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強大な龍神の力に対抗するために順は血縁者を消し、龍神の一人である火藍を利用し、そして最終的には都子を人形に作り変えた。その術をどうやって順が手に入れたのかは未だに火藍にも判らない。が、その中で順は少しずつ心のどこかに闇を増やしていたのだ。
都子が人形になったあの夜、順は唐突にけたたましい笑い声を上げた。驚いた火藍が駆けつけた先に、自身の身体を刀で切りつけている順がいた。その時の順は自失状態に陥っており、後に訊ねても自分が何をしていたのかを覚えていなかったという。そしてそんな順の足元に転がっていたのが人形と化した都子だった。
順が狂ったような笑い声を上げた時にはもう、都子は犯された後だった。訊かなくても判る。順は都子を抱いたのだろう。そのことがあった後も、順はたびたび都子を犯していたようだ。火藍は当時のことを思い出して痛ましさに目を細めた。
「……あー。べっつにそんな気にしなくてもいんじゃない? ほら、若気の至りってゆうの? オレもまだ若かったんだよ、あの時は」
そう言って笑いながら順が手招きをする。火藍はため息をついて順の傍に近づいた。脇に立つ順がベッドに目を落とす。火藍もつられるようにしてベッドに横たわる女性を見た。見覚えのない容姿だ。
火藍は無言でその女性に手をかざした。僅かだが確かに都子の波動が漏れているのが判る。が、施された暗示は働いていないようだ。現に傍に火藍がいるのにその女性は何の反応も示していない。
「知っているのか? 器を替えるということは、それなりの力を消費するんだぞ?」
そう告げて火藍はそっと手を退けた。順が小さく笑って頷く。
「知ってるよ、そんなことくらい。でも、オレには他に止める方法がなかったんだよねぇ。残念ながら」
笑いながら告げてから順は軽く肩を竦めた。その拍子に胸が痛んだのだろう。口許を押さえて咳き込む。火藍はため息をついてもう一度、女性に手を伸ばした。都子はどうやら誰かの器に割り込んでいるらしい。都子とは別の波動も感じられる。
「誰かの使い魔か? この女性は」
何気なく火藍はそう告げた。すると順が間の抜けた声を返してくる。おい、とため息をついて火藍は顔を上げた。冗談だろうと思っていたのだが、順は意外にも真面目な顔をしている。それを見た火藍はつい気の抜けた声を返してしまった。
「いや、この女性には都子とは別の気配があるぞ?」
え、と声を返した後に火藍は慌ててそう続けた。順が焦ったように女性の顔を覗き込む。しばし女性を見つめた後、順は鋭く舌打ちをした。
「そっか。迂闊だったかも」
「……何がだ」
言いながら火藍は宙に手を差し伸べて別の部屋から椅子を引き寄せた。ぼんやりと佇む順を強引に椅子に座らせる。不思議そうな顔をしつつも順は大人しく火藍に従った。足を組んで膝に肘杖をつく。
「このコがまともな筈、なかったんだよねぇ。しまったなあ……オレ、何の準備もせずに引っ張ってきちゃったよ」
考えるように口許を手で覆って順が呟く。火藍は目を細めてその女性に意識を懲らした。ごく細々としてはいるが、女性から伸びた意識の糸が部屋の外へ繋がっているのが見て取れる。その色を読んだ火藍はやれやれとため息をついた。
「わたしは二度目はごめんだぞ?」
「オレだってヤだよぉ。さすがにこの身体じゃ、マトモに戦えないし」
呻くように順が応える。火藍は深々と息をついてから順の胸に手を伸ばした。パジャマ越しにそっと傷に触れる。間違いなく順の傷は進行している。毎日、力を分けてその場しのぎの処置はしているが、それも限界に近い。じきに傷は全身に広がるだろう。
「やむを得ないな。これを持っていろ」
そう言い置いて、火藍は自分の胸に一気に手を突き入れた。激痛が全身に走る。歯軋りをして胸を探る火藍を順はじっと見つめていた。痛みが酷すぎて額に汗が吹き出す。火藍は自分の器の中から一つの宝珠をつかみ出した。緋色の宝珠をつかむ手が震えている。ぼんやりとしている順の手に火藍は緋宝珠を押し付けた。
「……ほんっとに……だよね」
宝珠を見つめながら順が何かを呟く。火藍は何だ、と強い口調で問い返した。べっつにー、と順が笑いを返す。その態度が癪に障って火藍は順に指を突きつけた。
「いいか! わたしが良いと言うまで休んでいろ!」
「あのー、それって命令?」
片手を上げて順がそう問い返す。火藍は馬鹿者、と順に荒い声を投げつけた。順の額を指で強く押さえて顔を寄せる。
「マスターに命令などできると思うか!? これはお願いに決まっている!」
「お願い、ねえ。……全く」
困ったように笑って順は降参の印に両手を軽く上げてみせた。そんな順によし、と頷き火藍は踵を返した。どこまでも人が好いんだから。そんな順の声が背中に聞こえた気がしたが、火藍は無視してその部屋を大股で出た。
とりあえず糸を辿るしかないな。火藍は部屋のドアを閉めてからそう呟いた。あの女性から伸びた糸の先にいるのは恐らく立城だろう。先日、立城とは一度会っている。目を閉じてその時のことを思い出した火藍は深々とため息をついた。きっとわたしには会いたくはなかろうな。そう呟いて火藍は廊下を歩き出した。
火藍は前からこーゆー性格ですw