エロシーンはありません。
吹いてきた風に目を細めて水輝は髪を押さえた。片手に握った刀を何気なく見下ろす。ふと顔を上げると駆けて来る克人が目に入った。嬉しそうに手を振る克人に水輝は苦笑しつつも片手を上げてみせた。
「決まりましたよ! 次の狩り! 今度もばっちり本物ですっ」
ハンターの主食は龍宝珠だ。多くのハンターたちは主食である筈の龍宝珠をろくに口にすることも出来ないまま死んでいく。なのに最近になってハンターたちは龍神を事あるごとに狩るようになった。群れていることもその理由の一つだろうが、それだけではない。状況が変化した一番の理由は龍神の力が衰えたところにある。
「しっかしまあ、誰が探してくるんだか。よく本物をそうも簡単に見つけられるなあ」
感心した声を上げた水輝に克人がくすくすと笑ってみせる。水輝がこのコロニーを訪れてからこれまでの間に既に狩りは三回行われている。一度目の狩りは殆ど水輝一人で行ったようなものだが、二度目、三度目のそれで活躍したのはコロニーの青年たちだ。実質、水輝には出番はなかったと言ってもいい。
だがこのコロニーの者たちは水輝に一目置いているようだ。未だに一度目の狩りの話を持ち出してはよくしてくれる者も多い。とは言っても元々、このコロニーの者たちは貧しい。取って置きの茶を出してもてなしてくれたりする程度だ。だがそんなささやかなもてなしが水輝には不思議と嬉しく思えた。
この群れの者たちは毎日を懸命に生きている。その様は見ていても気持ちがいい。だがそう感じる心のどこかには漠然とした不安がある。この先のことを考えるとどうしても暗い思考になってしまうのだ。水輝はそっと息をついて克人の頭に何気なく手を乗せた。最初は子供扱いするな、と拗ねていた克人も、今はもう大人しく水輝に頭を撫でさせている。
水輝はコロニーから少し離れた場所に座っている。克人にすぐに居場所が知れたのは、最近の水輝がよくここを訪れているからだ。水輝はぼんやりとした眼差しを天に向けた。大きなけやきの木に寄りかかってしばらく空を見つめる。そんな水輝の横に克人は静かに腰を下ろした。
天に昇らせるのだと立城は告げた。だがそれはきっとかなわない。水輝は空を見つめていた目を静かに隣に移した。何事を画策したとしても、全てが思い通りになる訳ではない。それが例え地の王と呼ばれる立城であっても同じことだ。時はずっと流れ続けている。
「何だか元気ないですね。どうしたんですか?」
ふと克人が心配そうに告げる。ああ、と苦笑して水輝は左手を伸ばした。小さな頭を撫ぜてから目を空に向ける。
「別にどうもしないって。それより打ち合わせ、あるんだろ? いつものところか?」
そう答えて水輝は腰を上げた。消えてしまった分の歪みは狩りの合間を見て補給はしている。が、やはり本来持つべき歪みではないためか、集めたそれは長くはもたない。そして水輝はその折についでに空腹感を満たしていた。
分け前として配られた宝珠の欠片はあの巾着袋の中だ。いつか機会を見てハンターの誰かに渡すのもいい。よいしょ、と小さく声をかけて水輝はけやきから離れた。不思議そうに首を傾げながら克人がついてくる。水輝は克人の歩調に合わせてゆっくりとコロニーに戻った。
その日の打ち合わせは夕方から行われた。狩りの際の人員配置についての説明を長である榊が行う。その後に具体的な狩りの内容を説明するのが克人の役目だ。その日も水輝は大きなテントの隅に陣取り、一人、刀を抱えて座っていた。
「目標は紅い……ええと、火龍神系の龍神と思われます。対、火炎用の防護服を忘れないようにしてください」
資料を見ながら克人が告げる。テントに詰めていた青年たちの間で微かなざわめきが生まれた。静かにせえや、という榊の声でざわめきが消える。水輝は片目だけを開けてテントの中をそっと伺った。どうやら火龍神という言葉に青年たちは反応したらしい。
火龍、ねえ。水輝は内心で呟いた。いつも狩りの前に対する相手の種が判る訳ではない。言えば今回はラッキーなのだろう。なのにどうしてだろう。テントの中にいる青年たちは不安そうな面持ちをしている。
「ええと、沙耶さんはいつものように護衛も兼ねて出陣して貰えれば」
説明の最後に克人がそう言葉を投げる。水輝は了承の印に片手を上げてみせた。では、以上で打ち合わせを終了します。克人の言葉でテントにいた者たちは散った。最後に後片付けをするのは女たちの仕事だ。打ち合わせが終わると幾人かの女たちがテントに入ってくる。黙々とランプや紙コップを片付ける彼女たちに視線を送り、水輝は腰を上げた。克人はまだ榊と何事かを話している。
思考を読むことは造作もない。が、ここでそれをすればハンターである彼らは水輝の力に反応するだろう。水輝は仕方なく話し込む二人に近づいた。
「なあ。火龍が目標だと何かまずいのか?」
小声で話していた二人に水輝はそっと声をかけた。すると慌てたように克人が水輝を見る。榊は困ったような笑みを浮かべた。
沙耶という名前を使ってますが、順が使ってる葵という名前とは性質が違ってます。