抜きゲーみたいな島に住んでる童貞はどうすりゃいいですか? 作:楓 湊
というわけでド直球で攻めてみたり。
「さぁて、そろそろ始めちゃおっか。準備はいい?」
「ええ…まあ、何時でもいいですよ」
だだっ広いグラウンドに、人だけで作られた円が一つ。
更にその中に人影が二つ。
正に、今から一番隊隊長が直々に相手を務める”腕試し”が始まろうとしていた。
放課後___といっても既に人払いは済んでいる状態で学園内にSS以外の人は居ない。
人払いのおかげで空はすっかり薄暗く、夕日が沈み掛けていた。
「すぅ…はぁ…」
深呼吸を一つ。
何せ、まともに対人戦を行うのは初めてだ。
人に向けて銃口すら向けたことが無く、その最初の相手がSS内最強の一番隊隊長の女部田郁子とあっては、緊張しないわけがない。
幾ら”悠”が引き分けに持ち込んでくれたからSSに入れたとしても、今の自分の実力は足元にも及ばないだろう。
せいぜい足掻く程度、一撃でも浴びせられたのなら御の字だ。
それほどまでに、この勝負は分が悪い。
「つまらない戦いだけは、しないでよね___」
一歩、彼女の踏み出しで空気が変わる。
観衆含めて周囲の空気が張り詰め、意識が正面の敵対存在に向く。
「___期待は、しないで欲しいですね…っ!」
開始前から手に収まっていたハンドガンの銃口を彼女へと向ける。
やった訓練は動かない的に当てる程度。
「___っ!」
一瞬の躊躇いの後、2回、引き金を引く。
放たれた弾丸は躊躇などする筈もなく狙った通りに彼女の顔面目掛けて飛んでいく。
が、甲高い金属音が響いた。
「躱さず弾くなんて…」
眼前の彼女の手には鞘から抜かれた逆刃の刀が一本。
女部田郁子のトレードマークとも取れる愛刀で弾丸を切るなり弾いたのだろう。
矢張り、化け物だ___
此方には近距離戦を行う装備は無い。
故に何発も撃つことしか出来ない。
「それだけで勝てると思ってるの?」
ただ撃つだけでは一撃も当てられる筈がない。
寧ろ彼女はゆっくりとした足取りで距離を詰めてきているというのに。
「やっぱり勝負にならない___!」
もうどうにでもなれ、という思いで自ら駆け出し、距離を詰める。
「まだ始まったばっかりなのに…もうやられに来ちゃうの? なっさけないなぁ…」
見据える敵は呆れ気味___此方の行動が自殺行為だと思っているのか、それともどんな行動でも対応できるという余裕から煽るような言葉が出てくるのか。
「元々一矢報いる程度で良いんだ!」
勝とうだなんて大層なことは考えない。
近付きながらも射撃は止めず、何とか動きを読めないものかと探ろうとした。
「甘いよ」
然し彼女は何処か何時もより低い声で言葉を済ませた。
「___っ」
刹那、眼前を刀身が横切った。
反射的に自分の身体は無意識に膝を地に擦り付けて斬撃を躱し、スライディングの要領で彼女の間合いに入る。
「こんなに近付いても、何も変わんないよ?」
咄嗟の反射神経で一撃を躱すことは出来たものの、それだけで攻撃が終わる筈もなく。
次は斜めから___
「ぐ、ぅ…っ!」
逆刃だからと信じてハンドガンの銃身で受け止める。
単純な力量の差に、上下の差が加わって拮抗は不可能に近い。
受け流すだけでも精一杯。
身体を咄嗟に回し、立ち上がって再び彼女を方を振り向く。
「___はい、イクの勝ちだね」
振り向けば、首元に刀身が向けられており、ここで動きを止めていなければ死を意味していた。
「………っ。参り、ました」
ゴクリと喉を鳴らし、零すように敗北を宣言する。
始まって一分も経たずに勝負は終了した。
______
「はぁ…」
帰り道で溜息を一つ。
ずっと先刻の戦いを思い出しては改善の糸口を探るべく思案していた。
彼女___女部田隊長からは『何の手応えもなかった』と呆れられ、同様に一番隊の面々からの評価も最悪であった。
「___別に筋は悪くないと思うけどな」
隣で共に歩いているのは観衆に混じっていた橘淳之介である。
「これでSSもクビかなぁ」
「もしそうなったらこっちの方を協力して欲しいな」
実際に戦う姿を見せたことで彼に対しても力量を測ってもらうことが出来たのはある意味怪我の功名だった。
「まだ麻沙音ちゃんしか紹介して貰ってないけどね」
「それはそのうちって所で」
「まだ信用出来ないって言うならそう言ってくれると嬉しいんだけども」
「悪いな」
「まぁ、慎重にならざるを得ないのはわかるからこれ以上は言わないよ」
「………」
恐らく自分は反交尾勢力でも使い物にならない微妙な戦力なのだろう。
だから微妙な言葉でしか伝えることが出来ないのだと考える。
「如月の言う所の”悠”はどうなんだ?」
「あー、淳之介くんになら良いかもしれない…のかな」
SS相手ならともかく、自分は反交尾勢力に傾倒しがちだがら、此方なら出てきてくれるのでは、と。
「___嫌、だと。やっぱり他者の前ではどうしてもって言うんだ」
それでも、”悠”は拒否した。
過去の記憶を抉るようなことは止めろ、と言われてしまい塞ぎ込まれてしまった。
「昔、知り合いだった…っていうわけじゃないよな?」
「わからない…。もしかしたら、何かあったのかもしれないけど、そこまでは教えてくれなかったから」
覚えていないことを答えるのは申し訳ないという以前に苦しかった。
「それじゃ、俺はこっちだから」
「うん、また明日、淳之介くん」
住宅街の真ん中で別れ、それぞれの自宅へと戻った。
これから彼が、『琴寄文乃』と接触しているという事実など、自分には知る由もなく。
あとがき
負けるにはあっさりし過ぎていたかもしれないけれど、良い勝負が出来るほど強くはないことを示したかった___
如月悠真
水乃月学園に入学する前の記憶を一切持たないA等部二年生。過去の記憶はもう一つの人格である”悠”が持っており、彼との交信は出来るものの、記憶の遣り取りは不可能。
幼少期にいじめられていた橘兄妹を救おうと思うものの行動出来ず、見ていることしか出来なかった。兄妹が青藍島から引っ越すと彼らをいじめていた者たちを暴力を用いて復讐し続ける。数年の間続いた暴力による執拗な復讐は妹が裏風俗を運営していたヤクザにレイプされ殺害されたことにより終わった。その後は重篤な精神的なダメージにより前述の通り記憶と人格が分断される。”悠”の人格は復讐に駆られていた当時のものと同一である。
その他にも幼少期には冷泉院桐香と何らかの形で関係を持っており、彼女に何故か一目置かれている。
使用する主な武器はSSに配布されるハンドガンのみ。現在では一丁しか持っていないが、いずれ二丁持ちになる___予定。
戦力としては通常時はSS隊員の平均的な能力と変わりないが、”悠”へと人格をスイッチさせた際には強すぎる殺意と長年覚えた暴力の振るい方により身体的能力は通常時と同じでありながら女部田郁子と同等の実力を発揮することが出来る。
エロゲー制作はただの趣味でありながら一応一人でソフトを完成させる技量は持ち合わせている。何故エロゲー制作に傾倒するようになったかはいずれ言及される予定。