「いえ、その……坂柳さんはクラスの纏め役みたいな感じで……だから聡くんも坂柳さんにはあまり強く出れないんです」

 

 鼻息荒く俺を糾弾する朝比奈先輩に対して、帆波さんが俺を擁護してくれた。

 

 そうそう、その通り。俺は悪くない、悪いのは全て坂柳さん。

 俺はクラスカーストの都合上、独裁者である坂柳さんには逆らえない。言わば被害者だ。

 俺が好きなのは帆波さんのことだけ、嘘じゃない。

 

「ありがとうございます、帆波さん。こんなに理解があって優しい彼女を持てて幸せです。帆波さん、大好きですよ」

「え、えへへ……♡」

 

 うわ、ちょろいな。

 

 軽く褒めただけで帆波さんは顔を赤くしてはにかんだ笑みを浮かべた。こういう扱いやすい女は嫌いじゃない。恋は盲目というやつだな。

 

 帆波さんが照れくさそうに俺の目を見つめてくる。うん、なかなかにかわいい彼女だ。

 

 

 

「いや、それとこれとは関係ないんじゃない?相手がクラスのリーダーをやってても、彼女に誤解を与えるような事は出来ないって拒否すればいいはずでしょ」

 

 少しの間俺と帆波さんの間に流れた、愛に満ちたひとときを朝比奈先輩は冷静な声音で容赦無くぶち壊してきた。

 

「悪いけどね、帆波。私は帆波が言うことをそのまま鵜呑みにはできないかな。だって無理矢理付き纏われてるにしては、あの時の里中くんは嫌がってなかったよ」

「そんなこと……」

 

 朝比奈先輩に対する愛しの彼女さんの反論の言葉が弱い。どうして言葉に詰まってるんだ?

 

 なんか簡単に惑わされてるんだが……俺たちの愛ってそんなに薄っぺらかったのか……?

 

「ううん。嫌がってたというよりも、むしろとっても仲が良さそうに見えたね。本当に里中くんは坂柳さんのことを鬱陶しがってるのか、怪しいところだよ。それに関して、帆波は心当たりとかはない?」

「こ、心当たり……?そんなの……それは……」

 

 声がどんどんと尻すぼみになっていく帆波さん。おい、なんか不味くないか?そんな心当たりはないとはっきり言ってもいいんだが。

 

 というか、そろそろこの追及もやめてくれないかな……盲目な帆波さんに光を与えないでくれ!

 

「ねえ、帆波じゃ聞けないようだから代わりに聞かせてよ。君は本当に坂柳さんに付き纏われて迷惑をしてるの?」

「もちろんですよ。帆波さんに変な誤解を与えてしまわないか、いつも心配してます。帆波さん、惑わされないでくださいね?俺は帆波さんが一番ですから」

「う、うん……そうだよね……」

「…………なーんか、胡散臭いんだよね……」

 

 俺をジトッとした目で見つめてくる朝比奈先輩に、不安げな表情で俺の手を握ってくる帆波さん、そして洗脳が解かれないように必死に抵抗する俺。

 

 そんな俺たちがおかしかったらしい。今まで一言も話していなかった南雲さんが笑いながら口を挟んできた。

 

「その辺にしておいてやれ、朝比奈。他人の恋愛に干渉しすぎるのは嫌われるぞ」

「いや、私だって普通ならここまで言わないけどさ。里中くんがちょっと誰かさんに似てるなーって思っちゃって。そう、女絡みの悪い噂が絶えない誰かさんにねえ?」

「おいおい、俺はもう女遊びはやめたってずっと言ってるだろうが」

 

 南雲さんは俺に助け舟を出してくれたらしい。素直に助かった。

 

 朝比奈先輩もしつこいよ。帆波さんを真っ当な道に引き戻そうとするのはやめていただきたい。

 

「あまり気にするな、一之瀬。実は朝比奈が話した内容には意図的に伏せられている事実がある。それはあの場には俺もいたということだ。あの日は俺の方から2人を食事に誘ったが、特にこれと言ったことがあったわけでもなければ色気のある話をしたわけじゃない」

 

 良かった、あの話から話題を逸らしてくれるらしい。そのまま南雲さんは話し続ける。

 

「というのも、坂柳は生徒会に入りたいらしくてな。それで面接の前に一度俺と話をしたかったらしい」

「坂柳さんが、生徒会に……?」

 

 南雲さんの作り話に帆波さんが反応した。しかし何で南雲さんは坂柳さんが生徒会に入りたいだなんて作り話をするんだ?

