抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
過去を乗り越えると、そう言った。
恋をした人に蔑まれても構わない。
どんなに傷を負っても構わない。
見放されても構わない。
孤独に戻ったって構わない。
それで、許してくれるのなら。
それで、また笑ってくれるのなら。
僕は、消えてみせよう___
「___それでは、本日の会議はこれで終了とします」
張り詰めた空気を引き裂く透き通った声で、長々とした会議は終わりを告げた。
長い___と思うのは自分があまり会議の内容を理解していないことに起因するのだが、そもそも隊長クラスの人間のみが集まって行う会議に何故自分が参加しているのかさえ意味不明であった。
「ああ、如月さんは少し残って頂いても構わないでしょうか」
「何か込み入った話でもありました?」
「ええ、最近先輩と仲良くされてるみたいなので、そのお話を聞かせて頂きたいんです」
「仲良く…? ただお互い居場所が無いから仕方なくつるんでるだけと言いますか…」
「あら、仲良くないのですか…?」
「まあ、僕自身そもそもだいたいの人と相容れないですし…」
「SS代表としてはもう少しドスケベセックスに積極的に立ち回って頂きたいのですけど」
「そうそう簡単に転向出来たら反交尾勢力なんて存続出来ませんよ」
「それとこれとは関係ないだろうお前は…」
やれやれ、と普段の厳しい態度とは打って変わって柔和に感じる呆れ顔と呆れ声で指摘されてしまった。
「じゃあさっさと罰与えれば良いじゃないですか。僕に何したってNLNSの情報なんて持ってないんですからね」
「___持ってないのか!?」
「あまりにも露骨過ぎる…」
だいたい、SSの恩恵を一切受けていないのだからあまり肩入れする気もそうする必要もないのだ。
少し聞いた話だが、SSの正式隊員は寮に加えて奨学金まで提供されるという話だ。
実質的にSSがSHOの下部組織としてその活動範囲が広いことに関係するのだろう。
生徒としては奨学金の存在は大きく、毎年多くの希望者が居るらしい。
それ故に奨学金も寮も与えられず、ただ腕章だけを嵌めているような状態でも不満が出ることは否めない。
しかもこんなに消極的ならば尚更印象が悪いだろう。
最も酷いのはそれを自分自身で自覚していることだが。
「…さすがに何も情報を持ってないとあればみすみす泳がせる必要も無いのでは桐香様…」
丸聞こえだが敢えて無視した。
「大丈夫よ礼。まだその時ではないもの。戦力にだってなるんだし…」
使い捨てにされそうな気がする。
「…あ、そういえば…良い忘れてたんですけど」
「あ、あぁ…ど、どうした?」
「記憶、戻すの諦めました」
「「 えっ? 」」
数分ほど、静寂な時間が流れた。
「別に、どうする必要も無いのではという結論が出まして…」
「…郁子が不貞腐れるぞ」
「そう言われても」
「___わかりました。
「できればドスケベも強要しないで欲しいんですけどね…」
「何か言いましたか?」
矢張り固定概念というのは根底から変えていかないと柔軟な発想には至れないのだろう。
その固定概念こそ、ドスケベの否定に関係することだろう。
肉体的快楽を得ることに嫌悪感を抱くこと自体が意味不明でおかしな話だと、島の人間は無意識に思っている筈だ。
「でも…そろそろ何か起こって欲しいですね。じゃないとこのまま僕の利用価値がなくなって射撃訓練しかしないサボり魔になってしまうといいますか」
「だったら働けよ…」
「仕事を与えてくれないのはどちらさまなんですかね」
随分と歪な関係だ。
仕事をしたがらない自分を情報収集の為にクビにしないSS。
「ある意味お前はSSの中でも比較的自由な行動を許してるんだ。自主的に何かしてこようという気はないのか?」
「逆に好き勝手動いてSSの印象落としたりする可能性だってあるんですよ…?」
「この条例違反者が…」
「礼」
「然し桐香様!」
「それよりも…如月さんには帰ってやることがあるみたいですから」
『如月悠真に対する会長の行動の意味がわからない』という声が多い中でも彼女はあくまで自分の行動を優先するように促している。
それに甘んじて自由過ぎる態度を取るのが最近になって申し訳なくなってきているのは言うまでもない。
