抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
少年が力を持つその意味とは___
___秋野水引と出会ったのは、橘淳之介が生徒会副会長になり、”性帝”と呼ばれるようになった頃だった。
ドスケベ条例に悩まされる者同士、同調し、理解し、そして道を違えた。
彼は自分のことを未だに協力関係にある仲間だと思っているらしいが、他のトリ公のメンバーと接触した記憶が何一つ無い以上、自分はそこまでトリ公に依存していたわけではないことが想像出来る。
然し、その当時の自分がどのような気持ちでドスケベ条例の魔の手から避けて生きていたのかは察する事が出来ない。
あくまで断片的に思いつく程度の、A世界の自分にとっては『そういうことらしい』という程度の説得力しかなかった。
______
昨日の情報共有から、近く開催される予定のイベント、『大脱膣ゲーム』を狙ってトリ公が動き出すと予想しその対策を練ることに注力することになった。
淳之介は”性帝”としての業務に注力しながらもイベントの方にも協力するとなり、自分は淳之介が他のSSと行動を共にする際は護衛に付く必要は無いと判断され、自分は独り身となってしまった。
「別に寂しいって言ったわけじゃないんですけど…どうしてこういう結論に至ったんですかね…」
「嫌々ながらも付き合ってくれる如月さんが私は好きですよ?」
「そんな簡単に好きって言葉使わないで欲しいですね…あと食べながら喋らないでください…」
昼休み、生徒会室にて。
呼び出しがあって来たまでは良かったが、それ以降がよくなかった。
___今日から、桐香様のお世話に如月…ううん、悠真も加わって貰うからな!
何故か名前で呼ばれ、諦めろと言わんばかりに肩を叩かれながら当番制の『とーかちゃん係』に勝手に加えられてしまった。
「如月さんは私の先輩なのですから敬語は使わなくても良いんですよ?」
「いや、先輩キャラもういるから別に敬語のままで良いんじゃないですか…」
昨日の朝も思ったことだが、冷泉院桐香は何も出来ない。
仕事は人間離れの業で完璧かつ爆速でこなすが、相対的にそれら以外が絶望的に出来ない。
ある意味それで漸く釣り合いが取れて人間らしく見える…と思ったのはあくまで他人事だったからで。
「階段を上れなくて着替えも出来なくて食事もまともにとれない人だとは思わなかった…っ!」
着替えは自分が脱がせて自分が着せた上で髪のセットもする。
食事は食べながら喋るたびに口元を拭いて、挙げ句の果てには食べさせる。
エレベーターが使えない時は昼休みの終わりになると彼女をおぶって教室まで連れて行く。
入浴前も服を脱がせて身体も洗う。
「介護じゃんこれ…」
漸く会長が眠った頃、共用スペースのソファに座ってはぐったりと背を預ける。
これが大人しいご老人ならまだマシだったかもしれない。
然し、会長は大人しくなくて若いのだ。
「でも、そんなところが可愛いだろう?」
「可愛いというか…悲しい…」
休んでいた此方に何やら嬉しそうに声を掛けてくる糺川先輩に頭を抱えた。
「何が悲しいんだ?」
アンタのせいで辛い、なんて言うわけにもいかず、
「こんな形で女の子の身体に触れたくなかった…」
「今更…?」
「今更じゃないです! 童貞を舐めないでください!」
人生初の同年代の異性の身体に触れるというイベントが介護という形であった為、最悪だった。
「淳之介とはまた違った方向で面倒くさい奴だな…」
「いや、あそこまで偏屈じゃないと思いますけど」
「大概だろ」
童貞のは孤高というよりオンリーワンな存在なのかもしれない。
「…嫌な感じはしなかったですよ。素直に喜んでくれるので」
「桐香様に悪気は一切ないからな」
だから会長はSSの皆に崇拝される。
彼女には悪戯心はあるが無邪気なのだ。
それ故に、自分も彼女を憎む事は出来ても心の底から嫌う事は出来ないだろう。
「…よし、明日も頑張ろう…おやすみなさい、糺川先輩」
苦笑を浮かべながらもソファから立ち上がる。
こんな事で辛いと言っていてはこの先どうするんだ、と自分に檄を飛ばして気を引き締める。
「あ、ああ…おやすみ、悠真」
名前で呼ばれ慣れていないせいか自然と赤くなった顔を隠すように足早に自分の部屋へと退散した。
______
「___今日こそは!」
翌日、やっと一人になれた日の放課後、今日こそはと訓練場に足を踏み入れた。
B世界に来て初めて入る訓練場は、A世界のと比べて何ら相違点はない。
吸い込まれるように射撃訓練を___とその場所へと向かう。
「あれ、先客が___」
そこには一人のSS隊員がハンドガンを手に的を撃っていた。
その青年は射撃の後に此方へと振り向き、話し掛けて来た。
顔見知りではないが…
「この時間に誰かが来るなんて誰かと思ったけど…悠真じゃないか」
「シューベルトこそ、珍しいな…自主訓練だなんて」
SS二番隊、データキャラというイメージしかない眼鏡を掛けた青年___B世界の自分と仲が良いらしい友人の一人、中村シュウことシューベルトだった。
「それはもちろん、悠真の強さに追いつく為さ。全SS隊員の中でハンドガンの扱いで悠真の右に出る者がいないほどなんだから」
「そこまで言われてたっけ…」
どうやらB世界の自分は極めるところまで極めていたらしい。
実感としては全く湧かないが。
「一ヶ月に一回講習もやっているというのに…相変わらず謙虚だな悠真は。でも、そろそろ実力相応の態度を取っても良いんじゃないかな」
「……頑張るよ…ちなみに、次の講習って何時だっけ…」
「明日だろう? 勿論僕も参加する予定なんだ。だからもっと自信を持ってくれよ?」
「お、おう…」
性帝の護衛以外にこんな事までやっているとは思っていなかった。
然し、此方の自分も嫌がっていたという辺り親近感が湧くのだった。
「だったら、ちょっとでも練習しておかないとな…!」
何をどう教えるのかを掴む為にも、今は撃つ事に集中したかった。
「なら僕は後ろで休憩がてら拝見させて貰うよ」
観客が一人、いや、明日になればそれが複数人になるのだからそれも含めて無様にならないように練習と思う事にした。
ずっと腰のホルスターに入れっぱなしで一度も使っていないハンドガン一丁、右手の方を抜き、的に照準を合わせる。
「___っ!」
一発、二発、三発。
想像以上に軽いトリガーを連続で引いた。
「___やっぱり、悠真は流石だね」
後ろで不敵に笑うシューベルトを他所に、自分は驚いていた。
あまりに反動を感じないからおかしいとは思った。
弾を放った先の的には、中心に穴が一つ空いていた。
つまり___寸分狂わず、的の中心に三発、通したという事だった。
あとがき
転生したらハンドガンの扱いが最強だった件について___