 

「俺も坂柳の話は前から聞いていた。Aクラスに配属されていて、頭脳は明晰、成績は優秀。堀北会長も坂柳のことはなかなかに評価していたな。一年生の生徒会役員候補の筆頭とも言っていたはずだ」

「そうですか……」

「実際に話してみたが、噂に違いはなかった。生徒会役員として求められる能力に不足はない。十分以上に与えられた役割をこなせるというのが俺の素直な感想だ」

 

 坂柳さんを褒め称える南雲さんの話を心なしか面白くなさそうに帆波さんは聞いている。

 

 坂柳さんが堀北会長に評価されていた?堀北会長って確か部活動紹介の時の物凄くお堅そうな人だよな。そんな人が坂柳さんを評価するとは思えないが……

 実際にこの前、南雲さんは堀北会長は坂柳さんを生徒会に入れることには同意しないと言っていたはずだ。

 

 この作り話、何の意味があるんだろうか?

 いや、そういえば帆波さんはこの間生徒会の面接に落ちたと言っていたな。また堀北会長に断られたと。

 

 それが理由だろうか。嫉妬に心を黒く染める帆波さんを見て楽しむためとかか?

 

「ええ……あの子を生徒会役員にするの?あんな性格が悪そうな子よりも断然帆波の方が良いでしょ」

「ふっ。まあ、性格は一之瀬の方が万人に受けるだろうな。だが、生徒会役員に求められる能力は性格の良し悪しだけじゃない。最も重要なのは、いざ目の前にチャンスが転がってきた時にそれを掴むだけの度胸があるかどうかだ」

 

 朝比奈先輩の言葉に南雲さんは返事した。作り話の続きだ、どうせテキトーなことを言っているんだろう。

 

 しかし、帆波さんは南雲さんの中身がありそうで全然ない話を集中して聞いていた。生徒会に入りたい気持ちは分かるが、将来詐欺に騙されないか心配だ。

 

「そしてその度胸が坂柳にはある。生徒会役員として申し分ないほどにな。少なくとも俺はそう思った」

 

 度胸か、確かに坂柳さんにそれは大量に備わっているな。

 その分を少しだけでも道徳に回せば良かったのに、と思うほどには。

 

 それはさておき、こんな言葉で南雲さんは話を締め括った。結局何が言いたかったのか、訳が分からないな……

 

 

 

 昼ご飯を食べ終わり、俺と南雲さんは自分のトレーを片付けていた。

 

「帆波は自分を抑えすぎてるね。もっと不満に思うことがあればしっかり言える女にならないと。彼氏の顔色を伺ってばかりじゃ、いつまで経っても女の影が付き纏ったままだよ」

「あはは……自分の意見をはっきりと言うって難しいんですよね。でも朝比奈先輩は凄いです、自分をしっかり持っていて。大人の女性って感じですね!」

「そ、そう!?べ、別に大人の女性にはまだ程遠いと思うけど……うん!先輩として、男女交際の心構えっていうのを教えてあげようかな!」

「本当ですか!?よろしくお願いします、朝比奈先輩!」

 

 さっきまで座っていた席では、まだ朝比奈先輩が帆波さんに男に浮気をされない女の特徴とやらを話していた。

 にしても、相変わらず帆波さんは人に媚びるのが上手い。

 

 ところで朝比奈先輩は交際経験があるのか?そもそもそこから怪しいところだが、帆波さんはあると思ってそうだな。

 

 まあ、いいか。これで女2人は自分達の話に夢中。ようやく南雲さんと踏み込んだ話ができる。

 

「朝比奈先輩とは順調なんですか?」

「ボチボチってとこだ。元々悪印象は持たれてはいない。ただ女関係に問題があったから警戒されていただけで、それも段々に解けてきたな」

「そうですか。ちなみに何ですが、付き合った際にはきちんと彼女の教育はしてくださいね?朝比奈先輩にやたらと敵視されていて困りますよ」

 

