抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
それが何時しか興味本位で見に来る者が現れ、その者が新たに人を呼び…
「それじゃあ、始めます…?」
幾人ものSS隊員からの視線を受けながら、口を開く。
向けられる視線は興味、尊敬、畏怖など様々な感情を孕んでいるように見受けられた。
この”講習”の受講者はせいぜい両手で数えられるだけしか居ない。
もっと大人数だとそれこそ精神的に参ってしまうだろうから、これで良いのだと自分に言い聞かせる。
「えっと…今日は、何が良いです…?」
要望を聞く事にした。
「前回は確か射撃の際の反動について教えて貰ったから、今回は悠真の持っている専用のハンドガンについて教えて貰いたいな」
「他の方もそれで良いなら…」
他の人もそれで良いと言わんばかりに頷く。
同意を得られた所で左側のホルスターに収まっている銃器を抜いた。
「これはハンドガンというよりはマグナムに近いかな…大口径で装填数も少ないけれど、色々な銃弾を自分でも作れるからその点は大きいです」
A世界ではSS支給のハンドガンを二丁使っていたが、B世界では片方は支給のハンドガンだが、もう片方は本島から取り寄せたマグナムタイプのハンドガンを使っていた。
使い回しが出来るハンドガンとは違いマグナムの方はまた癖が強い武器である。
大口径という事もあってライオット弾を使用する事が出来ない為、主に特殊弾を扱う際にマグナムを抜く時がある。
「特殊弾の他にも___」
自分の言葉を他人に聞いて貰えるのは嬉しいものだ…と考えている内に自然と、熱心に話す事が出来た。
______
「___お邪魔します」
「いらっしゃい、悠真さん」
講習が終わった足でそのまま橘宅へとやって来た。
既に今日の浴場での情報交換には参加しないという連絡はしている。
「…そっちの”計画”はどう?」
「今の所は全部上手くいってる…最近秋野さんがおかしな事を言ってるけど…」
「おかしな事?」
「何だか、理想だ、夢物語だ、とか…」
「…何に対しての理想なんだろう…か…」
理想、この世界で水引が思う”理想”とは何か。
自身の性を男性と割り切る事しか出来なかった”少女”が思う”夢物語”とは何なのか。
「…僕の予想が正しいなら、このままで良い…と思う。勿論、辛い所は乗り越えないといけないかもしれないけど…」
「…兄が戦場に出てくる、ってこと…?」
麻沙音の表情が一気に曇る。
「…いや、兄は絶対戦わない。私と一緒に戦ってくれなかった兄が、SSと一緒に戦うなんて絶対ありえない!」
「………」
「兄は私の事を鬱陶しいって言ったんだ…楽になりたがってる兄が態々辛い所に足を踏み入れようとするなんて…っ」
「…そこか。そこで歪んだんだ…」
聞いた話だと、淳之介の両親が亡くなって数ヶ月という所で青藍島に戻って来たとあった。
少なくともそこまで時間の流れはA世界もB世界も変わらない筈で。
推測の域を出る事は無いが、もし淳之介をSSに誘うような人物と転校早々に出会っていたとなれば。
「…淳之介と、戦えるか…?」
「…もし、兄とそんなことになったら…そいつは兄じゃない。だから…戦う。戦って、兄を救うんだ…」
淳之介を”性帝”にさせたこの島を憎み、同時に苦しんでいるであろう彼を救いたい。
淳之介が麻沙音から離れた理由は確りと理解している。
然し、真に妹が望んでいる事を兄は枷とし、合理的な手段を取った。
「…そっか。だったら、僕はどっちの味方をすれば良いんだろうね」
苦笑を浮かべるだけで、気の利いた言葉なんて送ってやれなかった。
______
夜更け。
寮に戻り、そのまま自室へと直行し、そのまま寝る事にした。
「………」
ベッドに仰向けになって天井を眺める。
そして、つい先程の会話を思い出す。
自分は、何方の味方をすれば良いのか。
A世界から来た人間として、帰ることを最優先にしている淳之介達に味方するのは論理として当然だ。
自分の現在の関係を話すことが彼らの計画の邪魔になりかねないと思って共有を避けている身でもある。
完全に、淳之介の味方に立つなら、全て話すべきだろう。
そうすればSSの仕事を過度に準じる必要はなくなる。
その代わりにこの世界の”如月悠真”は橘麻沙音とは二度と関われない最悪の関係になる事だろう。
それは現在の状況を保ち続けてきたB世界の自分の努力を無駄にしてしまうからだ。
「麻沙音ちゃんは淳之介に任せて、別方向を攻めてみようかな…」
睡魔に負ける前に考えだけでもまとめておく。
事態が解決していない事を考えると、重要な鍵は矢張り琴寄文乃の存在になる筈だ。
防人老人と仁浦県知事を同時に止めるなら文乃だけで事足りる。
再び原点回帰するのをしみじみと感じながらタブレットに『着物の少女、琴寄文乃を探す』とメモしておいた。
ヘンタイ・プリズンが自宅に届いたおかげで投稿に時間が掛かっています。