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「いやあ、まあ、あんちゃんは知らんからなあ」
「だから何だって訊いてるんだよ。さっきのやつらの反応、ちょっと変だったから」
そう言って水輝はテントの外を指差した。はは、と力なく笑って榊が頭をかく。対照的に克人は硬い表情をしている。どうやらここで訊くのはまずいらしい。そう理解して水輝はちらりと振り返った。先ほどまで淡々と片付けをしていた女たちが興味深そうに水輝を見ている。
「ええと、そうやな。話した方がええんやろけど」
榊が女たちに視線を送って言葉を濁す。何なら別のところで訊くか。そう水輝が言いかけた時、克人が静かに口を開いた。
「……沙耶さんにはボクが話します」
硬い顔つきのままで克人がそう吐き出すと、明らかに榊がほっとしたような顔になる。水輝は目を細めてそんな二人を交互に見やった。克人が広げていた端末を閉じ、ケーブルを抜く。促されるままに水輝は克人の後を追った。
無言で克人がコロニーの住居の棟を抜ける。住居が立ち並ぶその場所には所々に火が灯っている。薄暗いその場所で二、三人の子供が地面に何かを描いて遊んでいる。遅い夕食をとるのだろうか。屋根からは薄い煙が立ち昇らせている住居もある。水輝はそんな居住区を横目に克人について歩いた。
克人が向かったのは水輝がいつも居場所に決め込んでいるあのけやきの木の下だった。木の傍で立ち止まった克人が振り返る。水輝はいつものように木の根元に腰を下ろした。季節はもう冬だ。寒くて当然だろうに、克人は何の文句も口にせず水輝の隣に腰を下ろした。真っ暗な空の下にぽつりぽつりと明かりが見える。
「何でここなんだ?」
水輝は苦笑しつつ克人を見やった。克人は膝を抱えて真っ直ぐに前を向いている。その顔はまだぎこちなく固まっていた。
「ここ……この木の根元にある人が埋まっているんです」
ぽつりと呟いて克人は地面に手を触れた。そっと地面をなでる。水輝はふうん、と呟いて木を見上げた。確かにこの木だけが周辺の木より生命感に満ちている。だからこそ水輝はここによく訪れていたのだ。
「あの日、みんなで狩りに出かけました。あの頃はまだ、今のように龍神に対抗できるような武器とかもなくて」
小声で話し始めた克人に水輝はそっと手を伸ばした。驚いたように克人が目を見張る。水輝は小さな克人の肩に腕を回し、抱え込むようにして身体をぴったりと合わせた。この方が寒くないだろ。ぶっきらぼうに告げた水輝に克人がぎこちなく笑む。
「狩る相手が龍神だということは判っていたんです。ボクのところに情報が送られてきましたから」
龍神にも色んな者がいる。力の強さは個体差があるし、見ただけでそれを判別するのは難しい。克人の許に送られてきたデータにはその龍神の力の強さまでは記されていなかったという。
「ボク、妹が一人いたんです。……まあ、血は繋がってなかったんですが、一緒に暮らしてて」
水輝に寄り添いながら克人が少しずつ言葉を繋ぐ。いつものような元気な調子ではない。語る克人はそれまで水輝が見てきた克人とは全く別人にも見えた。悲しそうな憂いに満ちた目が天を見上げる。
その日、狩りは全員参加で行われた。女子供の別なく、全員の力を合わせなければ到底、龍神には対抗できなかったからだ。当然のように克人とその妹も狩りに参加した。
当時、このコロニーに属するハンターの数は今の半分程度でしかなかった。それ故に全員が力を合わせて狩りをするのが当り前になっていた。だから誰が悪い訳じゃないんだけど。そう告げて克人は苦笑した。
「相手が悪かったんです。あの時、その龍神から放たれた力はボクたちの予想をはるかに上回っていました。みんな防御をするのが精一杯で、誰も他の人たちの心配なんてしてる余裕はなかった……」
そして力の足りない者たちは龍神の力の前に無残に散った。克人の妹もそんな中の一人だった。水輝は話を聞きながらそっと地面に指をあてがった。確かに地面の奥深くから何かが溢れているのが判る。
「だからみんな、火龍神って聞くと警戒しちゃうんです。あの時の龍神も火龍だったから」
紅い炎にまかれて死んだ者たちを悼みつつも、ハンターたちは狩りをやめることが出来なかった。結局、その時の龍神を狩ることは出来なかったが、こうして今でも群れとなって龍神を狩っている。
水輝は克人の肩を抱く手に力をこめた。指先で地面にそっと線を描く。漏れている力を指先で集めながら水輝は小さく笑った。
「なるほど、確かに辛い思い出かもな。んでも、死んだやつは残ったやつらを恨んではいない……ような気がする」
最後に付け足してから水輝は指を地面から離した。指先に集った光を克人の目の前に差し出してみせる。克人は驚きに目を丸くして光と水輝を見比べた。微かな白い光がゆっくりと収縮する。
「お守りだ。大事にしろよ」
そう言って水輝は克人の手を強引に取った。小さな手の中に白く小さな光を落とす。克人はおっかなびっくりといった態で両手でそれを包んだ。一瞬、強く瞬いてから光が静かに消える。克人が開いた手の中には小さな白い石が納まっていた。
「え、あの、沙耶さん? これって」
慌てたように克人が声をあげる。さてと、と水輝は声をかけて腰を上げた。克人がつられたように立ち上がる。水輝は笑って克人の頭を乱暴に撫でた。
「一生懸命なのはおれは嫌いじゃない。それに死ぬ時にも誰かのことを案じていたその妹とやらも悪くない。言っとくがこれはただの気紛れだ。なくしたら知らないからな」
「でも、あの、何で」
なにが起こったのかをさっぱり理解できないらしい。告げる克人の言葉は意味をなしてはいない。水輝はああ、と苦笑して克人の手の中の石に指を乗せた。優しく石をなぞると銀色の台座が出来る。それを見た克人が更に奇異な目になって水輝を見た。
「沙耶さんって一体、何なんですか?」
伺うような克人の言葉に水輝はさあな、と笑ってみせた。克人の手に納まった石は水輝の力を受けてピアスに変化している。克人はうろんな眼差しでピアスと水輝を見比べた。
まあ、水輝だからなー(棒
で、済ませてしまっている作者です。