 俺の言葉に南雲さんは失笑したが、笑い事じゃない。帆波さんまで朝比奈さんに影響されて小煩い感じになったらどうしてくれるんだ。

 

「それより、聡」

 

 南雲さんは食器を返却しながらこちらを見ることをせず、何気なく話を続けた。

 

 

 

「一之瀬は何故Bクラスに配属されたんだ?」

「何故……?」

 

 いや、そんなの俺が知ってるわけないじゃないか。学校側に聞いた方がいいだろう。

 

「入学試験の結果がAクラス相当じゃなかったというだけじゃないんですか?」

「それはないな。一之瀬は面接も含め入学試験を主席で突破していることは確認している。普通ならAクラスじゃなきゃおかしい生徒だ」

「入試を……主席で……?」

 

 おい、ちょっと待ってくれ。

 

 俺はあんなマゾ女よりも下だったのか?非常に屈辱なんだが……

 

 というか俺だけじゃなく坂柳さんよりも上なのか。どうせ面接で余計なことを言って人格面で減点でも食らったんだろうが……

 

「だが現実にはBクラスへの配属だ。それには何かしらの理由がある。それに関してお前は何か聞いてないのか?」

「いえ、そんなことは全然です」

 

 帆波さんは何やら俺に隠し事をしているらしい。俺と帆波さんの関係は所詮はその程度の薄っぺらいもののようだ。本当に悲しい。

 

 いや、待てよ。隠し事か……

 

「ああ、そういえば心当たりはあります。以前付き合う前にそんなようなことを仄めかしていましたね」

 

『俺が思うよりも綺麗な女の子じゃない』

 こんなことを言っていたはずだ。すっかり忘れていたが、あれの答えを帆波さんからまだ聞けていないな。

 

「やっぱりな。ちょうどいい、実は今日の放課後に一之瀬と2人で面談をやることになってるんだ。1年からの生徒会メンバーの選抜についてだ」

 

 南雲さんはそう言って悪そうな顔をして笑った。

 

「おそらくは付き合いたての彼氏には話しづらいことだろう。ここは先輩として一つ、相談に乗ってやるとしよう。かわいい後輩のためにな」

 

 はあ、相談に。どうやらその隠し事を聞き出してくれるらしい。

 しかしどうやって?何か悪巧みをしているようだが……

 

 

 ────―

 

 

『いよいよですね。明日のために準備は出来てますよ』

 

 今は6月30日、22時を少し回った頃。俺は坂柳さんと神室さんのグループチャットにこう書き込んだ。そう、ようやく坂柳さんの準備が整ったらしい。

 

『本当にやる気なのね……それで何人ぐらいに話を通したの?』

『話をしたのはかなりの人数になりますが、ざっと10人ほどは興味津々といった感じでした。尤も土壇場になって腰が引ける可能性もありますから、実際の人数が何人になるかは不明ですね』

 

 明日は念願の風俗店の開業日になる。7月に入るプライベートポイントに合わせてのスタートだ。

 

『それでどんな人、いやお客様が来るんですか?』

 

 金づる、もといお客様は大切にしないと。

 

『お客様は神様です。たとえマゾ女でも神様です』

 

 これを俺のモットー、いや風俗店の経営理念として働いていこう。

 

『半分ほどはクラスメイトになりますが、何人かは他クラスの生徒も混じっています。そして1人だけですが、南雲副会長の紹介で2年生からも来るかもしれません』

『2年にもこいつのことが好きな奴がいるの?相変わらずの人気ぶりね……』

『フフ。実は少し違うのですが、それはその時のお楽しみということで』

 

 うん、楽しみだ。

 

 俺は今日は早めに寝ようと端末を置き、就寝した。

 

 

 

 

 

 翌朝、7月1日。クラスのグループチャットではある話題で大盛り上がりだった。

 曰く、今月分のプライベートポイントが振り込まれていないとか。

 

 そしていつものグループでは坂柳さんのこの書き込みがあった。

 

『ひとまず延期としましょう』

 

 

 

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