抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
橘宅に戻った後の空気は良いのか悪いのかよくわからなかった。
あっさり郁子と付き合う事になって現実味をあまり感じなかったり、どんな反応されるのかを怖がったりと色々身構えていたが寧ろ祝福されてしまった。
矢張り墓穴は掘らないようにしないと、と肝に銘じた所で解散となった。
郁子はベロベロに酔った桐香と礼を連れて帰るという事で別段一緒に帰るというわけでもなくまた明日、ということになった。
「じゃあ僕もこの辺で___」
そして自分も一人で帰る事にした。
誰の自宅とも同じ方向ではないため、申し訳ない所もあった分一人だと気が楽で助かった。
そして、ちょっと寄り道と言わんばかりにメインストリートの方へ出た。
田舎の島というには不釣り合いなビルが立ち並ぶ場所で、注視するとどんな企業が入っているのかよくわかる。
その中の大半が青藍島ならではの企業なんだろうか。
そんな下らない___平和な事を考えながら、襲われる心配もしなくてもいいんだという安心感でのんびりと車椅子を進めていた。
そんな感じで何時も橘宅から自宅へ帰る時間の数倍も時間を掛けて帰宅し、そのまま眠りについた。
__________
翌日の早朝。
桐香からまたSHOに呼び出されているのでその準備をしていた。
「身体がそこまで成長してなくて助かった…」
久し振りに水乃月学園の制服以外の普段着を着る為、何処か新鮮味を感じていた。
何より助かったのは体格などが細くなってしまったが十年前の服をそのまま着る事が出来るのは嬉しい。
ただ、着替える際に生じる不便さは言うまでもない。
______
「___というわけで、悠真さんには是非とも職場体験をして欲しいんです」
「職場体験ってまた…」
それをわざわざSHO代表に言われなくちゃいけないのか、とはとてもじゃないが言えなかった。
「ああただ悠真さんの為に、というわけではありませんよ? ちゃんとバリアフリーや障がい者の積極的な採用…などと言った名目があるんですから」
「でも、それも僕に
予め渡されていた体験先企業候補の一つ___一分の一で名指しされている企業、『株式会社ラーレ』と書かれた紙を桐香へと向けて。
「だって、ここまでお膳立てしないと悠真さん、そのまま老後の生活でも始めてしまうでしょう?」
「そんな刺激のない生活も悪くないと思うけど」
「でも郁子に失礼じゃありませんか? 現状のままでは悠真さんは本当に介護して貰っている老人と何ら変わらない立場ですよ?」
「まあ確かにそれは申し訳ない…でも、このどうしてこの企業に?」
「先輩絡みで一応繋がりがあるんですよ? エロゲーを制作しているとか何とか」
「それマジですか…!?」
「ええ、だからこそ___」
「行きます!」
勿論、そこに体験に行ったからといって就職出来るとは考えていない。
そんなことよりも、エロゲー制作をしている現場を見れるという事に興奮していた。
「既に向こうの社長さんには要件を伝えていますので、頑張ってきてくださいね♪」
「はーい…」
拒否権も何も無く、直行する羽目になった。
______
「どうもありがとうございます…えっと、小沢さん、でしたっけ」
「おう、困った時はお互い様って所よ!」
ラーレのビルがある場所へと向かっている最中、見るからにヤクザっぽい気前の良いお兄さんに声を掛けられ、事情を話したらちょうどその人もラーレに用があったらしく車椅子を押してくれたのだ。
小沢と名乗ったお兄さんはラーレの人とも仲が良いらしく、たまに昼飯を作ってあげているらしい。
「姐さん、お客さんを連れて来たんスけど___」
オフィスというか、事務所というか、作業場というか。
あまり人気を感じないビルの唯一光が灯っている部屋の前で待っている。
小沢さんが姐さん、と呼ぶくらいの人がいるんだなぁ、なんて考えながら少し待っていると扉が開いて一人の女性が現れた。
「お客さん、だよね。ちょっと今取り込んでるから待ってて___」
「あっ」
その女性は、明らかに見覚えがあった。
自分よりも少し高い身長に発育の良い肢体、そして初対面であるにも関わらず少し口数の少なさが目立つような、単に躾がなっていないような喋り方___
「……もしかして太田部さん?」
「もしかして…如月さん?」
奇跡の対面だった。
______
「まさか、見学させて欲しいってSHOの人から言われて来た人が太田部筆頭の先輩だなんて」
「まさか湊くんが脱獄してる時くらいに意識が戻ってたなんて…」
株式会社ラーレの代表、内呂脩平___が脱獄囚の湊柊一郎で、社員は同じ刑務所に居た元懲役で、小沢さんも元懲役で、太田部さんはそこの特別警備隊の筆頭、ということらしい。
「で、その湊くんを助けたのが
色々と近い関係過ぎて笑えないのである。
「如月さんは十年前に伝説を___」
「太田部さん、それ他の人に吹聴してないよね…?」
「してませんよ、葉月さんには言いましたけど」
「葉月さんって誰…」
「俺たちが囚えられてたプリズンの元看守長で、今は所長」
「えぇ…嫌だなぁ…絡まれるのは」
顔を合わせて居ない内に好き放題言っておこうと思った。
「如月さんの伝説って…そんなに凄いのか?」
一応営業など外に顔が利くらしくそちらの方を担当しているらしい波多江妙花さんが話に乗って来た。
「それはもう凄くて。二百人を超えるフル武装した集団をハンドガン二丁だけで全員殺さず戦闘不能にさせたって」
「話盛られてない?」
二百人も相手したかもわからないし、数なんて数えてなかったのに誰がそんなことを言い出したのだろうか。
「ということは太田部筆頭よりも強い?」
「勿論。SSにいた時は中隊長の次に尊敬してた」
「それはあっちの世界と変わらないんだ…」
「それで、どうしてウチの見学って話になるんですか?」
「多分目的の八割くらいは達成したんじゃないかなぁ…うん」
顔合わせも兼ねていたのだと思えば何ら不自然ではなかった。
「だから、本当に見学する必要は無いはずで…ほら、セックスするなら僕がいたら邪魔じゃない…?」
何だか湊くんは淳之介と似た雰囲気を感じた。
というか、淳之介以上に経験がありそうな雰囲気だった。
「それにほら、制作の方も邪魔になるかもしれないしさ…」
「邪魔じゃないです」
「え゛っ゛…」
予想外の返答が返って来た。
「え、嘘でしょ…部外者居ても大丈夫なタイプなんだ…」
「それよりも今までこの島から出た事がない人が他人のセックスを見ていられないって信じられないんですけど、まさか童貞ですか?」
「如月さんは童貞だよ」
「なんで太田部さんが答えるんだよ…」
話を聞く限りこの空間で未だにセックスをしていないのは自分だけらしく、帰るまで暫く弄られ続けたのだった。
あとがき
次回、本編最終回…の予定です。
締まりの良いオチやカッコいい格言なんてものはないので、もしかしたらまた引っ張りだすかもしれない程度に考えておいてください。