抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
「…SHOからの呼び出しがあるからそれに乗じて潜入して情報を盗む…?」
夏海との数日間の監視(ほぼ同棲)生活が終わり、彼女は渋々だったが自分も寮に戻る事になって淳之介に挨拶に来てみた所の事だった。
「…大丈夫なのかな、それ」
「皆の記憶の上書きはだいぶ深刻な所に来てる。手段は選べそうに無いんだ」
「…僕から得た記憶すら上書きされてるっていう事なのかな」
自分はトリ公の正体___A世界での副会長が秋野水引だと知っている。
その上で会長と粘膜接触した筈だ。
であれば総て見た筈だというのに、忘れてしまっているのはきっとB世界の記憶で上塗りされているからだろう、と。
「それで、悠真にも頼みたい事があるんだ」
「頼み事? 言われなくても仕事はやるつもりだけど」
「悠真はB世界の文乃と、どれくらい話した事がある?」
「間を取り持つくらいなら幾らでもできるよ」
「今のでわかったのか?」
何時しか、そういう事に関して敏感になっていた。
「リーダーは誰かわからず、麻沙音ちゃんも頼れない、だったら後は文乃ちゃんに頼るしかないと思ってた。だって彼女の意志は変わらないから」
でも、と続ける。
「淳之介の話なら、聞いてくれる。普通に考えたらおかしい話だって、真剣なのは彼女にも伝わる筈さ」
自分の出る幕ではない、と加えた。
「……わかった。その言葉と文乃を信じるよ」
淳之介は納得したように、決心したようにそう言って笑みを浮かべた。
__________
文乃は間違いなく敵ではない。
立場のせいで敵になっているだけで、志は同じなのだから。
「如月さん、今日は一番隊と一緒に行動して下さい」
放課後になって適当に巡回に混じってしまおうと考えていた所に夏海が現れては腕を引っ張って一番隊の方へと連れて行かれた。
「今日は会長たちがSHO本社の方へ招集されているので”トリ公”が襲撃してくる可能性が高いと___」
『”トリ公”メンバーと戦闘に入りました! ポイントは___』
夏海がフラグを立てかけて直ぐに折れてしまった。
「あまりにも都合が良すぎる。狙ってたというか、まあ当たり前か…」
トリ公がSHOと協力関係にあるのは淳之介から聞いた話だ。
だったらSHOがSSビッグスリーを本社に呼び寄せたのも作戦だと思うべきだ。
「取り敢えずこっちも現場へ向かおう。淳之介も急行している筈だ」
文乃と接触出来たかどうかは二の次で、現時点のSSで最も権力が高いのは淳之介なのだから此方を優先して貰わなければならない。
五番隊の指示の元、出遅れた自分達もトリ公と戦闘を行っている現場へと向かった___
______
現場へと到着した頃には、何か戦場がおかしな事になっていた。
「___どうなってる」
「どうしてSSと性帝たちが戦って…?」
少し離れた位置から見ていると、どうしても夏海が言った状況そのもので混乱してくる。
___何故かSS隊員とSSビッグフォーが戦闘をしているのだ。
トリ公はどうなったのか、なども疑問に感じるがそれよりもこの状況がどうして生まれたかを説明して欲しかった。
「___如月さん、これを見てください!」
別の一番隊の娘がタブレットを見せてくれた。
「この放送で”ドスケベ条例を潰そうとしていたのは他でもない会長達だ”ってトリ公のリーダーが演説を…何やら証拠もあるそうで…」
それは、先程淳之介から教えて貰ったSHOへの潜入作戦が裏目に出て相手の有利に働くような証拠として使われている様子であった。
演説ではそのSS内の裏切り者はSSビッグフォーであるとしか言っておらず、幸か不幸か自分の名前が出てくる事はなかった。
「……これは参ったな…」
「どうしますか、如月さん…!」
「…皆はどう思う?」
どう見ても緊急事態だというのに、気づけば一番隊に尋ねてしまっていた。
「勿論、トリ公の言う事を信じたくはないですが、証拠まで出ているというのなら…」
「然し、無実だというならどうして性帝達は反撃してくるのでしょうか…?」
「やっぱり本当の事だから…?」
下手に途中から参戦したせいか、誰も彼もが疑心暗鬼になっていた。
「……僕は淳之介の___性帝の味方をする。僕はキミ達に命令権は無いから自分達の味方をしろとは言わない___」
両腰のホルスターからハンドガンとマグナムを抜いて、言い放った。
「ただ、彼らがやっている事は”この世界”の為の事で、キミ達を想っての事だと、わかっていて欲しい。そしてそれを邪魔するようなら、容赦する気はない」
我ながら柄にもない言葉を吐いた後に一歩を踏み出し、淳之介達の加勢をする為に駆け出した。