良心から攻める計略なら、もう勝ち目はない。
他のメンバーから心配されるほどに自分に優しくしてくる会長は、正に奇行に走っているようにしか見えない。
さすがに、自分も行動しなければならない___
そう思うと、SSの腕章を付けたまま『失礼します』と軽く会釈をした後にある場所へと足を進めた。
__________
ほんの数年前のこと。
新聞はもちろん、ニュースでも報道されない事件。
当時未性年だった少女がレイプが原因で死亡した事件。
切っ掛けは当時被害者が通っていた学校でのいじめにあった。
一人の少年が、他者とは違う性的特徴でいじめの対象になった。
同調圧力などが作用した結果、少年を味方する者は少なく、徐々に学校での居場所を奪われてしまっていた。
助けたい___と何時も思うだけで、行動出来ない一人の少年が居た。
いじめの原因だってほんの些細なことだった筈だ。
なのに、いじめは終わらない。
一度始まった悪意は、収まることを知らず、取り返しのつかないさらなる事件を引き起こした。
ずっと、助けに行けなかった少年はその事件を知らなかったが、いじめられていた少年一家が島外へ引っ越したという話を聞いてから、漸く身体が動き出したのだ。
二度と、こんなことがあってはならない___と。
知識の浅い少年は、暴力での解決しか知らなかった。
いじめていた奴らを最初は素手で、それから鞄で、それから道具で…と執拗に”誰の為にもならない復讐”は止まらなかった。
いじめていた奴らに死んでほしい、なんて酷いことは思わなかった。
ただ、苦しめて、苦しめて___助けられなかった
そんな折に、復讐に駆られる少年は妹を亡くした。
苦しめていた奴らの一人が妹を攫い、裏風俗に連れて行ったと苦し紛れに吐いたであろうその言葉が忘れられなかった。
妹が姿を消して僅か二日後に、その言葉が真実であることを証明させられた。
変わり果てた妹の姿をした写真が、手紙と共に郵便受けに入っていたからだ。
無残にも未熟な肢体を露出させられ焦点を失った瞳は上を向き続けるだけで、生きているようにはまるで見えなかった。
全身には痛々しい打撲痕からもその扱いの酷さを伺い知れた。
今まで少年自身がやってきた事が返ってきたと初めて理解した。
少年はそれから、他者との関わりを完璧に絶とうとした。
少年は今更、自分自身が自己満足でしか行動できない腐った存在なのだと自覚したからだ。
___今となっては、少年は妹の存在を思い出さないようにした。
自分が手を差し伸べられなかった少年とその家族の顔すら、記憶の底に封じ込めた。
過去の自分、その直前のもの以外は全てなかったことにしたかった。
そうすれば、もう一度やり直せると思ったから。
そうすれば、もう一度誰かを好きになれるかもしれないと思ったから。
__________
「___ふう。」
溜息を一つ。
PCの画面と向き合って約五時間ほど。
自分は、製作途中のエロゲーの設定に一つ修正を施した。
それは、このエロゲーの主人公を『橘淳之介』にすることである。
日中に糺川先輩と会長に言われた言葉___
比較的自由な行動を認めている。
その言葉には裏があるのだろうが、この際関係無い。
寧ろ、自分の目的の為に利用するだけだと決心した。
矢張り、自分は主人公の器ではない。
リーダーであるのにも関わらずSSに自ら潜入するような男だ。
彼こそ、その器なのだろうと、考えた結果の選択だった。
再び、調べなくてはならない。
反交尾勢力について、詳細全てを。
未だに真実がわからない、『琴寄文乃』という少女の事も全て。
それが、水乃月学園に入学してから芽生えた、最初の自己欲求なのだから。
あとがき
地の文を書くのが大好きなんです。
両立が出来なくて悩んでおります、どうも。
ここまで悠真くんに自由な行動を許しているのはNLNSの存在を浮き彫りにするためだけではなく、会長の個人的な事情が関連しています。
後者にいつ触れるかはわかりませんが…
現在、ぬきたし2の各キャラ√から着想を得た上で悠真くんをどう登場させるかまで考えております。
そのためには、ここで存在感を発揮する必要がありますが…
次回は、悠真くんのプロフィール及び設定を修正して載せておきます。