抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
放課後、橘宅へと向かった悠真を待っていたのは___
『……今日の放課後、来れそうですか…?』
麻沙音からの電話で告げられた言葉が何度も頭の中で回っている。
自分が両勢力に顔が利くのは良いが、情緒が左右される事にはならないようにしていきたいとは思う。
思うだけなら誰にだって出来る。
であれば受け止めてみせるしかないのだ。
「___それで、何なんでしょうこの状況は…」
SSの隊員が哨戒で早めに寮を出払ってしまい、SSビッグスリーと淳之介、そして自分だけになってしまっている。
そして彼らが起床してきて初めて知った事がある。
「普段の仕事ぶりとつい比べてしまうからギャップがとんでもないことに…」
会長___冷泉院桐香は驚くほど何も出来ない。
仕事をこなすことと生活を送ることは違うのだろうが、”普通”と比較して考えると有り得ないレベルで何も出来ないのだ。
___此処は、退散すべきだろうか。
ただでさえ手のかかる会長と、SSの人間としては未だに不慣れな淳之介との生活なのだから、そこに事情をあまり知らない人間が増えてはいけないだろうという配慮と、単純に会長の世話役が自分に回ってくることを避けるという意味で距離を置く事にした。
幾ら性帝の護衛だからと言っても、四六時中付き纏うワケにもいかない。
「…とは言っても、傍から見れば微笑ましいかも」
矢張り自分は第三者視点になるのが一番好きだ。
自己の観点を剥き出しにすることなく、ただ目と耳に伝えられる情報だけを吟味するこの受け入れるだけで良い状態こそが一番気が楽だからだ。
ただ、それが平和な日常であればこそ楽しいもので。
現在進行形で自分も当事者であるからして、すぐに現実に引き戻されてしまう。
A世界に戻っても意識が戻っていない自分ならともかく、自分以外の四人は呑気でいられる筈が無い。
故に、自分はこれまで以上に頑張らなくてはならない。
そんな意気込みを自然に出来るようになったのも、B世界の自分が
「頑張ろ…うん」
あわよくば此方の世界の事情も解決出来れば、と願って。
______
自分の意識があった日から数日経ってしまっている事もあってイマイチ授業の内容が理解出来ない所もあったが、難なく過ごす事が出来ていた…筈だ。
普段から影が薄い事も幸いして休み時間でも声を掛けられる事がない。
というより、”性帝”の護衛の邪魔をしてはいけないという意味で避けられている可能性が高いのだろう。
「ある意味話しかけられることすらないのは悲しいなぁ…」
放課後まではずっと淳之介の傍に居たワケだが、淳之介に声を掛ける人は多いが自分には誰も来ない。
それを此方の自分が望んでいたのかもしれないが、その背景がどうしても気になってしまう。
___そんな感じで放課後になると淳之介の傍を離れ、約束していた橘宅へと向かった。
当然ながら淳之介達には誰に会いに行くのかさえ伝えていない。
此方の世界の自分を理解しなくては色々と拗れて取り返しがつかなくなる事態だけは避けなければならない。
なるべく悟られないように、遣り取りを躱さなければ___
橘宅の呼び鈴を鳴らし、少し待つ。
「___あ、いらっしゃい」
「どうも…」
扉から姿を現した麻沙音は何処か生気がA世界の方と比べて薄く感じた。
招かれるままに橘宅へと上がり、中へと入る。
玄関にあった靴の数が一足だった為、他のメンバーの姿はなく、今は間違いなく二人きりだという事が確認出来ている。
「ねぇ…兄の様子はどう…ですか…?」
リビングに入るなり此方に縋るような表情で問う。
あまりにも痛々しい状況だ。
「…元気だよ、何とか」
この答えが正しいかどうかはわからない。
ただ、嘘であるのは確かだ。
「何とか…って悠真さんの前でも無理してるって事なの…?」
「ああ、そういうワケじゃなくて…なんて言ったらいいんだろ…」
言葉を考えなければならないのが辛い。
真実を伝えられない事が辛い。
「…大丈夫っていう事はわかりました。もう少しで
「復讐…」
何やら酷く納得できるような、できないような言葉を最後に橘宅を後にした。
どうやら麻沙音とは淳之介の状況を確認する為だけの関係らしい。
実際、関係しているのはもっと深く、黒い___
「___もうお帰りかい、悠真くん」
”トリ公”のリーダーである水色の髪の少年、秋野水引だった。
「生憎、これから諸用があるからな…」
「”SSビッグスリー”と”性帝”で、かい? 随分とキミも偉くなったモノだねぇ」
