抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
___かくして、演習場の方へと向かった。
「___あ、悠真くん久しぶりー!」
演習場の出入り口にて、自分達を待っていたらしい郁子が声を掛けてくれた。
髪は相変わらず癖が凄いような気がするが、姿がほとんど変わっていない桐香に比べて明らかに綺麗になっているように見受けられた。
というか___
「十年経ったらそうなるのか…」
「その反応してくれる人が悠真くんしかいないから新鮮だね。どうかな、一目惚れしちゃう?」
「初対面じゃないからそうはならないと思う」
「まぁそうだよねー。 でも、レイちゃんよりは可能性あるでしょ?」
「一体何を張り合ってるのか」
「だって、ダーリンの次は悠真くんでしょ? で、誰と結婚するの?」
「退院したばっかりなんだからそこまで考えてないっての」
勝手に次にされても困るのだが。
「まぁまぁ、悠真さんはまだ子供ですからね」
「そうそう、記憶があの時からだから僕だけ若いんです」
「でも年齢は同じだから寧ろ行き遅れたら大変じゃない?」
「別に独身でも…」
「ずっとその状態で生活するつもりなの? やっぱりパートナーとか必要じゃない?」
「だから桐香とは絶対に結婚できない」
「あら大変、私には童貞しかくれないんですか?」
「悠真くんにはトーカちゃんの手伝い出来ないから当たり前じゃない?」
「だったらせめてハメ撮りを送って頂ければ___」
「淳之介に頼んだらいいでしょ…」
懐かしい…らしい遣り取りが出来て二人は意外と満足気だった。
「おい…いい加減こっちに来たらどうなんだ…?」
「あ…礼さん」
「う、うん…久しぶりだな、悠真」
「まあ僕の方は一ヶ月と少しぶりなんですけど…」
しびれを切らしてというか、張り詰めた訓練の様子に耐えられなくなったのか、礼が此方へと向かって来た。
「さて、これで全員揃いましたね」
「桐香様!? もう少し悠真と話す時間くらいくれたっていいですよね!?」
「…話すこと、あります?」
「あるだろ!? ほら、外見とか色々…」
「いやぁ…十年経ったなぁ…って感じで…」
「もっと気の利いた言葉は出てこないのか…」
「こっちはまだ引きずってるつもりだったので…」
「何を…?」
「裏切ったこと」
「………」
「………」
「…今更、だろ。それに、結果的に良い方向に働いたんだからそうした悠真を責める気は無いよ」
「…まぁ…本当はあの時の怒りの声をもう少し僕の方にも向けて欲しかったなぁ…とは思ったけど…」
「お前も人の心が無いのか!? あの時は淳之介も一緒に裏切って、本当にどうかしてたっていうのに…!」
割と本気で怒られそうな雰囲気になった所で、強引に話を変えることにした。
「それで…パーティーっていうのはどこで?」
「ダーリンの家だよ。NLNSのみんなと私達しか集まらないからそこにしようって」
「なるほど…」
「それに、悠真さんには色々と報告しなければならないことがありますからね」
「何それ」
「本当に色々、だよ」
「具体的にはこの十年間何があって、今何をしてるか…とかかな」
「あとは悠真さんの今後の立ち位置ですね」
「立ち位置?」
「詳しい話は皆の前で…な、ほら行くぞ」
何時の間にか車椅子のハンドルを礼に握られ、為す術もなく方向転換された。
そして訓練中の戦闘部の人達へ遠巻きに挨拶やら会釈やらしてから、橘宅へと向かった。
______
「___そういえばちょっと待って」
橘宅を目の前にして、チャイムを鳴らしてからふと思い出し、声を上げた。
「どうしたの?」
「車椅子から降りてリビングに向かって…右足どう置いたら良いんだろ…全く考えてなかった…」
流石に人様の家に車椅子で上がる訳にもいかない。
「それは大丈夫ですよ。椅子をご用意していますので…」
悶々と悩み続けていると扉を開いて見覚えのある女性が姿を現した。
「……まさか、文乃さん…!?」
「おい、私との対応の差がおかしいだろ」
「仕方ないじゃないですか! 元々礼さんは大人っぽかったからそこまで大きく変化しているように感じなかったんですから!」
「それが本心だったんだな…! どうしてそれを最初から言わないんだよ!」
「礼、折角感動の再会を果たしたのだから文乃さんを放っちゃ駄目よ?」
「はい…」
桐香に窘められて礼が大人しくなった所で再び文乃の方へと目線を向ける。
「お久しぶりで御座います…悠真さん…!」
何故か彼女は涙を漏らしていた。
「え…そんなに…?」
「そんなに、ですよ? 長い間…待っていたのですから…っ」
「………」
一気に空気が張り詰める。
さっきまで再会にそこまで重い雰囲気を出さなかった桐香達と落差が激しく、反応に困ってしまう。
「文乃さん、取り敢えず上がらせて貰っても構いませんか? このままだと悠真さんが人妻性癖に目覚めてしまいますから」
「おいさらっとネタバレしてんじゃないよ!」
「お、お手伝いしますので…」
どうやら淳之介は文乃と結婚したらしい。
いや、あれで結婚しないのもおかしいと思っていたが。
取り敢えず、玄関に車椅子を畳んで置いておき、右足を引きずりながら上がらせて貰った。