______
全員、心が痛い筈だ。
特に隊員を家族のように扱ってきた会長や糺川先輩などはその精神的ダメージは計り知れない。
女部田や淳之介も同様に辛い部分があるだろう。
それは裏切られたと思っている隊員も同じ筈だ。
だから、深く干渉していない自分が仲裁に入る事が最良なのだと。
「退け!」
一発。
「まともに戦ったら物量で勝てない!」
二発、三発。
「___大丈夫か!?」
威嚇射撃で空いた道をすり抜け、淳之介達と合流を果たす。
「負傷してるから確かにこれ以上は___!」
「だったら離脱しろ!」
「くっ…わかった!」
不意撃ちに予想外のフレンドリーファイアだ。
それに加えて気付けば後方からSHOの部隊が徐々に距離を詰めてきている。
「SSは噛ませか…」
「貴様一人で何が出来る? さっさと道を開けたらどうだ!」
「こうして敵を釘付けにして彼らを逃がすくらいなら出来てるじゃないか…」
「チッ、ガキ一人に構ってられるか___」
無神経に舐め腐った態度で通り過ぎようとするSHO戦闘部の隊員に堪らずライオット弾を一発、腹に撃ち込んだ。
「これで勘弁しといてやるよ…っ!」
そして、ポケットから隠し持っていた”Egg”を足元に投げ付ける。
「煙幕だと___!?」
照準が紛れた事を良い事にその場から全速力で離脱する。
自分一人で衆目を集中させて虚を突くのは上手くいったらしく___
『逃がすと思ってるのかい!?』
「___っ! 今はお前に構ってる場合じゃない___!」
聞き慣れた声を聞き流し、”Egg”の投擲と逃走を同時に継続する。
一歩足を先へと伸ばす度に先程まで踏んでいた地面は上空から放たれた弾丸が降り注ぐ。
___アーマーハメドリくん、水引が追ってきている。
察した所で九十度に曲がって方向転換し、少しでも淳之介達の捜索を手間取らせようと別の方向へ走る。
だいたい、山道で方向感覚などとうになくなっているが、構わなかった。
それよりも、自分が時間稼ぎをする事が何より重要だと思ったから。
「私が怖いのかな…? 先日みたいに一対一ではもう戦えないかなぁ!」
「今度はちゃんとこっちも敵として見てくれてるのか」
「当然だ! 私の事を理解しておきながらSSなんかに与して…! いや、もうSSじゃなくなったねぇ。ただの裏切り者だ!」
「裏切り者で結構…っ」
水引だけが追ってきている事を確認すると、足を止めた。
本当にサシでやりたいらしい。
「これがお望みか?」
正面で向き合うように立ち、よく見てもウザったらしいハメドリくんの顔を睨む。
「キミは本当に最低な男だよ…失った家族の事を忘れ、失った者同士寄り添っていた麻沙音ちゃんすら裏切って…」
「…損な役回りだと思うよ」
「私だってキミの事は信用していたさ。最初に私を肯定してくれたのが私だったからキミがSSに入ってもわかってくれていると思ってた…」
でも、と続ける。
「それで久しぶりに会ったらすっかり強がるようになって驚いたよ。その癖、今まで隠れるように過ごしていたのに堂々とSSとして動くようになって…でも、まだ我慢できたんだ」
「どれだけ『如月悠真』に期待してるんだ…」
「だが、先日のアレは何だ? 私に向けて銃を向けるような奴じゃなかったのに、どうして!?」
「可哀想だし、気の毒だと思うよ」
「どの口が言うんだ…っ!」
「水引。お前は主人公じゃない」
堂々と、言ってやる。
「既に主人公ムーブしてないからな…!」
「は…? 何を言って…」
「だから、このシーンだと『敵の手に落ちた友人を救うシーン』になるのか?」
「どちらかというと『力と復讐に溺れて最初に出来た友人にすら見限られるシーン』なんだよ!」
遠回しになったが、言いたい事は言った。
「…それは、キミの目線だろう…?」
「だから、無いだろう? これでどうやってハッピーエンドに持っていくんだよ。教えてくれよ…」
「だから訳がわからないって言ってるだろう___!」
「悲しいな…淳之介とは馬が合うのに僕とは合わないのか…でも、仕方ないか…それが違いだもんな」
最後は、思い切りの笑顔で。
「お前の世界って狭いな…人生半分損してるよ」
「___!」
煽ってやった。
相手には自分を理解する気がないから。
片方が一方的に理解したからといって関係が良好である筈がない。
「少なくとも、淳之介なら理解した上でツッコんでくれた」
再び”Egg”を足元に投げ、煙幕を張る。
「………」
水引は姿が見えない所に来るまで、追ってくる事は無かった。
あとがき
ぬきたし2編も終盤に入ってきましたね。
ちょっと無理やり原作通りの展開に持ってきたような気がして複雑な気持ちですが、スカッと終われば良いなぁ…と思っております。