「まさか、SHO特別監査役サマはSSの動向を全て把握されてると自慢したいワケで…?」
一触即発。
「それこそまさか、だよ。悠真くんの事は信頼しているからね」
「だったら、余計な詮索は止めて欲しいな。こっちも傷付く」
「それは済まなかった。これ以上引き留めるのも悪いし、続きは明日にしようか」
案外あっさりと開放され、思わず拍子抜けする。
彼と自分との関係性については未だに把握出来ていない。
名前で呼んでくれているという事は恐らく近しい間柄なのだろうが、A世界での彼と殆ど関わりが無い自分としては、距離感を掴むのは容易ではないだろう。
何故彼がドスケベ条例を潰そうと、”復讐”しようとしているのか、帰り道でずっと考えていたが納得出来そうな理由は思いつかなかった。
______
「話し合いって、此処でしか出来ないんですか…」
SS寮の大浴場にて。
男女が計五名、一糸まとわぬ姿で入浴している。
「如月までこの時間帯に入浴出来るように手を回すのが大変だったんだからな…」
「はい…何だかすみません…」
本来であればSSビッグスリーや性帝といった高い役職持ちのみがこのような遅い時間帯に入浴出来るらしい。
そのような事もSSに居ながらSS寮に入った事が無い自分には知る由もなく。
また、ただの隊員である自分が役職持ちと同じ時間帯で入浴出来るように色々してくれたらしい会長と糺川先輩には、感謝で頭が上がらないのだ。
「それで…私達状況は郁子が話してくれているのよね? であれば私達は如月さんが得ている情報を把握しておきたいのですが…目を閉じたままでも良いのですか?」
「はい…このままで、話します…」
入浴しているのだから当然だが、全員裸なのである。
それはつまり普段見る事の無い女性の裸を見てしまうという事で、童貞の自分に取ってはある意味刺激が強い事から、直視が出来ずにいた。
「此方の世界…B世界の如月悠真は、概ねA世界の僕と変わりありません」
「という事は、SSと”トリ公”の両方に所属している形なのか…」
「アサちゃんはどうだった!?」
「…まだ、会ってませんね。恐らく、A世界と同じで積極的にトリ公のメンバーとは接触していないみたいです。既視感も、SSの方が強い傾向にありますし」
必死の形相で麻沙音の事を尋ねられても、答えられるワケが無かった。
「では、能力などはどうでしょうか」
「…相変わらずハンドガンは二丁持ちで、SSの訓練は積んでるみたいで、身体能力はこっちの身体の方が高いと思います」
確認こそしなかったが、SSの寮にまで住んでる程だから、という推測があった。
「矢張り今は此方の世界での生活に慣れる所からだね」
「ええ。如月さんの存在はトリ公の動向を掴む上でも重要だと思っています」
「…正確には、トリ公のメンバーの動きよりも…リーダーの動きが不安だから、ですね」
幾ら淳之介でもNLNSの時の仲間の動きは予想出来ても、存在が不鮮明なリーダー___水引の動きはわからないからだと考えた。
「如月さんは立場が立場なので、全てを明かす事を強制したりはしませんよ」
「…早く明かした方が良いかもしれないというのに…?」
「知るタイミングが重要って事か。知っているから意図的に隠すのと、元々知らないとでは態度が変わってくるからな」
「だったら…黙っておきますけど…」
「…という事は、如月さんは私達が知らない事実を幾つか持っているという事ですね? その情報の管理はお任せしますので、タイミングだけ注意して頂ければ」
「そうだな…真正面に向かって解決出来るような問題の複雑さじゃないからな…」
______
敢えて泳がせる…という事で重大な情報の開示は避ける事を明言した。
勿論、SSの立場で得られた情報は全て報告するようにはなっているが、トリ公の立場での情報は考慮するようにと慎重になっている。
「___長くなりそうだ…」
自分は戦いの直後だから緊張感がまだ続いているが、他の彼らはどうだろうか。
平和な一時から戻って来て、辛くない筈がない。
かといってこの世界の事も野放しには出来なくなってしまった。
___あんな、感情の無い笑みを見たのは初めてだ。
顔を合わせた麻沙音との会話を思い出す。
お互いが虐げられてきた幼少期を乗り越え、青藍島に戻って来てからも二人で協力していく筈だったのに、どうしてこうなったのか。
”彼”に問うように___此方の記憶を掘り下げるように意識を集中しても、一欠片も思い当たる要素が無かった。
あとがき
パロディネタとか思いついてる余裕がない…!