車椅子から降りて立つのは殆ど初めてだからか、バランスが上手くいかず文乃に頼ってリビングまで時間を掛けて移動した。
「どうも…」
リビングに入ると、既に人数は揃っているみたいだった。
先に入っていった桐香達が喋っている中でいきなり声を出すのは矢張り緊張した。
「久しぶり、悠真。あと退院おめでとう」
「久しぶり…淳之介」
最初に声を掛けてくれた淳之介には感謝するばかりだった。
だが、致命的な問題が一つ。
「そういえば…淳之介と麻沙音ちゃんと文乃さん以外は殆ど初めましてなんだった…如月悠真です、どうも…」
「え、悠真くんNLNSのメンバーなのになんで面識がないの…?」
「それはあなた方がSSに引っ張り込んだからでしょう…!? あと、NLNSに正式に加入してない…!」
というわけで、全員が席について今更ながら自己紹介が始まったのだった。
「えっと、渡会さんに…片桐さんに…畔さん…ありがとうございます」
「っていうか、淳と如月くんが幼馴染なら私とも幼馴染になるんじゃないのかしら…?」
「でも、話す機会が無かったので…」
「それだったら私だって如月さんとA等部に入ってから二年連続同じクラスだったんですけど!?」
「ごめんそれは覚えてない!」
何だかんだ、世界は狭いと思った。
「これで皆のことがそれぞれわかった筈だから、そろそろ乾杯しようか」
『かんぱーい!!』
思わず逃げたくなった。
_______
それから他愛のない会話を楽しみながら色々と変わった事を聞いていた。
「NLNSが会社に…へぇ……裏でも色々やってる、と」
株式会社NLNSの誕生だったり、その裏でSHOが抱える問題を解決したり、はたまた最近では脱獄犯を救出したとか何とか…相変わらずとんでもない事をしていることはわかった。
「それで、悠真はこれからどうするんだ…?」
「どうって言われても…何なら学校だって中退扱いだし、職に就けるような資格もないし、暫くはのんびり何もしないで過ごすかなぁ…」
「そういえば悠真さんは土地持ちで不労所得があるんでしたね」
桐香が余計な事を言ったばかりに全員が食い付いてしまった。
「初耳だぞそれ…!」
「普通そんな話しないでしょ…まぁ、そっちの金はアパートの維持費に回して貰ってるし、その余りでも十分生活できるし…保険金だってまだ少し残ってるからさ」
「因みに貯金は幾らくらいあるんですか…?」
「まぁ、九桁くらいは…?」
騒然とした雰囲気になった。
「本当に一生暮らせるじゃん…」
「一応就活はしてみるけど無理でもまぁいっか…とは思ってるなぁ」
「如月さん、投資とか興味ありませんか…!?」
「リスクはあまり犯したくないかな…」
「死ぬかもしれないリスク犯してた奴が言うセリフか!?」
「やっぱりあっちの僕も死んでないんじゃないか…」
「でも、投資はともかく悠真さん欲しいモノとかないの?」
「……配偶者?」
『………』
一同が黙りこくってしまった。
「……ごめんなさい」
「な、なんで謝るの? 別に悠真くんがそう思うのは悪い事じゃないと思うけど___」
「いや、高望みしすぎてるかなぁ…って思って」
『………』
また黙ってしまう。
自分が何かいけないことでも言っているのかと思った。
「…何か地雷でもありました…?」
「いやぁ…淳之介くんも相当でしたけど、如月さんも中々ですねぇ…」
「どうしてあそこまで話したのにわかってないのかなぁ…」
「???」
悔しいが何もわかっていなかった。
第三者目線に立つとだいたい察せるというのに、いざ主観になると何も察しが付かないのだった。
「さて問題です、悠真くん」
「あっ、ハイ」
「この場に居る中で、独身女性は何人いるでしょう?」
「七人…?」
「正解。それじゃあその中で悠真くんが『あの人となら結婚してもいい、結婚したい』と思ってる人は?」
「…二人?」
「誰と誰?」
「いやこれ問題というか誘導尋問では___ってちょっと郁子さん顔が近い…!」
一つ質問に答える度に郁子が距離を詰め顔を近付けてくる。
「答えて?」
「…い、郁子さんと…麻沙音さん…?」
「___よっしゃあああああああ!!!!」
いきなり畔さんが叫んだ。
「今回は私が勝ったみたいですねぇ…ふっふっふ…!」
「え、何の話…?」
「くそっ…負けた…すっごく惜しかったのに…!」
勝ち誇っている畔さんと、悔しがる他の面々の様子に首を傾げた。
「実はですねぇ、前々から気になっていて聞きたいと想っていたんです。その計画を立てている内に賭けるようになっていってですね…」
「因みに賞品は?」
「給料ボーナスです!」
割と現実的だった。
「え、それで僕は言っただけ損では…?」
「損では…ないんじゃない…?」
「イクは嬉しいよ?」
「なんで?」
「B世界で最期に言ったでしょ、淳之介くんがフミノちゃんと結ばれたら、悠真くんを狙うって」
「あれ本気だったの…?」
「………」
空気が張り詰めた。
「あちゃー、如月さんって割とデリカシーがないんですねぇ」
「まるで何処かの兄みたいだ」
「アサちゃんも名指しされてたでしょ」
「だって私は奈々瀬さん一筋ですから…!」
「___ってことだからイクしかいないよね、ね?」
………もしかして詰みなのか?
あとがき
どうしてこうなった…